完敗
家に帰り着き、愛は一人考えていた。
少し浮かない顔をした愛に、夫は
『楽しくなかったの?』
と、心配した。
『久しぶりの友人に会えてすごく楽しかったよ。』
愛はこう答えて、冷えた体を温める為に風呂に入る。
そこで、今日あった事、話をした事、智哉の顔、表情、色々思い出したいた。
なんて事だろう。
少し胸が高鳴っている。
【この高鳴りは、これから勝負に入る為の高鳴り。智哉は自分に恋をさせるように・・・】
一生懸命こう考えた。
しかし、愛の頭の中には最後の
【今日知ったのが、本当の俺】
そう言った智哉の顔が頭から離れない。
あの瞬間、愛の中で何かが弾けた。
『あ〜〜!もうッ!』
そう小さく叫び、頭まで浴槽に沈む。
【・・・これからどうしよう・・・】
愛は悩んでいた。
なんだか手を出してはいけないような予感がする・・・。
彼は危険だ。
直感でわかる。
しかし、長い間主婦として真面目にしてきた愛は、男に免疫も切れ、勘が鈍り、そう感じさせているだけなのかもしれない。
でも愛は本能で思った。
【彼が欲しい。一度でいいから自分のモノにしたい】
久々に沸き起こるこの感情。
そう、自分のモノになり、てきとうに楽しんで別れればいい。
なんせ、あんなに手ごわい相手、しかもあたしは既婚者というリスクやハンデもある。
楽しいじゃないか。
そう、今までと同じように・・・。
決意は固まった。
勢い良く浴槽から立ち上がり、立ちくらみがしてよろけた。
【おい・・・大丈夫か・・・?あたし】
明日とにかく行動開始だ。
その夜、早々と布団に入ったがなかなか寝付けず、悶々と明日のことを考えていた。
【今の現状では・・・10対0で、あたしの完敗・・・だな】