大失敗の故・・・
綾と店に行く当日。
今日は夫が
【大丈夫だからたまには飲んでおいでよ】
というので、電話で行こうと思った。
しかし、三月とは言え、まだ寒い。
しかも、子供からうつされた風邪がイマイチ治っていないのか、鼻水がでる。
今日も飲まずに我慢しようと、鼻炎薬を飲み、愛は車で店に向かう。
しかし、鼻炎薬が効いてきたのか、だんだん眠気が襲ってくる。
【・・・ヤバイなぁ・・・】
目をパチパチさせながらなんとか店に着く。
今日は綾とは店で待ち合わせをしていた。
店に着いた時にはもう、綾は店に入っていった。
愛は少しドキドキしながら店に入る。
すぐに智哉が入り口に来た。
『いらっしゃいませ』
愛はニコっと笑い、
『綾は?』
と、智哉に聞く。
『もう、おれのツレと飲んでるよ。』
そう言うと、智哉は綾の座っている席まで愛を誘導する。
『お〜、愛、遅いよ〜〜!』
綾はテンション高く愛に話しかける。
テンションの高さの理由が愛にはすぐにわかった。
綾の隣に座っている男、おそらく彼が智哉の連れであろう。
なんとも綾の好きそうな、ノリの良さそうな男だ。
『ごめん、ごめん、ちょっと道混んでて〜』
愛は綾の反対隣に座る。
『愛ちゃん?俺、アキラ言います。
とりあえず乾杯しましょ。』
綾の隣から身を乗り出し男は乾杯のフリをして愛に話しかける。
『あ、あたしは・・・お酒は車だし・・・』
愛が言いかけた言葉に被せてアキラは言う。
『一杯くらい大丈夫でしょ〜。
智哉、愛ちゃんに軽いの作ってやれよ』
勝手に進めるアキラに愛は苦笑いしかできなかった。
『まぁ、一杯くらいなら大丈夫かな・・・』
愛も決して飲めない訳ではないので、今回は軽く一杯だけ飲むことにした。
しばらくして智哉がカクテルを持ってきた。
『薄く作ってあるから』
そう言いグラスを愛の前に置く。
『おい。智哉も飲めよ』
アキラは智哉に言う。
『アキラ、じゃぁ久しぶりにいっとく?』
智哉はクイッと飲む手振りをした。
『いっときますか〜!?』
アキラが答えると、智哉はすぐにテキーラを出す。
そして、四人でグラスを持ち、
『かんぱ〜〜〜い!』
チンッっと、甲高い音がして、アキラと智哉はショートグラスを飲み干す。
綾もグラスの半分ぐらいまでビールを飲む。
愛は一度少しグラスに口をつけ、味を確かめる。
『あ、美味しい』
愛は久しぶりのお酒がとても美味しく感じ、クッと飲む。
『いいねぇぇ〜!』
アキラが笑っている。
『久しぶりにテキーラ飲むと来るな〜〜!』
智哉も楽しそうに笑う。
愛もアキラが場を盛り上げてくれる事が救いになり、今日は普通に楽しめそうだと、気分良く笑った。
しかし・・・・
【・・・・やばい・・・・】
綾とアキラと智哉は楽しそうに話をしながら笑っている。
愛も笑っているが心ここにあらず。
目が一点を見つめている。
それに気付いた智哉は、
『大丈夫?』
と、愛に声をかけるが
『うん、平気だよ』
と、愛は精一杯こたえる。
しかし、愛の体は闘っていた。
【睡魔】と。
愛はすっかり忘れていた。
鼻炎薬を飲んできたことを。
ただでさえ鼻炎薬で眠気が来てた中で、ものすごく久しぶりのお酒。
もう、目を開けているのが精一杯だ。
みんなが笑ってる声が遠くに聞こえる。
まるで音の無いテレビを見ているようだ。
何かを話しているが、全く内容が耳に入らない。
今すぐカウンターにうつ伏せて眠りたい・・・・
眠りたい・・・・・・
・・・眠り・・・・た・・・・
『お〜〜い、お〜〜い』
『ダメだわ』
『愛〜〜?大丈夫〜?』
『あかん、完全に潰れてるわ。』
『キールロワイヤル一杯で?』
『あははは!』
『愛〜?先にあたし帰るよ〜?明日仕事早いし〜、ごめんね〜?』
『全然聞こえてないって!』
『智哉、俺も綾ちゃん駅まで送ったらそのまま帰るわ〜。』
『お〜、また飲もうなぁ』
『智哉さん、愛宜しくお願いします〜』
『あ〜、もう少し寝かせたらちゃんと起こして帰すよ』
『ありがとう〜、よろしくお願いします〜』
『じゃぁなぁ、智哉〜』
『おぃ、またなぁ』
・・・・誰かがあたしの頭を撫でている・・・・
誰・・・?
眠いよ〜・・・・
もう少し寝かせて〜〜・・・・
『ぉぃ・・・ぉいっ! 愛っ!』
『はいぃぃ???』
『いつまで寝てんねん!』
ぼんやりした視界の先に、なんとなくわかる智哉の顔・・・・
え・・・?
智哉??
ここどこ・・・?
『何寝ぼけてんねん!俺の店やろ!
グースカ寝やがって!』
あ・・・そっか・・・寝てしまったんや・・・
『あれ?綾は? アキラは?』
『お前が起きへんから帰った』
智哉は呆れたようにため息まじりに答える。
『うそ!?酷いわ〜・・・』
愛はひれ伏せる。
『何が酷いやねん、どれだけみんな起こそうとした事か』
【・・・まじ・・・?あたしそんなに爆睡してたの?】
愛は色々と思い出そうとする・・・
すると、智哉は続けて話をする。
『しかも来て10分で一杯飲んだだけでつぶれやがって・・・
飲めないなら飲むな、アホ、お前の方が最低や』
愛は返す言葉もない。
『・・・いや、薬も飲んでて・・・
でもなんか断れなくて・・・
っていうか!今何時!?』
愛は我に返り、あわてて時間を聞く。
『22時過ぎ』
智也がチラッと腕時計を見て無愛想に答える。
愛は少しホッとする。
『よかった〜・・・もしかしたらもう日が変わってるのかと思った〜〜』
愛はまた、ひれ伏せる。
『そう思ってちゃんと起こしたやろが!』
智哉はそう言いながら愛に水を渡した。
愛はペコッと頭を下げて水を一気に飲む。
『旦那、門限何時よ?』
智哉はまた呆れた顔をして愛に聞く。
『・・・無いって言えば無いけど一応日が変わるくらい・・・かな。』
愛はまだ少しボーーッとした頭を一生懸命整理していた。
そして智哉をそーーっと見た。
『あほっ! 』
目が合った瞬間、智哉は吐き捨てるように言った。
愛は今回ばかりは反省・・・
シュンと落ち込んだ。
『・・・・ップ・・・』
智哉が噴出した。
サッと顔を上げ愛は智哉を見る。
『・・・クックックッ・・・・』
智哉は声を殺して笑っている。
そして
『愛はもう少ししっかりしてると思ってたけどな』
そう言い、大きく笑った。
愛はボーーッとそんな智哉を見つめた。
『夜遊びはそんなにしないのか?』
智哉が愛に聞く。
『・・・いや・・・たま・・・に』
愛は小さく答えると
『男か?』
と、即座に智哉は聞いてきた。
『え?・・・あっ・・・』
愛は答えに詰まった。
まだ思考回路がまともではない。
次の瞬間、少し智哉がムッとした表情を見せた。
『なんやねん、旦那以外に男おるんやん』
愛はふと、ヒロを思い出した。
そう、智哉を出会い、長い間メールもせず、無視していたヒロ。
智哉と出会うまでは月に一度ヒロと出かけていた。
『・・・いや、もう最近会ってない・・・』
愛はとりあえずこうこたえた。
『浮気性。
俺、浮気癖のある女とは付き合いたくないわ〜』
智哉はちょっと不機嫌そうに答えた。
『付き合いたくないって・・・
あたし智哉と付き合ってないし。』
愛は少し腹が立ち、嫌味っぽく答えた。
『あ、そうやな!』
智哉は笑った。
愛は黙り込む。
そして、少しの間を置き、愛は席を立つ。
『そろそろ帰るわ』
会計をしている間、二人は無言だった。
そして、財布にお釣りをしまい、やっと愛は言葉を出す。
『今日は迷惑かけてごめんね、ありがとう』
そういい、出口に向かい歩き出す。
すると、
『あ、ちょっと待って!』
智哉が慌てて店のバックルームに入っていく。
そして、すぐに出て来た彼の手には、ダウンジャケット。
『車どこ?駐車場まで送るわ』
そう言いながらダウンジャケットを羽織る。
店にいるバイトの男の子になにやら話をしに行き
『はい、行こう』
と、愛の前を歩き出し、店の外に出た。