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ココが主人とともにカムリにやってきたのは白の月に入って最初の満月の夜のことだった。
日はとうに暮れていたが、役場に無理を言って滞在届けを出させてもらった。それもこれも、また例のごとく主人が駄々をこねたせいである。曰く、「カムリの花祭りが見たい」と。
カムリというのは、ココと主人が数か月前から滞在しているとある国の北部に位置する湖水地方の街の名称だ。
これといった特産はないが、芸術家を手厚く保護していることで有名だった。カムリの花祭りとは、下世話な話をしてしまえばスポンサーつきの盛大な芸術祭である。有名無名を問わず、花をモチーフにした作品があれば誰でも参加できる。ある者は絵を描き、ある者は楽器を奏で、そしてまたある者は戯曲を演じて各々の腕を競い合うのだ。
そのため祭りの開催を告げるヤヌ湖が凍る頃になると、カムリの街は至高の作品を求める多くの観光者たちで賑わいを見せる。ココも密かに巷で噂の『妻を忘れた男』という喜劇を見るのを楽しみにしていた―――だというのに。
悪名高き魔法使いは、醜さとは無縁に思えるこの街でもその名が特別であることを証明してしまった。
全く、人間とは欲深いものである。