第69話山野さんと水族館でお買い物
水族館を回り始めた俺達は泳ぐ魚を見て歩きまわった。
そこまで大きな水族館ではないため、あっという間にすべてを見終えた俺達。
併設されているお土産売場へと足を向けて歩く。
そんな中、俺は一番最初に聞いておくべきことを聞き忘れていたのを思い出す。
いまさら……と言う感じではあるが、横を歩く山野さんに聞く。
「そう言えば、山野さん。体調は大丈夫ですか?」
文化祭があった昨日。
やや体調が悪そうだった山野さん。
保健室で少し休息を取った結果、いつも通りに元気になったけどな。
「平気だよ。だって、あれは本当に寝不足から来るやつだったし」
「なら良かったです」
「心配してくれてありがとね。見ての通り、元気いっぱいだから大丈夫!」
「はい。じゃあ、遠慮なくお買い物に付き合ってください」
「水族館に来てる癖にまだお買い物っていう体なんだ。ふふっ」
そんな会話を繰り広げながら、辿り着いた場所はお土産売場。
水族館に来た。そう知らしめる事の出来る物が売っている場所だ。
「ペンギンのぬいぐるみに興味があるんですか?」
山野さんがじーっとペンギンのぬいぐるみを見ていたので聞いた。
すると、悩まし気な顔をして俺に言う。
「ペンギンのぬいぐるみって言うよりか、ぬいぐるみがあった方が良いかな~って思ってた」
「ぬいぐるみがあったほうが良いってどういうことですか?」
いまいち山野さんの言う事を把握できない俺。
どういうことか、しっかりと聞くと山野さんがきちんと説明し始めた。
「ほら、私の部屋ってぬいぐるみがないじゃん?」
「あ~、言われてみればそうですね」
「でしょ? 確かに女の子の部屋っぽい配色のカーテンや家具はある。でも、可愛げのある小物が圧倒的に無いんだよ」
「なるほど。可愛さをお部屋にプラスするためにぬいぐるみがあった方が良いかな~って悩んでたと」
「そうそう。お部屋に一つはこういう風な可愛いぬいぐるみがあった方が良いでしょ?」
ペンギンのぬいぐるみを一つ棚から抜き出して俺の前に突きつけて来た。
確かに女の子の部屋と言えば、なんか可愛い小物が一つはあって欲しい。
……気がする。
「でもなんで、今更になってぬいぐるみを置こうかな~って考えてるんですか?」
「……だって、間宮君に可愛いって思われたいし」
やや上目遣いな感じで俺の目を見ながら照れる山野さん。
か細い声で俺に言い放った後、手に持っているペンギンのぬいぐるみをもどかしそうに手で動かして恥ずかしさを誤魔化している。
「お部屋が可愛くなくても、山野さんは可愛いです」
「でも、これから間宮君が節約のために私が自炊してるかどうかを、見に来てくれるんだし、もっと可愛いって思われたいんだもん……」
「その、確かに山野さんが節約してるかどうか、ときどき見張りに行くって言いましたけど、俺のためだけにわざわざぬいぐるみを置くとかしなくて良いですから」
「ときどきなの?」
不満げに俺を見て来た山野さん。
思いもしていなかったところに食いつかれた。
不意打ち過ぎる一言に対し、いつもなら、すかした顔で振る舞っていただろう。
けど、今はもうそんな余裕はなく、明らかに気恥ずかしさを含んだ顔で言う。
「と、ときどきじゃないです」
「そっか。期待して待ってるね」
「ところで、何の話をしてたんでしたっけ?」
本当に飛んでしまった直近の記憶。
何を話していたか本当に忘れてしまった。
「お部屋にぬいぐるみがあった方が良いかな? って話だよ」
「あ、はい。そう言えば、そうでした。で、やっぱり欲しいんですか?」
「そのうち買う。でも、ここのはお値段が厳しいしスルーかな」
小さめのペンギンのぬいぐるみ。
値段はなんと4000円を超えていた。
ぬいぐるみを置き、ぐるりとお土産売場を歩く。
今日と言う日を覚えておくためのお土産がどうしても欲しい。
姉さんから貰ったお小遣いがあるし、プレゼントの一つや二つ余裕だ。
ギブアンドテイク。
その関係性を大事にしている事もあり、きっとプレゼントするといっても断られる可能性が高い。現に水族館の入場料でそれは痛感している。
けど、それでもだ。
「どのストラップが欲しいですか?」
「私達はギブアンドテイクな間柄だし、別に良いんだよ?」
「今日、お買い物に付き合って貰ってる。なのに、お礼をしない。それこそ、五分五分な関係って言えません」
「……良いの?」
「もちろんです」
「じゃあ、このペンギンのストラップが欲しい」
思いのほか、あっさりと俺からのプレゼントを受け入れてくれた山野さん。
もう少してこずるかと思っていたが一安心だ。
「こっちもペンギンですけど、どうですか?」
「あ、それも良いかも……」
山野さんは二つのストラップを並べどっちが良いか見定める。
その目は真剣そのものだ。
「間宮君からのプレゼントだと思うと悩んじゃう。だってさ、別にお金に余裕がある方じゃないのに……私にプレゼントしてくれるんだもん」
「そう言われると嬉しいです。あと、どっちを買うか悩んでいるもの両方ってのはどうですか?」
「じゃあそれで」
「え、あ、はい」
二つは申し訳ない。
そう言われるかと思っていたのに、あっさりと二つプレゼントされるのを受け入れてくれる山野さん。
と思っていたら、
「こっちは間宮君が買う。で、こっちは私が買って間宮君へプレゼント」
「二つとも俺が買っても……」
「ううん。せっかく、休みの日に間宮君が遊びに誘ってくれたんだもん。何もしてあげないのは、五分五分な関係じゃないよ?」
まったくもって、手強い相手である。
結局、俺からの一方的なプレゼントをさせてくれないらしい。
「素直にプレゼントを受け取ってくれても良いのに」
「まあ、そうされたい気持ちもあるよ? でもね……」
「でも?」
「私も間宮君に色々としてあげたいんだよ?」
「それってどういう意味で……」
ついどういう意味で言ったかを問いただすかのような言葉を投げてしまう。
答えなんてもう分かっているというのに。
「ん~、内緒! さ、買っちゃお?」
無邪気に笑う山野さんに引っ張られてレジへと向かうのであった。




