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第30話演説用の原稿を書こう

 生徒会選挙に向けて動き出した。

 とはいっても、漫画やラノベと違って現実での生徒会選挙なんてマンモス校を除けば地味だ。

 結局のところ、生徒会選挙は演説だけで決まってしまう。


「という訳で、演説用の原稿を考えるか」

 シャーペンを手に演説用の原稿を作成し始めた。

 だが、中々手が進まなかったので、次期生徒会長に立候補する山野さんにどんな感じで書けば良いのかを聞くことにした。

 今日は暑くなかったので涼みに来ていない山野さんに電話を掛けると、すぐに電話に出てくれる。


『どうしたの?』


「いえ、ちょっと生徒会選挙用の原稿を考えてまして……」


『なる程。書き方を教えて欲しいって事かな?』


「はい、そういう事です」


『んじゃ、そっちの部屋に行くね』

 それから数分後。

 山野さんは原稿を手伝いに来てくれた。


「じゃあ、始めよっか」

 こうして、山野さんと演説用の原稿作りが始まるのであった。

 構成はまず挨拶。この点は普通に決まった。

 次に立候補した理由を決めることになったのだが、これが中々に書いていてこそばゆくなる。


「ふむふむ、『私は生徒会に入っている先輩方に良くして貰っています。先輩たちが学校を良くしようとしている姿を間近で見て、私もそのようになりたいと思い立候補しました』これで良いんじゃない? 私も文章力があるという訳じゃ無いから、細かいところは直せないから。あと、生徒会選挙前に先生が原稿を校閲してくれるからね」

 山野さんから大体OKと言われた。

 しかし、あれだ。

 間近で見ている先輩と言うのは山野さんなわけで……


「私、間宮君の前で学校を良くしようとしてる姿なんて見せてないけどね」

 さらっと、真実を指摘された。

 そう、今書いた文は嘘が混じっているのだ。

 実際問題、邪な気持ちを隠さなければこんな感じだろう『私は生徒会に入っている先輩が好きです。先輩の色々な姿を見てきましたが、生徒会での姿は見た事がありません。一緒に居たい気持ちと、生徒会でどのようにして過ごしているのかが気になり立候補しました』

 ……うん、無しだ。


「つ、次に行きましょう」

 次に決めるのはどんなことをしたいか、いわゆる公約だ。

 で、紙に内容をしたため始めた。

『もし私が生徒会副会長になれたら、副会長として生徒会長を支えたいです。生徒会長という役職にかかる負担は大きく、その負担を少しでも減らせればと思います……』

 こんな内容を横からチラリと山野さんが覗いてダメなところを指摘して来る。


「ん~、その文はいまいちだよ。公約として主体性がないからね。それに一個人を支えるんじゃなくて学校のためじゃないと」

 

「そ、そうですね」


「まあ、私的には間宮君が私の事を考えてくれてるみたいで嬉しいけどね。ただ、それじゃあ私への告白みたいなもんだよ?」

 顔がかあっと赤くなっていくのが分かる。

 ……どうやら、気が付かないうちに山野さんへの思いが漏れ出ていたらしい。

 

「いや、その、そんなつもりじゃ……」

 恥ずかしさからつい咄嗟に誤魔化してしまう。

 そんな俺を見て山野さんは意地悪気な笑みで俺を見てくる。


「間宮君が恥ずかしがっちゃって~」

 ツンツンと恥ずかしがる俺を突く山野さん。

 弄られてより一層と恥ずかしくなってきた俺は話題を切り替える。


「や、山野さんの場合はどう書くんですか?」


「ん? 私の公約? 簡単だよ。はい、こんな感じ」

 紙にすらすらとペンを走らせて書いた文は普通に良い内容だ。

 それを参考にして公約を書き直し始める。

 書き直す俺の横で、山野さんはわざとらしく言う。


「告白みたいな文を書いちゃダメだからね?」


「っく。傷口を抉らないでくださいよ……」


「あはは、ごめん。ごめん」

 次に公約が出来上がったが、このままだと公約は短すぎるので、様々な要素を付け加えて修飾していくことに。


「山野さん。具体的に公約には何を書き足してけば良いんですか?」


「もちろん、自分の事だね。自分がどんな人物かを皆に知ってもらう。そして、知ってもらった自分はどうやって掲げた公約を実行していくのかを説明する。もちろん、知ってもらう自分は欠点と利点を両方上げたほうが良いかな。あ、欠点を挙げて良いのは生徒会選挙の場合だけ。就職活動とかの時は基本的に自分は下げちゃダメ。まあ、私もネットとかで調べたから詳しくは分からないけど、大体こんな感じかな?」


「なる程……。自分がどんな人物かを知ってもらうかあ。ちなみに、山野さんは俺の事をどういう風に思ってますか?」


「あ~。えーっと」

 返答に困った様子。

 どういう風に見てるかなんて聞かれれば、言葉を詰まらせるのも当然だ。

 俺だって、山野さんの事をどういう風に見ているか? と聞かれたら『可愛くて好きだ』と言いたい。しかし、そんなことを言うのは相手の反応が怖くて、抵抗感がある。結局は言葉を濁して『優しくて良い人』とか当たり障りのない事を言うに決まっている。


「あれだよ。優しくて良い子?」

 出てきた言葉は当たり障りのない言葉だ。

 でも、本音を聞いてみたいので、食い下がることにした。


「他にはどうですか?」


「間宮君は可愛いのが良いね。ほら、さっき公約で間違えて告白みたいな文を書いてそのことを指摘された姿がさグッとくる」


「ほ、他には……」

 恥辱に耐えながらも山野さんが俺の事をどういう風に思っているのかを知りたいので、聞き続けた。

 

「他は~しっかりしてる。ほら、何だかんだで自炊を続けてるから。そう言うところは私は良いかなって思うよ?」


「ありがとうございます。つまり、自分を知ってもらう際にしっかり者だと言うアピールをすれば良いんですね」


「そそ、そういう事。で、しっかり者だとアピールするためにはエピソード形式で印象に残るようにすること。というか、間宮君。ちなみにだけど、間宮君は私の事をどういう風に思ってるのかな?」

 相手からどういう風に思っているのか聞かれれば、逆に聞かれた相手が自分をどういう風に思っているのかが気になるのは当たり前。

 山野さんを俺はどういう風に思っているのか聞かれてしまう。


「優しくて良い人ですね」 

 こうなるに決まっている。

 さすがに『可愛くて好きだ』という風に思っているだなんて言えまい。


「詰まんない。もっと、ちゃんと答えて欲しいんだけど」


「……分かりました」

 俺も何度も聞き返した身だ。

 今言った事は俺からしてみても詰まらないし、もう少し真面目に答えるべきと思い、山野さんをどういう風に思っているのかを好きという感情を抜きにして整理した。


「早く言って?」

 どういわれるのかちょっとそわそわしている山野さんに急かされる。

 急かされながらも、考えた内容。

 それは……。


「おっちょこちょいですね」

 ちょっと、言えば怒られそうな事であった。


「ぐはっ」

 現に言った途端にダメージを受けている。

 そして、ちょっと目を細めじっとりと睨み、なんで? という顔をしている。


「あれですよ。鍵無くしましたし」


「うん。それは私も分かる。で、他には?」

 心外だ。

 私はおっちょこちょいではないと言わんばかりに他の事例を言えと攻めよられる。


「言いにくいんですけど、人のベッドに潜り込んできましたよね」

 今でも覚えている。

 山野さんが部屋の鍵を無くしてこの俺の部屋に泊まった時に、俺が寝て居るベッドに寝ぼけて潜り込んできたことを。


「そ、それは……」

 

「そして、ベッドに潜り込んで来た時にジャージが脱げてパンツが丸見えでした」


「……ま、まあ。それは仕方ないんじゃない? ほら、鍵を無くしたショックで、疲れてたんだよ」

 徐々に認めざるを得ない雰囲気が漂い自信を失っていく山野さん。

 ちょっと嗜虐心がそそられる。


「えっと、後はジャージの裾を踏んで転びもしましたね」


「で、でかいサイズだったじゃん?」

 ちょっといじける姿が可愛くて、俺は止まらない。


「財布に入っているクーポンを5000円札と見間違えもしました」


「あははは、うん。そうだね……」

 乾いた笑い声。

 微妙な薄ら笑いを浮かべて少し拗ねてしまう。

 そんな彼女はチラリと時計を見てこう言った。


「さてと、良い時間だしそろそろ帰ろっと。あ、別に間宮君にいじめられたから帰るんじゃないからね?」


「分かってますって。今日は色々とありがとうございました」


「ううん。気にしないで良いよ。むしろ、これからもどんどん頼ってね。じゃあ、これで」

 山野さんは立ちあがり、俺の部屋を後にした。

 しかし、玄関前で立ち止まってすぐに戻って来る。


「……こ、これは違うから」

 恥ずかしさを押し殺し、やけに無表情で、机に忘れた携帯電話をポケットにしまい、今度こそ自分の部屋に帰って行く。


「うん、やっぱり山野さんはおっちょこちょいだな」 

 そう思いながら、山野さんから教えてもらった書き方のコツを振り返りながら原稿を書き上げていくのであった。





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