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悠久思想同盟  作者: 二ノ宮明季
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 次に気が付いた時の場所は、また教室だった。コンテニューしたせいだろう。

 私は自分の両手を確認する。普通の、人間の手だ。

 続いて周りも確認する。教室の真ん中の自分の席。皆制服だ。教壇は空っぽで、黒板には始業式だとか心構えだとかいう言葉が躍っている。私のすぐ傍には、何かを言いたげに立っている岸。

 出入り口から、日高が男子生徒二人と一緒に出て行ったのが見えた。

「あ、あの、あのっ!」

「ごめん」

 私に話しかけてきた彼女に、直ぐに謝ると、机に掛けていた鞄を取る。

「ちょっと用事があるの。またね」

「あ……う、うん……」

 心なしか、悲しそうな声をしていた。分かっていたけれど、彼女を教室に置き去りにして、日高を追った。

 人の多い廊下の中で、日高と、二人の男子生徒を見つけた。私はある程度の距離を置きながら後ろを歩く。

 ……とてもではないが、良好な友人関係を築いているようには見えなかった。

 二人の男子生徒は、日高を小突きながら笑う。この二人、服装もあまりよろしくない。同じくあまり褒められた服装ではない私が言うのもなんだが、シャツをでろりと出し、ズボンをブカブカに見せて穿いているのは、真ん中にいる、きっちりと校則を守った着こなしの日高と違いすぎた。

 そして、大きな声で話す内容も、大部分が日高を馬鹿にするようなものである。

 私には、虐めに見えた。そんな状況なのに、真ん中でニヤニヤ笑ったままの日高が、かえって怖い。

 どこかで止めさせたかったが、ここで構うと干渉するなと言われるのだろうか。

 ……それに、私はさっきみたいに日高が死なないようにしたいだけだ。日高が死んだから、いつ人形になるかも分からない。

 でも、今出て行って、事故をどうにかできるのだろうか?

 悶々と考えながらも、彼らの後を歩く。

 さっき踏み外した階段を、慎重に下りた。滅多な事では、さっきみたいなことにはならないんだろうけど。

 昇降口でローファーを出して、履く。日高達は、既に昇降口のガラス戸を潜っていた。私は慌てて追う。

 昇降口を出た瞬間、眩しさと桜吹雪に一瞬目が眩んだ。そうだ、最初に死んだときも、こんな天気だった。

 ……感傷に浸っている場合ではない。私は、目の前を歩く三人を追う。なんだかストーカーにも思えてくるような行動だが、仕方がない。

 校門を出ると、直ぐ近くには交差点がある。私はそこで、信じられない光景を目にした。

「飛ーび込め!」

「飛ーび込め!」

 男子生徒二人は、日高に向かってコールしていた。楽しそうに、笑みを浮かべて。

 信号は赤で、ここは交差点で、この場合の飛び込めって言葉の意味なんて、一つしかない。

「や、止め――」

「いいよ」

 私の声は、遮られた。それも、日高に。

 ニヤニヤしたまま彼は、両側の男子生徒の手を取って進みだした。

「止めて! 止めて止めて止めて止めて止めて!!」

 叫びすぎて喉が痛い。私は日高達を追いかけて、夢中で走って――彼らと同じく、車道に飛び出していた。

 気が付いた時にはもう遅い。

 二人の男子生徒は、悲鳴を上げている。私も叫んでいる。日高はニヤニヤしたままだ。

 目の前には、目の前には……大きな音を立てる、バス。

 耳がおかしくなるくらい大きなブレーキの音と、鼻が曲がるんじゃないかっていうくらい強い匂いを振り撒く排気ガス。

 ――ドン

 強い衝撃と、周りの悲鳴。あぁ、また、私……死んじゃった。



 気が付くとまた、黒い空間。

 腕が人形になってしまった私の隣には、目以外は殆ど人形になった日高がいる。さっきも死んだはずだから、服の下に、まだ人形になっていない場所があったのだろう。

 『GAME OVER』と白い字が躍る空間では、既に『コンテニュー シマスカ?』という文字が表示されており、カウントが始まっていた。

「コンテニューするよ」

「日高!」

 日高は直ぐに答えて、消えた。私は、納得がいかない。なんなんだあいつ! 凄く腹が立つ。私、なんで振り回されなきゃいけないの!?

「私もコンテニューする!」

 気が付くと、思考より先に音となって言葉が外に出ていた。

 理解しているのに。これは、良い方法ではないって。

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