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精霊王

主人公達は空気になった…空気。

好きに書くとこうなってしまうのはなぜだろう。

「誰だ?」


「誰? 女の子じゃないよね?」


 ラキュースルが『そのこと』に違えるはずはないという先入観は大方当たっていると思う。伊達に女の子をとっかえひっかえ付き合っていないはずだ。自慢にもならないし最低だとは思うけど誰もそれを気にしなかったのはなぜだろうか。


 いや――今はそんなところではない。


 少年はにこりと可愛らしく微笑んだ。浅いセピアの髪は光に照らされてみると金髪にも見える。幼さを色濃く残した顔立ちは大体オーレスと同じくらいに見えた。


 細い体。その体には似つかわしくない大きな剣が背にくくりつけられている。それはぼろぼろの体と服と同一で違和感しか覚えなかった。


「あ。僕。僕はエルバ・イロリ。よろしくね」


 何だろう。この場違いな自己紹介は。何かが違うような気がする――のだけど、笑顔で握手を求められれば素直に手を出してしまう。


「あ。はい。私は――」


「そこを退け!」


 ひゅっと風を切る音とともに私の身体はぐっと引っ張られていた。ぐらりとバランスを崩す身体。鈍い衝撃が身体に走るとともに影が私の前に躍り出た。


 風を――空気を切る音というのを初めて聞いた気がする。ひゅっという音とともに銀の刃が私の頭の上を一閃した。それこそ、その場に居れば頭が叩き割られていたと思うほどに近い。はらはらと舞い落ちる切り取られた髪はたぶん私のものだろう。


 金属のはじけるような甲高い音とともに軽い火花が巨体の前に見えた。それがいささか眩しくて目を細めていた。


「つ」


「出たな、脳筋」


 エルバは軽く身体を捻り、弾けるようにして後ろに跳ぶ。それを確認すると、飛び込んできた男――ローエルは大きな剣を持ったまま、後ろを確認することもなく声を出す。それは大きく、この厨房、いや、建物全体に響くような声だった。


「皆、無事か?」


 びりびりと耳を突き刺す声は何処か緊張を孕んでいる。


『は。――軽傷者五名。その他問題はありません』


 誰が言ったのだろうか。その機械的な報告にローエルは重荷を落としたように息を付いた。ひゅっと軽々大剣を回すと床に鈍い音をさせながら突き刺す。


 床はそれほど柔らかいのだうかと思ったがたぶん違う。剣が重いのか力が強いのかあるいは両方なのかもしれない。


「ま……当然と言えば当然か、心配して損した――つぅか、そこの女。『俺んち』に何の用だ? こんな全体・・攻撃しかけやがって、話すことが出来そうなのはお前ぐらいなものなんだから話してもらうぜ?」


 刺すような視線と威圧だった。それは私にでもわかる。怒っている――と。それに中てられるかのようにゴクリと息を飲んだのはエルバではなく、私達だった。


 当のエルバはたじろぐでもなく顔色一つ変えずに、肩を小さく竦めニコリと可愛らしい笑みを浮かべる。


「流石ぁ。ま、ただの挨拶のつもりだったんだけど」


「挨拶? 挨拶にしてはデカい声だよなぁ。修繕費は出してくれるんだろうな?」


 損害は――もはや想像できない。個々だけでは無いのだろう。おそらく。ローエルが苦虫を潰したように言うと、エルバは不思議そうにコテンと心底不思議そうに小首をかしげて見せた。


 ぴきっと何かが割れる音が聞こえた気がするのは気のせいだろう。眉間の深い皺がさらに深くなった。


「え――挨拶だもの。出さないよ? にしても。この国にある魔術師が少しすり潰せたらいいかなって思ったんだけど。すごいよね。『世界最高の魔術師』欲しいなぁ――ずるいなぁ。個々に盾なんてどれだけ目がいいのさ」


「こっちもスカウトはしてるんだが――じゃなくて。だ。テメェ。挨拶だけで済ませられると思うなよ?」


 ぐっと、柄に添えられた手に力がこもった。その行動に合わせるようにしてエルバは軽く後ろに跳んで間合いを取る。軽く握って伸ばした手。それが何の意味があるのかはじめ分からなかったけれど、すとんと光の塊がその手に落ちた。


 すうっと光が引けば銀の長剣が現れる。美しい長剣。その柄には細かな装飾が施されているように見えた。


 その柄をぐっと握れば空間を確かめるように軽く薙ぐ


 そういえば、先ほどローエルが剣を振りかざしたとき現れたのはこの長剣なのだろうか。刹那のことでよくは見ていなかったけれど。


「剣の物質化……魔術か」


「でも。俺たちの魔術体系とは違うね。あれ」


 呟いたのはラキュースル。セツラがどう違うか尋ねれば肩を竦めながら『根本』と答えていた。


「多分――俺も初めて見るけどあれ、『アール・ミナ』の系統だよ」


「アール・ミナ?」


 何処かで聞いた気がしたがよく思い出せなかった。私が思わず聞き返すと、今度はセツラが口を開く。


「確か西の大陸にある国の王族名だな」


「知ってる?」


 小馬鹿にしたようにラキュースルが言うとセツラは不快そうに眉を跳ねていた。


「……当たり前だ。古い王族だからな。それぐらい歴史で習うさ」


 ……。


 ……。


 よし。何も言わないでおこうと心の中で呟いていた。でも、きっとそう。もう少しで思い出すはずだったんだ。思い出す――いや。何も言わない方がいい。そう思い口を軽く結ぶ。


 ――帰ったら教科書開かなきゃ。地理か。歴史か。考えながら視線を動かすと。満面の笑みを浮かべたラキュースルが見えた。


「――ぐ」


 思わず低く呻いてしまう。


「大丈夫だよ。普通覚えてないから。魔術科以外はほぼ忘れ去る事項だしね――国力とか大したことない古びた国だし。貧乏だし」


 先ほどセツラがさらっと『常識』みたいな感じで言っていた気がするので、もはやそんなフォローは効かない。


 ただ、ただ。知らないことが恥ずかしかったし、なんとなく彼ら知っていて、私だけが知らないことが悔しかった。


「……」


「そこ、聞こえてるぞ。その通りだけど」


 そんなに近くはないが遠くもない。意外と明るい――気にもしていないような――エルバの声にラキュースルはにっこりと返していた。人を喰ったような笑顔とでも言うのだろうか。それにエルバは顔色を変えることもない。ただ楽しそうに笑顔を返している。


「うん。聞こえるように言ったからね」


 あははは。乾いた笑いが部屋中に木霊していた。


 二人から、なんとなく恐怖というものを感じたのは気のせいだろうか。ぶるりと肩を小さく震わせて、辺りにふと目をやるとようやく気付いてた。


 辺りには人がいない。私達――対峙している二人と、セツラ、ラキュースル。そして件の少年と私だけだった。


 おそらくは少しずつ避難していたのだろう。


 というか、私たちは何を呑気にと少し落ち込んだ。逃げようか。そう考えたが、相手の意識がこちらに向っている以上無理な気がした。


「も、失礼だなぁ。ま、間違っていないし仕方ないね。そうだよ。僕らはアール・ミナ末端の人間だしね」


「よく知ってるな――ええと。ガキ?」


 褒めた様子ではない。驚いた様子でローエルが口を開いていた。そのラキュースルは相変わらずの笑顔で返す。


「あんたは知らなかったよね。その驚いた顔は」


「うわぁ。流石脳筋。気づいてなかったの? ――精霊王だよね? 精霊王で間違いないよね?」


「精霊――おう?」


 ――って何だっけ。


 脳が理解を拒否していた。精霊はいる。それはわかる。そうで無ければ魔術は使えない――精霊の力を借りて魔術は行われるため――し、世界に豊穣はない。極稀に精霊自体を呼び出す魔術もあるという。


 けれど、魔術師はどうか知らないけれど、一般の人々は精霊自体を目にする機会などはないし、ほぼ『姿の無いもの』だと思われていた。自然の中にある『意志』そのもの。それが世間の認識で。精霊も精霊界も『夢物語』の中にある。


 はずなのに。


 精霊王。


 精霊を統べる者。


「……なんだよ。その顔。そろいもそろって」


 ローエルの恨みがましい視線に、ぶっと、噴出したのはエルバだった。心底面白そうに声を出して笑っている。


「だよね。そうなるよね。普通精霊王っていえば、その横のお兄さんのように『王子様』系だと思うよね。もしくは『薄幸の美青年』的な? こんなゴリラだとは思わないよねぇ」


 いや。そこじゃない。驚いているのは。存在に驚いているのだけれど。確かにイメージ的にはラキュースルの方があっているだろうけれど。セツラに目を向ければ顔を引きつり始めているし、あまり動揺をしないイメージのラキュースルも珍しく真顔で固まっている。


「しかも、魔術なんて使えないんだよねぇ。元人間の王様。剣だけで精霊界を制した逸材なんたよね。そこは素直にすごいよね。うん」


 特にすごいと思っていない様子――棒読みだ――でうんうんと頷いている。当然イライラしたような様子でローエルが低く呻くようにして言葉を紡いで見せた。


「……まぁ、俺のことはいいだろ。アール・ミナ絡みなら、『鍵』か――渡すと思うか?」


「ううん。言ったよね。ただの挨拶だって。まぁ、目的はもう一つあったんだけど。でも――うん。たぶんそっちはうまくいっている。今頃この国の上層部阿鼻叫喚だよね。楽しい」


「は? 何をしたんだ?」


 言ったのはセツラだった。まさか口を開くとは思っていなかったらしいエルバは驚いたように眉を跳ねる。


「簡単――ここ以外魔術をつかえなく(・・・・・)しただけだよ」


 え。何のことだろう。


 淡々とした声を遮るように大きな剣がエルバを薙いだ。ただエルバの身体を捉えることはできず華奢な少年の身体は宙を軽く舞って近くの壁に着地する。まるで羽があるようにゆったりと。


「酷いなぁ。もぅ」


「るせぇ。てめえ。生きて帰れると思うなよ――楔壊しやがったな?」


「え――気づかなかった脳筋が悪いんじゃん」


「確かに――と言うとでも思ってんのか、ゴルァ」


 びりびりと響く声とともにローエルは強く地面を蹴った。人ではあり得ぬほどの跳躍力。強く剣を振り上げながらエルバの頭に叩き落とす。高さとすべての体重を乗せたその斬撃。刃が床に触れれば、床がまるでガラスのように無残に散る。


 当然というべきなのか、エルバは捉えられていない。刹那で身を躱すとローエルの背中に回り込んで斜めに薙いだ。それを難なく躱されると追撃を逃れるために弾けるよにしてその場を蹴った。


「うーん。このままいくと真面目に死ぬかも」


 一瞬、こちらに視線を向けたのは気のせいだろうか。


 片手で剣を持ち、右手で空間を撫でるとそこから光の球が現れる。その球は光りの線を描きローエルを追尾。それをローエルは剣で叩き潰すと爆発をする。


 その隙を狙ってエルバは剣を突き立てるがあっさりと弾かれ、近くの壁に叩きつけられる。――軽く振ったように見えたがそれほど威力は強いのだろう。


「って――酷いなぁ。酷いよ」


 痛いと小さく呟くエルバに大きな剣をローエルは首へと切っ先を向けた。爛々と輝く赤い双眸。それは死を映し出しているように見えたが、エルバは気にも留めていない。


 まるでそれは心が壊れているように見えた。


「それはどっちだ。楔は人間界のバランスを保つためのものだ。それを潰せば魔力を行使できないどころか、自然の摂理が壊れる」


「大したことないよ。――それにどうせ作り直せるでしょ?」


 ぎりっと奥歯を強く噛む音が聞こえた気がした。


「何年かかると思ってやがる。百年単位だぞ? ――その間俺は動けない」


「うん。だからわざと。動かれると困るから――ああ、それとね」


 近くでジャリと重苦しい金属の擦れる音がした。何の音だろう。そんなものはここに合っただろうか。考えているとふと、手首に重苦しさを感じた。


 何。


「アーデルちゃん?」


 言葉に視線を手首へと向ければ私の手首には金属の枷がついていた。


そのころオーレス→必死に魔術展開中。デリート→幹部なので首都直行


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