二人の決意
愛は携帯を手に取りm電話帳を検索する。
【星野 智哉】
久しぶりに見る画面、名前。
愛は少し手が震えた。
【この電話を最後にアドレスも番号も消去しよう・・・】
愛は通話ボタンを押した。
プッ プッ プッ プッ・・・・
トゥルルルル
トゥルルルル
トゥルル・・・
カチャ
『・・・はい』
あの声だ。
低くいつも不機嫌そうに聞こえる、あの声だ。
たった三ヶ月ぶりに聞く声なのに、やけに懐かしく感じる。
それだけこの三ヶ月が長く感じたと言う証拠。
それだけ聞きたかった声だt言う事・・・
『もしもし・・・愛です』
愛は少し声がかすれてしまった。
喉がギュっとしめつけられているような感覚になる。
『うん』
智哉が話を止めてしまったので、愛は何を言っていいかわからなくなり黙る。
すると、智哉から話をしだした。
『俺も今、電話しようとしてた』
愛は次の言葉が出てこない。
山本から聞いたって言う?
いや、それもあるけど、なんだか違う・・・
『ホンマはずっと、智哉からの電話を待っていたのかもしれん・・・』
愛は自分でも驚くような素直な言葉がでた。
『ありがとう、俺もずっと考えててたくさん愛に話さなあかんこと、見つかった』
智哉はここで、ちょっと間を置いて続けて話す。
『明日、何とかして一人で店に来てくれへんか・・・?
何時でもいいから・・・』
明日は日曜日、店は定休日のはずだった。
『・・・店、休みやろ・・?彼女は?』
愛は聞いた。
毎週日曜日だけは彼女と一日過ごす為、今まではメールも電話もしない約束の日だった。
『うん、だから、開けとくから。
俺、一人で待ってるから、女は大丈夫やから。
何とかするから・・・』
キンッ
電話の先から高い金属音がした。
智哉が煙草に火をつけたジッポの音だろう。
この音ですら、懐かしく感じた。
『わかった、明日、夜8時ごろいく・・・』
愛はもう既に、理由やきっかけは何であれ、会いたくて顔が見たくて仕方なくなっていた。
『待ってるから』
智哉は言った。
翌日日曜日。
愛は3ヶ月ぶりに智哉の店に向かい車を走らせていた。
外は少し雪がちらつく程寒かった。
去年の冬はあまり雪がふらなかったのに、今年は大阪にも何度も雪が積もる日があった。
東京の方では何年かぶりの大雪がニュースになったりしている。
今年は寒い。
二月末の今日も震える寒さだ。
『帰り、大雪になってなきゃいいけど・・・』
愛はいつものコインパーキングに車を停めた。
ここは智哉に初めて抱かれた場所。
たった一年前の事なのにもうだいぶ昔のように感じる。
そして、コインパーキングから店に向かう道。
沢山の道の脇の木々。
智哉と歩いた道。
智哉とコーヒーを買った自販機。
三ヶ月ぶりに通る道なのに、やけに懐かしい。
その道を少し早足で歩き、そして愛は店の前に立つ。
いつもは店のネオンがきらきらしているが、今日は全て消えている。
愛は息をのんだ。
そして、ゆっくり店のドアを開ける。
いつも入ると、薄暗い雰囲気のある店内で
『いらっしゃいませ』
と聞こえてくる声も、クールな表情で立つ彼の姿も今日はなかった。
愛は静かな店内をゆっくりカウンターの方に向かい歩く。
BGMもない、静かな店内に、愛の足音だけがコツコツと響く。
カウンターに入ると、真ん中らへんの席に座る影が見えた。
立ち止まる愛に、その影がこちらを向いて
『いらっしゃいませ。
・・・今日は私服だけど・・・』
と、少し笑った。
その顔は、3ヶ月毎日忘れることなく
会いたくて会いたくて、見たくて見たくて、仕方なかった
智哉の優しい笑顔だった。
『アハハ!あったあった〜!
その後、智哉、アイツにマジギレして、喧嘩になったんやんな〜!』
『そう、あれはホンマに腹たったわぁ。
でな、その後警察になぁ・・・』
『あ、あったあった!
あたしあの時笑い堪えるの必死やった〜!』
『で、その後花火してさぁ・・・』
『そうそう!!・・・・・』
『アハハ!めっちゃ懐かしい!』
智哉と愛は二人きりの店内で、お酒を飲みながら昔話に花を咲かせていた。
最初は無言だった二人が並んで席に着き、智哉の
『・・・昔馬鹿やってた時のこと、どんな事覚えてる?』
と言う言葉から、昔話が始まった。
二人で話しながら
二人で思い出していくと
二人とも忘れていた色々な事が
どんどん次々に記憶から蘇る。
懐かしい話に盛り上がる二人は、3ヶ月前にわかれ、今日少し気まずい空気の中で会ったことをすっかり忘れてしまうくらい、話が弾んでいた。
そして、その思い出はナシの中には10年前、二人が全く接点を持っていなかったのにも関わらず、常に同じ時を同じ場所で過ごしていたことを改めて実感させられる。
話の中に
『あの時智哉が・・・』
『あの時愛は・・・』
と、お互いよく見ていて知っていたかのように、10年前のお互いのことをよく話す。
当時は全く話などしなかったのに・・・
当時二人はお互いを意識していたと、自分の言葉で再確認する。
『あ〜笑い死にする〜・・・』
愛がおなかを抱えて笑う。
『俺も・・・俺たちどんだけアホやったんよなぁ!』
智哉も煙草を加えたまま、火をつけることも忘れて笑う。
『はぁ・・・楽しい』
愛はお酒を一口のみ、続けて話する。
『じゃぁ、智哉、これ、覚えてる?
ずっと、あたし、覚えてたんやけど』
愛は言う言葉をまだ少し笑いが止まらない智哉が、やっと煙草に火をつけ
『なに なに?』
と、聞く。
『初めて会った時、智哉めっちゃ感じ悪くてさ、目も合わしてくれなくて、睨むような目で
あたしを見て。
で、移動するって話になって、あたしがヒデの単車の後ろでふと智哉見た時、
智哉、あたしに笑いかけたこと・・・覚えてる?』
カシャン
智哉がジッポを閉じた音が店内に響いた。
しばらくの沈黙。
『・・・俺・・・笑った・・・?』
智哉が愛の顔を見て聞く。
『うっわ〜・・・肝心なとこ覚えてへんで、この男〜。
ずっとその意味聞きたくていつ聞こうかと思ってたのに〜・・・』
愛は智哉を冷たい目で少し笑いながら見た。
もう、ノリは一年前智哉を好きを気付く前のノリだ。
智哉は真面目な顔で考える。
『覚えてへん、ごめん・・・』
智哉がやけに真面目に答えたので、愛は茶化すように言う。
『ど〜せ、そんな男よなぁ。智哉は!』
すると智哉はまた、真面目な顔で言う。
『・・・覚えてる限りその時の心境の俺やと、愛と目が合って、
照れたか、ニヤけた・・・やな。
意味はないと思う。』
『は!?』
愛は素っ頓狂な声を出す。
しかし智哉は煙草を加えながらじっと考えている。
『意味わからんし!』
愛は少し笑いながらも焦り気味に答えながらお酒を飲む。
すると、智哉はまだ煙草を加えたままじっと斜め下を見て言う。
『・・・ホンマに意味解らん・・・?』
そう言った後、智哉は愛を見た。
『わ・・わからんわからん!そんなんわからんわ!』
まっすぐ自分を見る智哉の目を見れないで、愛は引きつり笑いをしながら俯く。
『俺が推測するに・・・俺も愛と一緒やと・・・思う』
智哉がまっすぐ愛を見て言う。
愛は黙る。
『ホンマにわからんか?』
智哉はしつこく聞く。
愛は黙って首を縦に二度振る。
もちろん、愛はわかっている。
でも、そんなわけがない、万一そうだとしたら、智哉の口からはっきり聞きたい。
『今日、愛が店に入ってきて、カウンターのとこに立つ愛を見て、俺、わかった。
っていうか、気付いた。
・・・いままで気付かんふりしてたんやけど・・・』
智哉の口が一度止まる。
そして少しの間を置いて決意したかの様に言う。
『俺、認めた。』
愛はめをつぶる。
『愛、ちゃんと言うからこっち見てや』
智哉が言う。
愛はゆっくり智哉の方を見る。
『今まで、ごめんな。
よーさん傷つけたと思う、俺も捻くれてて素直やないし。
しかも、再会したら人妻なってるし。
気付かんふりしとったけど、愛も素直に言うてくれたし、言うわ。』
智哉が煙草を灰皿に押し消し、愛をじっと見た。
『10年前から俺は、愛の存在がずっと気になってた。』
智哉は続けて話す。
『でもあの時はツレの日での女やし、ツレの女にはなんぼなんでもよー手出さんし・・・
再会したらしたで人妻やろ?
自分の気持ちごまかすには最高のシュチュエーションやん。
・・・ゴメンな、気付かんかったとは言え、自分ごまかして
遊びの女として側に置いとこうなんて卑怯な事して・・・』
言葉を出せず、首を激しく横に振る愛の目には少し涙が溜まっていた。
『・・・それを気付いて認めたんは。昨日今日の話やねんけど・・・
ホンマは無意識に俺の側に置いときたかったんやわ・・・』
智哉はやっとお酒に目をやる。
『三ヶ月かかった・・・でも、間違ってたら情けないけど
俺が思うにやけどな・・・?
愛も一緒やない・・・?
忘れられんくて、俺を探してたんちゃう・・・?』
智哉は恥しそうに目を反らして言う。
そしてここまできて愛はやっと口を開く。
『笑かすわ・・・』
愛は言った言葉に智哉はこっちを見ないで少し俯く。
続けて愛が少し声を震わせて言う。
『智哉をあたし、全く一緒やん・・・めっちゃ遠回りしてたやん・・・
ホンマうちら、めっちゃアホやで・・・
ホンマ笑かす・・・』
愛の目から大粒の涙がポタポタと落ちた。
愛が言い終えると智哉は愛の方を見る。
俯き涙を落とす愛を見て
『ほんまやん、俺ら、どこまでアホやねんなぁ?
似たもの同士やん。』
と、呆れた顔で笑い、愛の肩を抱く。
『いきなりやけど、今めっちゃチューしたいんやけど、チューしていい?』
智哉が愛に聞く。
愛は少し笑い頷く。
そして、智哉は愛にキスをした。
少し震えてた。
顔が離れた後、智哉は無邪気な笑顔で言った。
『ホンマに好きな女としか俺はこんな本気のチューせーへん!』
愛は笑った。
そして智哉に抱きついた。
智哉も強く強く、愛を抱きしめ返した。
今までの遠回りした時間を埋めるように・・・
『・・・ふふっ・・・あはは・・・っ』
突然愛が笑い出す。
抱き合ったまま、顔を水に智哉は愛に
『何やねん、急に、こんなムードいい時に冷めるわ〜』
と、少し笑いながら言う。
『ふふ・・・だって智哉・・・
めっちゃ起ってるんわかる・・・うはははっ』
愛が含み笑いをして言う。
『やかましいわ!
しゃーない、男の生理や!』
智哉は相変わらず愛を抱きしめたまま言う。
『何興奮してんのよ・・・っふふふ・・・』
愛は抱きしめたまま智哉の背中をパシパシっと二回叩く。
『大好きな女とこんだけ密着すりゃそら興奮もするわ』
智哉が笑う。
『・・・する?』
愛が笑いながら聞く。
『・・・いいの?』
智哉が笑いながら答える。
『智哉、我慢できそうに無いし』
愛が智哉を抱きしめた腕にぎゅっと力を入れなおす。
『うん、できへん』
智哉は笑いながら答え、愛と同じ様にぎゅっともう一度力を込め抱きしめ返す。
『ここ・・・店やで?いいの?』
愛が笑う。
『関係あらへん、ここまできたら止まらんやろ?』
揺れる肩から智哉が笑ってるのがわかり、愛が笑う。
すると智哉は続けて言う。
『両想いの、愛のあるエッチ・・・しよか』
智哉の言葉に愛が頷くと、抱きしめていた腕を緩め、二人は顔を見合わせ少し照れて笑った。
それから少しの間をおいて、二人は長く熱いキスをした。
ゆっくり 丁寧に 二人は愛し合う。
何度も何度もキスをして
お互いの顔を何度も見つめながら
二人は長い時間をかけ愛し合う。
今、自分を抱いているのが智哉であることを確認するように
何度も会いは智哉を見つめ、頬を手で触れる。
今、自分が抱いているのは愛である事を確かめるように
何度も智哉は愛を見つめ、髪を撫でる。
愛しさに胸が潰れてしまいそうになりながら、二人は一生懸命相手に愛を伝える。
『・・・俺、やばい、頭ん中おかしくなりそうや・・・』
智哉は愛の髪を撫で、少し荒くなった息で愛に呟く。
『・・・あたしも、説明できない・・・こんな気持ちで抱かれたの・・・初めて・・・』
愛も智哉の頬を両手で触れながら、吐息混じりの声で答える。
『愛・・・どうしようもなく、愛しい・・・』
智哉が目をつむる
『・・・あたしもどうにかなるくらい・・・愛しいよ・・・智哉』
愛も目をつむった
そして、二人はギュッと抱きしめあった