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第2話おにぎり

 放課後。

 早速、お昼ご飯として持っていくためのおにぎりを作るため、材料を買いにスーパーへと来ていた。

 自炊した経験が無い俺にとってスーパーでのお買い物はちょっとだけ自炊してる気分が出てわくわくとする。

 そんな浮足立つ俺の手にはお米と具の字。

 早速、お米を買おうと思ったちょうどその時だった。


「あ、どうも」


「ん、間宮君じゃん。どうしたの、こんなとこで」

 お隣さんである山野さんと出会う。

 スーパーに来ているという事は家庭的な人なのか? と思うも手には『今日から節約!』と言う文字がマジックペンで書かれていた。


「なにその手に書かれてる字。お米。そして、具って。男子高校生の手にそんなことが書かれてるなんて、ぷっつ、あははは、面白くて笑える」

 俺が山野さんの手を見ていたのと同じく、俺の手も見られていたようで書かれている『お米 具』という字を見つけられ笑われてしまう。


「そう言う、山野さんの手だって高校生なのに『今日から節約!』とか笑えてきますけど?」


「やっぱり? 昨日、間宮君との話のせいか、友達の前で節約しようかなーとかつい口にしたんだよ。そしたら、あんたは意志が弱いからこのくらいしないとって、手にこれを書かれた。酷いとおもわない? 女子高生の手にマジックペンでデカデカと字を書くなんてさ」


「ですね」


「分かった。生意気な後輩が酷いって言ってたと伝えとく」


「ちょ、辞めて下さい」


「冗談だよ。そんなこと言わないから安心しといて。さてと、ここで出会ったのも何かの縁。一緒にお買い物しよっか。って、スーパーで言われても嬉しくないだろうけどね」

 髪の毛が長くて綺麗な山野さんと一緒にお買い物だなんてちょっとした幸運かも知れない。

 これで友達に女の子と一緒に買い物したぞ? と自慢できる。

 まあ、スーパーの時点であれだが。


「じゃあ、せっかくなのでご一緒させてください」


「うん。分かった。それで、間宮君は何を買うの?」


「お米と具ですかね」

 わざとらしく、真面目な顔で手に書かれた『お米 具』と言う字を見せつけながら言ってみた。


「っぷ。ちょ、ほんと辞めて。真面目な顔で手に書いた言葉を言うなんてずる過ぎだから」

 可愛らしく、吹き出して笑ってくれた。

 これで滑ったらどうしようかと思ってたし何よりだ。


「ところで、山野さんは何を買うんですか?」


「私? 取り敢えず、コンビニでご飯を買う事が多いから、というかほとんどコンビニだから。なんか適当にスーパーで買えば安くなる。って感じで来ただけ。何を買うかは全然決めてない。というか、なんでお米と具なの? もっと、他に何か買わないの?」


「最初から本気を出し過ぎても空回りしそうなんで。出来る事から始めよう。という訳で、自炊と言ってもお昼ごはん用に持っていくおにぎりから始めようと思いまして」

 最初からやる気を出しても空回りするだけ。

 ゆるーく、はじめてこそ長続きしそうであるという勝手な考えだ。


「じゃあ、私も真似しても良いかな?」


「もちろん良いですよ。とは言っても、お米と具。以外で良さげな節約につながりそうな食材があれば買うつもりですけど」

 そんな感じで、スーパーの店内をうろつく俺と山野さん。

 野菜売り場から始まり、生鮮売り場、お総菜売り場、取り敢えず色々な所を歩いてみた。

 その際に俺は水筒に詰めるお茶を作るための茶葉を買い物かごに入れる。

 計算しなくとも、ペットボトルでお茶を買って飲むよりか安い。

 それから、おにぎり用のお米と中に詰める具。おにぎりを巻く用の海苔。おにぎりを包むためのサランラップもかごに入れていく。


「おにぎりはこれで良し。後は今日の夕食をどうするかだ」

 気合いを入れてすぐにヘタるよか、ゆっくりとステップアップした方が長続きするだろう。

 ゆえに夕食は普通に出来合いの物で済ませるつもり。

 お総菜売り場に向かい、どれを夕食にするか睨めっこする。


「凄いね。コンビニのお弁当より量が多くて安い。コンビニじゃなくて、毎日スーパーで買いものすればだいぶ節約になるかも」

 一緒に歩いていた山野さんがお弁当の値段と量に頷きながら問いかけて来た。


「でも、コンビニと違ってちょっと遠いのが辛いと思いませんか?」


「分かる。コンビニは5分。でも、ここに来るには20分以上歩くとなるとね」


「それでもスーパーで買い物する価値はあるはずです」

 紛れもなくスーパーで買い物すれば節約につながる。

 明日から脱コンビニ生活を始めよう。

 たぶん、これだけで結構なお金が浮くに違いない。


「私もちょっと遠いけど、これからはスーパーで買い物をすることに決めた。ところで、どのお弁当にするの?」

 

「俺ですか? このかつ丼にしようかなと」


「じゃあ、私はこの麻婆豆腐丼にしよ」

 買い物かごにお弁当を入れた。

 ちょっと寂しいので袋詰めされたサラダも買ってドレッシングも買った。

 それなのにコンビニよりも安いとか、本当に驚きである。

 

 こうして、買い物を終えた俺と山野さん。

 帰る先は同じアパート。当然の様に肩を並べてゆっくりと歩き始める。


「いやー、スーパーって凄いね。コンビニより全然安くて驚いたよ」


「今までコンビニばっか使ってた過去の自分を殴ってやりたいくらいです」


「あはは……。間宮君はまだいいよ。私なんて2年生で、1年生の頃からずっとコンビニを使ってばっかり。もし、スーパーで買い物してたら服が何着買えた事か」

 もったいない事をしてたなあ……とちょっと不貞腐れている山野さん。


「でも、スーパーの方が安いのに何だかんだで、便利なコンビニを使っちゃいそうなんですよね……」


「私も。だって、節約とか言ってるけど、日々が詰まらなくなって不便になる位ならしたくない」

 本当に似た価値観をお持ちらしい。

 話していて、まるで自分と話しているかのようだ。


「と言うか、大丈夫ですか? お米はかなり重いですよね。良ければ、持ちますけど」

 俺達の手には炊かれる前のお米。

 入っているキロ数が多ければ多い程、少し安かったのでかなり大き目なお米の袋を手にしている。

 重いという事もあり、もってあげたほうが良いのでは? と声を掛けてみた。

 

「優しいね。心配してくれるなんてさすが男の子。気持ちだけで十分。自分で持つよ」


「もしつらかった言ってくださいよ?」


「うん、ありがとう」

 

 そして、重いお米を持ちそれぞれの部屋の玄関まで辿り着いた俺達が抱く感想はただ一つだった。


「本当にお米が重かった」


「うん。これは明日は筋肉痛だよ」

 ボヤキながら鍵をカバンから取り出す俺と山野さん。

 鍵も明けて、さあ部屋へ。

 そんな時だった。山野さんが俺に話しかけて来た。


「せっかくだし連絡先を交換しよ」


「あ、はい。良いですよ」

 こうして、連絡先としてメッセージを簡単に送れるコミュニケーションアプリのIDを交換するのであった。

 連絡先に同じ高校の先輩が追加される。地味に同じ高校に通う先輩では初めて連絡先を交換した相手だ。


 それから、互いの部屋へと帰った俺と山野さん。

 スーパーで買ってきたお弁当、もといかつ丼を食べて来るべき決戦に備える。


 お米の封を解き放ち、お米を洗って炊飯器にセット。

 今時の炊飯器にはタイマー機能と言う便利なものがあるので朝に炊き上がる様に設定し、起きた後、おにぎりを作れるように海苔やらラップを用意した。

 ついでに水筒に詰めるお茶の茶葉も分かりやすい位置に置いておく。


「これで、あとはいつもより早く起きて作るだけだ」

 意気揚々と朝にはおにぎりを作ってやる。

 そう思いながら俺はちょっとした余暇を宿題やら動画を見てすごしたのち、就寝した。



 そして、迎えた朝。

 少し早めに起きた俺は、手始めに炊飯器と同様に置物と化していた水筒に詰めるお茶を作り始めた。

 お茶作りが終わり、取り掛かるはおにぎりの作成。

 用意したラップの上にお米を置き。買った具材を置く。

 ラップ越しにお米を握って形を整え、形が整ったら塩を振りもう一度握り、海苔を巻いた。

 

「よし、完成だ」

 そのままラップに包んだまま持ち運べるようにした。

 あ、そう言えば保冷剤を用意した方が良かったかもしれない。

 季節は刻一刻と真夏へと向かいつつあり、痛んでしまう場合がある。

 料理もしない俺がこの事を知っているのは、母親が保冷剤を入れ忘れてお弁当がダメになった経験があるからだ。


「まあ、まだ大丈夫だろ。教室にはエアコンもあるし」

 と言った感じで適当におにぎりを風呂敷代わりのバンダナで包んで学校のカバンに詰め込んだ。

 ちなみに朝ご飯は残ったご飯でもう一つおにぎり作ってたべた。

 いつもは菓子パンで済ませているので、この時点でかなり節約した気がする。



 それからなんだかんだでお昼を迎えた。

 今日も幸喜と一緒の昼食だ。


「ほら見てみろ。成し遂げたぞ?」

 机におにぎりと水筒を置く。


「おう、おめでとさん。節約に一歩近づいたな」


「まあな。これをきっかけにドンドン自炊に切り替えて行くつもりだ」

 早速、おにぎりを食べようとした時だ。

 とある人物から写真付きのメッセージが送られてきた。



『私はこんな感じだよ。美味しそうでしょ?』

 綺麗な三角形のおにぎりが映る写真。

 それを送ってきた相手はもちろん山野さん。

 せっかくなので、俺も微妙に三角形なおにぎりを写真に撮ってメッセージを添えて送信した。


『握るのうまいですね。俺はこれで妥協しました』

 すぐに返信が来た。


『っふ。お姉さんの方がうまい。という事で、今回は私の勝ちだね』

 冗談交じりのノリについて行くべく俺もジョークを交えたメッセージを送る。


『っく、次は負けませんから!』

 お昼時、おにぎりでちょっとしたやり取りをして楽しむ俺と山野さんであった。


 

 






 

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