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想像と現実

夜の七時。


二月の夜はとても寒い。


愛は夫には前もってこの日は出かけると伝えてあった。


普段真面目な愛を、夫は


『ゆっくりしておいで』


と言い、快く送り出してくれた。


今日一緒に行く約束をしたのは、愛にとっての最強の悪友である


あや


綾とは駅で待ち合わせをしていたので、愛は車で綾を拾った後、智哉の店へと向かった。


店は、バーではあるが、子供にもしものことがあれば、すぐに家に帰らなくてはならない。


愛は仕方なく今日は飲むのを諦めて、車で向かった。


とうとうこの日がきた。


友達の綾には、ある程度のことは話をした。


綾も、久々の夜遊びと、愛の事情を知って、おもしろ半分楽しんでいた。


車にはカーナビが付いている為、簡単に店はみつけられた。


しかし、少し離れた場所に車を駐車した。


これも愛の戦略。


【いきなり行ってはきっと私に気付かない】


10年ぶりの再会であるが為、愛はそう考え、車から降り店に電話をするつもりだ。


あれから智哉とは全くメッセージ交換も電話もしていない。


愛は、綾に目で合図を送り、携帯から店に電話をかけた。


程なくして、電話先に、智哉ではない声が聞こえる。


『すいませんが、星野さんお願いします』


愛は塀ゼンを装うが、少し声が震えた。


寒さからか、それとも緊張感からか・・・


『はい、星野です、お電話かわりました』


すぐに彼が電話口に出た。


『あたしだけど・・・わかる?』


しばらくの沈黙のあと、智哉は、電話の相手が愛であることに気付いた。


『あ!愛?どうした?』


間をおかずに愛は話し続ける。


『今ね、店の近くに用事あって、ついでだからちょっと寄ろうかと思ったんだけども、場所わかんなくって。』


綾が隣で声を殺して笑う。


『あ、・・・えっ!?』


智哉は驚いている。


『ごめんねぇ、急で〜。』


愛はまた続けて話をする。


『今ね、角にある○○って言う喫茶店のとこなんだけども、お店mこの近くだよね?』


智哉はやっと状況がつかめたのか、話をしだす。


『ホンマ、急やなぁ!オッケー、その角を曲がって・・・』


道を説明するが、愛には見せの位置がわかっている。


『わかった、ありがとう、今から行くね』


そう言い、愛は電話を切った。


たまたま来たわけが無い。


今日の為に美容院に行き、新しいワンピースを新調した。


気合を入れてメイクをした。


準備万端で挑む。


『さ、綾、行くよ!』


愛はもう一度気合を入れなおした。



その頃。智哉は電話を切ったあと、少し呆然としていた。


【なんや、あいつ・・・普通前もって連絡してくるやろ・・・】


今日は店は平日、時間帯的にも暇である。


こんな日は、忙しいを理由に逃げられない。


【急に現れたと思ったら、急に店に来て・・・ほとんどしゃべった事もないのに変な女・・】


とにかく、今から来る事は間違いない。


変な女だったら、どうやって逃げるか??


友人を店に呼ぼうか・・・?


そんなことを色々考えたが、とにかく考えるより会って、愛をみて、それから考えようと思い、智哉は店の入り口まで愛を迎えに出た。



程なくして、店にたどり着き、愛は店の扉を開けようと手を伸ばした。


その瞬間、いきなり内側からドアが開く。


『いらっしゃいませ』


愛は不覚にも固まってしまった。


【彼だ・・・少し大人っぽくなってるが、間違いなく彼だ・・・】


愛は確信した。


少し冷たそうな目。


整った顔立ち。


綺麗で少し癖がかる黒髪。


10年前よりもなんだか雰囲気が出てるが、面影はきっちりある。


そして、電話先から聞こえたあの声。


愛の横で綾もまた固まっていた。


冷たさが感じられる、今にも吸い込まれそうな彼の目から、愛も綾も反らすことができなかった。


『こちらへどうぞ、カウンター席でよろしいですか?』


はっと我に返る愛。


『あ、はい・・あ、う・・うん』


明らかに動揺している。


次の瞬間。


『・・・プッ・・・あははは!何固まってんねん!』


彼の口元が緩み、無邪気なあどけない顔で大きく笑う。


『え・・?あ、あはは・・・』


つられて愛も、綾の方を見て笑う。


そうだった・・・


彼とこんなに間近で目が会うのは今日が初めてだった・・・。


10年前は偶然一瞬、目が合うことはあったが、こんなに近くでまともに目が合う事なんてなかった。


愛は少しドキドキしていたが、必死にそれを押し殺した。


『久しぶりだね、智哉』


『おぉ、久しぶり。どうぞ』


そう言うと智哉はカウンターの一番奥の席に二人を通した。


智哉が一度店の入り口の方に向かって行くと、すぐさま綾が愛の耳元で興奮気味に話す。


『ちょっと!あんなにカッコいいなんて聞いてないんやけど!』


確かに愛も少し驚いていた。


男としての格があがった智哉。


驚く程にイイ男になっていた。


しばらくして智哉は、カウンター越しに二人の前に立つ。


『何飲む?』


智哉は二人を見て聞く。


『あたし、ミモザ』


綾はすかさずそう言った。


『ミモザね。愛は?』


智哉は愛の方を見て聞く。


『あたし、今日は車で来たから・・・飲みに寄るつもりもなかったから・・・』


愛は自分の組んだシナリオの台詞を精一杯答える。


『あ、そっか。たまたま通ったんやったな。

 じゃぁ、何かバージンカクテル作ってくるわ』


そう言い、智哉は一度、店の奥に入っていった。



『ねぇ、愛?大丈夫?』


綾は少し笑いながら愛に聞く。


『何が?』


愛は何事も無かったかのように答えた。


『智哉くんに惚れちゃったんじゃないの?』


綾は、店に来る前と、店に入ってからの愛の違いを見抜いていた。


『んなわけ無いヤン〜〜!』


愛は笑いながら答えた。


綾は店の奥の方をボーっと眺めながら言う。


『でも、めっちゃ男前やん』


『う〜ん・・・確かにね・・・。』


愛も男前は嫌いじゃない。


過去の智哉に対しても、イイ男だなと思った記憶があるが、その前に印象が悪すぎて、あまりちゃんと見てはいなかった様な気がする。


しかし、愛もそう簡単に人に惚れる女ではない。


確かに今までに無いタイプで面食らったが、今はもう智哉を観察する事を始めていた。


あの時の自分とは違う。


愛にはやはり、自信があった。


『うん、面白そうだね。』


愛はちょっと笑って綾に言った。


『やるかぁ?愛!』


綾もそう言い、笑った。



その頃、店の裏で智哉はお酒を作る。


普通ならカウンターに出て、客の目の前でカクテルを作るのだが、今日は少し考えたかった。


【愛、結構可愛いな。あんなに可愛かったっけ?10年前は常に自分の女が側にいたから大して気に留めなかったけど・・・】


カクテルをクルクル混ぜながら考える。


【それにしても一緒に来てるあの友達もいい女だなぁ・・・】


智也も同じくじっくり女二人の表情や態度を観察するタイプだ。


【愛は本当にただ俺をたまたま見つけてメッセージを送り、今日店に来ただけなのか?】


今の段階では、愛に何か裏があってきたようには見えなかった。


【まぁ・・・もう少し話をして様子を伺うか。

 とにかく、ブスじゃなくてよかった・・・】


そんな事を考えながら、智哉は出来上がったカクテルを持ち、彼女達のところに向かった。


『お待たせ』


そう言い、智哉は二人にカクテルを差し出した。


『それにしてもよく俺のこと、覚えてたな』


智哉がまず、愛に話しかける。


『だから言ったやん、すっごい無愛想で印象悪かったからって!』


そう言い愛が笑うと、智哉も笑った。


『アハハ、確かにあの時は束縛の厳しい彼女はいつも側にいたからなぁ。』


愛は聞きたかった。


一度だけ自分に笑いかけた事を覚えているのか?


それはどういう意味だったのか・・・。


しかし、喉まででかかったその質問を飲み込む。


『あのすっごい可愛い彼女は?』


愛は違う質問をする。


『あ〜、あの後7年も付き合って、別れたよ。

 俺、渡米したからさ。

 しばらく遠距離してたけど、遠距離すぎてダメになった』


そう言い智哉は笑う。


『確かに、遠距離すぎるよな。

 でもめっちゃ可愛かったよな〜・・・

 智哉よりもあの彼女が凄い印象的やったもん』


愛はこんな小さなウソを付いた。


『確かに、今までの女の中では一番可愛かったなぁ・・・

 あ、あいつの事なら印象残りそうやな。

 めっちゃ可愛い彼女のいる男って事で俺のことを覚えてたのか〜』


そういい智哉は少し安堵の表情を見せた。


【うん、違うけどね】


愛は心の中で答えた。


なぜか今まで愛の心の中に居座り続けた彼、恋愛感情とは違うのに、その謎を解きたかったのに、彼を見てると、余計に疑問が深まる。


なんでコイツの目はこんなに人を吸い込むんだろう・・・。


『んで、こっちの彼女は?』


智哉が綾の方を見てニコリとする。


綾は少し照れながら


『愛の高校の時の友達です』


と、答える。


『そうなんや、じゃぁ、結構二人の友達暦、長いね。』


智哉がグラスを磨きながら答える。


『悪友だよね』


愛が綾に話しかける。


『だよね〜』


綾が笑いながら答えた。



それから智哉と愛たちは、当たり障りの無い世間話、今の自分の状況、あってなかった10年間の話や、思い出話をして、楽しい時間を過ごし、数時間が経った。


愛も、最初の思惑を忘れてしまうくらい、楽しい時間だった。


そろそろ夜も遅くなり、帰らなくてはならない時間になる。


『じゃぁ、そろそろ帰るね。』


愛が智哉に言う。


『あ、かえる?』


智哉はそう言うと、伝票を持ち、レジの方へ向かう。


会計を済ませ、綾と愛は店の外にでる。


外はますます冷えていた。


『今日はありがとうね。』


『今日はありがとうございました』


綾と愛が送りに出てくれた智哉に言う。


智哉はタバコに火をつけ、タバコを加え、ポケットに入れていた片手を出し、軽く手をあげた。


そして、その手でタバコを持ち、


『今度さ、当時のツレも呼ぶからさ、みんなで飲もうや、綾ちゃんも一緒においでよ』


そう言い笑った。


綾は笑顔で頷く。


愛はなぜかその場から離れられなかった。


タバコを加えながら


『うっわ〜・・・寒ぅぅ〜・・・』


と、肩を縮める智哉をじっと見つめた。


その視線に気付いた智哉が、両手をポケットに入れ、タバコを加えたまま


【ん?どうした?】


と言う表情をした。


『智哉、なんか変わったね』


愛はそう言い、笑う。


『じぇっん、じぇん!』


タバコを加えたまま智哉が答え、ポケットから手を出しタバコを持つと、続けて話す。


『俺、昔から変わってへんよ。

 今日、沢山しゃべって、本当の俺を、今日、愛は初めて知ったんや』


そう言うと、智哉はまた無邪気な笑顔で笑う。


『そっか。

 なら今日来てよかった。


 ありがと。』


愛は満面の笑顔で言った。


『お。又おいで』


そういい、智哉はタバコを持つ手を振った。


愛と綾も大きく手を振った。


智哉は二人が角を曲がるのを見届けてから、店に戻った。



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