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幕間の物語

 とある何ら変哲のないアパートの一室。

 そこに住まう彼女はお隣さんと冷房代のために一緒の部屋で過ごしている。

 部屋の主である彼女は今現在、紆余曲折を経て、お隣さんに水着姿を見せつけていた。


「……」

 まじまじとした招いたお隣さんの視線が彼女を襲う。

 その視線に対し、彼女はこのようなことを考えている。


(なんで水着姿を普通に見せちゃってるんだろ……。いや、うん。さすがにさ、不自然すぎるでしょ。と言うか、これは──君に見せつけたがりの痴女だと思われてない?)

 水着の話題が出た。

 見向きはされているが、見向きの方向性がちょっと望むものとは違う。

 だからこそ、見向きの方向性を自分が求めて居る方向へと修正をしようと考え、少し突飛な行動ではあるが水着を見せている。

 蓋を開ければ彼女が思っている通り、見せつけたがりの痴女と思われかねない行動。

 そのことでドキドキとしながら、招いたお隣さんからの視線に耐えている。


(でもさあ。こういう風に見せつけてるという事は襲われても文句はないと思われて襲われちゃうかも……) 

 痴女的な行動の果て。

 襲われるかもしれないというちょっとした不安。

 否、見向きの方向性を変えたい彼女にとって逆に不安では無く、どちらかと言えば期待を抱いていた。


「……」

 招いたお隣に住まう男子のじっとりとした視線。

 だが、手は一切伸びはしない。


(……あれだね。うん。手を出されないって事は私の事はやっぱりあれなんだね。うん、友達的なあれで。水着姿が見られるから見てるってだけだね……)

 この状況。

 何となく察して、見せつけている相手である男子の手は伸びるはずだ。

 しかし、伸びない手。

 それが水着を見せつけている彼女に『友達』として見向きされていると言うのを至らしめる。

 

(となると、──君の興味は私ではないんじゃ……。でも、ちょくちょく興味があるようなそぶりはあるし、本当に興味がなさそうってわけじゃ無いよね? さすがにここまでこう、清廉潔白だと辛い……)

 『友達』と見向きされているのを変えたい。

 だからこそ、彼女は動き出す。


「──君。せっかくだし、ポーズでも取ってあげよっか?」


「……じゃあ、お願いします」

 見向きされていないというよりも、そこまでさせるわけには……と言われると思っていた。

 故に、グラビアアイドルであるまいし、自分でポーズをとるとかナルシスト甚だしいと感じ、少しの恥ずかしさを持ちながらポーズを取る。

 やや、前かがみ。

 片方の手は膝。もう片方は腰。

 グラビアっぽさそうな感じでポーズを取ろうとするも、いまいちポーズは決まらない。


「ポーズを取るって言ったのに全然出来ないや」

 結果、諦めた。

 と見せかけて……彼女は水着姿を見せつけている相手へと攻撃を仕掛ける。


「という訳で、──君。この体勢からどんな感じで動かせば良いかな?」

 

「えっと、右腕をもうちょっと手前にすれば……」

 指示が出た。

 その指示を良いように利用すべく、彼女は言う。


「んー、良く分からないから私の体を動かして良いから教えて?」

 

「……セクハラって言いませんか?」

 

「言わない。言わない。お好きに動かしちゃって良いから」

 その後、彼の手はポーズを取っている彼女に伸びる。

 触れる肌と肌。

 近づく、体と体。

 目的はこれであり、彼女はボディタッチをさせることで篭絡を企む。


(──君が近い。と言うか、私はなにを? 体を好きに触らせるって、どう見ても誘ってるじゃん!)

 心中でそんなことを考えながら、これから何が起こるのかを期待した。

 

「っと、こんな感じですかね」

 無駄だった。

 彼は彼女の体を動かしてそれなりのポーズを取らせて離れていく。


「……」


「どうしたんですか?」


「ううん、何でもない」

(そんなに私って魅力が無いのかなあ……。さすがにここまであれだと、本当にショックなんだけど……)

 落ち込む彼女。

 そんな彼女は軽はずみに気持ちを吐露する。


「いやあ、あれだね。女の子の体に触れられるって言うのに随分と紳士的なんだねっって思ってただけ。せっかく、ちょっとくらいあれなとこに触れても許してあげたのに」

 軽い気持ちで言った。

 それだというのに、帰って来た言葉は重かった。


「いくら親しくてもさすがに軽はずみな気持ちでセクハラ出来ませんよ。だって、俺は──さんの事が普通に好きですし」

 

(──君の馬鹿……。大事にされ過ぎて幸せ過ぎるんだけど! でも、欲を言えばあれだよね。うん、好きの方向性がもうちょっと別な感じだったら良いのに)

 好きという言葉は恋人に限らず、親しい人へも良く使う便利な言葉。

 彼女は本当は親しい人としての好きを望んではいない。

 親しい人として言われる好きと言われるのも、良いもの。

 つい流されて、彼女もまた親しい人へと装ってしまう。


「私も──君の事が好きだよ」


「お世辞でも嬉しいですね」

 そんな彼の表情はどこか苦々しい事に彼女は気が付かないまま、冷えて来た体を擦りながら水着姿を見せ付けるという事の終わりを告げる。


「そろそろ、冷えてきたから着替えて良い? ──君がもう少し見たいなら見せてあげても良いけど」


「冷えてきたなら服を着て下さい。もう、十分すぎるくらいに堪能しましたし」

 突拍子もない、水着姿を見せつけるという行為を終えた。

 ……何事もなかったかのように。

 


 そんなことはお風呂場で着替えている際に気が付く。


「あれ? なんだろう。結局、なんかあやふやなままで終わってない?」

 色々と覚悟を決めて水着姿を見せたというのに何事もなかった。

 何を日和ってるんだ馬鹿と言わんばかりにお風呂場でへたりこむ。


「馬鹿でしょ……。うん、私は馬鹿だ」

 チャンスは十分。

 それだというのに活かせなかったのだ。

 いいや、彼女は十分に頑張っていたのは言うまでもない。



 ダメなのはあっちだ。

 難聴ではないが、変に自制心が強い彼が悪い。

 筋金入りの彼を落とすにはもはや回りくどい事では叶わない。

 それだというのに彼女は回りくどい事を考える。


「──君ともっと一緒に居たい。戻ったら、あのことを言わないとね」

 もっとストレートに行かなければ思うようにいかないと言うのを知るのは……残念なことにいつの日かは分からない……。














 一方、ところ変わって着替えを待つ水着姿を堪能していた彼。


「いや、うん。俺は何をしてたんだ?」

 水着姿の彼女が消えたことで、若干の冷静さを取り戻す。

 一つ年上の女の子の水着姿をまじまじと見つめるという普通ではありえないシチュエーションのおかしさを実感していた。


「さすがに仲が良いとはいえ、あそこまでしてくれるか?」

 彼女の行動の大胆さに疑問を抱く。

 その大胆さは『友達』としての大胆さなのか、果たして別の関係性がもたらす大胆さなのかは分からなくなっていた。


「失敗したらもう終わりなんだぞ?」

 同じく彼も彼女と同じく、関係の崩壊を恐れて手を伸ばし切れない。

 今回の一連の流れは手を伸ばしても平気な関係性の象徴であるというのに。


「徐々にだ。徐々に攻めて行こう」


 そして、声には出さず先ほどの自身の行動に満足していた。

(ポーズを取ってくれると言った時にいつもの俺なら──さんは冗談で言ってるだけだと割り切って『そこまでさせるわけには……』とかほざいてたに違いない。でも、人畜無害なふりは辞めて男だと意識して貰うために欲望の赴くまま、ポーズを取って貰えたんだからな)

 どうも男として見られている気がしない彼。

 自分のあまりの人畜無害な感じが、関係を『友達』たらしめる要因だと思い、それを辞めようと画策。

 ちょっとした下心を表に出すようにしたという訳だ。

 その成果が出ているかは神のみぞ知るところ。



「さてと、戻ってきたら──さんに言わないとな」

 彼女の水着姿を見られるのは今だけで、このままの関係ではそのうち距離は離れてしまい、水着姿を見られなくなる。

 それだけは避けたいと、彼はより一層と彼女へと近づいていくことを決心した。



 

 その決心を終えた時だ。

 着替えを終えて戻ってきた部屋の主である彼女。


「ふー、ただいま」


「あ、おかえりなさい」

 ゆっくりとベッドに彼女が腰掛けた後。

 彼は口を開き、近づくための言葉を投げかける。

 それと同じく、彼女も近づくための言葉を投げかける。

 



「生徒会役員に立候補します」



「生徒会役員に立候補してみない?」




 こうして、二人は新たな関係に向けて一歩を踏み出すのであった。












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