溜息
なぜ。そう問えば――そんなことに理由なんているのか。と真顔で返ってきた。接点も共通点もどこにもかくて、たたあるとすれば『同学年』のみ。美人でもなく平坦で――目立たない。どちらかと言えば教室の隅で静かにしているグループに入る私をどうやって見つけ出したのだろうか。それは何度考えてもよくわからなかった。
ごめんなさい。けれど友だちなら。という言葉は卑怯だっただろうかと思う。けれど彼らは笑って『分かった』といった。少しだけ残念そうに。
時間が必要だろうから。と。
「つまんじゃえばいいのに。贅沢だなぁ」
蒼穹に手を伸ばすようにして少女は大きく伸びをした。久しぶりの晴れ間。心地よい風が学校の屋上に吹いている。その中で私たちはおかれたベンチに腰を掛けながら話していた。お昼休み。手元にあった弁当箱は空になっている。
「私もそう思うけど。でもそんな対象として好きじゃないし……」
たぶんどんなに世界を渡ろうとこんなことは二度とないだろうなと思う。いわば千載一遇のチャンスだけど何かか違う。
下手に付き合うのはなんだか酷く申し訳ない気がした。
「真面目なんだよ。どうせあんな奴らすぐアーデルを捨てるに決まってんだから、ちやほやを享受しておけばいいのに」
「……何気に私がダメって言ってない? ロロちゃん」
でもまぁ、確かにそうだと苦笑を浮かべると隣にいた少女も『かもな』と気前よく笑う。
ロロナ・ユリエンド。短髪の長身。少年が女装したような雰囲気を持つややこしい少女だった。幼馴染で親友。私は『初めから』世界をやり直すわけではないのでロロナとの関係はいちいち作る必要がなかった。それはとてもありがたい。
「そういえば次の花祭り行くだろ?」
――ああ。『戻った』な。
心の中で転がした。その聞き覚えのある会話に対して『いつものように』軽く答えていた。返す言葉は変わらない。
「うん。弟が行きたいって言ってたし。私とじゃないと嫌だって言ってたから」
花祭り。年に一度だけこの国で開かれる大祭。すべての精霊に豊穣を願い感謝を捧げるお祭りだ。首都の方に行けば三日三晩行われていると聞いたがこの地方では一日だけ。私たちは何をするわけではなく、基本は近所にある『精霊殿』に行って身を清め、お祈りするだけである。
まぁ。花火を上げたり出店が出たり。最近はこちらがメインになっているだろうけれど。そういえばいつからか『恋人の日』なんていわれ始めたのはなぜだろうか。確かその日に告白すれば長く続くとかなんとかと聞いた気がする。きっとそれは迷信だろうけど。
「相変わらずシスコンだな。イリス。彼女でも作ったらいいのに」
そういいながらどこか案したように。なおかつ嬉しそうに笑っているロロナ。ロロナはイリス――弟――が好きなことは知っている。本人は隠しているけどただ漏れだった。今だってきっと『彼女』がいないことに安心しているはずだ。
その感情についてイリスは言わないけれど、きっと知っていると思う。
「ロロちゃんも来るでしょ?」
「……」
いいの?
少年みたいな顔が少女のごとく赤く染まった。人のこととなるとずかずか言うくせに、自分のこととなるとどうしていいのかわからなくなるらしい。それはとても可愛らしかったし何度見たってこの場面は飽きないし瞼の裏に焼き付けたいと思う。
不安そうに揺れる双眸に私は軽く笑いかける。
一度だけ。そう思った。
一度だけこの小さな恋の結末が見てみたいと。できることなら叶えてやりたいと。だから。私は口をひらく。
いつもとは違う言葉。違う表情でロロナに笑いかけていた。
「大丈夫。何なら二人で行ってきて。私はなんとか都合つけるから」