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悠久思想同盟  作者: 二ノ宮明季
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 やがて認識した世界で、私と日高は息を飲んだ。

 真っ昼間の教室。教師はいないが、生徒は大勢。机の上に弁当を置いたまま、動けなくなっている生徒も数人。

「いいじゃん別に。好きにさせてよ」

 『日高』が男子生徒二名を冷たい目で見ながら言う。

 これを前に見た、というのもあるが、それよりももっと、何度も、似たような光景を見てきた。……さっきまでのループした空間で。それ以前の、日高への干渉を行った世界で。何度も、何度も。

 日高も、身に覚えがあったのだろう。理解して、彼は唇を噛み締めた。

 彼の後ろに居た『私』は、泣き出しそうな顔をして、転がった男子生徒二人に視線を向ける。やはり男子生徒は、江藤と川島とかいう、もう何度も顔を見た生徒だった。

「俺はもう、干渉されたくない。飽きた。変えようとしている。何か問題でもある?」

 『日高』は、言いながら転がった男子生徒を、踏む。蹴る。蹴る。

 どんな手を使って彼らを転がしてしまったのかはわからないが、彼らは苦悶の表情を浮かべ、呻いていた。

 そんな風になる原因を作ったのは、紛れもなく彼らで、今、『日高』を心の底から憎んでいるであろうことは、分かるけれど……。

「もう嫌なんだよ! うんざりだ!」

 『日高』は叫んで、男子生徒を踏みつけた。された方は、また呻く。

「君なら分かるよね? 唯一の理解者なんだから」

 彼はそう言いながら、『私』を見た。『私』は、本当に泣き出しそうな顔をして、震えて、手を固く握っている。

「ねぇ、百瀬」

 『日高』は『私』の名前を呼んで、ニヤニヤとした顔をした。その顔も、泣き出しそうだった。

 もうやめなよと、そう言ってやりたい。そんな顔をしながら、相手を傷つけるだけなら、もう学校なんて行かなくていい。

「君、俺の事を止める権利なんかないよね」

 色々と言ってやりたかったけど、教室の『日高』と『私』に干渉することは、私達には出来ない。

「でも、でも、待って、日高!」

「百瀬に止める権利なんてない! 今まで、ずっと俺の話を聞いてきたじゃないか! それで、今まで何の解決もしてこなかった! 俺だって、百瀬の問題を解決なんて出来ない! しようとも思わない!」

 『私』の言葉に『日高』が大声で返しながら、男子生徒二人を更に踏みつけた。

「ただ、ただ理解し合うだけの関係なんだ! 吐き出すだけの相手なんだ! だから、止めるな! 止める権利なんてない! 止める権利なんてない!!」

「私っ……私は……」

「何にも聞きたくない!」

 『私』は言葉に詰まりながら声を上げるも、『日高』の言葉に全てかき消されてしまった。

 『私』はそれ以上言葉を紡ぐ事を諦めてしまったように、ただ俯いて「そうだね」と呟く。

「……よく言うよね」

 『日高』は声のトーンを抑えながら、男子生徒から足を退けて、近くに転がっていた自分の鞄から包丁を取り出した。

「虐めは、やるのも、見ているだけなのも、虐め」

 口元に笑みが浮かんでいる。目は泣きそうなのに。

「虐めは、虐められた側が虐めだと思えば、虐め」

 『日高』は包丁を、近くに転がっていた江藤に突き立てた。躊躇いもなく。思いきり振りかぶって。

「みんなー! 虐められっこの逆襲が始まるよー! 虐めてくれたみんなに、お返ししてあげるから、楽しみにしてて!」

 次に、『日高』は川島に包丁を突き立て、引き抜いて、笑いながら教室中を見渡した。

 生徒は皆悲鳴を上げて、我先にと教室から逃げ出す。椅子も机も、その上の弁当も皆転がって、ぐちゃぐちゃになって、男子も女子も関係なくなって、皆必死に外を目指した。

 そんな中で『私』は、ゆっくりと『日高』に近づいて、包丁を持った手を取って、自分の胸へと切っ先を当てさせた。

「そいつ等の次に……ううん、一番残酷なのは、私……だった、よね」

「百瀬は、最後に残しておいてあげようと思ったのに」

 『日高』は、口元だけ笑って答える。

「どうせ、皆殺して、最後はあんたも死のうとか思ってるんでしょ?」

「よく分かるねー」

「そりゃあ、私はあんたの理解者だもの」

 『私』は震えながら、必死に笑顔を作っていた。

「別の世界では、幸せになれればいいね」

「そうだね」

 『日高』は答えて、『私』の胸に包丁を突き立てた。『私』は、痛みに悲鳴を上げる。血が溢れた。

 『日高』は涙を流して、『私』の胸から包丁を引き抜いて、逃げ出した生徒を追った。背中から何人も刺して、呼ばれたのか、騒ぎに気付いてか、教師も現れたが、包丁を振り回して近付けさせずに、時には刺して、走る。

 私達も必死に『日高』を追ってずっと見ていたが、怖い。こうまでさせてしまったのは、環境だけど、それでも、怖い。

 何人、そんな風にしただろうか。途中で彼は立ち止まって、「はぁ、はぁ」と息を切らして――包丁を自分の腹に突き刺した。

「ごめ、ももせ……また、ちがう、形で……」

 一度引き抜き、また自分の腹に。何度も何度も、力が続く限り刺し直して、やがて『日高』は……動かなくなった。

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