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第55話山野さんの復讐

「……」

 無言の圧力を背中に感じる。

 言わずもがな、お化け屋敷を出て安心し始めたちょうどその時に首筋を指で撫でて驚かした山野さんからだ。

 そう、ちょっぴり山野さんはご機嫌ななめ。

 俺へ復讐するタイミングを見計らっているのだ。


「ところで、間宮君。なんで、やまのんはあんなおっかない顔で?」

 三鷹先輩に質問される。

 お化け屋敷に入っている間、暇だという事で友達と適当に駄弁っていて席を外しており、俺が首筋を指で撫でたせいでああなったことを知らない。


「お化け屋敷を出て安心した際に首筋を指で撫でて脅かしたらああなっちゃいました」


「なるほどね~。あれは復讐に駆られたおっかない顔ってわけだ」


「という事です。まあ、山野さんですしそこまで酷い復讐になるわけが無いのが救いですよ」

 軽い口を叩いたと同時だ。

 後ろからのプレッシャーが強まり寒気が背筋に走る。


「火に油を注ぐね~。ま、やまのんだし後輩である間宮君に酷い事なんて出来ないようなチキンなのは事実だけどね」

 さらに煽る三鷹先輩。

 まあ、山野さんだし、煽った所で本当に取り返しのつかないような酷い事はされないのは分かっているので問題なしだ。


「……絶対に間宮君を泣かす」

 ぼそりと後ろから聞こえて来た。

 その雰囲気たるや今までとは一線を画す。

 とはいえ、相手は山野さんだ。きっと、大丈夫。

 だ、大丈夫だよな?


 それから、俺への復讐を企てている山野さんと俺と三鷹先輩で文化祭で出店予定のお店を視察して回るのであった。


 無事に出店予定のお店をすべて調査しダメな点を指摘し終わる。

 生徒会室に戻り、報告書をまとめて後は先生に提出するのみ。

 俺達はそれぞれ回って来たお店がどういったものかを話しながら、報告書を書き上げている。

 ちょうどその時だ。


「そう言えば、間宮君。フランクフルト屋の屋台でちょっと揉めたんだって?」

 山野さんが話題を切り出した。

 フランクフルト屋で確かに揉めた記憶がある。


「まあ、少し」


「その辺も後で色々と問題にならないように報告書にまとめて置かないと。間宮君はドジだね~。なんで、そんな大事な事を黙って流そうとしてたんだか」

 ……それはまあ。

 フランクフルト屋がお店の名前を下ネタにしようとしたという事を事細かく先生に説明しにくい気恥ずかしさからだ。

 まさか……。

 つい、ハッとした顔で山野さんを見やるとニコニコと上機嫌そうだ。


「いやー、ちょっと気まずい内容で先生に報告するのはいかがなものかと思いまして。黙ってました」


「そっかぁー。でもさ、そういう甘えが後々、トラブルを生むんだよ? で、何があったのかを教えて貰えない?」

 やられた……。

 どこからか、俺がフランクフルト屋の看板がいかがわしいから変えるようにと責任者とやりあっている情報を得た山野さんは俺にそのことを事細かくこの場で話させようとしている。

 いわゆる、いかがわしい事を俺の口から言わせようとしているのだ。

 生徒会室に居る男子は俺だけ。

 八坂は未だに保健室で、花田先輩は自分のクラスの出し物が相当に準備が終わっていないとの事でそっちに行ってしまっている。

 要するに女子の前で下ネタを事細かく説明させるという羞恥を晒せという事だ。


「いやー、看板の名前に不適切なワードが入ってたので消してくださいと少し揉めただけですよ?」

 普段の山野さんであればこのまま察してくれ、『うん、そっか』でおしまい。

 しかし……残念なことに今日の山野さんは一味違った。


「不適切なワード?」

 お惚け顔で俺に聞く。

 怒らせた俺がいけないのは言うまでも無いのだが、ちょっとナイーブなお年頃。

 さすがに女子の前で下ネタをひけらかす事が出来る度胸は無いが腹を括る。


「下ネタですよ。下ネタ」


「ふーん」

 で?

 続きは? と熱い視線を俺に送って来る山野さん。


「……これくらいで勘弁してください」


「嫌だなあ。私達が下ネタ程度で理不尽に怒るわけないじゃん。で、不適切なワードってなあに?」


「っく。『でっかくってぶっとい女子にも大人気な』ですよ。これで、満足しましたか? 山野さん」

 だが許してくれない。


「それのどこが下ネタなのか教えて?」

 これのどこがと言われて説明できるほど、鋼の心を持ち合わせていない俺は謝ることしかできない。


「すみません。それだけはご勘弁ください」


「うんうん。じゃあ、お化け屋敷を出た後にいきなり首筋を指で撫でない?」


「二度としません。だから許してください」


「しょうがないなあ。今回は特別だよ?」

 と事を無きに得たと思われたちょうどその時だ。


「やまのんさあ……。いくら、間宮君が可愛いくて仕方がないからって生徒会室であんまり見せつけないでよ~」

 と三鷹先輩。


「そうです……。なんか、見ていてこっちが恥ずかしくなります……」

 続けて1年会計である神楽さんも続く。

 傍から見なくとも、後輩男子をからかって遊ぶ山野さんと先輩女子にからかわれて反応する俺とがイチャイチャとしているようにしか見えないのだから。


「そ、そんなんじゃ無いし。だって、間宮君がいきなり首筋を指で撫でて……」


「はいはい。そうですね~。ところで、やまのん。間宮君に何を説明させようとしてたの? こっそりで良いから私に話してちょーだい?」

 三鷹先輩はおもちゃを見つけたかのように山野さんに言う。

 そして、神楽さんも空気を読んだのかそわそわとしながら山野さんに聞く。


「私も間宮くんに何を言わせようとしたのか気になります」

 絶対に二人は何が理由で『でっかくってぶっとい女子にも大人気な』がダメなのか分かっている癖に問い詰める。


「いやー、間宮君の口から聞いた方が良いんじゃない? ほら、私って説明下手だしさ」


「でも、間宮君は男子。私達が説明して? 下ネタの事を説明してと頼んだら逆にセクハラだし~」


「早希。私の口からは恥ずかしくて言えないから? ね? 何となくどういうことか察しよ? ね?」


「ふーん。そんな、恥ずかしい事を間宮君に言わせようとさせてたやまのんってもしかして変態さんなのかな~?」

 三鷹先輩に良いようにからかわれる山野さんである。

 で、まあ……そんなことが起こった結果。


「間宮君……。夜道には気を付けなよ?」

 俺への怒りが再び燃え上がる。

 そりゃあ、俺へ復讐を果たしたと思いきや、再び自分がその復讐のせいで恥ずかしめ(辱め)を受けたのだ仕方がない。

 そんな様子を見て三鷹先輩は親指を立ててにっこりとこっちを見ながら言う。


「頑張れ、間宮君!」

 楽しそうに言われたその言葉。

 こうなる事を織り込み済みで山野さんを煽ったのだろう。


「三鷹先輩って酷い人ですね」


「えー、2人がもっと仲良く成れるようにサポートしてあげてるだけじゃん。さてと、そろそろ話してないで報告書をまとめちゃわないと」

 確かに話しながらでだらだらと続けても仕方がない。

 文化祭で出店予定のお店が安全基準を満たしているかどうかについての報告書へ真剣に取り掛かるのであった。




 それから、15分後。

 報告書も完成し様子を見に来た生徒会顧問である山口先生に提出。

 気が付けば、下校時間となっており俺達は学校を出た。

 山野さんと俺は途中まで帰り道が一緒であり、自然と二人で歩ている。


「間宮君のせいで今日は散々だったよ。お化け屋敷を出た後、いきなり首筋を指で撫でられるわ。下ネタの意味を説明しろと滲みよられるとかさ」


「すみません。お詫びをするので許してください」

 復讐をされる前にこちらから下に出る。


「んー、じゃあ、今日これから間宮君の部屋に行っても良い?」


「姉さんが帰って来る前に帰って貰えるなら良いですけど、どうしてまた急に俺の部屋に来たいだなんて……」


「ん? リーフレタスの様子を見たいから?」

 とってつけたような理由で俺の部屋に来たい理由を語る山野さんを部屋に招き入れた。

 ちょうどその時である。

 山野さんはしたり顔でこう言い放つ。


「っふ、間宮君。私は間宮君のお姉さんが帰って来るまでここを出ない! 私を部屋に連れ込んで居るところをお姉さんに見つかり恥ずかしく悶えたまえ!」

 ……とちょうどその時である。

 携帯電話にメッセージが届いた。


『哲郎。急な出張で今日は家に帰れません』


「あの、山野さん。今日、姉さんは家に帰って来ないとの事です」


「またまた~。そうやって、私の行動が無駄だと思わせて帰らせようって魂胆でしょ?」

 信じてくれない山野さん。

 まあ、何だかんだで本当は姉さんに見つかって、俺を気恥ずかしくさせる気など無く、普通に帰って行くのであった。



 

 

 

お知らせ。

11月20日にファンタジア文庫より発売します。

イラストはあの有名なU35先生です。

可愛い山野さんがさらに可愛くなった書籍版をお願いします。

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