第四章 バハムート戦、創神の力
部活等の用事でかなり更新が遅れました事を、お詫びもうしあげます。
今回は大人組の男性陣(特に陛下)のカッコいい活躍を書きたかっただけです(笑)
嫌な予感がした。あの時、カルミス王子と話していた時。強大な力を感じた。この都市の外から。魔物ではない何かの気配。
「ハァハァハァ.....」
その感じが耐え切れなくて、ついに僕は走り出した。王子を置いていって。
「ハァハァ...ン゛ッ...!!」
何キロくらい走ったのだろうか。足が痛い。喉も痛い。というか喉渇いた。結構全力ダッシュをしたから、もうヘトヘトだ。
体力の限界が見えてきた。それと同時に速度が落ちる。いっそテレポートを使って一気に飛んで行きたいところだけど、テレポートは禁忌の魔法。使ったら僕でも死刑になってしまう。だから走る。
目的地に近づいていくと共に、鼓動を速くする僕の胸は、危険を知らせるかのように必死に叫んでいた。
目的地まであと少し。急に魔力が濃くなった。ここにいてはならないなにかがいる。僕はそう確信した。
周りを見ると僕以外は誰も来ていないようで、目の前に広がるのは草原の景色ばかりだった。
にしても、僕がさっきから気になっているようなモンスターがどこにもいない。影すらも無い。僕の勘違いだろうか。
「......」
僕は念のため、辺りをくまなく探した。匂い、音、気配。できる限りのものを全て感知した。結果。
気配はするが、魔物の匂いはしないし、足音も全く聞こえなかった。僕は諦めた。自分の勘違いだろうと。そう考えて。
でもそうじゃなかった。確かにいたのだ。
透明になっている「怪物」が。
僕はもう帰ろうとくるっと回って背中を向けた。その時だった。
「!!」
背中に何かが当たったような気がした。その次の瞬間には背中に激痛が走り、僕は立っていられなくなった。
「っ~~~~!!!」
痛すぎて声が出ない。とにかく僕はのたうちまわり、痛みを我慢した。神聖魔法さえ出せないような痛みで、僕は気を失いそうだった。
しばらくして、痛みに慣れた僕は、神聖魔法を出し、背中の傷を癒した。
「[癒の女神、その光をもって傷ある者に 祝福を]」
詠唱を唱える。
「[慈愛の光(ライト オブ カムパッシオン)]」
魔法名を答えると、僕の傷に光が集まり、やがてその傷を癒した。
痛みがひき、大分楽になった僕は、そのまま後ろを見る。誰がこんな事をやったのか確かめるために。するとそこには。
とんでもない光景が、広がっていた。
「こ、これはっ...!!」
辺り一面、草が真っ黒に染まっていたのだ。まるでこの世の終わりかのように、草は燃え尽きていた。
僕は震えた。怖かった。僕達エルフ一族にとってとても大切な自然が、こうも容易く滅びてしまったことに。
恐怖だ。終わりだと、そう思った。でもその気持ちと同時にこんなことをしたやつに復讐をしてやろうという気持ちも出てきた。
誰だ。誰がこんなことを......!!
エルフの血の性が、僕の心に火をつける。でもそれも、次の出来事で一気に消え去る。
僕がいた場所に大きな影が突如現れた。僕はそれにビックリし、尻餅をついたが。その影の形を見て、すぐ誰なのかが分かった。
「これ......もしかして...!!」
そう思って、僕は上を見た。
「あ......」
予想的中。ここにいてはならない存在が、僕の上にいた。
まさかこいつと出会うなんて......不幸で、不運で、最悪だ。
お前か。お前だったのか。
「闇竜神バハムート......!!」
「師匠、どうしたのかな......」
只今、午前六時丁度。僕は会話の途中で去っていった師匠の事が気にかかっていた。なんか危険察知みたいな顔していたけど......。
「あ、父様」
あれこれ色々考えながら歩き続けていると、いつの間にかボクは玉座の間に来ていた。玉座には少しやつれてしまった父様がドカァ、と座っていって、昨日散々酷い目に遭ったのか。生気が無いような感じだった。うん。なんかゴメン。
「おぉ。カルミスじゃないか。どうしたんだい?」
いつもと全然口調が違う父様。生まれ変わったかのような笑顔でボクに用を聞いてきた。ゴメン、父様。本当にゴメン。
「い、いいえ。ちょっと考え事をしていたらいつの間にかここに来ちゃってて......」
その父様が向けてくるさっきのこもった笑顔に、ボクは少し怯えながら話した。何でこんな事になったんだよ。母様何した?
「そうか。あんまり考えすぎると、寿命が縮まっちゃうよ」
「そ、そうですね」
さっきから笑顔しか見せてこない父様。本当止めて、その笑顔!!
ボクはそんな父様の元を今すぐ離れようと、「あの......ボクこの後用事がありますので」と嘘をつき、そのまま去ろうとした。
「待ちなさい、カルミス」
だが、父様に呼び止められ動きを封じられた。そのまま無視して猛ダッシュで逃げることもできたが、そんな事できるような雰囲気じゃなかった。
「私昨日の事、ハッキリ覚えているんだよね」
「!!」
やっぱり昨日の事で怒ってるんだ。別にボクは正しい事をしただけだよ!?父様のためにも、何より家族のためにも。ていうか国や世界のためにもこうしなければいけなかったんだよ!!なのに何でボクが.........。
考えれば考えるほど悪口ばっか出てくるボクの心を、いつか口に出して言いそうだったのですぐさま止めた。
「......」
「......フフッ」
怖いよ、怖いよこの人!!誰か助けてぇ~~!!父様の不気味な微笑みに、ボクは逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
ボクと父様の間にしばらくの沈黙が流れる。父様が今から言う事はボクは分かっていた。それは。
ーーーボクの生死を分ける、運命の判決!!ーーー
何?大げさすぎるって?いや、大げさなんかじゃないよ。昨日ボクは父様に死ぬのと同じ位な目に遭わせちゃったからね。そのお返しとして、だと思う。ボクを呼び止めたのは。
体がまるで凍り付いてしまったかのように動かなく、そして子犬のように少し震えている。冷たい汗が頬を伝い、この雰囲気に耐えられないかのように心臓の鼓動が上がる。
ヤバイ。この状況、マジでヤバイ。
カッ
「!!」
父様が玉座から降りた。ボクのところに来るためだろうか。それはまだ分からない。
カッカッカッカッ
「!!!」
ボクのところに、徐々に徐々に近づいてくる父様。ボクは息を飲み、ただ父様が口を開くのを待っていった。
やがて、父様がボクの目の前に止まると。急に抱きしめてきた。
「ありがとう!!カルミス!!」
「へ、へ?」
急な出来事にボクは戸惑いを隠せず、勝手に手が父様を引き剥がそうとしていた。でも父様の方が力が強く、ボクの力では到底引き離すことはできなかった。
「な、なんで?」とボクが質問すると、父様は
「今後の私のためにも、今後の家族のためにもやったんだよね!!ありがとう!!」
といってよりいっそう抱きしめる力を強めた。なんかよく分からないけど......褒められた?
「あはは......」
とりあえずボクは苦笑いして、その場を回避した。
すると父様の腕にあばら骨が折れそうなくらいの力が入り、ボクは一瞬呼吸ができなくなった。
「ちょっ......父様...!?」
「あぁ、ありがとうなカルミス!!」
そしてまた力が入り、今度こそ死にそうな勢いだった。うう......。
そんなこんなと色々していると。
「陛下!!」
「ん?どうした」
勢いよく扉を開けて入ってきたノエル将軍。何があったんだろう。父様が将軍のところに向かって話を聞きに言った。すると、父様が
「それは本当か!?」
と驚いた声で将軍に質問を投げていた。
「はい、これは嘘偽りのない真実です」
将軍がキッパリとそう言った。すると、一気に父様の顔が青ざめヤバイという感情を表に出した。
「ど、どうしたのですか?父様」
とボクは顔を覗き込みながら聞くと、父様は深刻な顔をしてボクに言った。
「カルミス。落ち着いて聞いてくれ」
低い声音。戦場にでも旅立つかのような感じだった。ボクはそれに対し
「は、はい。何でしょう、父様」
と返事をすると、俯きながら父様が
「ここから遠くの西方面に、[バハムート]が現れたらしい」
と衝撃的な言葉を発した。
「バハムート!?バハムートって、あの...!!」
バハムート。本で読んだことがある。「神の竜」と呼ばれるその幻獣は、ここからかなり離れた南側の魔族達が住む魔界にある禁忌の洞窟に強固な鎖で巻かれ封印されているといわれる。その竜の鱗はとても硬く、たとえアーサー王が持っていたという聖剣「エクスカリバー」だとしても貫くことはできない硬さで、売れば億万長者も夢ではない程の価値がある。それを狙いに来る人間がその洞窟に入るらしいが、誰も生きて帰ったことはない。永遠の闇に狂い死んだか。それとも、その洞窟の最深部にいるバハムートに引き裂かれ殺されたか。ただ、生存していないのは確かだという。
バハムートが通れば、草木は枯れ、湖も枯れ、全ての生き物の生気を奪う。
そんなやつが、今ここから西方面に現れたのだ。
「それ、危ないじゃないですか!!」
「あぁ、危ない。だが、問題なのはそれだけじゃない」
「え...?」
ボクが慌てて早く行ったほうがいいんじゃないかと父様を促すと、父様がそれだけじゃないと言った。
それだけじゃないって、どういう......
「言っていいかどうかは分からないが.........今。ーーーーーーお前の師匠、アンブレラがそいつと戦っているそうだ」
え...。
「それ......本当ですか...?」
「あぁ」
そんな最凶で最強のやつに、師匠が......?
「他に、いないんですか?戦っている人」
「いない。アンブレラだけだ」
あの時、師匠が去っていった理由。それはバハムートの存在に気づいたから。だから走って止めに行った。
あの時あそこであの場所で師匠を止めていれば、師匠は戦うことは無かったかもしれない。
こういう場合、どうするべきか。
それはーーーー
「父様。ボクもバハムートのところへ行かせてください」
「!!子供が行くような場所じゃない。やめておけ」
「いいえ。行きたいです。いや、行くよ。ボクは」
ボクの無謀な発言に父様は止めようとしたが、ボクはそれに屈しず、きちっと決意を固めた。
自分の師匠が一人で頑張ってるんだ。バハムートのところにいって戦うことなど、師匠が死んでしまうよりかはマシだ。
ボクは決めた。師匠を助けに行く!!
そのボクの決意を見て、止めるのを諦めたのか
「はぁ......足手まといにならないようにするんだぞ」
と許可を出してくれた。将軍が「いいんですか!?」と驚きの声をあげていたが、父様が「いいんだ」と言って将軍の肩に手を置いた。
昨日剣を剣術で壊してしまったので新しい武器に入れ替えといた。前使っていた剣よりもものすごい軽く扱いやすい短剣。右側の腰には複数のナイフが装備されている。服は...このままの王族の服でいいか。
「ではノエル。すぐに兵士を集めて出陣しろ」
「陛下はどうなさるのですか」
「私はカルミスと共に先に行っている」
「分かりました。では現地で合流しましょう」
外でモンスター接近の笛が鳴り響く。ボクは初の戦場。
父様と共にマントをなびかせながら、ボクは出陣した。
「[光よ 闇を消し去り我が道を切り開けーーー光騎士の太刀(スヴォルド オブ ライトナイト)]」
ズザザザザザァ
「コノ命知ラズメ。自分デ自分ヲ滅ボシテドウスル」
こいつと遭遇してから、かなりの時間が経った。体力ももうそろそろで底をつきそうになり、魔力も精神ももうすこしで切れそうだ。少しヤバイかもしれない。
何故こいつと戦う事になったのか。それは約一時間前に遡る。
僕が、バハムートと遭遇した時だった。
「何故......君がここに...!?」
「私ヲ封ジタ奴ニ復讐ヲシニ来タ」
「どうやって抜け出したんだい?君は強固の鎖で巻かれ封印されていたはずだよ」
「アンナモノ、神ノ竜ト呼バレル私ニ敵ウハズガナイダロウ?自力デ壊シタマデダ」
「そんな事できるはずがないじゃないか。あれは君には壊せない鎖だよ?壊せたとしても、何故それを今までやらなかったの、って話になるだろう?」
「.........フン。エルフゴトキガ神ニソンナ口ヲ聞くノカ。イイ度胸ダナ。.........ダガ貴様ニ構ッテイル暇ナドナイ。ソコヲドケ」
「どかないよ。ルイン......ーーーーーー陛下のところには絶対に行かせない」
「.........ソイツニ随分忠誠ヲ誓ッテイルヨウダナ...。...面白イ。相手ニナッテヤロウ」
という感じで、今に至る。圧倒的な力の差で、僕は今死にかけている。こいつの力を決して甘くは見ていなかった。けど。
ーーーーーー神の力がここまでとはーーーーーー
自分の力に自信を持ちすぎた故に油断し、失敗してしまった。こいつを足止めする力ぐらいはあると。その自信が己の力を最大まで出す事ができなかったのだ。
こんな姿、カルミスやルインには見せられないな......。
「ホウ......余所見ガ出来ル程ノ余裕ガ、貴様ニハアルノダナ!!」
「あがっ......!!」
バハムートの鋭い爪が、僕の腹部に一線を引いた。勿論こいつよりも何倍も小さい僕の体は、あっけなく数十メートル先まで飛ばされた。地面を凄い勢いで転がり、やがてスピードが落ちていき止まる。
「う”ぅ......ぐはっ...!!」
「オイドウシタ、モウ終ワリカ?マダ物足リナインダガ。...サッキマデノ威勢ハドウシタンダ、エルフ」
バハムートが僕の元にやってきて、僕の傷だらけの姿を見て嘲笑していた。
あぁ。僕に力が......神と同じ力があったら。今すぐにでもこいつを消し炭にできていたのに。
もう、手遅れだ。そんな夢みたいな事を思っていても、僕は今から殺されるんだ。それに、骨が折れていて動かせない。魔法一つすら出せそうにない。
バハムートが、口付近に強大な魔力を溜めて僕を殺す準備をしていた。僕は戦意を無くしたかのように、そのまま。魔法が放たれるのを待った。
「ココニイラレテモ目障リダ。跡形モ無ク消エテモラウゾ」
せめて......カルミスが大人になるまで生きたかったな......。僕はそんなことを小さく呟きながら、目をゆっくり閉じた。
死ぬのか...。そう思っていたが。
「グギャァアアアァァァァッ!!」
僕が死ぬ前に、バハムートが一瞬にして致命傷を負った。目にも止まらぬ速さで。そして次には。
「アンブレラ!!」
聞き覚えのある声が、僕の耳に入ってきた。
「ノエ......ル......?」
「大丈夫ですか!?こんな傷だらけになって......!!すぐに治癒魔法をかけてもらいますからね!!」
フワッと持ち上げられるような感覚がし、僕はそのまま運ばれていった。
死ななかったの......僕...。上手く状況が飲み込めなかった僕は、ただされるがままになっていた。
しばらくして、馬車のような荷台に乗せられると、すぐに治療班か誰かに治癒魔法をかけられた。相当傷が酷いのか、治療班の顔が険しくなっていた。
数分してもなかなか戻ってこない僕の体力。黙々と治療を行っているけど、汗をかいている治療班の人。ただ時間が過ぎていく。瞼が閉じそうで閉じない。
こんな所をカルミス達に見られたら何を言われるだろうか。それだけがただ怖くて、目を閉じる事ができなかった。
すると。
「師匠!!」
「!!」
いつも聞いている声。可愛らしい声。幼い声。
「カル...ミス...」
僕はその声の主の名前を言った。すると主は。
「そうだよ、カルミスだよ!!」
と言って僕の頬を優しく撫でてくれた。
何故ここにいるの、と聞きたかったけど、今の僕には何の言葉も口にする事はできなかった。
「大丈夫だよ、師匠。今からボクと父様が、あのバハムートを倒しにいくから」
倒しに......いく...?この子が?それは駄目だ、と心の中で叫んだ。大人の僕でさえ敵わなかったんだ。子供の君に勝てるはずがない...と。いってやりたかった。でも。
「ボクが、師匠の仇をとってくるからね!!だから安心して!!」
その言葉に僕は心を打たれ、言う事ができなかった。
「うん......よろしく、頼むよ......」
僕はそれだけを言って、意識を失った。
「痛イナ......貴様、私ノ体ニ何ヲスル!!」
「何をするのはこっちの台詞ですよ。ーーーーーーうちの魔導師になにしてるんですか」
ノエル将軍とバハムートがお互い向き合って対峙していた。バハムートの方はさっきお見舞いしたやったノエル将軍の剣術「光耀の剣」が直撃したらしく、体に大きい切り傷が綺麗に縦一線にあり、そこからどす黒い血が滝のように流れていた。その返り血が、ノエル将軍にも少しかかっていて、とても残酷な画になっていた。
「貴様、サッキノエルフノ仲間カ...?仲間ナラバ消エテモラオウ!!」
バハムートがいきなり雄たけびをあげ、将軍に襲い掛かった。それに対し、将軍は少し笑いながら
「笑わせないでください。ーーーーーー死ぬのは貴方ですよ、バハムート」
と言って、バハムートの攻撃を受け流した。
「不敗の将軍」と謳われるノエル将軍が、例え相手が神であろうと負けるはずが無い。ボクはノエル将軍を信じた。
「剣神の力、思い知りなさいーーーーーー神剣波動魔!!」
「グヌゥッ!?」
「神剣波動魔」。神の剣を召喚し、そこから溢れる波動を衝撃波のようにして相手にぶつける、剣神級の技。そう、将軍は剣の腕は剣神級なのだ。
どうやら、その技が応えているらしく、バハムートの動きが鈍くなった。でも。
「クハァ......コンナモノ、スグニ治セルワッ!!」
「!?」
バハムートの体に刻まれた傷が、みるみるうちに治っていき、やがて跡形も無く傷が消えていってしまった。その一瞬の出来事にボクはあっけにとられ、その場で固まってしまった。
「自然治癒、できたんですね。貴方」
そんなことにいちいち驚かない将軍。その精神、欲しいよと改めて思った。
「私ハ神ダゾ?コノクライ出来テ当然ダ」
バハムートが自慢だといわんばかりに威張ってノエルを圧倒させようとしていた。でもノエル将軍はそんな事など無視して、次から次に攻撃を仕掛けていった。
「だったら、再生する暇を与えなければ済む話です」
その細身の体を使って、軽々と空中に舞う将軍。まるで美しい白鳥のようだった。
「小癪ナ......!!」
その行動がやつの怒りに触れたのか。バハムートからものすごく強力な闇のオーラが放出されていった。それに耐えられなかった将軍が膝をついてしまった。
「っく......ハハッ、やっぱりすごいですね。神の力というものは。......久々に楽しくなってきちゃいましたよ」
軽度の戦闘狂の将軍。この戦闘を楽しんでいるようで、顔が笑っていた。
「貴様、私トノ戦闘ヲ楽シンデイルノカ?フン。神ヲ目ノ前ニシテオイテ、ヨクソンナ事思エルナ。私モ随分ナメラレタモノダ...。ダガナ人間」
そんな将軍の前でバハムートが何かをしようとしている。魔法だ。強大な魔力がこいつの口元に集まっていた。きっと魔法を打つ気なんだろう。あんな至近距離で。
あんな至近距離だったら普通に避けられるじゃんと思いながら、将軍に逃げてと念を送った。だが、将軍は避けることもなくその場に座りっぱなしでいた。
「何してるんだよ!!将軍!!」
ボクは思いっきり叫んだ。そのままでは死んでしまう、と。でも将軍はこちらには反応せずに、ただバハムートを見つめていた。
「将軍!!」
もう限界だ。将軍を助けに行こうと、ボクはついに走り出した。すると。
「こっちだ、バハムート!!」
誰かの声が聞こえた。ボクは駆け出していた足をとめ、声が聞こえた方に向いた。
「父様!!」
そこに立っていたのは、右腕を上げた父様だった。さっきまでどこにいたのかはしらないが、良いタイミングで来てくれて良かった......。
「オ、オ前ハッ......!!」
「遅れてすまない、ノエル!!」
「全然大丈夫ですよ。無傷ですし」
そうか。将軍は父様が来るまで時間稼ぎをしていたのか!!父様と将軍の作戦が少し分かったボクは、なんか嬉しい気持ちになった。
そのまま父様がバハムートの方向に足を進め、後ろにいたフェリクスさんと一緒にバハムートの元へ向かった。その間にいたボクはどうすればいいか迷ったが父様が、
「カルミス、援護を頼む」
と小声で言ってくれたので、ボクも父様についていく事になった。
フェリクスさんが心配そうにこちらを見ていたが、ボクは大丈夫ですよ、と満面の笑顔をみせてやった。それを見て安心したかのようにフェリクスさんが安堵の溜め息をつき二度とボクの方に振り返ることは無かった。
やがてバハムートの位置から数メートルぐらいの距離で止まった父様は、バハムートの顔を見て微笑んでみせた。
「久しぶりだな。あれから何年ぐらい時が経っただろうか」
「ヤッパリナ......オ前ガアノ時私ヲ閉ジ込メタ餓鬼ダナ...?」
バハムートが怒りの形相で父様を睨みつけ、雄たけびを上げた。近くで聞くとかなりうるさいので、ボクはその声にひるんでしまった。そんなものに一切ひるまない父様とフェリクスさんはただじーっとバハムートを見つめていて、笑っていた。
「ン?...オ前ハ確カアノ時コイツノ側ニイタ奴カ?アノ話ニナラナクテスグ半殺シニ出来タ」
「おい、てめぇいい加減にしろっ!!」
バハムートの挑発にあまりにもイラついてしまったフェリクスが前に出そうになった。だが父様が手を横に出し、彼の動きが封じられた。
それにもっと怒りを感じたフェリクスは父様の腕をどかそうとしたが、父様はいっこうにひこうとせずただ冷静に
「そう怒るなフェリクス。こいつの挑発に乗ってしまっては相手の思うつぼだ」
と言っていた。その言葉に冷静さを取り戻したのか、フェリクスさんから出ていた殺気が収まった。このまま父様が止めずにいってたら、きっと取り返しのつかない事になっていただろう。それだけは避けれて良かったとボクはホッと息を吐いた。
バハムートがそんなボク達の行動を見て舌打ちをついた。やっぱりコイツ、フェリクスさんの短気なところを利用するつもりだったんだな......!!
「どうするんですか、父様」
「どうするもなにも力ずくで元の場所に戻さなければならないだろう?コイツの狙いはきっと私だ。だからフェリクスとカルミスは援護だけで良い」
淡々と話す父様。恐れなど一切感じておらず、こうなることを分かっていたかのように説明していた。
ボクとフェリクスさんは援護、父様が一人でバハムートに攻撃を仕掛けるそうだ。きっと父様なら出来る。そう信じてボクらは戦闘を始めた。
「アノ時ノ恨ミ、晴ラシテヤルッ!!」
「言ってくれるじゃないか。前回と同じ結果にならない事を祈るよ」
一人と一匹が激突する。その衝撃で爆風が起き、ボクは吹き飛ばされそうになった。でもフェリクスさんがボクを抱きしめてくれたから飛ぶことは免れた。
父様は目にも留まらぬ速さで剣を振るい、魔法を発動し、バハムートを押していった。一方バハムートは、父様の攻撃を全部受けていた。剣は分かるけど魔法まで効いていないのか。
「その態度、相変わらずだな。バハムート」
「オ前ハ変ワッタヨウダナ。前ヨリモカナリ力ガ弱マッテイルゾ」
「そりゃぁ、前から500年以上も経っているんだ。力が衰えるのも無理はないだろう?」
「ドンナ種族デモ、己ノ寿命ニハ逆ラエナイノダナ......ヤハリ愚民ハ愚民ダナ...!!」
バハムートが本気を出した。口から魔法を放ったり、大きな尻尾を振り回したり、雄たけびを上げたり。だがそれを全部、父様は避けていった。
「アマリ手間ヲカケサセルナ。コッチハ早ク済マセタインダ」
「だったら即死魔法なりなんなり発動すればいいじゃないか。それとも、そんな魔法すら出す事ができないのか?」
「ウルサイッ!!一回私ニ勝ッタカラトイッテアマリ調子ニ乗ルナヨ!!」
バハムートが翼を羽ばたかせ、父様を吹き飛ばすように竜巻を起こした。油断していたのか、父様がそれをもろに受け、その竜巻に巻き込まれてしまった。
「父様!!」
ボクは父様を助けに行こうと竜巻を止めようとしたが、ボクの前にフェリクスさんが立ちはだかり道を妨げられた。
「どいてください、フェリクスさん!!」
ボクが必死にフェリクスさんをどかそうと押すが、ボクの力では大人など押せるはずも無かった。
そんなことをしていると、ふとフェリクスさんの背中から紅い炎の大きな翼が生えてきて、飛ぼうとしていた。そして、ボクがやろうとしていた竜巻を止めるのを、フェリクスさんがその翼を羽ばたかせ竜巻を弾き返した。
跳ね返された事に驚いたバハムートは、竜巻を消し去り自分を守った。
砂埃が収まり元に戻ったボクの視界には、バハムートに体を握り締められている父様とそれを見て笑っているバハムート、それを止めに入ろうとしているが体が動かず硬直しているフェリクスさんが映っていた。ボクの視界が戻る前に、この二人と一匹は戦っていたらしく、父様が死にかけていた。
「案外簡単ニ捕マエラレタナァ......最初カラ即死魔法ヲ出シテオケバ良カッタ......ダガ、即死魔法デモ貴様ハ死ナナインダナ。シブトイ奴メ......」
「っ......ハッ...世界を統治する王だからな......死んでしまっては駄目だ、ろう?」
父様が苦しそうにしながら笑っていた。このままで父様が死んでしまう。そう思ってバハムートのところへ向かおうとした時だった。
ーーーーーー今だカルミス!!ーーーーーー
頭の中に呼びかけるように声が聞こえた。
ーーーーーー父様!!ーーーーーー
それが誰なのかすぐに分かったので、ボクも同じ手段で会話をした。
ーーーーーー私がバハムートの注意をひきつけているうちに、さっきノエルが放った「光耀の剣」を放て!!ーーーーーー
ーーーーーーでも、ボクはまだ剣帝までしかいけていないですよ!!そんな剣神の技なんて出せるわけ無いじゃないですか!!ーーーーーー
基本、自分の能力よりもさらに上の級の技は出す事が不可能。魔法道具と使えば出す事が可能だが、自力で出す事はできない。もしできたとしても、その力に耐え切れずに気絶、もしくは死んでしまうことになる。
それを父様はやれと言っているのだ。そんなの無理に決まっている。
他の手段を考えましょう、とボクは別の案を考えようと提案した。だが父様は諦めずに
ーーーーーーお前ならできるはずだ、カルミス。誰も成し遂げることのできなかった短期間での無詠唱魔法の習得、上級から剣帝への飛躍。全て奇跡に近いことなんだ!!ーーーーーー
ーーーーーーで、でも......ーーーーーー
やっぱり自分の限界を超えることは出来ないと思う。今まで二つの異例を起こしてきたボクだけど、今回ばかりはできそうにない。不発で終わるかもしれないし、できたとしても死ぬ可能性だってあるわけなのだから。たとえボクがやってあいつが倒せるとしても、自分の命を投げ出したくない。怖いんだ、死ぬのが。ボクはそんな弱い奴。そんなボクを笑ってください、父様。
ボクは俯き、そのまま固まった。死に怯えている自分の心に嘲笑しながら。ボクは弱い奴だ、と自分を責め続けた。
体が動かず、その場に立ち尽くしていると、そのしばらくの沈黙を破るように
ーーーーーー未来の国王が、そんな情けない奴でいいのかーーーーーー
父様が少し低い声でボクに言ってきた。
未来の王。そう、ボクは次期国王の候補者。現国王が引退したあとにある「王選」までに、各国の王子王女達は様々な事を学び、鍛えなければならない。未来の王はその王選で様々な王子王女達と対戦し、勝ち上がった者のみがとれる座なのだ。今からこんなことで臆病になってちゃ、王の座など勝ち取ることは不可能だ。
だからボクは。
ーーーーーーやってみます。ボクーーーーーー
自分の限界を超えてみよう。それでこの世界が救われるというのなら。あの災厄とも呼ばれる神に勝てるのなら。
やるしかない。やろう。
ーーーーーーさすが私の子だ。早めに放ってくれよ。そろそろ体力がヤバイからなーーーーーー
父様はそれだけを言い残して、会話を止めた。
ボクはそのまま腰にある鞘から剣を抜き、両手持ちで構える。父様とバハムートの距離が近くて父様まで斬ってしまいそうな予感がしたが、とりあえず父様が死んでしまうウ前に早くバハムートを殺さなければ。
剣を握り締めている手に力をいれ、剣を落としてしまわないようにする。いつも技を出している時よりも神経を集中させ、剣にいつもの倍魔力を溜める。ゆっくり目を閉じ創神流の構えをする。
イメージだけど、ひとまずこれでいいかな?
「[光耀の剣]」
技発動。不発すると思った剣術。綺麗な一閃となり、バハムートのほうへ飛んでで行った。凄い速さで飛んでいくその光は、バハムートの体を一刀両断とばかりにめり込んでいき、やがて消えていった。
「グガァァウゥゥゥゥウッ!!??」
バハムートの悲鳴が響く。耳の鼓膜が破れそうな感じで、ボクは思わず耳を塞いだ。
やがて、なにかが倒れたような音がして、周りにあった混沌が消えた。
静寂に包まれた草原。風も吹いていない。鳥のさえずりも聞こえない。あまりの静けさに少し嫌な予感を感じたが、どうやら倒せたみたいだ。
「倒した......倒したよ!!父様!!」
あまりの嬉しさに、ボクは父様に向かって大きな声で叫んでしまった。その場でピョンピョン飛び跳ね、一人で達成感を味わっていた。だが、その喜びもつかの間。
「カルミス!!避けろ!!」
そんな声が聞こえて、ボクはえ?と呆気にとられていた。次の瞬間、
ドゴォオォォォオォォッ
なにかに当たり、ボクは一気に突き飛ばされていった。やがて大きな岩にボクの体が激打し、ボクは呼吸困難を起こして倒れた。
「ぐはぁっ......!!」
吐血が止まらない。どこかの臓器が破裂してしまったようだ。大量に鮮血が出てきて、痛い。心臓付近が痛かった。
何だ...?何が起こっているんだ?とボクの頭が混乱状態に陥り、世界が揺れているかのように視界がぶれる。
今にも意識を失いそうで、頭がクラクラする。
体が動かない。骨が折れた。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
そんな状態のボクに話しかけてくる誰かがいた。
「オ前、何者ダ。タダ者デハナイナ」
バハムートだった。ボクの攻撃が当たったのか、背中から大量の血を流していた。今のボクの姿勢と状態からじゃ、バハムートの顔がどうなっているか全く分からなかったが、でもきっと怒っているだろう。そう確信した。
「う...ぁ...」
「痛スギテ声モ出ナイノカ。軟弱ダナ」
バハムートに笑われ、また蹴られる。笑われ蹴られる。その繰り返しをしばらく行われていて、とうとうボクは仮死状態に陥った。呼吸が止まり、目は見えるのに生きていないような感覚で、ボクはバハムートの顔をじっと見つめていた。
「マァイイ。アイツノ子ダロウ?ナラ殺スマデダ」
バハムートの口付近に魔力が集まり、それがやがて魔法になっていく。仮死状態のボクは抵抗する事もできないまま、ただそれを見ていた。
まだ一年しか生きれてない.........。
「死ネ」
そう言われた次には、魔法が発動されボクが木っ端微塵になる。......はずだった。
「何ッ!?」
放たれた魔法が、何者かによって食い止められた。死にかけのボクでも微かに感じ取れた魔力から誰なのかを分析する。
ーーーーーー父様......?ーーーーーー
父様が食い止めていた。障壁を張って。それと同時に地道に戻っていくボクの意識。きっと神聖魔法で回復してくれたのだろうと、ボクはその時思った。
やがてボクは手足が動くところまで回復し、ゆっくり立ち上がった。魔力はさっきの剣神級の技を使った後のままで、どうやら魔力までは回復できなかったようだ。
ボクは目の前の父様を見た。後ろからじゃ、表情が全く見えない。声をかけようと父様を呼びかけた時。
「父様...」
「バハムート」
ボクの呼びかけに被せるようにして、父様がバハムートの名前を呼ぶ。
そして次の瞬間には。ボクの背筋が凍りついてしまうような、今まで聞いたことのない父様の声が聞こえてきた。
「私の息子に手を出すな...」
ゾクゾクッとボクの背筋が震え、ボクはその場で立ち尽くす。シヴァの氷の中に入れられた気分だった。とても冷たく、とても怖い。恐ろしかった。
「カルミス。離れておきなさい」
でも次喋ったときはいつもの父様の声で、ボクは少しホッとした。
「はい......」
ボクは父様に言われたとおり、少し遠いところに移動した。そして、そこで父様を見守る。
「貴様......コノ光ッ...!!」
「封印の時間だ。バハムート。前と同じように、苦しい封印をしてやる」
「ソ、ソレダケハ勘弁シテクレ!!」
バハムートが、さっきまでの威勢を無くして、怯え始めた。父様は両腕で障壁を張っていたのを右手のみに変え、その右手から大量の光を放出した。するとさっきボクにトドメをさすためにバハムートが作ったあの大きい魔法弾が消え、障壁も張る必要も無くなった。そして障壁も消え、残っているのは、バハムートの少量の闇と父様の大量の光だった。
父様の右手に、周りの光が集まる。その光がまるで生き物のように動き始めて、やがてバハムートを攻撃し始めた。
「グァッ!!」
その光に抗えないバハムートはなす術も無く、大量の光を浴びた。鱗が剥がれ落ち、皮膚は焼け。火傷のような状態になった。
すると父様が、再生する隙も与えずに右手をバハムートに向け、言った。
「[闇よ 主の元へ還れ 光の導きに従え 我らの言葉に応え その怒りを静めろ]」
詠唱だ。父様は魔法を放とうとしている。きっと封印魔法だろう。
父様が紡ぎだすその言葉に応えるように、光が星の形になっていく。
「[災厄の竜よ 神の竜よ 闇の主よ その強大な力を抑え 元いるべきところへ還れ]」
徐々に徐々に完成していくその魔法は。美しく、そして眩しかった。
バハムートは光の鎖に捕らえられ、動きを封じられていた。
「[全てに宿る光よ 我が身に力を授け 今こそ破滅に終止符を]」
世界中から来た光が父様の周りに集まり、闇などには屈しないオーラを放つ。
そして。
「もう出てくるな、バハムート」
「ヤメロォォオオオオォッ!!」
「[創神の光(ライト オブ ザ クリエイション ゴッド)]」
魔法発動。強い光が一気に放たれ、バハムートに襲い掛かる。まるで神の力を見ているようだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やがて光が消え、闇も消え、バハムートも消えた。まるで何も無かったかのように、風が吹き、小鳥がさえずり。
全てが、終わった。
「は......」
ボクは嬉しさを通り越して、胸が張り裂けそうなくらいだった。ノエル将軍も、フェリクスさんも。そして父様も。
ここで嬉しさを分け合って仲良くみんなで帰るつもりだった。そうだったのに。
バタッ
「え......」
父様が倒れた。
次回更新予定 4月9日
途中までカルミスの年齢が一歳だったことを忘れていて、陛下が死に掛けているところが一歳の思考とは思えない文章になってしまいましたが、ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。
これからも応援、よろしくおねがいします。