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第33話生徒会始動。文化祭や体育祭に向けて


 山野さんをプールに誘った日の放課後。

 生徒会は代替わりして本格的に活動が始まった。

 役員一覧は以下の通りだ。

 生徒会長 (2年)山野やまの かえで

 副生徒会長(1年)間宮まみや 哲郎てつろう

 生徒会書記(2年)花田はなだ みつる

 生徒会書記(1年)八坂やさか 勇将ゆうしょう

 生徒会会計(2年)三鷹みたか 早希さき

 生徒会会計(1年)神楽かぐら 玲菜れいな

 

 生徒会顧問 山口先生


 このメンバーでこれから学校行事等を支えていくことになる。

 文化祭や体育祭が近づき生徒たちが活発になる中、文化祭実行委員会や体育祭実行委員会がルールを守っているのかを第三者として不正をしていないかしっかりと見守るのが当面の仕事だ。


「仕事の前に生徒会役員たちで親睦を深めないとね。まあ、親睦を深めるとは言っても、この生徒会室でお菓子とジュースを片手に話す簡単なものだけど。ちなみに、後で来る予定の山口先生からジュースとお菓子が提供されているので、来たらお礼を言うんだよ? さてと、じゃ、ジュースを配ろっか」

 そう、仕事を始める前に少しは互いの事を知る必要がある。

 幾ら何でも、互いの事をまったく知らない状態で色々とするのは息苦しいのだから。

 ゆえに新生徒会の本当の初仕事は文化祭実行委員会や体育祭実行委員会が羽目を外し過ぎていないかを見守ることではなく、親睦を深めること。

 こうして、生徒会役員となった人たちと親睦を深め始めるべくジュースやお菓子を片手に生徒会室で駄弁り始めるのだ。


「凄いな、間宮は一人暮らしをしてるなんて」

 今、話しているのは同じく一年生の生徒会書記である八坂 勇将。

 サッカー部の次期エースだ。気さくで話しやすい。


「まあ、一人暮らしをせざるを得ない田舎だったからな……」

 

「田舎とはいえ通える高校はあったんじゃないのか?」


「あったと言えばあった。けど、不良校でヤバいと名高い場所ばかりでな……」

 田舎の治安の悪さを舐めてはいけない。

 実家の近くにある高校だが、子供は絶対に近寄らせてはいけないというルールがあるくらいだからな。


「なるほど」

 と言った感じで色々と話すことで八坂 勇将。

 もとい、八坂と親睦を深めていく。


「あ、間宮くんはやまのんと同じく一人暮らしなんだ!」

 八坂と話をしていると、その内容に割り込んで来たとある先輩。

 ……えーっと、確か2年の生徒会会計である 三鷹 早希先輩だっけか?


「あ、はい。山野さんと同じく一人暮らしをしてます」


「どこら辺に住んでるの? ちなみにやまのんはここからちょっと歩いた場所にあるアパートに住んでるけど」

 そんな三鷹 早希先輩の脳天に軽くチョップを入れる山野さん。


「早希。人の個人情報を勝手に話さないでよ」


「えー、良いじゃん。てか、間宮くんとやまのんは顔見知りなんだよね? 一体どこで顔見知りになったの?」

 あ、思い出した。

 この声って山野さんが友達と部屋でたこ焼きを作って食べていた時に部屋を漁ってジャージを見つけて山野さんに問い詰めてた二人のうちの一人じゃないか?


「あー、スーパーで会ったんですよ。で、色々とあってちょくちょくお話をする間柄になったわけです」


「なるほどねー。あ、でも、あれだよ。やまのんを狙うのなら気を付けなよ。こやつは男物のジャージを隠し持っている。要するに男が居るっぽいし。ま、教えてくれないんだけどね~」

 グイグイと来ると言うよりも思ったことをすべて話してしまうような性格。

 そして、男物のジャージは紛れもなく元は俺のだったやつだ。この三鷹先輩に山野さんとお隣だとバレてしまえばウザそうなのでバレないようにしておこう。


「あ、そうなんですか」


「おやおや? やまのんに男の影があると知っても動揺しないということは……あれだ! ジャージの持ち主は君なのかな?」

 ……察しが良すぎる早希先輩。

 どう答えるべきか悩んでいると、山野さんが俺の代わりに答えた。


「変なこと言って後輩を困らせちゃダメだよ? いい加減にしときなって」


「はーい」

 山野さんに指摘され、今度は横で話していた別の人たちの会話に混ざりに行く三鷹先輩。

 正直に言うが、あの人に山野さんとお隣さんだとバレるのは面倒くさそうだ。


「三鷹先輩って嵐みたいだ」 

 三鷹先輩が割り込んで来る前に話していた八坂が俺に言う。


「ああ、そうだな。そう言えば、八坂はどうして生徒会に入ったんだ?」

 せっかくなので、色々な事を話そうと思い八坂に質問を投げかける。


「サッカーばかりしてても詰まらないと思ってな。せっかくの高校生活、色々なことがしたいだろ?」

 活力が溢れている八坂が眩しく見えてきたんだが?

 眩しさに呆気を取られていると、八坂が今度は俺に聞いて来た。


「てか、間宮はどうして生徒会に入ったんだ?」


「山野さんと親しくなって興味が沸いたからだな」

 正直に言う。

 このくらいなら別に変に騒ぎ立てられるようなことは無いはずだ。


「なる程な。知り合いが居れば入ってみようと思うもんな」


「そう言う事だ」

 こんな感じで八坂とはもちろん。

 他の生徒会役員たちと親睦を深めていくのであった。



 そして、時間は過ぎ去り親睦会は終わった。

 皆が帰りの準備をしている最中、


「やまのん。今日、やまのんちに行きたい!」

 三鷹先輩が山野さんちに行きたいと言う。


「んー」

 少し悩んだ様子でちらりとこちらを見てくる。 

 ああ、ぜんざいをご馳走してくれる事になっているから、俺に断りを入れたいけどこの場じゃ言えないし目配せをしてきたのだろう。

 別に、俺の事は気にしないでくださいと軽く手でOKサインを作って見せた。


「分かった。良いよ、来ても」

 

「やったね。あ、せっかくだから神楽ちゃんもやまのんちに来なよ。あんまり、お話しできなかったしさ~」

 勝手に山野さん家に人を連れて行こうとする三鷹先輩。

 ちょっと強引な所もあるが、あんまりお話が出来なかったという理由で神楽さんを一緒にと誘う姿はどこか頼もしいところがある。

 

 まだまだ、仲良く成り切れていないは、これから仲良くなって行けばいいだろう。


 こんな感じで生徒会としての活動は始まりを迎えるのであった。




 次の日。

 生徒会は本格的に始動し始めた。

 体育祭実行委員がちゃんと仕事をしているかどうかのチェックをすることに。

 結果として、ヤバいとしか言いようがない現実が広がっていた。


 誰がどの種目の案内をするのか、種目で使う用具を運ぶのは誰なのかさえ、ままなっていない状態だと判明。

 その状況を何とかすべく、臨時で体育祭実行委員を集める日程を決めたり、実行委員長にきちんとしておくようにとお灸を据えに山野さんが出向いて行った。


「よし、これで今日の活動はおしまいっと」


「え、もう終わりなんですか?」

 つい山野さんにこれだけで仕事は終わりなのかと聞いてしまう。


「うん、だってほかにすることは無いし。じゃ、みんな、部活に行って良いよ~」

 その一声で俺と山野さん以外の生徒会役員たちは部活へと向かっていくのであった。


「さてと、帰ろっか。間宮君」


「そうですね」

 意外と生徒会は忙しくなんて無い。

 アニメや漫画とは違うんだなとしみじみ思っていたら、生徒会室に山口先生がやって来た。


「みんなは?」


「取り敢えず、仕事が終わったから部活に行きました」


「でも、山野さんが居るなら大丈夫でしょう。という訳で、この服がセーフかアウトか判別して貰えませんか? 私が受け持っているクラスで使おうって試しにクラスの子が買って来た服でアウトなら別の案を考えるようにと指導しますから」

 山口先生が渡してきたのはメイド服。

 それを受け取った山野さんはと言うと、


「あー」

 握った瞬間に複雑そうな顔に。

 一体何が?と思って、よーく渡されたメイド服を見ると作りが良くないのが分かった。

 なる程……、これを文化祭で使っても良いかどうかの判別を山口先生は頼みに来たという訳か。


「微妙でしょう?」


「そうですね。生地も薄いし、すでに糸がちょっと出ちゃってる。でも、使えないか使えるかで言ったら、文化祭の日だけは使えそうな気も……」


「だから、生徒会の子たちに判別して貰おうと思って見せに来ました。ほら、文化祭実行委員会の子たちはひいき目でOKを出しちゃいそうでしょう?」


「山口先生が言う通り、このくらいなら文化祭実行委員会に判断をゆだねた場合、OKを出しちゃうかも……」

 ちょっと悩ましい雰囲気の中、横に居た俺にも山口先生は聞いて来た。


「間宮君はどう思いますか?」


「ちょっと、触らせて貰っても……」

 と言うと山野さんが俺に雑なつくりのメイド服を渡してくれる。

 手に持った感じ、もの凄くしょぼい作りなのが一瞬で理解できた。

 ……確かにこれは使って良いかどうか悩むな。


「どう?」

 山野さんがどうか聞いて来たので、思っていたことを言う。


「この服を着て実際に動きまわる。それで、大丈夫そうならOKを出すって言うのはどうですか?」

 

「そうしましょうか。そのメイド服は私が自腹で買い取らせて貰う事にするから、耐久性を確かめて貰っても良い?」

 山口先生が山野さんにそう言った。


「分かりました。家でちょっと着こんで動き回ってみます」


「ええ、ありがとう。それじゃあ、私はこれで」

 山口先生はそう言って、おそらく職員室へと戻って行くのであった。



 それから何事もなく帰宅した俺と山野さん。

 何かと理由を付けて一緒に過ごせないものかと考えていたが、変に理由を付けて一緒に過ごそうとするのも露骨過ぎで警戒される。

 今日は無理。そう思いながら、部屋に戻って一息を吐いていると。

 インターホンの音が部屋に鳴り響く。


「はい、今出ます」

 玄関を開けるとそこには……メイドさんが居た。


「どう? 着てみたんだけど」


「いや、その取り敢えず上がりますか?」


「だね。アパートの前でメイド姿な所を他の住人に見られたら変な奴と思われちゃうし上がる」

 部屋に山野さんを招き入れる。

 さて、今の状況を冷静に整理しよう。

 部屋にメイド姿の山野さんが居る。以上だ。

 ちなみにめっちゃ可愛い、白いエプロンのフリフリがいつもと違った雰囲気を醸し出しているせいか、ドキドキとする。


「何で見せに来たんですか?」


「間宮君が見たそうだったから? ま、せっかくだから見せてあげないとって感じだよ。で、どう?」

 じっくりとメイド姿を眺めた。

 やや生地の光沢感が安っぽさを放っているが、それでもメイド服の形をしているだけで特別感が漂っている。

 加えて、生地が薄いからかスカートの奥が透けて見えそうだというもどかしさがやばい。

 ヘッドドレスも安っぽいが、似合っている。


「……可愛いです」


「うんうん。その様子は本当にそう思ってくれてるみたいだね。でもさあ、このメイド服着てみて分かったんだけど、やっぱり文化祭に使うにはちょっとダメだろうね」

 服をつまんで評価する山野さん。

 一応、メイド服の体裁は保っているが、体裁を保っているだけで実用性は無さそうだとはっきりと分かった。

 ましてや、全員分のメイド服を用意できるわけもなく、着回しすることで対応を余儀なくされ、脱いで着るという動作を繰り返せばどこかが破れてしまいそうだ。


「と言うか、山野さんはメイド服を着て恥ずかしくないんですか?」


「んー、全然平気かな。さすがにこの格好で駅前を歩けって言われたら嫌だけど、

別に文化祭だったり、間宮君に見せたり、するのは平気」

 漫画やアニメだとメイド服姿を見せるのを恥ずかしがると言うのが鉄板ネタだったのも過去の話。

 実際問題、それはコスプレと言う文化が浸透していなかったからこそ、特別感が強く羞恥心を煽られ、恥ずかしがっていたのに違いない。

 意外と恥ずかしがる反応の方が今では珍しくなってきているのかもな。

 興奮を冷ますため、冷静になろうとどうでも良い事を考えていると、山野さんがその冷静さを一気に吹き飛ばしてくる。


「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 

「……」

 無言になってしまう。

 それもそのはず、普段ならしないような恰好で、それでいて普段とは違った口調なのだ。もう、胸の高鳴りが収まらない。


「あはは、なんだか自分で言ったけど恥ずかしいね。あ、そう言えば、生地が薄いけど、どのくらいまで耐えられるんだろ……」

 恥ずかしさを紛らわせるために唐突に耐久性を調べ始める。

 体を準備体操の様に大きく動かし始めて、ちょっと経った時だ。


 ビリッと大きな音が響いた。


「……」


「背中が破れましたね」

 破れた場所から見えるピンク色の紐。


「ちょっと待って? 間宮君。背中がおもいっきり破れてるということは紐、見ええちゃってる?」


「はい。見えてます」

 その言葉と同時にバッと俺のベッドから毛布を奪い去り、頭から被った。


「なんか、あれだよね。下着見せすぎじゃない? というか、堂々と見るなんて間宮君のスケベ!」

 毛布の中から顔だけ出して恥ずかしさを誤魔化しているのがこれまた良い。

 ほんと、あれだ。ちょっと、おっちょこちょいなとこが可愛いんだよな……。



 





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