第62話駄菓子を食べよう!
「んしょっと。いや~、ごめんね?」
保健室から出たばかり、山野さんが申し訳なさそうにする。
お化け屋敷で恐怖のあまりその場にへたり込んだ。
その際、膝を擦りむいてしまったので、保健室まで付き添った事に対してだ。
「それじゃあ、次はどこ行きますか?」
「間宮君のクラスがやってる駄菓子屋さんに行ってみたいかも」
「行っても、正直、面白いとこじゃありませんよ?」
「分かってるって。でも、行きたいから良いの」
そして、向かうは俺のクラスがやっているハロウィン風駄菓子屋。
店番をしていたのは……運悪い事にみっちゃんであった。
「哲君と山野先輩じゃん。どうしたの? 二人して」
「いや、ただ単に山野さんと一緒に回ってるだけだぞ?」
すっかりと山野さんに振られたと思い込んで居るみっちゃん。
最近は、けい先輩とくっ付けようと言わんばかりに邪魔をしてくる。
こういう風に山野さんと脈ありだという状況を見せつければ、考えを改めてくれるかもしれない。
そう思っていたのだが、山野さんに聞こえないようにと、俺の耳元で小さく呟く。
「……文化祭で一緒に回ってくれてるのに、恋人じゃないって普通に考えて脈なしだよ?」
「ぐっ」
みっちゃんによる攻撃によって、ダメージを受ける。
っく、そりゃ、まあ、こんな風に文化祭を一緒に歩き回ってるのに恋人じゃないとか普通に考えて脈なしだ。
最も、付き合っていなくとも、仲が良く成りかけの時期に一緒に回っているだったら、脈あり。
でも、俺達の場合は、もうすでに仲が良く成りかけの時期なんて遠い過去の話。
……ま、まあ。みっちゃんの言う事だ。
真面目に聞く必要などない。
「間宮君。普段はお菓子を買わないって約束してるけど、今日は特別だよね?」
「え、ああ。そうですね。基本的にお菓子は買わないって決めてますけど、今日は特別ですし、良いんじゃないですか?」
俺と山野さんの節約術。
お菓子は基本的に買わない。
買うから食べる。
無いから買う。
それを何度も繰り返し、お金を浪費しないようにとするためのルールだ。
文化祭。
普段通りにルールを守ると言うのは勿体ないのは言うまでもない。
「さっき、おんぶして貰ったお礼に何か買ってあげるね。何が良い?」
「哲君。さっき、おんぶって?」
「お化け屋敷に入ったんだが、その時にあまりの怖さに山野さんが腰が抜けてへたり込んだ。で、おぶったわけだ」
俺がそう言い切るとみっちゃんがポンポンと肩を優しく叩く。
おんぶという割とドキドキイベントが起きたが、俺と山野さんは脈なし。
色々と辛かったろうに……と憐れむ目だ。
「ったく、まだ完全にそう決まったわけじゃないっつうの。あ、山野さん。駄菓子はなんでも良いですよ?」
「じゃあ、これとこれとこれ。貰っちゃおっかな?」
「合計300円で~す」
お軽いみっちゃんによる会計を済ませ、俺と山野さんはハロウィン風駄菓子屋を後にするのであった。
一応、横に休憩できるように椅子とか用意されてるが、みっちゃんがうざいので使わずに別の場所に移動である。
そうして、俺と山野さんが移動した場所は学校の裏庭。
椅子だけでなく、ブルーシートも地面に敷いてあり、多くの生徒達がくつろげるようになっている。
ちょうど椅子が空いてたので、椅子に座って先ほど買った駄菓子を食す。
皆、食べ歩いているが、曲がりなりにも生徒会役員である俺と山野さん。
食べ歩きする様子を見せつけるのはどうかという話だ。
「間宮君。最初はこれ食べない?」
ニコニコ顔で見せて来たのは3つガムが入っていて、一つだけ酸っぱいのが入っているお菓子。
ロシアンルーレット要素満載だ。
「良いですね。食べましょう」
「じゃあ、間宮君にはおんぶして貰ったから、二個あげるね?」
「ちょ、それって俺が酸っぱいのに当たる確率が上がってませんか?」
「酷いよ。間宮君。親切にしてあげようと思っただけなのに」
わざとらしく俯き、ちらっと顔色を覗っている。
お茶目で可愛らしい山野さん。
「分かりました。遠慮なく、二つ貰いますね」
「うんうん。んじゃ、私はこれ」
三つあるうちの真ん中を持っていかれた。
で、残りの二つを俺は掴む。
さてと、外れだけ残しても面白くないし、二つとも一気に口に入れよう。
「せ~の!」
合図でパクリと口に含む。
ガムのもともとの味はソーダ味。
二個入れたこともあり、口いっぱいに広がるソーダの甘さ。
「っつつ~~~~」
口を尖らせ酸っぱいのを我慢する。
何この人。
可愛くて可愛いんだが?
ニコニコしながら、ロシアンルーレットに負けた山野さんを眺めていると、それが挑発に見えたのだろう。
口を酸っぱい形にしたまま、山野さんはゴソゴソと袋からある物を取り出す。
「もう一回!」
今度はブドウ味だった。
勝負を挑まれたからには逃げるわけには行かない。
再び、俺は二つガムを手に取った。
「間宮君から、先に食べていいよ?」
「……」
ジーッと見つめる。
二つ食べるのは俺だ。
その様子を見れば、山野さんは食べなくとも自分が引いたのが、酸っぱい奴かどうか分かってしまう。
先に俺が食べれば負けなしなのだ。
「あ、こっちが食べたかった?」
ぽいっと俺の口に自身が持っていたガムを入れて来た。
噛むと広がる甘い味。
どうやら、酸っぱい奴では無かったらしい。
「ほら、今度は俺に食べさせないで、自分で食べてください」
持っていたガムの内、一つを渡す。
そして、一斉に口に含んだはずだった。
モグモグと俺が噛む中、山野さんはニヤニヤしていた。
そう、口に含まず、手の中にガムを隠している。
口いっぱいに広がる甘い味。
どうやら今回も外れでは無かった。
山野さんが今、手に持っているのが酸っぱいやつ。
……恐らく、このままだと俺に酸っぱい顔をさせたさそうなので、何かしら理由を付けて俺の口に放り込んで来るに違いない。
「くぅ~~」
歯を食いしばって酸っぱいやつを引いた演技をしてみた。
通用するかどうか分からない俺の演技。
それを見た山野さんはしたり顔を浮かべる。
「やったね。んじゃ、私もっと」
なんの疑いも無くパクリとガムを口に含む。
で、唸り声をあげる。
「ん゛~~~」
「騙されましたね?」
「間宮君。まさか、酸っぱいやつを引いた演技をしたの?」
「だって、そうしなかったら、残ったやつを何かと理由を付けて俺に食べさせようって魂胆だったでしょうし」
「もう一回!」
またまた出てきたガム。
さすがに、そろそろ俺の負けが回ってくるはず……。
だったのにな。
「うぐっ。また外れだ」
また山野さんはハズレを引いて、酸っぱい顔だ。
……いや、待てよ?
「山野さん。これもどうぞ」
「いや、えっと……」
「ささ、もう外れの酸っぱいやつは無いんですし」
「え~っと、間宮君にあげたんだよ?」
「いえいえ。もともとは山野さんが買ったやつじゃないですか」
ちょっと強引に口に運ぶ。
すると観念してパクリと食べたのだが、さっきと同じくまたまた酸っぱさに見悶えている。
「さっき食べたのは、酸っぱいやつじゃ無かったんですよね?」
「まあね。どうしても、間宮君に酸っぱい顔をさせたかったんだもん。って、ぷっ。あはは、何その顔!」
俺の顔を見て笑う山野さん。
一体何がおかしいんだ?
「どうしたんです?」
「鏡見る?」
「え、あ、はい」
山野さんは鏡がわりにスマホのカメラを起動する。
で、スマホの画面に映っている俺の顔は笑うのも無理が無かった。
「リスですね」
「うん。頬に一杯、溜め込んでリス見たいなんだよ」
「ガムを一杯食べされられたので」
頬っぺたをガムで膨らませている俺。
シュールで面白い顔で、山野さんのツボに嵌ったのだろう。
「山野さん。山野さん。こう言うのはどうですか?」
さらに、わざとらしく頬を膨らませて変顔する。
すると、笑いのツボに入ったのか、大笑いだ。
「あはははは。間宮君、それずるい! ずるいから!」
少しばかりの間。
山野さんは笑いこけるのであった。
で、笑いも収まった頃。
ちょうど口の中に含んだガムの味が無くなってきたので出そうと思いポケットからティッシュを取り出す。
「あ、私もそろそろ出そっと。ティッシュ、貰って良い?」
「はい」
一枚のティッシュを渡す。
二人してガムを吐き出し、ティッシュでくるむ。
ゴミ箱代わりのビニール袋に入れて、後で捨てられるようにした。
「小さい頃は、ガムを捨てるのが勿体ない気がして、味がしなくてもず~っと噛んでたよ」
「分かります。その気持ち」
「うんうん。さてと、ガムのお次はマシュマロをどうぞっと」
袋から渡してくれたの10円で買える個別包装の小さいマシュマロ。
封を開けて、ふわふわとしたマシュマロを口に運んでくれる山野さん。
それをパクリと受け取る俺。
「美味しいです」
「んじゃ、勢いでこれも」
間髪入れずに俺の口にポイポイとお菓子を放り込む。
今度はラムネ菓子のようだ。
ぼりぼりと齧っていると、山野さんがニコニコしている。
また何かされたのか?
いやいや、考えすぎだ。
そう思いながら、俺はラムネをしっかりと噛んでから飲み込むと、
「間宮君。舌を見てみて?」
鏡代わりのスマホ。
カメラに映る俺の舌は、真っ青になっていた。
食べさせられたラムネ菓子。
それは、舌が真っ青になる着色料たっぷりなやつだった訳だ。
「……やりましたね。山野さん」
「ほら、ハロウィンも近いし的な?」
お茶目過ぎる山野さん。
何か仕返しがしたい。
するとどうだ。袋を見ると買って来たお菓子がもう無い事に気が付く。
「トリックオアトリート」
「しょうがないなあ。って、あ」
「じゃあ、お菓子をくれない人には、悪戯をしないとですよね?」




