表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/34

二人だけの思い出

『愛・・・覚えてへん?・・・』


智哉が振り向き、揺れる木々を見上げながら小さく聞く。


『・・・覚えてるかもしれへん・・・思い出したかも・・・しれへん・・・』


愛も上を見上げたままこたえる。



『桜・・・やろ?』



智哉が言う。


『うん・・・』


愛が俯き智哉を見た。




愛の頭の中に10年前の事が再びフラッシュバックする。


初めて見た智哉。


冷たい目をした智哉。


その智哉が自分に向けた笑顔。


なんともいえない気持ちになった。


愛はそれを


【ムカつく】


という感情にすぐ置き換えた。




でもそれは・・・・


智哉に一目ぼれした瞬間だったんだ・・・。




その後、智哉の単車の後ろに一度だけ乗った記憶。


少しの時間だったけど、二人きりの時間。


愛は智哉に何も話ができなかった。


それを愛は


【意味がわからない変な奴】


と、思い込んでいた為だった。


しかし、それは、智哉に恋する気持ちが、愛にいつもの


【男を落とす為の策略の言葉】


が、無意識に智哉には出せないだけの状態だったんだ。


緊張に話しかけることのできない愛は、その時の智哉の口にした


【寒くない?】


の言葉すら聞く余裕がなかった。


その時に目に飛び込んできた、満開の桜、舞い散る花びら。


それが愛の緊張を解し、愛の目を釘付けにさせたんだ。




その後、10年と言う月日がたっても、度々何故か思い出す、智哉の事。


結婚しても思いだした、智哉の顔、智哉との思い出。


なんでなのか全くわからず


【落とせなかった男】


と、偶然再会した時にそう思いこんだが、本当はそれは


【両思いになりたい男】


だったんだ。




再会してから初めて顔を見たとき、ドキドキが止まらなかった。


それは恋をしていた人に、再び会えたから。



メールの返事がなくて、腹が立って眠れなかった夜。


それは本当は、不安で眠れなかった夜。



初めて抱かれた夜、強引な智哉の手を振り解けなかった理由。


怖いからじゃなく、自分もそれを望んだから。



落とせないと一度諦めかけた日、面倒になったんだと思っていたが


それは本能で、傷つきたくないと思ったから。


智哉の方から離れて行ってしまう事が怖くて、自分から身を引こうとしたから。




それでも智哉に会うことを理由をつけて続けたのは


智哉と少しでも一緒にいたいと


本能が指令を出したから・・・



自分で何度も何度も


きつく、難しく結んだ糸が


今、全て


解けた。



自分で蹴飛ばして、バラバラにしてしまったパズル


時間をかけてもういちどやり直して


今、最後のピースが


はまった。



全てが今、繋がった。




長い間、気付けなかった、いや、気付かないフリをしてた愛の智哉を好きな気持ち。


愛はやっと、全ての謎が解けた。


恋をしたことがなかったんじゃなくて


ずっとずっと、痛く苦しい、長い長い恋をしていたんだ。


だから誰にも恋できなかた。


ずっと、智哉だけをみていた、



長く、純粋な、一途な恋。





『あはは・・・・』


愛が急に呆れたように笑う。


『自分で自分の恋愛、ムダにしてたんや・・・

 自分の気持ちをごまかして、ぶち当たる事も終わらせる事もしなかったから・・・

 今日の今日まで引っ張ってたんやわ・・・』


愛が【情けない】と言う表情で力無く笑う。


『何は恋愛沢山した、恋愛のプロやねん・・・。

 恥しくなるわ・・・

 10年もの時間、無駄にして・・・

 恋愛のド素人やん・・・。』


愛は智哉を見て笑いかけた。


『智哉、ありがとう、今日で終わらせるわ』


愛が言うが、智哉は固まったまま、動かない。


『・・・ごめんね、なんか、困らせてしまったな。

 あたし、智哉のこと、ホンマに好きやってん。

 話すと長いし、余計にもっと智哉を困らすから、言わないけど!』


智哉はただ、黙って愛を見ている。


愛は、そんな智哉に近づき


軽くキスをした。


『あたしは好きな人としか、チューせーへんで!』


愛はニッと智哉に笑って見せた。


『・・・智哉、ばいばい。』


愛はそう言い、旦那を呼びに店に入っていく。


智哉はただただ立ち尽くしていた。


愛は自ら智哉に告白をし、別れを告げ、自ら恋愛を終わらせた。


愛の初恋と、初の失恋。


【・・・やっと・・・終わった・・・な。】


愛は涙を両手でごしごし拭いた。


店に入ると、旦那は心配そうな顔をして愛を見ていたので


『お母さんに遊びすぎって、めっちゃ怒られた〜!帰ろうか!』


といい、店を出た。


愛が帰るとき、レジにも、先ほどまで立っていた外にも、智哉の姿はなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ