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嫉妬

愛は綾に電話していた。


『ってな訳でさぁ、また近々見せ行かん?』


愛はある程度の経過を話した。


『その話はアキラには言わないほうがいいね。』


綾はあれからいい感じにアキラと続いていた。


『うん、そだね、今は言わないで欲しいかな』


愛と綾は口裏を合わせる。


『了解。久々にアキラに会えるの楽しみだし!』


綾にはアキラを呼ぶようにお願いした。


『でさ〜、綾、お願いがあるんだけどさ・・・』


愛が言うと、


『何々?』


と、綾もノリ良く聞き返す。


『うまい事言ってさ、アキラにもう一人、男呼んでもらってくれない?』


思ってもないお願いに


『え?!なんで!?』


と、答える綾。


『うん、ちょっと作戦。

 智哉の知り合いでも知り合いじゃなくてもいいからさ。』


綾はとりあえず


『わかった・・・頼んでみるよ。』


といった。


『ありはとう、アキラと綾が話してると愛が寂しそうだから話相手呼んであげて〜とでも

 何とでも言っていいから!』


愛が大げさに喜ぶフリをする。


『わかったわかった〜。』


綾が答える。


『それとさぁぁ・・・』


愛がまた何かを言いかける。


『何!?まだなんかあんの!?』


綾が大きな声で言う。


『アハハ、違う違う、店に行く日なんだけど、火曜か木曜か土曜がいいんだけど』


愛が言うとすぐに綾が聞き返してきた。


『え?その曜日って彼女いてる日じゃないん?』


その通りだ。


愛はどうしてもその日は智哉が会いに話しかけにくい状況を作りたかった。


『うん、そうなんだけど』


愛が答える。


『いいけど・・・まさか愛・・・めっちゃ酷いこと考えてへん?』


綾が恐る恐る聞く。


『あはは、そうかも』


愛が答える。


『智哉君、めっちゃ怒るんやない?

 まして智哉君の友達だったら・・・』


綾は愛の作戦に気がついたようだ。


『怒られる筋合いはないし。・・・まぁ当日・・・ね。』


愛が話を折る。


『え〜?まぁそうだけど・・・知らないよ?』


綾は少し心配そうに言う。


『綾には迷惑かけないよ。

 空いてる日決まったら教えてね。』


そう言って電話を切った。



【オレの女】


と言われてからも、愛は智哉と楽しくメールのやり取りや、電話での会話をしていた。




    早く会いたいね


    

    今度はゆっくり二人で過ごしたいね



    ご飯でも食べに行こうか?




普通のカップルと何ら変わりのないやり取り。


冗談半分【浮気したらダメだよ】なんて話もした。


時には彼女との仲を相談にのったり、旦那との生活の不満を語ったり、お互い仲のよい友達のような関係になったりもした。


二人の仲は確実に縮まっていった。


智哉が彼女とあまりうまくいっていないことも、愛は知っていた。


しかし、愛は親身になり相談にのった。


【少し会いすぎなんだよ】


【今が山場なんだよ】


沢山の言葉をかける。


勿論、別れをすすめることだけはしなかった。


智哉にはもう、彼女に対して【愛情】と言うものがないことに、愛は気付いていた。


しかし、その事は決して口に出さなかった。


彼女にはもう少し智哉に嫌な思いをさせる役目を果たして欲しかった。


彼女が智哉を怒らせれば怒らせるほど、智哉は愛を頼ってくる。


彼女が智哉にとって、嫌な女になればなるほど、愛がイイ女に見えてくる。


愛は彼女に、頑張って智哉を怒らせろと応援する。




そして当日。


『ごめんね、綾やアキラが時間合わなくて、彼女シフトに入ってる日しか無理だった』


智哉にはこう伝えてあった。


『しょうがないよ、顔見れるだけでも嬉しいし』


こんな返事が返ってきた。


愛はなぜか少しだけ心が痛んだ。


しかしすぐに、この巧みな言葉も智哉にとっては女の子を喜ばせる技だと思いこむ。


『智哉、上手いね』


そんな言葉を返してごまかした。




そして、いざ、出陣。


今日はお酒を飲む為に電車で店に向かっていた。


酔った勢い酔ったフリも重要になる作戦。


智哉の好きなミニスカートをはいて、愛は店に向かった。


愛が店につくと店の前にはちょうど綾とアキラと、もう一人の男が見せに入ろうとしていた。


『あ、愛だ〜〜!』


綾が愛に気付き大きく手を振る。


愛も小さく手を振り綾たちの元まで急ぐ。


『ど〜も・・・って・・あれ!?』


アキラの横に立つ男が愛に話しかけたが、顔を見て、言葉に詰まる。


『愛・・・って、愛ちゃん?』


愛は【????】と言う顔をする。


『俺やん!って覚えてないかぁ。

 山本、ヒデともつるんでた!!』


愛はしばらく考え


『あ・・・なんかいたような気がする・・・』


と、答えた。


10年前、みんなで何度か遊んでた時に何度かしゃべった事のある男だった。


『うそ〜?覚えてへんやろ〜?』


山本は笑いながら言う。


『いや、覚えてるって!名前までは覚えてなかったけど・・・』


愛が少し申し訳なさそうに答えた。


『うっわ〜、悲しい〜〜〜』


山本は笑う。


そして四人は店に入る。




『いらっしゃ・・・あれ?山本・・・』


智哉が少し驚く。


『お〜、アキラに可愛い女の子来るから来いって言われて来たら、何や愛ちゃんやん〜。』


山本が答えた。


『そうなんや・・・ま、ど〜ぞ』


智哉が愛の方を少し見てから、席に案内する。


『智哉、お前愛ちゃんといつ再会してん〜!

 オレのこと知っててなんで言わんねん〜』


山本が智哉に言う。


するとアキラがそれに答えた。


『え?もしかして山本が言ってた忘れられないキミって愛ちゃんのこと?』


愛は【えっ!?】っと言う顔をする。


『おいおい、いきなり言うか〜?恥しいやん』


山本は笑う。


『お前に言ったら会わせろってうるさいやろ?』


智哉がメニューを出しながら答え、愛をチラっと見た。


『そりゃそうやろ〜?運命感じるやん?あ、俺ビールね』


山本が冗談混じりに言いながら笑う。


愛も笑っているが、内心これはおもしろいと考えていた。


『こいつ、意地悪くねぇ?』


山本がアキラに言う。


『だって智哉は女は全部自分のもんやと思ってるから』


アキラは智哉を指差し答えた。


『愛ちゃん、コイツ、智哉だけはやめときや〜。

 やることめちゃくちゃやし、女癖悪いし、この10年ホンマえらいことなってたんやで』


山本が愛に向かい言う。


『おい、山本、いらんこと言うなや。

 愛、綾ちゃん、何飲む?』


智哉は愛に何かを言いたそうにしている。


『あたしキール〜〜』


綾が答えた。


『じゃ、あたしミモザ』


愛が答えるなり智哉が言う。


『今日はつぶれんなよ』


愛はイーーッとしてみせた。


『何やねん!オレの前でラブラブすんなや!

 智哉、もうすぐ愛しの沙織ちゃん来るやろ?

 チクるぞ!』


山本が智哉を追い払う手振りをする。


智哉が笑いながら酒を作りに4人の側を離れた。


それを見送り山本は


『結婚したんやって?』


と、先ほどまでのテンションから一気に落ち着いた話し方で愛に話しかけた。


『うん、3年前に』


愛は山本の方を向き答えた。


山本の肩越しに綾とアキラが楽しそうに話をしているのが見えた。


『子供は?』


山本が聞く。


『一人いるよ』


愛は笑顔で答える。


『幸せ?』


山本が続けて聞いてくる。


『まぁまぁかな・・・。』


愛は答える。



まぁまぁ・・・愛が常日頃考える幸せ・・・


愛が心から幸せと感じたのはいつだっただろう。


結婚した時?


子供が生まれた時?


確かに些細な幸せや小さな幸せ、常に感じている幸せ、そういうのであれば沢山感じてる。


しかし、感極まり、瞬間的だが脳内麻薬が多量に分泌され、声にもならない叫びにも似た歓喜の声を上げ、心から湧き出る喜び、そういう幸せは産まれてこの方、愛は経験したことがなかった。


高校野球で優勝をした球児が、喜びに叫び泣く。


出産の瞬間、我が子を抱いた瞬間、感動に声にもならない喜びに涙を流す。


恋愛ドラマで大好きな人と相思相愛になった瞬間、主人公は彼の胸に飛び込み幸せに涙する。


愛はそれを【うそ臭い】と感じていた。


学生時代、部活もしていた。


もちろん喜びもあったが、そこまで打ち込んでいたわけではなかった愛は涙を流す程ではなかった。


出産の時、確かに感動はしたが、妊娠期間にくたびれていた愛は、やっと終わった妊娠期間とサヨナラできる喜びが多く、母性を感じたのは2日後の初授乳の時だったので涙を流すことはなかった。


もちろん、幸せに涙を流す程の恋愛なんて一度も経験していなかった。



『あたし、感動薄いのかな?』


急にそう言った愛に山本は


『なに?いきなり〜』


と、笑った。


『なんでもない!』


そう言い愛も笑った。


しばらくして店に智哉の後輩の修が来た。


『お〜♪修〜〜!』


山本が大きな声で修を呼ぶ。


山本にとっても修は後輩だ。


修が山本の側まで来て


『あれ?智哉は?』


と、聞く。


『わからん、どっか行った、修は今日はここでバイト?』


山本が修の胸ポケットから煙草を取り出しながら答えた。


『山ちゃ〜ん、ラス1!やめて〜や〜♪

 今日は暇だけど俺も飲みに来ただけ』


そういうと、修は愛の隣に座る。


『ども!何度か店に来てるよね?不良人妻さん!』


修が愛に話しかける。


『はい、何度か』


愛は修をみてこたえた。


『あ、オレ、智哉の後輩ね、態度のでっかい後輩で有名な修♪

 キミの事はたまに智哉から聞いてる。』


愛は修がどこまで知ってるのかわからないので、笑いながらうまくごまかす。


『どうせロクなことじゃないんでしょ?』


愛は笑いながら聞く。


『ロクでもないのは智哉だよ、あ、オレもか!』


修は笑いながら智哉を目で探す。


『お前が一番ロクでもないわ!』


山本が愛をはさみ、修の肩にパンチする。


『アハハ!山ちゃんなんか毎週土曜日になると一人で店に来て酒カッ喰らって

 ロクでもねぇよ』


修は肩に当たった山本の手を押しのけながら笑う。


『あ、沙織ちゃんだ、出勤時間だな。』


山本がカウンター入り口付近を指差し言う。


愛と修は指差す方向を見た。


沙織は長い髪を後ろに束ねようと、髪を手でときながらまとめている。


そこに智哉が厨房から出てきて沙織に何か話をしている。


沙織は智哉の話を聞き、少し笑う。


『なんや、愚痴ばっかり言うとるくせに、仲良しこよしやってるやん。』


修が智哉達を見て言う。


すると沙織がこちらを向き、手を振る。


それに答えるかの様に山本と修が手を振る。


『あ、沙織ちゃん、小学校からの俺の同級生やねん』


修が笑顔で手を振りながら愛に話す。


愛は沙織は一つ年下だと、智哉から聞いていたが


『そうなんだ』


と、知らないフリをした。


すると、智哉がまた、厨房に入り、沙織がこちらに向かい歩いてきた。


『沙織ちゃん、おはよ』


修が言うと沙織は笑いながら


『おはよ、今日は山本君とアキラ君とのみにきたの?』


と、聞き返し、愛の方をチラッと見た。


それに気付いたアキラが沙織に手を軽く挙げる。


綾は愛を見ていた。


『どうも、こんにちは、高橋です。』


愛は沙織にペコリと頭を下げた。


沙織は一瞬ハッとした顔をしたが、つられるように頭を下げた。


『話は智哉から聞いてるよ、可愛い彼女がいるって』


愛は続けて沙織に話しかけると、沙織は少し口元が緩み、笑顔が出る。


『そうですか、今日は山本君と修君とデートですか?』


沙織が愛に敬語で話す。


『そんなもんかな』


愛は山本に笑いかける。


『俺が昔好きやった女やねん』


山本が間をおく事無く沙織に言った。


『そうなんだ〜』


沙織が大きく笑う。


そして


『ごゆっくり』


といい、沙織は去っていく。


愛は彼女の余裕な態度に少し驚いた。


智哉からの話を聞いている限りでは、おそらく女と言うだけで機嫌が悪くなるか、無視するか、そう思っていた。


山本達がいたからだろうか?


その後愛は、修と山本と話しながらお酒を楽しんだ。


沙織はあれから話しかけてくることはなかった。


智哉はというと、どうやら山本と愛を気にしてはいるようだが、チラチラ二人を横目で見るだけで、常に智哉の行動を目で追ってる沙織を意識し、愛たちの側にあまり寄る事はなかった。


時々注文を聞くフリをして愛の前に現れるが、山本と修の目もあり、余計な事は話せなかった。


しかし、愛は智哉がいない時に、だんだん酔いがまわりだした山本に、冗談とも本気ともとれないアプローチをされていた。


『一回でいいから二人で飯行こうや!』


『俺に愛ちゃんとの思い出をくれ』


修もそれを面白半分笑いながら見ていた。


そんなふうに楽しそうに話す三人を智哉は離れた場所から見ていた。


【もっと見ろ、もっと見ろ】


愛は心の中で思っていた。


時が経ち、愛はそろそろ帰ろうと席を立つ。


『もう帰んの!?』


山本が愛を見て言う。


『もう10時半回ったし』


愛が笑顔で答えた。


『まだ10時半・・・あ、そっか、旦那怒るわなぁ・・・』


ふと愛は智哉の方を見ると、智哉も愛を見ていたが、ふっと目をそらす。


『ねぇ、愛ちゃん、メルアド教えてよ。』


山本が自分の携帯を取り出し、二人はメルアドを交換する。


おそらく智哉はこの行為を見ているだろう。


『俺土曜日はこの店にだいたい毎週来てるからさ、来れるとき来てよ』


山本が携帯に目をやりながら少し照れくさそうに言う。


『なに?俺が邪魔やった訳?』


修が笑いながら言う。


『そーだよ!』


山本が間髪いれず答えると大きな声で修が笑う。


綾が


『今日はもう少しいるわ〜、ごめんね』


と言うので、愛はオッケーと、手で伝える。


『修、俺愛ちゃん駅まで送ってくるわ』


そう言うと、山本も席を立つ。


レジのところには智哉が立っていた。


レジを打とうとすると、山本が慌てて言う。


『あ、いい、いい、愛ちゃんの分、俺につけといてよ』


と言った。


『あっそ。』


智哉は無愛想に答えると、バタンとレジを強めに閉めた。


『智哉、またね』


愛が手を振ると智哉は軽くてをあげた。


愛が店を出て、続いて山本が一緒に店を出ようとしたとき、


『山本、お前どこ行くねん』


と、智哉が呼び止める。


『夜遅いから益まで送ってくるよ、心配すんな!

 食い逃げなんかしないから!』


そう言い山本は手を振り愛と一緒に店を出た。


それを影から見ていた修が、智哉の後ろに立つ。


『智ちゃ〜ん、何妬いてんの?』


修が智哉の耳元でニヤニヤしながら言う。


『んな訳ないやん』


智哉が修を【どけ】と言わんばかりに突き飛ばした。


『アハハ、あのままだと山ちゃんに持ってかれちゃうねぇ』


修は笑う。


智哉は黙っていた。


『山ちゃんは智哉と違ってとっても素直だから〜〜』


修がニヤニヤしながら話す。


そして智哉は客に呼ばれ、修の方を見ず、返事もせず、無言でカウンターに入っていった。




15分後、店に戻ってきた山本。


15分と言う時間が、駅まで送り、帰ってくるまでの妥当な時間だった為、二人には何も無く本当に送ってきただけだと思った智哉は、少し安堵の表情を見せた。


そんな智哉を見て、修は影から笑っていた。

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