表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/34

由佳

それから愛は毎日毎日智哉にメールした。


他愛も無い話の中にも、ちょくちょく仕掛ける。


メールは文章。


想像や妄想を掻き立てる上に、確実に距離を縮めることができるとても便利な機能。


これを愛は最大限に利用する。


智哉も今は愛とのメールが一日の中で習慣付き、毎日やり取りを何通も何通もしていた。



愛  【智〜〜哉〜〜】

智  【どうした〜ん(#^.^#)】

愛  【ちゅっ ♪】

智  【ちゅぅぅ ♪】 

愛  【あはは(#^.^#)仕事中にウザイ??】

智  【犯すぞ!(;一_一) (笑)】



他愛も無いメールだが、お互い気分はノリノリだった。


基本、智哉が彼女と一緒にいない時間にメールをやりとりする、となると、智哉の彼女、沙織がシフトに入っていない曜日の仕事の時間が一番都合がいい。


まるで、ラブラブなカップルかの様なメールを、来る日も来る日も続ける。


そしてお互いを高めあう。



愛  【早く会いたいね】

智  【俺も早く会いたい。今から抱きしめに行っていい?】



しかし、愛は一番いいところで釘を刺す。



愛  【恋愛ごっこも楽しいね】



これは立派な作戦。


高めるだけ高め、愛し愛されている関係だと錯覚しそうなところで、現実に引き戻す。



【わたしはあなたとの遊びを、浮気を、心から楽しんでいます】


と。長期戦だがジワジワと意識させる。


想像と妄想と錯覚で。


もっと深い話、例えば相談事、そういう話は一切しなかった。


なぜなら重みのある話はまだ早すぎるから。


お互いのプライベートを良く知るにはもう一度会ってからの方がよい。


その来る二度目の面会の日までに、冗談と本気の間のメールをやり取りし、警戒を解く。


二度目の面会後、すんなりと相手のなかに入り込むために、できるだけうわべだけのお付き合いと言う線で仲良くなっておく。


そして、初めて再会してから約一ヶ月たった頃、そろそろ会いに行く段取りを整える。


愛は次に一緒に行く友達はもう決めていた。



【由佳】



彼女は愛にとって、男を落とす方法やテクニックを学んだ、言わば師匠的存在。


彼女とは16歳の時にバイト先で知り合い、似たもの同士で意気投合。


何より彼女は経験の数が違う。


そして、男を分析する力は神のように長けている。


愛は今回、彼女に智哉を会わせて、分析してもらい、意見を聞きたかった。


由佳にそのうまを伝え誘うと、快く了承してくれた。


そして今回は前もって智哉にも遊びに行く日にちを伝えた。


しかし、愛はもう一つ企んでいた。


智哉に行くと伝えた水曜日は、智哉の彼女の沙織がシフト入りしていない日。


しかし、愛はその日に行くつもりはなかった。


どうしても友達がその日に行く事が無理になって、次の日の沙織のいる木曜日にしか行けないと、当日連絡をいれ、智哉の彼女に会う。


それが目的。


もちろん智哉には


【彼女には絡んだりしないから大丈夫】


と、伝える。


由佳にはついでに彼女を分析してもらうつもりだ。


敵を知ること、これが最大の勝利への道。


ついにこの作戦を実行に移す日が来た。


電話にて智哉に、彼女のいる木曜日に行く事を伝えた。


そう、決戦は木曜日。




その頃、今日来る予定だった愛を待っていたが、いきなり明日彼女のいる木曜日に変更になったと言う電話を先ほど受けた智哉は、店で少し落ち着きをなくしていた。


【愛も既婚者で同じ立場だし、まさか変に沙織に絡むことは無いだろうと思うけど・・・

 それよりも・・・・】


智哉は愛が変にばらしたりする事に心配はなかった。


それよりも、女と話をするだけで嫉妬に狂い、また機嫌を損ねてウダウダと文句を言う沙織が目に浮かび悩んでいた。


【全く知らない一見さんのお客さん・・・そんなウソはすぐにバレてしまいそうやし・・・】


智哉は沙織に、愛がどういう知り合いかと言うか、それを悩む。


【・・・仕方ない・・・ツレに頼んで裏とってもらうか・・・】


智哉は10年前の当時に一緒に遊んでいた友達が、たまたま愛と再会し、今智哉が店を開いていると愛が聞き来店した、そういうシナリオを組み、友達と愛に個々メールを打ち、そういう話にあわせてもらう様に頼んだ。


『あ〜〜!面倒くせぇ・・・』


メールを打ち終え、智哉はそう呟き携帯をポケットにしまった。




そのメールを受け取った愛は


【了解です!楽しみだね】


と、返信した。


『あはは。焦ってる』


愛は可笑しくてたまらなかった。





そして、ついに木曜日が来た。


愛は由佳をつれ、今日も車で店へ向かう。


今日飲まない理由は


【悪酔いして、彼女に絡むとヤバイから】


由佳の提案だ。


本当はしっかりした思考で智哉の彼女を見極めるため。


今日は途中電話を入れずに店へ直行する。


由佳は念入りに化粧直しをしていた。


『そんな男前ならあたしもドキドキするやん』


と、笑いながら。


しかし愛は少し苦笑いをした。


由佳は愛から見ても美人だ。


そして男に関してはプロだ。


彼女に獲物をとられるのではないか・・・


彼女とつるんで行動に移すと常にその心配があった。


そんな愛に気付いたのか、由佳は


『心配せんでも人の獲物取ったりせんよ!』


と、笑う。


そうこうしているうちに店にたどり着く。


『あたしが先に入っていい?』


由佳はそう言うか言わないかの間で、店の扉に手をかけた。



『いらっしゃいませ』



聞き覚えのある声がする。


由佳の背中越しに智哉らしき影が見えた。


『よっ!いらっしゃい、カウンターでいい?』


愛に気付いた智哉は、チラッと由佳を見てから愛に笑顔で話しかける。


『うん、カウンターで』


そう答えた愛は少し照れていた。


自分でもどうしてこんなに照れてるのかわからない。


彼の目がちゃんと見れない。


ここ一ヶ月のメールのやり取りが頭の中に駆け巡る。


もちろん、冗談ばかりのラブラブメールだったのに、智哉の顔を見て声を聞いてしまうと


【このクールな彼からあんなメールが届いてた・・・】


と、頭の中でめちゃくちゃになる。


ヤバイ、まだ会うことに免疫ができていない。



二人がカウンター席に座ると、智哉がカウンター越しに立つ。


由佳は堂々としている。


『あたし、ソルティードック』


それに智哉が


『ソルティードックね。愛は?』


と、声をかけ、愛を見る。


照れてしまってまともに顔を見れずにうつむき加減にしている愛とは違い、智哉はまっすぐな目で愛を見つめる。


【こいつ、ほんとにすげ〜・・・しっかりしろ!あたし!】


愛は頭の中で自分に【頑張れ】と励ます。


すると由佳が口を挟む。


『愛は今日は酒飲むなって言ってあるからさ、ウーロン茶でもよろしく、愛は酒弱いから!』


・・・由佳、GOOD JOB


智哉が由佳を見て、笑いながら


『了解〜』


と答え、二人の前から立ち去ろうとする。


その時愛は背を向けようとしている智哉をやっと見ることができた。


が、しかし。


まさに背を向けようとした瞬間、智哉は愛の方を見てクスっと鼻で笑った。


【うっわ、完全に上の立場に行かれてる・・・見透かされてる・・・】


愛はしまった・・・と頭を抱える。


すると、由佳が愛の膝のあたりを抓った。


『イタっ!』


愛はハッと由佳を見ると、由佳は愛を笑いながら睨みつけていた。


『愛〜・・・お前完全に相手のペースやん、あかんやん。完全に負けてるやん』


はい、まさにその通りで、今落ち込んでいたところです。


『しっかりせ〜よ』


由佳は愛の目を見ながら軽く頭を小突く。


『・・・はい』


次の瞬間、由佳は愛に手招きをして、耳を貸せと言うしぐさをした。


そして、愛の耳元で愛は呟く。



『あの男、相当なやり手やな』



智哉が二人の前にお酒とウーロン茶を持って戻ってきた。


『お待たせしました』


愛は気合を入れなおす。


しかし、先に口を開いたのは由佳だった。


『あれ?彼女は?』


そう、カウンター内には智哉の姿しかなかった。


店に入ってしばらくは店内を見渡す余裕がなかった愛も、少し落ち付き改めて店を見回すが、客以外に女の子はいなかった。


『なんか体調悪いから少し遅れてくるってさ、もうじき来るんじゃない?』


智哉の答えに由佳が続けて話をする。


『大丈夫、ある程度あたしも聞いているから、心配しないで』


智哉と由佳が笑う。


愛も少し遅れて笑う。


『心配なんかしてへんよ』


そう言うと智哉は違う席の客から呼ばれ、二人の前から立ち去った。


『由佳、イイ男でしょ?』


愛が由佳に小さな声で話しかける。


『確かに。でもそれをあの男、自分でよくわかってるね、相当なナルシストだわ』


由佳が答えた。


愛のよみも間違いなかったようだ。


続けて由佳が話する。


『自分を褒めてくれた時点であの男、その女をターゲットとして見るんじゃない?

 あたしは絶対男前だね、なんて言ってやんない』


そう言って由佳は大きな声で笑った。


つられて愛も笑った。


間もなくして、カウンターに一人の女の子が入ってきた。


『彼女だ! 』


由佳と愛は二人同時に小さく叫んだ。


なにやら智哉とこちらをみながらコソコソ話をしている。


話してる内容はなんとなくわかる。


智哉が何か彼女に言った後、彼女はこっちを見ながら厨房に入っていった。


その後智哉は由佳と愛の前に再び立つ。


『あれ、女』


智哉は普通に話をしてきた。


『可愛いね』


由佳が答える。


『う〜〜ん・・・・・』


智哉が笑いながら首を傾げる。


確かに沙織は可愛い。


しかし、智哉にとってはそうでもないのか。


昔のあのお人形のような彼女を知っている愛ならなんとなくその気持ちがわかった。


『今日はあたし達の相手、しなくてもいいからね。』


愛は智哉に言う。


『あ〜、大丈夫やで、気にせんでも』


そう言い笑いながらも、智哉は二人の前から立ち去る。



そして、その後、あまり智哉と話をする事がなかった。


彼女はいるからだけではなく、急に店が混みだし、智哉は忙しく店内を走り回っていた。


由佳は彼女とも少し話しをしたがっていたが、忙しいからか、はたまた私たちの側に来たくなかったのか、話をする機会がなかった。


『・・・帰ろっか』


由佳が諦めたかのように口にだす。


『そだね。』


愛もこれ以上店にいても仕方ないと思い、席を立つ。


レジにて会計を済ます。


レジではもう一人の知らない若い店員が対応してくれた為、最後に話すらできないまま。


今回の作戦は不発だったかな・・・と思いながら店をでた。


愛は、少し元気がないまま、店の前でカバンの中にある車の鍵を探す。



その時、誰かが店から飛び出してきた。


智哉だ。


『ごめんな!開いてできなくて!』


開口一番、智哉がこう言った。


『うん、忙しかったみたいだし、全然気にしてないよ』


愛は笑顔で答えた。


由佳は少し先のほうで誰かと電話をしている。


・・・電話をしているフリかもしれない。


チラチラとこちらを見ている。


『ホンマ、ごめん、せっかく来てくれたのに、ごめん』


智哉はチラチラ店の中を気にしながら、何度も謝る。


『いいよ、店に戻りな〜。またメールするし』


愛は彼女を気にしている智哉にそう言った。


『お願い!また近いうちに店に来て。今日の借りは返すから、な!?絶対に』


智哉がそう言った直後、店のドアが開く。


『智哉〜〜〜?お客さん呼んでるよ〜?』


沙織だ。


沙織は愛を見ながら智哉に話し掛ける。


『あ、わかった、すぐ行く』


智哉は彼女にそう言い、手で【店に入れ】と言うジェスチャーをした。


しかし、沙織はずっと店のドアを半分開けたまま、智哉を待っている。


沙織と愛を交互に見て、愛に何かを言いたそうにしている智哉。


『ねぇ!ともや!お客さん呼んでるってば!』


沙織が少しイライラしながら智哉を急かす。


『あ!?わかってるって!』


智哉も少しイライラしている。


『あ・・じゃぁ今日は有難うございました。』


愛はそれだけを言い残すと、智哉に背を向け由佳のところまで小走りした。


由佳の所にたどり着き、ふと後ろを振り返ると、もう、智哉はいなかった。




愛が、家に帰るや否や、携帯メールが受信する。


『由佳からだ・・・』



  お疲れ〜。

  あたしが分析する限りは、あの男を本気にさせるにはなかなか難しいかも。

  まして、あんた、既婚者なの知ってるんやろ・・・?


  下手したらあの男、恋愛、したことないんじゃない?

  愛の方がはまってしまう可能性が高い。


  とにかく!

  絶対エッチすんな!

  ヤッっちゃったら負けだと思うこと!

  愛のこと、食う気満々やわ、あの男。

  

  あと、あの彼女はそんなに問題でもないんじゃない?


  何かあったらまた相談乗るから連絡しておいで



【・・・由佳、これはあたしを止めてるのか・・・?】


メールを返信しようとした途端、またすぐにメールを受信する。


【また由佳や・・・・】



  忘れてた。

  あたしが愛のことを分析した結果。

  

  あんたはもう、少しだけあの男に恋愛感情抱いてる。


  あたしはそう思ったけどな!



【はぁ〜?】


愛は顔を顰める。


【確かにいい男だし、ドキドキしたけども、恋愛感情なんて入ってる訳ないやん。】


愛はブツブツ独り言を言う。


由佳には【ありがとう】とだけ返信をして、携帯を閉じる。



『有り得へん!』


愛は大きく息を吸う。


『・・・有り得る訳ないやん。』



愛は今日、帰りしなに、智哉が何かを言おうとしてた事を思い出した。




『・・・何やったんやろ・・・・』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ