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女 大好きですが何か?

『いらっしゃいませ』


低い、かつぜつの良い、世間的に言う【イイ声】が、静かな店内に響く。


冷たさが感じられる目、白いキメの細かい綺麗な肌、真っ黒な髪、クールな印象を与える男が店の奥から現れる。


『カウンター席とテーブル席、どちらがよろしいですか?』


そう言うと、クールな印象を解くかのように、彼は優しく唇をキュッと閉じて笑う。


『あ・・・じゃぁ、カウンター席で・・・』


客であるカップルの彼女の方が答えた。


『それでは、こちらにどうぞ』


そう言うと彼は、次は先ほどと違い、目を細め、歯を見せ、母性本能をくすぐるような無邪気な笑顔でニッコリと笑う。


カップル客の彼女は、その笑顔に少し照れ、恥しそうに俯く。


彼氏、面目なし。



『ふん・・・ブスが・・・』


カップルがカウンター席に着いたのを確認して小さく呟く。



クールで少し冷たそうな印象で、突然無邪気な笑顔になる、この酷い男。


名前は 星野ほしの 智哉ともや


年齢は26歳、職業自営業。


市内の一等地にレストランバーを開業していた。


なぜ26歳という若さで開業できたかというと、答えは簡単、両親がお金持ちの筋金入りのお坊ちゃま。


坊ちゃんなだけあり、幼稚園、小学校、中学校と私立に通うが、甘やかされて育ったが為、中学校に入る頃には立派にグレた。


お陰でエスカレーター式の学校であるにもかかわらず、高校には上がれず仕方なしに他校を受験。なんとか私立の高校に通うが1年で退学。


10代は荒れに荒れた生活をする。


中学1年の時から車の無免許運転。


飲酒に喫煙。


中学の間に補導された回数、数知れず。


喧嘩はしょっちゅう、26歳になる今、今のところ無敗。


窃盗、強盗、当時問題になった、オヤジ狩り。


クスリやシンナー以外の悪い事なら、殺人以外は大概経験済み。


これだけ聞くと【いかにも】といった感じの不良少年を想像するであろう。


汚い金髪、何連にも繋がったピアス、だらしない服装など。


しかし、彼は違った。


確かに彼の周りの人間はこんな感じの人ばっかりだが、彼は一見、中学生の時には小学生に間違えられ、高校生の時には中学生に間違えられる、イカツさとは程遠い顔つき。


黒髪で耳に被さるくらいのサラサラの、オシャレに流す程度であまりいじらず、自然な髪型。


綺麗な白い肌に、遠慮がちな小さいシルバーアクセ。


服装も不良少年によくあるダボダボB系ファッションではなく、どちらかといえばモノトーン中心、のキレイ系のファッション。



どこからどう見ても悪そうには見えない。そのお陰で、過去、居酒屋で大乱闘、彼は三人相手にかすり傷一つなく喧嘩に勝利。


駆けつけた警察は、転がる三人を見て、そこに立っていた彼に言う。


『やった奴は逃げたのか?』


やった奴は俺ですよ〜


なんて言う訳が無い。


まず、彼の外見を見た警察でさえ、【彼ではない】と騙される始末。


そんな彼だが、仲間内では常にリーダー格。


やりすぎだろう?ってくらいの無茶苦茶な彼の行動や言動にも、なぜかみんながついてくる。


みんなが慕い、みんなに愛され、みんなに頼りにされる。


顎で人を使うような彼なのに、人を物のように扱う彼なのに。


それでもみんなが慕う、彼の魅力は当時から同性異性関係なく、計り知れないものだった。


そんな彼にも18歳の時に転機が訪れる。


先ほど書いた大乱闘で足がつき、逮捕されてしまう。


実は彼が高校に退学した理由は、16の時にも一度鑑別所に入っていたのが学校にばれてしまった為で、今回の逮捕で2度目になってしまう。


二度目の逮捕となった彼は少年院に行く事間違いない。


しかし、彼の両親は当時アメリカに住んでいた為、両親のおかげで海外に二年行き、地元の仲間と離れ両親の元で暮らすという条件で少年院を免れ、彼は渡米することになる。


2年と言う期間限定であったが、海外暮らしがよほど楽しかったのか、結局彼は4年という月日を海外で過ごす。


そして4年後。


更に男に磨きがかかり、英語もマスターし、4年と言うつきひですら関係無いかの様に、沢山の仲間達に出迎えられ、彼は日本に戻った。


さて、そんな彼が日本に戻り、さすがに22歳にもなり悪い事から足を洗い次に目覚めたのが


【女】


元々13歳の頃から常に彼女という存在があり、女というものに苦労しなかった彼。


しかし、当時は女よりも仲間と悪さをするほうが楽しく、ただただ言い寄ってくる女の中で一番可愛い女を彼女としてポジションを与えていただけ。


今の彼女よりも可愛い女が現れれば彼女を換える。


渡米するまでの彼の女関係はこんな感じだった。


しかし、日本に戻り、真面目に働いて欲しいと願った彼の両親は、彼に一軒の店を任せた。


それが今彼が働くレストランバーだ。


彼の両親は、もう悪さをしないで欲しいと願い彼に任せた店。


しかし、彼にとって【女遊び】という悪さに移行した今、その店は彼と女が出会うきっかけを与える場所という恰好の場となった。


いつしか、男前の店長のいる店としてひそかに人気が出だした頃、彼はぐんぐん女をメロメロにする業を身に付けていった。


・・・そして現在。


26になった彼は、本命の彼女が一人、浮気相手、数知れず、そんな日々を送っていた。


が、しかし、今彼はちょっとした問題に直面していた。




『おはようございます。』


1人の可愛い女の子がカウンター内に入ってきた。



【・・・あぁ、もうこんな時間か・・・】


カクテルを作りながら智哉は、彼女の方をチラッと見て、また目線をカクテルグラスに移す。


『あの、女の子の客、智哉の知り合い??』


彼女がカウンターの裏に置いてある伝票を見ながら、智哉に話しかける。


『違う』


智哉は無愛想に答える。



彼女の名前は、橋本はしもと 沙織さおり


年齢は智哉の一つ下の25才。


今時風で、大きな目が印象的な可愛い系の彼女は、智哉の今の本命の彼女だ。


そう、智哉の悩みの種だった。


智哉との出会いは小学生の時。


その後アメリカから帰った智哉と偶然再会し、交際が始まった。


人一倍嫉妬心が強く、智哉が自分の生活の全てである彼女は、智哉を監視する為に智哉の店でアルバイトをしていた。


付き合いだして1年半。


付き合い始めの頃は嫉妬心が強い事も知らず、


『少しでも智哉の側にいたいな』


と、可愛い事を言う彼女に、週に三日だけアルバイトとして彼女を雇ったのが失敗だった。


彼女は接客で智也が客の女の子と楽しそうに話をするだけで機嫌が悪くなる。


最初のうちは可愛いものだと思っていた智哉も、執拗な程の嫉妬に疲れ始めていた。


しかし彼女の嫉妬が日に日に酷くなったのも、智哉が原因でもあった。



あれは付き合いだして3ヶ月目の事。


智哉には仕事が終わってからいつも飲みに行く店があった。


その日は彼女はバイトの日ではなかったので、仕事帰りにそのままいつもの店に向かった。


そしてその店にはいつものメンバーがいる。


その店の店長も智哉の中学の先輩にあたるひとだ。


その日は智哉以外にも、OL風の女の子二人組みも別客として店に居た。


智哉達の酒も進み、OL風の彼女達も交え楽しく飲んでいると、やはり男と女。


王様ゲームが始まる。


テキーラ等の強いお酒を智哉たちに飲まされ、ベロンベロンに酔っ払っていたOL風の彼女達は、智哉達の思惑通り裸に近い格好にさせられていた。


店はもう閉店。


店長も交えて乱交パーティーの始まりだ〜!


そして、智哉が可愛いほうの女の子にインサート・・・


の瞬間・・・・



バタン!



店の入り口扉が開く。


『何やっとんじゃ、テメ〜〜!!』


そこには怒りに狂いながら叫ぶ沙織が立っていた。


智哉の友達はヤバイ事態に動けない。


しかし智哉もかなりのお酒が入っていたので、気が大きくなっている。


『お前〜〜なんやぁ!?何しにきた!?』


OL風の彼女達も一気に酔いが醒め、あわてて服を着る。


『仕事とっくに終わってんのに、電話はないわ、家には帰ってへんわ・・・この店に来てると思って見に来たら、お前この状況どういうことやねん!』


沙織は怒りで声が震えている。


しかし、智哉は店長を睨みつけ


『なんで鍵閉めとらんのや!?』


と、店長にキレる始末。


もう最悪の男だ。



その後、沙織につれて帰られた智哉は、やっと我に返り、沙織に謝り、智哉を好きでしかたなかった沙織も別れることまでは決断できずに許してしまう。


こういう事件があってから、沙織は一段と嫉妬が酷くなった。


そんな酷い彼だが、彼も人一倍独占欲が強く、自分の事を棚に上げて、彼女の浮気は絶対に許さない、束縛と嫉妬の激しい男だった。


というよりは、彼は自分の女と思っている女が自分以外の男に目移りする事が、自分のプライドが許さないという事だ。


なので、彼の場合は彼女が浮気をしたと解った瞬間に、すぐに別れを決断する。


しかし、こんな彼にも恋愛に対しての言い分がある。



『本気に好きになる?会いたくてたまらない?常に一緒にいたい?そんな感情にしてくれた女なんて、今まで一度もいなかった。』


しかし、彼には一度だけ過去にすごく愛した人がいると言う。


結婚を迫られ、まだ身を固めるつもりのなかった彼は別れを決断した。


だが、その後すぐに後悔をし、いまでも引きずっている。


その話をする時は決まって智哉はテンションが落ち、暗くなる。


しかし、その後いきなりまた、いつもの無邪気な笑顔になり


『ま、そんだけ好きやったけども、当時も浮気はしとったけどねぇ』


と、笑う。


これは周りから見れば本気で好きだったと言えるのか?


いや、彼にとって恋愛は甘ったるいだけではないと悟っている。


一緒にいたくてたまらない、だからこそ、本気の恋愛だ・・・ってのは、何かが違うんだ。


なんか、こう、もっととんでもない感情や今までに感じたことのない感情にさせてくれるような女が今まで現れていないだけ。


本命も浮気相手も、俺の中では大して変わらない。


そんなことを彼はいつも言っていた。


『きっとすごく好きな女ができても、きっと俺は浮気はしちゃうね!』


そう、彼は恋愛を知らない。


ピンとはった防御線を自ら張っている。


モテる男にはこういう人が多いのではないだろうか?



『いつかは俺をそんな気持ちにさせてくれる女、現れるかな?まぁ、多分無理やね。楽しむのが恋愛、つまり、女遊びでしょ〜!?』


彼は少しの酒が入るといつも、決まってこう語っていた。

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