第64話間宮君は何もして無い
「……え?」
いまいち、状況が飲み込めてい無さそうな山野さん。
やっぱり、さっきの『私がちゃんと自炊してるかどうか、見張って貰わなきゃダメかな~、なんてね?』はどうやら冗談だったらしい。
まあ、あれだ。
それだとしても、がっついて行かなくちゃ何も変わらないからな。
「山野さんが見張ってと言ったんですよ?」
「う、うん。そ、そうだね」
まあ、冗談です。
いつもの俺なら簡単に折れていた。正直、今も保身に走りたい。
けど、逃げるのはもう辞めだ。
「山野さん。暇があったら、自炊してるかどうかちゃんと見に来ますから」
「そ、そうだよ? 間宮君、元お隣さんなんだから、私の事を気にしちゃってくれても全然良いんだからね!」
「はいはい。分かりましたって。見張りに来るって言ったじゃないですか」
「……っと、焼きそばの次は何を温める?」
ちょうど温めてあった焼きそばが無くなった。
まだまだ、色々と残っている。
そうだな……、次は……。
「たこ焼きで」
「うん、温めて来るね!」
山野さんはレンジの元へ駆けて行き、姿が見えなくなった。
ふー、何とかなったな。
自炊してるかどうか見張りに来た。
口実があるので、山野さんに会いたい時に会いに行ける。
せっかく得たこのチャンスは絶対に活かさなくちゃだ。
こうなったら、毎日のように見張りに来て、俺が山野さんが好きなことを嫌でも分からせて、それから告白。
意識されていない状態から告白されるのと、意識されてる状態で告白されるのは全然違うんだからな。
「お待たせ。結構、熱々に温めたから気を付けてね?」
「それにしても、たこ焼き……。また、やりたいですね」
山野さんと一緒にたこ焼きを作ったのを思い出す。
楽しかったし、美味しかったので、またしたいと言っていたが、気が付けば、あれ以来、一度もしていない。
「んじゃ、間宮君が見張りに来てくれる時に一緒にたこ焼きしよ?」
「ますます見張りに来ない理由が見つからなくなりました」
温めたたこ焼きを口にする。
トロトロではなくやや硬めのたこ焼きはお値段相応な味。
不味くはないが、美味しいかと言われれば普通なたこ焼きを食べていると、山野さんが何気なく提案して来る。
「ん~、あれだ。見張りに来てくれるんでしょ? その時とか、私と一緒に食べちゃった方が楽だと思わない?」
「一理ありますね。あ、でも……姉さんの夕食を作らないとダメなんで、さすがにそれはちょっと……」
「持って帰れば? タッパーとかに詰めてさ」
たぶん、そんなことをしてたら姉さんに超怪しまれる。
弟はなぜか家で料理をせずに、どこかで作った料理を出してくる。
こいつ一体、何してるんだ? と思われるに違いないが、魅力的な提案に抗う事は出来ない。
「ありですね」
……まあ、なる様になる。
「じゃあ、見張りに来る時はちゃんと教えてね」
それから、文化祭の残り物を楽しく食べる俺達であった。
1時間後。
食べ過ぎてお腹がパンパン。
残り物がたくさんあって、食べきらなくちゃいけないのもあるが、それ以上に山野さんの部屋にお邪魔出来る口実を得られたのが嬉しくて、調子に乗ったせいで食べ過ぎてしまったらしい。
「はー、くるし~」
同様に食べ過ぎたせいで苦しい山野さんは、後ろにバタンと倒れこむ。
服の上からでも分かる位に、ちょっとお腹がポッコリとしている。
「お腹出てるくらいですもんね」
「……」
すっと起き上がる。
で、山野さんは自分のお腹を見た後、俺をじ~っと見つめて来た。
「どうしました?」
「デリカシーがないなあ~って。目に見えていても、口に出しちゃダメだよ?」
「確かに、女の子にお腹ポッコリですねは失礼に当たるかもしれません」
「という訳で、デリカシーの無い子にはこうだ!」
「や、山野さん?」
いきなり、立ち上がり、にやにやしながら詰め寄って来た山野さんは、食べ過ぎたせいで膨らんでいる俺のお腹を触って来た。
「間宮君もポンポンだ。このこの~、私の事をお腹が出てるおデブさんみたいに言って来たくせに」
「めっちゃ触りますね」
「間宮君にいじめられたからね。許してほしければ、思う存分、私に触らせてくれなきゃでしょ?」
「まあ、良いですけど……」
うん、触られるのは良い。
けど、けどな。
俺のお腹をポンポンしてきたり、さわさわしてきたり、するときの山野さんの顔が可愛すぎる。
いじらしさを感じさせ、悪戯を仕掛けているかのような含み笑い。
そんな顔でお腹を触られたり、ポンポンされてみろ。
誰だって、ヤバいに決まってるだろうが……。
「間宮君のお許しも出たし、少しだけ触らせて貰っちゃお~っと。いや~、こういう風に触るのって久々だからね……」
「ん? 久々って?」
「あ」
間抜けな声。
で、そろ~りと俺から離れて行き、作った笑顔で俺を見る。
「……」
「間宮君、無言で見つめられると照れるんだけど?」
「あの、久々って?」
「うぐっ」
作り笑顔が壊れて苦笑いに。
そんな山野さんは開き直って、俺に説明してくれる。
「間宮君が寝てる時にお腹を触ってたんだよ……。ほら、男の子のお腹ってこう、なんというか、触りたくなるじゃん? 間宮君だって、女の子が寝て居たら、触って見たくなるでしょ?」
「確かに触りたくなりますね」
「そ、そう言う訳で……ね? ね?」
おかしくないでしょ? と同意を求める山野さん。
悪戯がバレて、必死に誤魔化そうとするかのようないじらしさが愛くるしい。
「俺の体を寝ている時、触っていたと」
「ちょ、ちょびっとだけだから……」
「ちなみに、寝ている時って、夏休みのいつぐらいから触ってたんですか?」
「……後半くらい?」
一瞬、目が左上に動いた気がする。
まるで、動揺や焦りを感じているかのような目の動き。
ちょっとからかうつもりで、カマを掛けてみる。
そうだな……。俺が初めて山野さんに寝て居る姿を見せた日は……鍵を無くして、山野さんを部屋に泊めてあげた日だな。
まあ、さすがにそんな前から内緒で、寝て居る俺の体を触っていたとは思えないけど、カマを掛けてみるとしよう。
「なんか怪しい……。実は、もっと前から触ってたんじゃ……。そう、鍵を無くして俺が部屋に泊めてあげた日から、隙あらば、俺の体を触ってたんじゃないですか?」
「そ、そんなこと無いじゃん」
あれ? 露骨にまばたきが増えてる気がするんだが?
い、いや、まさか、そんなわけがないよな?
目を細め、俺の方から山野さんを見詰めて無言のプレッシャーを掛ける。
すると、山野さんは恥ずかしそうにしながら、カミングアウトした。
「……あの日、私こう言わなかった? 間宮君は何もして無いって」
「確かに、そんなことを言ってた気がします」
朝起きたら、山野さんが横で寝て居た。
そんな凄い出来事、忘れられることが無く、今でもはっきりと覚えている。
今の発言の真意に気が付いた俺は、嬉しさを含んだ笑いを浮かべながら言う。
「寝ている俺を触って楽しんでたとか可愛すぎませんか?」
「つつつつ~~~~。あ、もうヤダ。間宮君の馬鹿……」
無事、ちょっとしたことがきっかけで自滅した山野さん。
ちょっぴりどころか、もの凄く顔を真っ赤にしてなぜか俺を罵倒して来た。
「もうあれです。興味本位で男の子の体を触っちゃうとか可愛すぎません?」
「うー、ダメ。恥ずかしくて死ぬ! 隠していた事もあるせいか、パンツ、見られた時より、恥ずかしいんだけど……」
恥ずかしさのあまり俺と目を合わせようとしない山野さん。
その姿を見ているだけで、幸せな気分な俺は、ついつい山野さんをからかってしまう。
「寝ている俺の体をもて遊んで(弄んで)いたなんて、思ってもいませんでしたよ……」
「ごめん。だって、男の子の体って気になるでしょ?」
必死に異性が寝て居たら、つい触りたくなるのはあり得るよね? と押し付けがましく言い訳。
それが堪らなく、俺の嗜虐心を煽る。
「そうなんですか?」
「そ、そうだよ」
「でも、だからと言って触るのはちょっと……」
嫌悪感は全く表に出さず、明らかに弄りとしか見えないようなにやけ顔で山野さんをからかう。
顔が真っ赤で可愛い。
いつまでも、見ていたいがそろそろ辞めとくか。
そう思った矢先の出来事であった。
「ほ、ほら! 触ってみれば、絶対に触りたくなるから!」
服をまくり上げてお腹を差し出す山野さん。
そして、俺の手を掴み、お腹を強引に触らせらて来た。
「すべすべですね」
「で、でしょ? ね? 触りたくなるでしょ?」
必死に自分のしてきた事を正当化するために取り繕う姿。
……ああ、もうだめだ。
「ちょっとトイレ行って良いですか」
「う、うん」
お腹を触らせるために掴んだ手を放してくれた後、俺はトイレに逃げ込んだ。
「やばいなあ……。ほんとやばいなあ……」
隠していた事実を知られ、恥ずかしくてダメージを負ったのは、もちろん山野さんに決まっている。
でも、それ以上に俺もダメージを受けた。
好きな子が寝て居る時、興味本位で体を触っていた。
そんなことをされていたと知ってみろ。
誰だって、ドキドキが止まらないはずだ。
「トイレを出たら、どんな顔して山野さんと会えば良いんだ?」
俺は心を落ち着けるため、少しだけトイレに引き籠るのであった。
お隣さんと始める節約生活。2巻。
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ウェブ版とは違ったストーリーが繰り広げられます。




