泣かない女
あの日から数日間、智哉からのメールはなかった。
おそらく彼女が常に側にいるのだろう。
愛もその後からしばらく、子供が風邪をひいたり、自分も風邪をひいたり、何かとバタバタしていて、メールが無い事を多少気にしたが、自分の生活でいっぱいだった為、自分からメールをすることもなかった。
こうやって、一日、二日、三日と、時間が経つにつれ、あんなに頭の中がいっぱいだった智哉の事が、日に日に薄れて行っていた。
『やっぱり家族が一番、ゴメンね、ママ自分のことでいっぱいになってて』
愛は眠る子供の頭をなでながら呟く。
由佳の言葉もあり、もう手を引こうか、考え出していた。
『・・・なんだかちょっとめんどくさくなってきたなぁ・・・』
不思議なことに人間、時間が経つことと、暇がなくなると、急にきっちり現実を見れるようになる。
『まぁ、それだけの事だったのかな』
携帯依存症のようになっていた最近の愛、しかし、もう執拗に携帯を見る事もなくなっていた。
メールも長らく打っていない。
【このまま宙ぶらりんもなんだかなぁ・・・】
愛は悩んでいた。
このまま放っておいてもいいのかもしれないけど、きっちり終わらせないとまた日が経ってから智哉から何か言ってくるかもしれない。
じゃぁどうやって終わらせるか・・・。
愛は携帯を持ち、久しぶりに宛先を智哉に合わせる。
どうしてる?
この前はありがとうね。
彼女、大丈夫だった?
あたしも何かと忙しくて・・・・
ここまで打った後、愛は手が止まった。
【なんて切り出せばいいのかわからない】
何も始まっていない二人。
別れようって言葉は違う。
この前の約束は無しね。
これもなんだか違う。
愛は完全に手が止まり、携帯を見つめる。
その時、いきなり着信で、手に持った携帯が震えた。
【智哉】
なんてタイミング。
電話に出ようかなやんでいたが、なかなか切れないので、愛は通話ボタンを押す。
『もしもし?』
『あ、俺、連絡できなくてごめん』
智哉は何事も無かったかの様に話をしだす。
『あ〜、うん、あたしも色々忙しかったし』
愛は智哉の出方を見る。
『そっか、実はあの後俺、女とスッゲー喧嘩して。』
智哉のテンションが少し下がる。
『え!?あたしのせい?』
愛はびっくりして聞き返す。
『いや、違・・・う〜〜ん・・・』
愛は黙る智哉の声に何かを言おうとしたが、言葉が思いつかない。
『確かに愛達が来て、嫉妬とかもあるんやけどさ・・・
それだけじゃなくて、なんか何も無いとこまで疑ってくるし、
仕事で疲れてても色々詮索されてさぁ』
智哉が疲れたような声で言う。
『で、疲れたってわけか』
愛が答える。
『こっちがちょっと何か言うと泣けばいいと思ってやがるし・・・しんどいわ』
愛はそれを聞いてすぐに答える。
『女らしくて可愛い彼女やな』
智哉はその言葉に少しテンションが上がり、愛に聞く。
『愛は俺から連絡なくて寂しくなかった?』
愛は答えに悩んだ。
寂しかった・・・と言えば二人の関係は続いていく。
全然・・・と答えればうまくそこから終わらせる事ができる。
愛は一瞬で色々悩んだが、不意に答えが口から出ていた。
『寂しかったよ』
愛は本心なのか、または戦略の続きなのかわからなかったが、どちらにしろ愛の本能が答えてしまった。
『愛は寂しくて泣いたりせーへんの?』
智哉は愛に聞く。
愛は思った。
これは智哉側の戦略だ。
女の子を探る戦略だ。
愛は簡単に答えが出てきた。
『可愛くなくてごめんね〜。
寂しいくらいで泣く女じゃないのよ〜〜』
愛は笑いながら答えた。
智哉も電話先で笑う。
『泣く女は嫌いやけど、そう、はっきり言うと、確かに可愛くないな!』
智哉が笑う。
『うん、可愛くないよ』
愛も笑いながら答えた。
少しして、智哉の笑いが止まる。
『・・・・・・・いよ。』
電話先から、ボソっと何かが聞こえた。
『な〜に?』
愛が聞き返す。
『愛は、可愛いよ。』