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告白と分岐点

『最近さ、よく行ってる昔の友人の店ってあるやん?・・・智哉君やった?』


突然夕飯の最中に、夫が会いに言った。


『え?うん、そうだけど』


愛はドキっとしたが、平然としたフリで答えた。


『俺も行ってみたいなぁ・・・あかん?』


旦那が優しく言う。


【あかん!】


と、言いたかったが、真っ当な理由がない。


『別にいいけど・・・またなんで?』


愛はドキドキしながら夫に聞く。


『いや、愛、行く時楽しそうやし、愛の昔話聞いてみたいやん。』


夫は楽しそうに笑いながら言う。


『そっか、わかった〜』


まぁ智也には前もって夫が行きたいと言うので、智哉が常に立っているカウンター席ではなく、2階にあるテーブル席に通してもらって、後は忙しそうで彼女がいる土曜日に、店に行って、智哉と接する機会を減らせばいいと、考えていた。


『次の土曜、どう?俺、明日にでも親に孫の守り、頼んどくわ』


夫が嬉しそうに言う。


『うん、わかった。

 二人でデートなんて久しぶりだから楽しみやな!』


愛も笑顔で答えたが、土曜日を夫から提案してくれて、ホッとしていた。




土曜の夜、夫と愛は智哉の店に向かっていた。


智哉には昨日の夜に事情を話し、裏を合わせてもらった。


愛は後ろめたさの中に、智哉の顔が見れる楽しみがあり、早く店に着いてほしかった。


何も知らないまま車を走らせる夫もまた、久しぶりの愛とのデートにワクワクしているのか、鼻歌まで歌う。


『こうして二人で出かけるのは、子供が生まれてから初めてやな!?』


夫はとっても嬉しそうに愛に言った。


『でも、いつものうるさいのがいないから、なんだか静かだね。』


愛が答えた。


『家族としての幸せもいいけど、こうやってお洒落した愛と出かけるとなんだかちょっとドキ ドキしてくるな』


夫が言う。


【ねぇ?

 このお洒落があなたの為じゃないと知ったら、あなたはどう思う?】


愛は今までは、相手を傷つけない為にうそをつくことは、相手の気持ちを考える為ではなく、自分がそれによって、責められるのが面倒だった為である。


しかし、自分が恋をし、傷つく事を恐れる経験をしてる今、夫に対して罪悪感を感じるようになった。




しばらくして、愛と夫は店に着いた。


『ここかぁ、感じのいい店やな!』


夫が店の外観を眺めて言う。


そして、夫が店のドアを開いた。


『いらっしゃいませ』


いつものあの声がする。


いつものクールな表情でそこに立っている。


【この前、あの唇であたしにキスをしたんだ・・・】


愛がぼーっとしていると、智哉が話しだす。


『こんばんは、愛の友達の星野智哉です。

 カウンター席とテーブル席がございますが、テーブル席の方がご夫婦でゆっくりできるかと 思いますが、どうされますか? 』


夫は智哉に笑顔で軽くお辞儀をして答えた。


『カウンターでお願いします』


智哉はちょっと驚いた、愛も驚いた。


しかし智哉は落ち着いて、カウンターの席に案内する。


『テーブルじゃなくていいの?』


愛が夫に聞く。


『うん、カウンターの方見たらお客さんいなさそうだし、雰囲気よさそうだったから。』


夫が笑顔で答えた。



土曜日なのに店は空いていた。


カウンターに座ると、今日はもう智哉の彼女も出勤していた。


『あれ、智哉の彼女』


愛は夫の耳元でこっそり伝えた。


『最近の若い子って感じだね。』


夫が愛の耳元でそう言った。


『可愛いと思う?』


愛が夫に聞くと、夫は迷わず


『うん、可愛いんじゃない?』


と、答えた。


愛は笑顔を作ったが、心の中は複雑だった。


智哉の彼女と言うポジションで、夫にも可愛いと言われ、愛は小さく彼女に嫉妬した。


そこに智哉が来た。


『ご注文はお決まりですか?』


愛が、


『この前飲んだ、智哉スペシャル』


と、答えた。


続いて夫がビールを注文すると、智哉が二人の前から一度立ち去る。


『いい店だね』


そう言うと、夫は愛に笑いかける。


愛は作り笑いをした。



しばらくして、智哉がグラスを持って、再び愛の前に立つ。


テーブルにそれぞれのグラスを置いた時、カウンターの隅にいた沙織がこちらに向かってやってきた。


『いらっしゃいませ』


可愛い声で言いながら笑顔で小さくお辞儀する。


『こんばんは』


笑顔で夫が答えた。


夫という存在に安心したのか、沙織は今日は積極的に話しかけてくる。


『えっと、奥様は時々来られますが、旦那様は初めてですよね?』


夫はビールを飲みながら頷き笑う。


『愛がいつもお世話になってます』


夫が彼女に言う。


智哉は隣で黙ってカクテルグラスを磨いている。


『いえ、あまり私は話した事なくて・・・』


そう沙織が言い、智哉の方を見た。


智哉がそれに気付き、笑顔を作り


『彼女はアルバイトで週に三日だけなんですよ』


と、答えた。


『ところで愛さん?』


いきなり沙織が愛に話しかけた。


愛は少し驚いて沙織を見る。


『その、カクテル、どうですか?』


愛の飲んでる、【智哉スペシャル】。


愛が勝手に名づけただけだが、この前来た時に智哉が勧めてきたので、それ以来こればかり飲んでいる。


『うん、すっごい美味しいよ〜』


愛が笑顔で智哉を見て答えた。


しかし、智哉はこちらを見ずに、ひたすらグラスを磨いている。


『そのカクテル、まだ名前無いんですよ。

 店のオリジナルで・・・いい名前思い浮かびませんか?』


沙織が笑顔で愛に言う。


『そっか〜・・・う〜ん・・・そうだなぁ・・・』


愛は智哉の印象にピッタリの名前は無いかと、一生懸命考える。


その時沙織が嬉しそうに智哉を見て言った。


『店終わった後、遅くまで残って二人で作ったんですよ〜。

 ね?智哉!』


愛はガツンと殴られた様な感じに襲われた。


もしも【心】と言う臓器が体にあったなら、その場所を強くハンマーの様なもので殴られたみたいだった。


智哉がグラスを磨きながらグラスに目をやったまま


『・・・あぁ・・・』


と、答えた。


『あ・・・そうなんや、いいね、ラブラブで!

 じゃぁ二人で名前付けたほうがいいね!』


愛は必死で笑顔で答えた。


『ねぇ?羨ましいねぇ?』


続けて夫にも話しかけた。


必要以上に話す愛。


沙織が少し照れながら


『そうでもないですよ』


と、答えた。


続けて夫が話す。


『じゃぁ、ラブラブで毎晩この彼女を抱いてるんだぁ?

 いいなぁ、うちは子供が生まれてから枯れちゃって・・・

 っていきなり下ネタはキツイなぁ!』


と、少しお酒を飲んで気分が良くなった夫が沙織に言う。


アハハと、沙織が可愛く笑い


『毎晩なんて無いですよ〜。

 週に・・・3回くらい?

 あ、言っちゃった、ごめんね〜智哉〜』


と、沙織は言う。


顔は笑顔だが、確かに愛の方を見ながら・・・


智哉は黙って少し笑顔を作った。


愛も作り笑いをする。



【この女・・・間違いなくあたしを意識して話をしている・・・】


愛は心の中で沸々と湧き上がる何かを感じた。


『ダメですよ〜旦那さん、ちゃんと奥さんを抱いて愛を伝えてあげなきゃぁ?

 浮気されますよ〜?』


と、沙織が笑いながら続ける。


『そうやんなぁ・・・もう少しガ頑張らなあかんなぁ』


夫が笑顔で答える。



その後も、沙織は愛の知らない智哉との二人の出会いや、思い出、愛の知らない昔の智哉の話を、夫に沢山話した。


夫も楽しそうに聞いている。


愛はずっと作り笑いをしながら、ただそれを聞いていた。


明らかに沙織は愛を意識して話をしていた。



聞きたくない



聞きたくない



聞きたくない



聞きたくない



愛の心が悲鳴をあげる



聞きたくない



聞きたくない



聞きたくない



ここにいたくない・・・・・





〜〜〜♪♪♪♪♪♪〜〜〜


その時、愛の携帯が鳴る。


『電話鳴ってるよ?』


夫に言われ、愛はハッとする。


『あ、お母さんだ・・・ちょっと外に出て・・・電話してくる』


愛は【その場から逃げられる】と、すごく助かったと思い、携帯を持って外に出た。


目には涙が溜まっていた。


外に出ても、愛は電話をかけなかった。


今かけると、明らかに涙声になってしまうので、母に心配されてしまう。



【あんな話、聞きたくなかった・・・こなけりゃよかった・・・

 しかも、それを聞きながら笑う事しかあたし・・・出来へん・・・】


季節は秋も深まり、夜は肌寒い。


智哉とであった去年の冬から、もうすぐ一年が経とうとしていた。


【寒い・・・】


今日はなんだか風も強く、突きも見えない。


今にも雨が降りそうな低目の雲。


冬はすぐそこまで来ている。


【恋愛って・・・遺体ものなんだ・・・】





『気分悪くした?』


後ろから声がする。


智哉の低く、優しい声。


愛は返事ができず、振り向く事も出来ない。


すると、智哉は黙って愛の隣に座った。


しばらく沈黙が続く。


愛は今声を出すと、全てを感情のままぶつけてしまうような気がして怖くて何も言えない。


全部言ったら、ここで全部終わってしまう。


智哉が愛の本気さに退いて、あたしの前からいなくなる・・・


もう二度と会えなくなる・・・


『寒くなったな・・・』


智哉がボソっと話す。


『またダウンジャケットの季節が来るなぁ・・・

 単車に乗るのも寒くなる・・・』


また智哉が話をする。


愛も感情を押し殺して頑張って声を出す。


『・・・彼女・・・智哉がどこに行ったか心配して・・・また怒るよ・・・?』


感情を押し殺したつもりが、笑顔で言えない上になんて嫌味っぽい言い方だろう。


『うん、大丈夫・・・』


智哉が答えた。


愛はしばらく黙って、智哉に聞きたい事があったと思い出した。


『一つ・・・聞いていい・・・?』


愛が智哉を見ずに話す。


智哉が愛の顔を見て


『なに・・・?』


と、優しい声で聞く。


『智哉、胸が痛くなったり、苦しかったりする程の、本気の恋愛・・・したことある?』


愛はずっと下を向きながら智哉に聞いた。


智哉は何も言わない。


愛は聞いてはいけない事を聞いてしまったのか・・・と不安になり、智哉の顔を横目で見た。


すると、智哉が考え込むような顔をして、ポツリポツリと話し出す。


『・・・うん、あるよ』


愛は少しびっくりした。


智哉は自分と一緒でそんな恋愛したこと無いと思っていた。


そんな驚く愛の顔を見て、智哉は少し笑い


『そりゃあるよ、一人だけやけどな。』


という。


『どんな人だったの?その人とはどうして別れたの?』


愛は聞いた。


智哉が愛の顔を一度見て笑い、その後前を向き話し出す。


『今の女の前に付き合ってた女。

 特に可愛いってワケじゃなかったけど、今思えば・・・

 めちゃくちゃいい女・・・やったな。色んな意味で』


智哉はどんな感じだったかまでは詳しく言わなかった。


愛はそのまま黙って聞く。


『あの時、俺結婚迫られて、全くそんな気なかったから別れてしまって・・・

 でも後でめっちゃ後悔した・・・』


智哉からそんな話が出ると思わなかったので、愛は少し驚いた。


『今でも後悔・・・してる?』


愛は今でも好きかを聞きたかったが、怖くて聞けなかった。


『うん、やり直せるならやり直したい・・・かな。』


今まで少し笑顔だった智哉が真面目な顔をした。


『・・・って言うか、実は一度、よりを戻そうって言ったんやけどね。』


智也が無邪気な顔で再び笑いながら言う。


愛はここでまた、智哉に嫌味っぽく言ってしまう。


『どーせ、その彼女と付き合ってた時も浮気してたんやろ〜?

 しかも結婚する気もないくせに〜』


笑って言ったが、すごくいやらしい言い方になってしまう。


『うん、浮気しとった。

 でも、俺、より戻したいって言った時に、フラれたんよ。

 結婚を考えてる人がいるってさ・・・』


智哉がまた少し笑顔になる。


『智哉が浮気ばっかするから嫌になったんちゃう?』


愛はまた嫌味を言う。


言えば言う程、自分が嫌になる。


こんな事ばかり言ってたらいい加減嫌われる。


わかっているが、止まらない。


そして、どんどん傷つく答えが返ってきてドツボにはまっていった。


『でも、俺、今よりを戻せたら、迷わずプロポーズして、アイツと結婚する。

 浮気も・・・もうしない。』


智哉は真面目な顔をして答えた。


そして、次の瞬間、また笑顔に戻り


『ま、フラれたから意味ないんやけどね〜』


と言う。


笑顔で言うが、少し悲しそうな目で言った。


『アイツは俺の中では今でも一番大事にしてる女やな。』


そう言うと、愛を見た。


そこには大きな涙の粒をボロボロ流す愛がいた。


『ど・・・どないしたん?

 なんで愛が泣くん?

 暗い話してごめんって〜〜〜!』


智哉が焦って言う。


愛は俯き、顔を隠す。


『あたし泣かへん女や〜言うてたやん〜!

 俺の話で泣かんといてや〜、俺が泣かせたみたいやん〜』


智哉が愛の肩を抱いて必死で慰める。


『・・ちゃう・・・ちゃうねん・・・

 自分、めっちゃ腹立つ、あたし、嫌味しか言うてへん・・・

 智哉、そんなに好きな人・・・いて・・・』


声にならない愛。


『嫌味て〜、俺らの中じゃ今まで普通にお互い言い合ってたやん〜、なんや今更〜』


智哉が困った顔をして言う。


『・・・智哉、全然わかってへん・・・

 そんな話、聞きたくなかった・・・

 自分から聞いてしまったこと、後悔したわ・・・』


愛が言うと、ふと智哉は愛の肩から手を離した。


そして、真面目な顔になり、智哉は言う。


『・・・どう言う・・・意味?』


愛は【しまった】と思った。


しかし、もう止められない。


愛は立ち上がる。


『・・・あたし、店でさっき、智哉の彼女に話し聞いてめっちゃ嫉妬した。』


智哉は座ったまま黙って聞いている。


『で、今の元カノの話を智哉から聞いて、元カノに死ぬほど嫉妬した。』


智哉も立ち上がる。


『・・ちょっ・・・ちょっと、愛?』


智哉が愛に触れようとした。


『触らんといて!!!

 あたし一人でドキドキしたりするのアホみたいやん!

 むなしいやん・・・』


智哉が愛に触れようとした手を戻す。


【・・・なんで戻すの・・・?

 そのまま抱きしめるなりなんなりして欲しいのに・・・

 できる訳・・・ないよな。

 あたしを好きじゃ・・・ないんやもん・・・】


心の中でそう思うと


愛は涙で顔がグシャグシャになる。


『愛・・・俺・・・ごめん・・・』


智哉が俯き言う。


【今のごめんは、どういう意味の・・・ごめん・・?

 わかってる・・・

 意味はわかってる・・・

 でも認めたくない・・・・・


 初めての失恋・・・】


愛は涙でぐしゃぐしゃの顔を俯き隠す。


『旦那・・・呼んできて。

 あたし、気分が悪くて店に戻れないから返りたいって言ってるって・・・

 呼んできて・・・』


愛はそういうと、顔をぐしゃぐしゃ手で拭いて言う。


化粧もめちゃくちゃだ。


智哉が何も言わず、店に向かい静かに愛に背を向ける。




ザザザザーーーーーー・・・・・ッ




その時、大きな音をたて、道の脇にたくさん植えてある木々が大きく揺れる。


強い強い風と共に、木々から散る枯葉が舞う。


冬に向かい、どんどん葉を落とす。



愛は涙目で上を見上げる。


智哉も店のドアに手をかけたまま、後ろを振り返る。



舞い散る枯葉。



智哉の動きが止まった。

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