第五章 刻印に宿る神秘の力
今回は大分短いです。結構焦って書きましたので......笑
多分次回は長くなるかと思います。
バハムート戦から、三日目の朝を迎えた。窓から差し込む光にボクは起こされ、目覚める。
あれからというものの、ボクの体の怪我はほぼ治り、もう普通に修行できるところまで回復した。跡とかは消えそうにないが、今はすこぶる元気だ。師匠も、あの時の治療班達が治癒魔法ですぐ治してくれたので、ものすごく元気だ。
「ん~~~~~」
ボクはぐっと背伸びをし、ベッドから降りる。しばらくボーっとしながら数十秒間止まり、ボクは近くに置いてある自分の服に手を出した。
バハムート戦に着ていったこの服。大分糸がほつれてきていたのでそういうところは魔法で直した。少し破れてしまっているところもあったけど、見えない程度に穴を小さくし、完全に穴を塞がずにそのままにした。人生初の戦場に着ていったのだ。こういう戦った証とか残しておきたいよね。
ボクはその服を着て、護身用の剣とナイフを持ちすぐに部屋を出て行った。
城の中を少し早歩きで歩いていく。
「......」
黙々と。ボクはある場所を目指した。
コンコンッ
「失礼します」
母様と父様の部屋に入る。父様の様子を見に。
父様はあのバハムートを封印した後、いきなり倒れこんでしまった。何事かと思って近寄れば、父様が胸を押さえながら静かに苦しんでいたのだ。ボクは何度も呼びかけた。大丈夫ですか、と。だが父様はそれに答える事も無く、そのまま意識を失ってしまった。
それから、父様は目を覚まさなくなってしまったのだ。息は確かにしているけど、まるで死んだように目を硬く閉じていて。手は動かない。足も動かない。昏睡状態に陥っていた。
母様も、妹達も。使用人も、大臣達も。そしてボクも。城中の人たちが心配していた。
「......」
ベッドの上で静かに眠る父様。口角が微かに上がっていて、笑っているように見えた。でも目は閉じられたまま。
「......目覚めてください、父様。皆が心配していますよ」
ボクはそっと父様に声をかける。こんな事をしても、無意味だけどね。でももしかしたら起きるかもしれないと、ボクはそう信じていた。
母様はもう起きたらしくて、いつもかけてあるドレスがない。あるのは父様の服だけ。洗濯したので、バハムート戦の時の痕跡は一切残っていない。
ボクは今日も起きそうにないと、非常に悲しい顔をして、その場を後にしようとした。すると。
「っ......」
父様の目が微かに動いた。手も動き、やがて目が薄く開いた。
意識を取り戻したようだ。
「父様!!」
「カル...ミス...?...っておわっ!?」
ボクは嬉しさのあまり、起き上がった父様に飛びついた。父様はいきなり飛びついてきたボクの行動に即座に対応できず、そのままベッドにまた寝ることになった。
「良かった......このまま眠りっぱなしかと思っていました!!」
「そ、そうか......。それは...心配をかけてしまったな」
半分涙目のボクは、父様に思いっきり抱きつき嬉しさを伝える。父様も最初こそは動揺したものの、やっと状況を把握しそんなボクを優しく抱きしめてくれた。
しばらくそのままでいると、
コンコンッ
ノックの音が聞こえた。父様はボクをゆっくりベッドから降ろして、「どうぞ」と扉の向こうに呼びかけた。
やがて扉が開き、そこから出てきたのは。
「父さん!!」
「お父様...!!」
「父上!!」
妹達だった。妹達はそれぞれ目を見開き、しばらくしてボクと同じように父様に飛びついた。
「おぉっと......」
さっきボクが飛びついた時みたいにならないように、今度はちゃんと踏ん張りレルミス達を受け止めた父様。
起きたんだね、とか心配しましたよ、とか嬉し涙を流しながらそんな事を父様に言っていた。
「すまないな。寂しかったよな」
小さい子供をあやす母親か、って思うくらい、父様の顔は笑顔で満ち溢れていた。
やがてこのことを母様に伝えようと、妹達がすぐさまこの部屋から出て行った。ボクもそろそろ朝食の時間だと、その部屋を出ようとしたが一つ。言い忘れていた事があったので父様の方へ振り返り、父様を呼んだ。
「父様。ちょっとお聞きしたい事があるのですが」
「なんだ」と顔をボクの方に向け、父様はボクの次の言葉を待つ。
ボクが一番気になっていた事。それは。
「父様、気を失われる前に心臓付近を押さえていられましたが、どうなさったのですか?」
バハムートに体を圧迫されたからだろうか。それとも歳のせいだろうか。どちらにしろ、理由も無く心臓付近を押さえていたわけではないことは、今日までの父様の様子を見て分かる。
父様はそれを言われると、顔は笑顔のままで黙り込んだ。あれ、これ聞いちゃいけなかったのかな......?少し気まずかったボクは、
「あ、無理にとは言いませんよ?ただちょっと気になっただけなので」
と言い、その場を去ろうとした。が、
「いやそうい訳ではないのだが」
と後ろから投げかけられた父様の言葉に、再び足を止めた。
父様の顔はさっきと違って、戦場に出るときのような顔になっていて、少し怖い感じがした。だがすぐに笑顔に戻り、
「ただ......今話すと少し話が長くなってしまう。朝食を食べてからにしよう」
と言い着替え終わった父様はそのままこの部屋を出て行った。
ちょっと待ってとボクは父様を追いかけた。
今日の朝ごはんはいつもと同じ、コカトリスの目玉焼きと魔法で作ったパンだった。
「やっぱりこのパンは美味しいね!!」
ボクが今口にしているパンは一日だけ、精神の量を15%多くしてくれる優れた食べ物で、この城の料理人の「アリス=クライエ」の試作品らしい。
アリスさんは世界でトップに立つ女の料理人で、研究心が強く温和な性格の人間。世界一の美食家とも言われており、彼女は「神の舌」と謳われるほどの味覚を持っている。どんな味でも見極める事ができ、その舌のお陰で彼女の作る料理はどれも美味しく、そして芸術なのだ。
そんな彼女が今ハマっているのが、魔法で作る魔法料理。父様に許可を貰って魔法を授かったアリスさんは、最高に美味しい魔法料理を作るために日々研究をしているらしい。
そして出来上がったのがこのパンだ。
一週間前から朝の朝食に出始めたこのパンは、味はとても美味しくボク達に与える効果もどんどんいいものへと進化していっている。でもやっぱり最近始めたばかりだから、いつも夜に食べているようなアリスさんが作った料理よりかは、まだ程遠かった。でも美味しいよ。
「ごちそうさまでしたー」
ボクはすぐにパンを食べ終わり、食器を片付ける。レルミスは一分もせずに食べ終わり、庭園に向かっていった。ラルミスもボクが食べ終わる三分前に食べ終わり、母様の元へ妖術を習いに行った。そしていま食べ終わっていないのがエルミス。
エルミスは相変わらず少食で、小さいパンでも一口二口しか食べずにそのまま残しそのまま部屋に戻ってしまう。
ボクは兄として、ちゃんと育ってくれるだろうか、とか栄養失調になったりしないか、とか母親みたいなことを考えているけど、少食の割りに怪力だし病気も一切かからない。むしろしっかりと食べているボク達の方が病気にかかっている。だから時々、この子体どうなってるんだと思うときがある。
「ごちそう様でした」
やっぱり礼儀とか作法とかは兄妹の中で一番のエルミス。よく使用人の方々に作法などを教えてもらっているからな......。あぁ。見習わなきゃ。ボクは不意にそう思った。
やがてこのリビングに残されたのはボクと父様だけとなり、父様はさっきボクが質問した事に関して話を切り出す。
「さて......カルミス。さっきの質問に答えだが......」
父様が手を組みその上に顎を乗せ、まるで会議みたいな感じで座りなおした。ボクも立って聞くのは辛いので、父様が座っているところの机をはさんでの前の席に座った。
ボクの聞く準備も整ったので、父様が再び口を開き話し始めた。
「[創神の刻印]というのは知っているか」
「創神の刻印?」
どっかで聞いたことのあるような名前だけど、それがどんなものなのかは知らない。ボクは知りません、と答え父様にもっと詳しく教えてもらった。
「[創神の刻印]とは、創神の家系の血を引くものにある、漆黒の刻印だ。人によって刻まれている部分が異なり、私はこの鎖骨寄りの心臓付近にある」
父様が服の一番上のボタンを外し、その刻印を見せてくれた。確かにそこには、紋章みたいなのが刻まれており、少し青色に光っていた。
それを見せた後、父様はボタンを閉じ、再び話を始めた。
「この刻印には、絶対的な光の力が宿っており、その所持者は強力な光の力を使う事が可能だ。勿論、カルミスにもレルミス達にもな」
神に対抗できるような力が宿っているらしい。何せ創神の刻印は、創造神「ウラノス」の力が宿っている刻印だからね、と父様が言った。
父様が言うにはボクは眼帯をしているこの右目に、レルミスは左腕に、エルミスは左足の付け根の内側に、ラルミスは腰に刻印があるという。
そうだ。ボクだけが何故右目に眼帯をしているのか聞いてみようと、口を開こうとしたが、話せるタイミングじゃなかった。
「私があの時バハムートを封印する時に使ったあの光の力は、この刻印に宿る力なんだ。なんせ刻印に宿る光じゃないと、バハムートは封印できないからな」
本当、あいつも困った奴だなと父様は苦笑いする。ここ、笑っていいところなのかどうなのか分からなかったので、とりあえず笑わないでいた。
ボクのそんな顔を見て父様が、ここからが本編だと言った
「それで......あの時私が倒れたのは、この刻印の力に耐えられなかったせいだ。昔からこの刻印だけは使いこなせなかった私は、大人になってもこの刻印を使わずに強力な魔法だけを使って今まで生きてきた」
父様は自分の刻印を押さえながら、少し悲しげに話す。
父様も、弱いところはあるんだな。
「でも、結局使わなきゃいけない日が来てしまってな。仕方なくその力を解放した。そしたら......子供の頃に使っていなかった分、体に大きく負担がかかってな。その日からーーーーーー 一週間程目を覚まさなかったらしい」
その力を使っていくごとにつれて大分負担は軽くなったが、今でもその力に耐えられない、と父様は言う。
ボクも、耐えられないのだろうか。父様の話を聞いていて、その刻印の力は簡単に扱える代物じゃないという事がよく分かったが。果たして将来、この刻印の力を使う事になったらボクはちゃんと使う事が出来るのだろうか。使う事が出来ても、その力に耐えることは出来るのだろうか。ボクはそんな不安を抱えながら、右目を覆っている黒い眼帯をさすった。
その様子を見て元気付けようとした父様が、
「大丈夫。お前は私よりずっと素晴らしい才能を持っている。きっと上手く扱える」
と笑顔で言ってくれた。ボクはその言葉を信じて気を取り直す。
今回の倒れて理由はそれだな、と父様が言うと、この後色々と仕事があるといってそのまま去っていこうとしていた。ボクはその父様の服の裾を引っ張り動きを止めた。
「父様。もう一つ聞きたいことがあります」
「何だ」
さっき考えていたこの黒い眼帯の事。今すぐにでも聞きたいと、ボクは口を開き言った。
「何故ボクだけ右目に黒い眼帯を着けているのですか?」
いっつも気になっていた事。お風呂に入るときも外すのは禁止。ましてや寝る時も外すのは禁止と言われている。何かがあるに違いないと、ボクは思いっきり聞いてみた。
すると父様は急に真顔になり、ボクに厳しい口調で言った。
「............それは今話すべきことではない」
そう言って父様は去っていった。
あの顔、なんだったんだとボクは不思議に思いながらも、この眼帯を外したらどうなるんだろうという興味が沸いてきた。だが外したら父様に怒られそうなので、眼帯から手を離した。
現在は午前七時十一分。あと十九分で母様の妖術の特訓だと思い、ボクもその場を去っていった。
あ。と思えば明日はボクと妹達の誕生日だな。良い一日になるといいなぁ♪
そんなことを考えながら、ボクは母様の元へ向かった。
次回更新予定 4月16日