最後の決断
愛は家で夕飯の支度をしていた。
一週間前、智哉と店で過ごし、最後に言われた言葉が24時間、頭に巡り愛をドキドキさせる。
『俺と一緒に来い』
愛は包丁を握り締めたまましゃがみこむ。
【智哉と一緒に行きたいよ・・・・】
あの後、何も言えずに固まっている愛に智哉はこう言った。
『オヤジの仕事、一緒にしないかって言われて、4月の頭から、サンフランシスコに行くこと になった。
日本には次、いつ帰れるか今はまだわからへん・・・
今、3月の末だから、あと一ヶ月くらい・・・
三月の最終週の月曜日、昼の1時に大阪城のあの、広場に来い。
・・・わかるよな?
最低限の荷物だけでいい。
一ヶ月あるから・・・・
・・・わかるやんな・・・?』
愛は智哉とサヨナラする事など、今は考えられなかった。
考えただけでとめどなく涙が出てくる。
【せっかくわかりあえたのに・・・
いきなりバイバイなんか絶対に嫌・・・】
愛の頭の中には、智哉と離れると言う選択は全くなかった。
愛は次の日、役所へ足を運んだ。
『悪いけど・・・沙織、別れてくれ』
智哉は店を閉めた後、沙織と二人で店のカウンターで話を切り出した。
『智哉、何言うてんの?』
少し震えた声で、笑いながら答える沙織。
『俺、アメリカにまた行く事になった。』
智哉は沙織の方を見ずに言った。
『・・・あたしも行く』
沙織は俯いて言う。
『ゴメン。それはできへん・・・』
智哉は静かに答えた。
『いやや、何でよ?!』
沙織は耐え切れず、涙を流し、智哉に聞く。
『連れて行きたい・・・女がおるねん』
智哉は相変わらず沙織の方を見ずに言う。
『・・・あの、人妻やろ・・・?』
沙織は智哉を睨むような目をして聞く。
智哉は黙り込む。
『智哉、何してんの!?
人の家庭壊して、アホちゃう!?
あかん、絶対にあかん!』
沙織は感情をぶつけるように、怒り、涙して智哉の肩を激しく揺さぶり言う。
『・・・ゴメンな、沙織』
智哉はそれだけを言った。
『店は?店はどうすんの!?』
沙織はなんとか繋ぎとめようとするが、心の中ではもう、わかっていた。
だいぶ前からもう、智哉の気持ちは自分にない事を。
『・・・閉めるしかないよな。
今は家族みんなアメリカやし・・・』
智哉が答えた瞬間、沙織はとうとうテーブルに平伏せて声を上げ号泣した。
『・・・ホンマごめん』
智哉は頭を下げ。店を出た。
外にでた智哉は煙草に火をつけて携帯を取り出した。
愛には一ヵ月後の約束の日まで連絡しない約束だ。
『もしもし・・・?オヤジ?
今そっちは昼・・・?
うん、うん、俺、行くわ。
うん、・・・でさ』
智哉はアメリカ行きを決めたことを父親に伝えた。
そして喜ぶ父親にもう一つ伝えた。
『一緒に連れて行こうと思ってる女がいるんやけど・・・頼むわ。』
二人は、これからの二人の進む道を
それぞれ着実に進めていた。
そして
とうとう約束の日がやってきた。
二人の再出発の日。




