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悠久思想同盟  作者: 二ノ宮明季
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「以上で、再生を終わります」

 気が付くと、人形のいる空間だった。二体の人形は、今や完全に私と日高だった。

「いや……これで、今までのほんの少しの世界を見せ終えた、とでも言えばいい?」

「その方が分かりやすいかもね」

 人形は、口調すらも私と日高そっくりに変わっていて、私達は驚いて目を見開く。

「私、ううん、私達は、皆決して幸福な最後ではなかった」

「大体の俺達は、幸せになる事を望んだんだ」

 人形――否、人形だったそいつらは言う。私は日高を見ると、彼も私を見ていたようで、目があった。

「意味、分かる?」

「……全然。けど、ちょっと、なんとなくだけど、こうじゃないかな、という予想はある」

 日高に尋ねると、彼はそう答えて、自分そっくりの相手に視線を向けた。私も同じようにする。

 ……私も、なんとなく、そうじゃないかな、という可能性には行きついていた。

 そんな馬鹿な、とも思うし、確証もない。けれど、そもそもこの空間や、今起きていることが、非現実的すぎて、考えを否定できないのだ。

「多分、あんた達の考えてる通りだと思うけど、ま、ちょっと聞いて。人の話の腰を折るのは良くないよ。俺が言えた事じゃないけど、ここは大人しくしておいてくれる?」

 日高モドキがそう言うので、私は黙って続きの言葉を待った。日高も同じように、「はいはい」と適当に相槌を打って、待つ。

「勿体ぶらずに言えば良いじゃん。私達が、平行世界で消えた百瀬橙子と、日高笑太の集合体だ、って」

「百瀬、簡単に言うとつまらなくない? もう少し、恐怖をあおって遊んだりとか――」

「するわけないでしょ。面倒くさい」

 もう一人の『私』……もとい、集合体の『私』は、はっきりと口にした。私は驚いたけど、同時に、やっぱりか、とも思う。

 記憶の欠片とやらの中で、何度か別の世界を望むようなセリフがあった。そしてここは、平行世界の狭間だと、記憶の欠片の連続再生が行われる前に、二度も集合体の『私』が言っていたのだ。

 狭間で見る、平行世界の出来事。そして、その中で登場した、別世界を望む言葉。かなり突飛な物であったし、確証は全くと言っていいほど、私には無かった。だから私は驚いたのだ。

「あんた達、なんで人形になってたの? それから、どうして私達の身体が人形になったりしたの? 今度は答えてくれる?」

 私の質問に、私の集合体は「あぁ、それは」と、あっさりと口を開く。

「ただの脅し。だって、そうでもしないと、ぐっちゃぐちゃな事しかしないでしょ? まぁ、日高には効果なかったみたいだけど」

「うーん、さすが俺」

 集合体の『私』と、集合体の『日高』が会話する。本当に私と日高と同じ姿、同じ声、同じ口調であるせいで、まるで録画した自分の姿でも見ているような気分になる。そうじゃなかったとしたら、ドッペルゲンガーだ。

 まぁ、ドッペルゲンガーっていうのは、あながち間違っても無いか。

「褒めてないから。ほんの少しも褒めてないから」

「何で二回言ったの?」

「大事な事だから」

 なんだこの寸劇。集合体の『日高』は、「ははは!」と笑うと、集合体の『私』に向かって、「続き言っちゃえ」と言った。いや、あんたが話の腰折り放題だったんだけど。

「私としては、人形になりたくなかったら、死にたくない未来を作ってみろ、って気持ちだったんだけど」

「……おかげさまで、今は死にたくないよ」

 集合体の『私』に、日高が答える。

「それは良かった」

「うん、良かった。今もまだ死にたいとか言ったら、ぶん殴ろうかと」

 集合体の『私』に、私も続く。

「……俺、痛いのは嫌だな」

「よく言う」

 鼻で笑ってやると、集合体の『日高』が腹を抱えて笑った。

「どうして、こんな事をしたの? 集合体の中に入るための儀式?」

「いや、違う。私達は、ただ、幸せな未来を望んでいるだけだから」

 私の質問に対しての答えは、予想とは違った。

「まだ、どちらも死んでいないから、目が覚めた時に、幸せに生きれるようにと、私達の望みを無理やり託そうとしただけ」

「まだ、死んでない?」

 私が首を傾げると、相手は大きく頷いた。

「二人とも、まだ死んでない。ちょっと昏睡状態っていうだけ」

「私と日高は、生きてるの? 未来を、歩けるの?」

「そう。生きてる」

 集合体の『私』は、強い口調で言う。私の隣で、日高が「よかった」と呟いたのが聞こえた。

 あぁ、よかった。そうだ、よかったんだ。

「まぁ、その辺ちょっと証明しようかと思って、折角ノリノリで平行世界を見て回ったり、改ざん気分を味わえるようにゲーム風に作り上げたし、エントランスを病院っぽくしておいたんだけど……普通分かんないよね。あんまり気にしないで、ただの自己満足だから」

 ……自己満足の産物が、不気味だったんですが。というか、ノリノリにするつもりでゲームを模したのか。

 そんな風に、口を挟もうかどうかを迷っている内に、集合体の『私』が「それはともかく」と声を上げたので、黙って続きを聞くことにした。

「いくつもの平行世界の中で、私達は死んでしまったけど、あんた達が幸せになってくれるなら……私達も、幸せ。で、多分その内成仏とかしちゃうんじゃない? 未練がなくなったら、上に上がれるとかいうし」

「いやぁ、こんな存在になっていながら成仏とか、面白いよね」

「全然面白くないから」

 平行世界の『私』と『日高』の表情は、柔らかい。人形だった時の硬質な物とは、全く違う。

成仏だとかなんだとか、この先どうなるのかとか、知らないけど、とりあえずこいつら――実質私達の心が、少しでも安らぐのなら、嬉しい。

「あの、さ。俺が言うと、ちょっと頭おかしいって思われるかもしれないんだけど」

 集合体の『日高』が、ちょっと照れくさそうにしながら言う。ニヤニヤでもなく、泣きそうでもない、無表情でもない顔は、なんだかちょっと新鮮だ。

「反発も重要だし、受け入れるのも重要だと思う。変えようっていう意思がなければ変わらないけど、相手があっての自分だし。何か変えようって思うなら、両方が変わらないとダメかなー、とか思うんだよね」

 集合体の『日高』の声に、私と日高は耳を傾ける。

「勿論、命あっての変わる、だから、いざとなったら逃げてもいいと思う。引き籠るのも、否定はしない。散々いろんな世界で、死んだり殺したりした俺が言うと、本当に馬鹿みたいに思えるけど、そんな事をしなきゃいけないくらい追い詰められる前に、みっともなく、周りに沢山迷惑をかけて、足掻けばいい。世の中にはいろんな方法がある。どういう手順で、どんなことをするかなんて人それぞれだけど」

 『彼』は、照れた顔のまま長々と語るけど、声は真っ直ぐで、私の心にしっかりと入ってきた。

「俺、自分でやった事が間違っている気がしてならない」

 集合体の『日高』はそこまで言うと、一度咳払いをして、真面目な顔になる。

「そんな風に思ったって事、心の片隅にでも留めておいてくれる?」

 その問いかけに、私は「分かった」と答えた。

「……他の俺に出来なかった事、やってみる。で、偏屈な爺さんになって、ぽっくり死んだ時に、また何か話そう。色々聞かせてやれると思う。あの世で」

 日高が、挑発するようなニヤニヤ顔で、集合体の『自分』に話しかけた。

「お? なんか、成仏する事確信してる?」

「成仏とかなくても、結局俺なんだから、死んだら行き着く場所は一緒じゃない? あー、または、全部一つになる、とか」

「それ、有りそう。じゃあ、俺はお前が寿命でくたばったら、その辺の話をしてあげるよ」

 ……楽しそうだ。

「あぁ、そうだ。そういえばあんた、自分の事好きになれた?」

「……は?」

 集合体の『私』の言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げ、首を傾げる。

「あんた、というか、私もだけど、女が嫌いだったじゃん」

 集合体の『私』が言った事を聞いて、そういえばそうだった、と思い出した。色々ありすぎて、ついうっかり忘れていたが、私は、自分の肉体にも、友達ごっこの相手にも、女として嫌悪していたのだ。

「……うん、嫌いじゃないかも」

 少し考えると、答えは出た。今までの経験の賜物だろう。

 女だとかなんだとか、全然関係なくって、私は私なのだ。一人の女から産まれた、百瀬橙子という存在の性別が、たまたま女だっただけ。

 自分が嫌ってきた『女』というものは、考え方一つで変わる。

 自分が、自分で嫌うような人間でなければいいのだ。

 皆が皆、私が嫌うような女と言う訳ではない。これだから女は嫌い、なんていうのは、自分を守るためのバリアに過ぎない。

 ようは、だから友人なんていらないんだ、という、言い訳に使っていたにすぎないという事。本当に、私は愚かだった。

「それなら、よかった」

 私の答えに満足したのか、集合体の『私』は微笑んだ。それを見ていた、二人の日高は、ニヤニヤとしている。こっちは腹が立つが……まぁ、いい。

「問題解決、めでたしめでたし?」

「……うん、まぁね」

「本当にあんたって、腹立たしい言い方ばっかり」

 集合体の『日高』に、私は二人で返す。隣で、日高がまだニヤニヤしていた。足を踏んでやろうかと、つい思ってしまう。

 でも、まぁ、これでいいんだ。

 少し間を開けて、四人で笑いあう。

「それじゃあ、また重なる日まで」

 これは、全員の言葉だった。平行世界が重なるのか、それとも死後の世界か、はたまた予想もつかない状態でなのか。

 何にせよ、私達はいずれまた、きっと重なる。

 幸せな形で。

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