第二章 無詠唱魔法取得、そして飛躍
前の投稿からかなり期間が空いてしまいましたが、最後まで見てくれると幸いです。
ガタガタッガタガタッ
まるで嵐が来たかのように、窓が凄い勢いで揺れる。気になって外を見れば、雨雲一つも無い快晴。嵐が起こる条件など揃っていない。
誰かの悪戯か...?と私はそう思ったものの、そうではなかったようだ。外の風をよく視ると、魔力が流れているのが視える。千里眼を宿している私の眼はそれをしっかりと捉えていた。
「まさか...」
まさかと思い、私は窓から飛び降りようとした。そこまで高くはないが、もう歳も歳だから骨が脆くなってる可能性アリとは思った。だが、今はそんな事を気にしてる場合はない。早く。一刻も早く。
「グラウンドに行かなければ...」
私は勢いよく窓から飛び降りた。先ほどの強風は既に収まっており、強制的に方向を変えられることはなかった。
浮遊魔法を使おうか...。そう思ったが、地面は目の前。私は浮遊魔法をを使うのを諦め、そのまま綺麗に着地...するつもりだった。
「っ......!!」
地面に足がついた瞬間に右足の間接からバキッ、という骨が折れた音がした。やはり。骨が脆くなっていると、そう思った。
死ぬほどの激痛が右足に走る。痛すぎてまともに魔法も出せない状態だった。
「あぁ...もう...っ!!」
この苦痛にイライラした私は馬鹿デカイ溜め息をつき、無理矢理体を起こした。
足に力が入らない。重傷だ。千里眼で右足の関節を見ると、折れているのがはっきりと分かった。それを見て、私はそっとそこに触れ、静かに呪文を唱えた。
「[イアソの癒光傷ある者に安らぎを]」
何とか中級神聖魔法を発動し、右足を癒す。それと共に、右足の激痛が治まり歩けるほどまでに回復した。
フ~~、と一息つく。そして私は再び足を進めた。
「全く...」
最近体を鍛えていないからな...完全に鈍っている。
王になってから、私は忙しくて剣の素振りすらできる暇が無かった。最近はそうでもないが、やっているのは魔法の鍛練だけで、体力に関しての修行は全くやっていない。やろうやろうと思ってはいるのだが、体を壊したくないという恐怖心から体力の鍛練を避けてしまっている。
これでは、いざとなった時に動けなくなる。そう頭では分かっている。だが体がその指令に従ってくれない。
ようは、もう歳なのにそんなハードなことできるか、ていう話だ。ハイエルフは不老不死だがな。ハハッ。
「着いた...」
グラウンドに到着。玉座の間から超最短距離で来たはずだが、なんか玉座の間から出てきてから約30分ぐらい経っているような気がするのは気のせいだろうか。
サクッサクッ、と芝生を踏む音が鳴る。辺り一面葉や花などでいっぱい。風が過ぎ去った跡が芝生に残されている。これを見て、私はここからあの風が出たのだろうと確信する。
匂いを感じる。人の匂いではなく、これは...魔力...?魔力の匂いがする。この匂いから、あの風は魔法だということが分かる。そして、無詠唱魔法だという事も。
微かに残っている魔力があったため、それを視る。...あぁ。やっぱりな。
予想が的中した。誰が風を...無詠唱魔法を撃ったのか。それはーーー。
「凄いな、あの子は」
初代しか取得できていないあの技術を。初代が何十年もかけて成し遂げたあの技を。
ーーーカルミスは、たったの二時間で取得したのだ。
まだカルミスは一歳。普通のヒューマンだったらしゃべる事も歩く事もできないし、勿論魔法を扱う事も出来ない。だが彼はハイエルフビーストとして生まれたため、歩きだすのははやいし言葉を覚えるのも早い。魔法を扱えるようになるのも早い。そういう種族だからな。そこまでなら分かる。そこまでなら分かるのだが。
プロの大人が何十年もかけて取得した技を、あんな幼くまわりからバカにされそうな年齢の子が短時間で.........。常識外れだ。
私は、少し彼を見縊っていた。エルフビーストは、エルフの強力な魔力と獣人の強靭な肉体を併せ持つ為、非常に戦闘能力に長けている。だが、その戦闘能力がここまでとは思ってはいなかった。
妹達は。レルミス達はどうだろうか。先ほどから魔力の匂いを嗅いでいるが、レルミス達の魔力がない。千里眼で視ても、ない。
私は足を進めた。レルミス達は出来なかったのかと少しガッカリしながら。
グラウンドの左端からちょうど中央に移動。すると、遠くに小さい人影が現れた。それをカルミス達だとすぐ把握し、私はカルミス達の元へと走った。
「カルミス!!」
大きな声で名前を呼び、カルミス達の動きを止める。すると、それと同時にレルミスの両手にあった魔力(?)みたいなものが上空へと吹き飛び、十三メートルぐらいのところで霧のように分散した。
「父様...」
怒られるのかといわんばかりにビクビクと怯えるカルミス達を見て、私は己の大きな体で全員まとめて思いっきり抱きしめてやった。
「よくやったじゃないか、カルミス、レルミス!!」
「父様...!く、苦しいですっ!」
私のあまりの力に、バタバタと暴れ始めるカルミス達。私はそれになりふり構わず抱きしめ続けた。
「あ、そうだ。レルミスはさっき無詠唱をやっていたが、エルミスとラルミスはできたのか?」
「はいお父様」
「父上が来る前、兄上に教えてもらいました。そしたら...」
「一回で成功したんです。ボクが言って、すぐにね」
私はその言葉を聞いて嬉し涙を流しそうになったが、グッとこらえ、今度はカルミス達の頭を撫でてやった。
「凄いじゃないか。みんなして無詠唱魔法を取得するなんて」
「はい、自分でも驚きです。こうも簡単に無詠唱魔法を取得できるなんて、思ってもいませんでしたから」
「あぁ。.........よし。今日はこれにておしまいにしよう。レルミス達はゆっくりと休め」
「「「はーい」」」と言って、自分の部屋へと戻っていくレルミス達。ニコニコ嬉しそうに帰っていくその姿を見て、私は自然と笑みをこぼした。
ハァ...と一息ついて、部屋に戻ろうとしたが。私から何も言われていないカルミスが、私のズボンをグイッと引っ張り、ボクは?といわんばかりに目を潤わせている。どうやら、早く部屋に戻りたいようだ。
カルミスの目線に合わせようとゆっくりしゃがむ。そしてカルミスの目をしっかりと見つめ、私はキッパリこう言った。
「お前はこの後、ノエルとの稽古があったはずだが...?」
「うっ...」
嫌なところを私に突かれたせいか、カルミスの顔が暗くなった。それを見た私はゆっくりと立ち上がり、先程の言葉に続けてこう言う。
「別に、嫌なら嫌でいいんだぞ?......明日の稽古時間を増やすがな」
「行ってきまああああぁぁああぁすっ!!」
ニコッと満面の笑みで酷い事を告げると、カルミスは草を刈るような勢いでこの場から走り去っていった。全く。子供というのは...。
「ハァ...」
地面に寝そべる。あまりにも嬉しかったものだから喉を枯らしてしまったと、私は喉元を抑えながら溜め息をついた。
サァアアアァァ...
草が揺れる音が聞こえる。今日は快晴か、と呟きを漏らし、ゆっくりと目を閉じた。
たまには良いな。こういうのも。地面に寝そべって、顔を掠めていく風を感じながら、目を閉じ心を無にするというのは。今まで仕事が忙しくてこんな暇な日なんてなかったから、気分転換などできる時間がなかった。
久々に来た休日。やっと休めると、そう思ったんだがな。
ドゴォォオオオオォッ
「...ハァ...」
私の周りには、休ませてくれない邪魔者がいるようで。
レルミスの部屋が爆発した。爆発するのはいつものことだが、今回は酷すぎる。他の部屋まで巻き込まれて、修理に計五時間はかかりそうだ。
私の頭の中でブチッという何かが切れたような音がした。その後、抑えていた怒りが爆発し、その怒りが言葉へと変わった。
「レルミィィイイスッ!!」
そういった後、どこからかゴメンナサイと叫ぶような泣き声が、遠くから聞こえてきた。
「またやったね、レルミス...」
「こら、よそ見しない」
「わわわっ!!」
時刻は午後一時ぴったり。無詠唱魔法の取得から一時間が経過していた。父様に脅されて急いできたものの、グラウンドからここまで来るのに歩いて十分もかからないくらい近い距離。そんな急ぐ必要なかった...って今思う。でもさ!?あんな顔で脅されたら、走ること以外なんもできないでしょ!?超スマイルで!!大体、父様があんな感じに笑っているときって怒ってる時だからね。だから急ぐしかないよ。うん。
ボクはノエル将軍からの攻撃を避けながら、そんな事を考えていた。
にしても...あれほど魔法暴発するなって言ったのに...言う事聞かない子だよねぇ全く。この稽古が終わったら、たっぷり説教してやろう、と僕は目を細めながら呟いた。
「王子、避けてるだけじゃ駄目ですよっ!!」
「っ...!!分かってますよー」
将軍が、ボクに挑発っぽいのをかけてくる。僕は少しやる気がしなかったが、容赦なく当てにいった。
だってさ、ノエル将軍が今持ってるの、木剣じゃん?それに対してボクは真剣だよ!?もし当たったらーーーまぁ当たった事一回も無いんだけどねーーー怪我どころじゃ済まなくなるよ!!
それだけは避けたいと、いつもボクは攻撃せずに防御だけをしているんだけど...。
「それじゃぁ訓練にならないよ。僕のことは気にせず攻撃しておいで」
って将軍言うからさ...。従うしかなくて...。
「はぁっ!!」
創神流「暴風雨」。この技を使えば、まるで嵐が去ったかのように全てが薙ぎ払われるという中級の技。
「創神流」とは、剣の流儀の一つであり、全部で四つある。まず一つが、今言った創神流。王族や貴族に属するものが使う、流儀の中で二番目に習得しやすい技。攻撃と防御、スピードを兼ね備えており、この流儀が一番最強だと思う。
もう一つは、一般市民が使うような「英神流」。流儀の中で一番目に習得しやすく、防御重視のため攻撃には向いていない。
もう一つは、「極東流」。極東に住んでいるものが使う、一番習得しにくい技。「刀」というのを使って、まるで空に舞う蝶のような技を繰り広げる。ボクの母様は極東出身なので、この技が使える。これは攻撃とスピード重視のため、攻撃されたら即死。
そして最後に一つ。最近認定された流儀なのだが、「独創流」という自分で作った技が練りこまれた流儀のことを指すそうだ。近頃はこの流儀を使うものが多く、闘技場では独想流を使ったパフォーマンス等のサーカスが毎年一回行われるらしい。他の流儀を使う僕らにとっては、正直言って迷惑だ。長年伝わる三大流儀にワケのわからない変な流儀をいれてきたら。今思えば、自分で作った技が練りこまれている時点で流儀じゃないよな、って思う。
とまぁ、悪口はここまでにしといて...他にも剣術には、初級、中級、上級、剣王、剣帝、剣聖、剣神、剣滅、剣終の九つの階級があり、初級中級上級は剣の基礎、剣王剣帝剣聖は基礎より高度な技術。剣神剣滅剣終は神の領域とも呼ばれる階。ボクは今、上級の見習い剣士だ。魔法もこのような階級があり、初級、中級、上級、聖級、王級、帝級、神級、破滅級、終焉の九つの階級があり、初級中級上級は剣と同じで基礎の魔法、聖級王級帝級は基礎より高度な魔法。神級破滅級終焉は最強レベルに位置する超強力な魔法。ボクはまだ中級なんだ。ま、一歳で中級って結構すごいんだけどね。
ビュウゥウゥゥゥウッ
「やった...のかな...?」
ボクは自分の顔を覆っていた両腕を離し、落としてしまった剣を拾った。するとその剣は一瞬でボロボロになり、やがて灰となって消えていった。
「やっぱり...耐えられなかったんだ...」
ボクは剣が残した黒い灰が積もった右手を見て、小さな溜め息をついた。
耐えられなかった、と言った通り、この剣は僕の使った剣魔法に耐えられなかったのである。剣にも耐久力という、ボクらでいえばHPのステータスがある。他にも攻撃力・防御力と色々あるけど、とにかくそういう剣魔法や剣術に耐えられる耐久力というのがある。
どうやらこの壊れた真剣、初級の技しか耐えられない安っぽい剣だったみたい。
「...ノエル...将軍...?」
姿を消したノエル将軍の名前を呼ぶ。でも返事がない。
心配して将軍を探そうと足を進めた。周りが煙だらけで、全然見えなかったため、ボクの足は彷徨っていた。
「死んじゃった...のかな...?」
いやいや、さすがにそれはない。だってノエル将軍は......「不敗の将軍」という二つ名をもっているから。彼は戦いに挑んで負けたことが一回もない。それのおかげで、国中の人たちに尊敬され、ボクの師匠と同じく石竜の討伐などの大型モンスターの討伐を任されることが多い。
そんな高嶺の花の将軍が、こんな未熟な半人前の王子に負けるなんて......。彼がもらった家名を汚してしまう事になる。
だからボクは、生きていると信じている。うん。
「将軍~~~~!!」
声を振り絞って、ボクは将軍を呼ぶ。......やっぱり返事が無い。
これ以上呼んでも無理なんだろうか、とボクは諦めてそのまま後ろに振り返った。すると。
「おわっ...と!!」
カンッ
王族が使いそうなナイフが急に飛んできた。ボクはギリギリのところで避けたが、あと一足遅ければ自分の左目に刺さっていたことだろう。ボクは横に避けてナイフをかわし、なんとか危機から逃れた。
飛んできたナイフはいつの間にかあった近くの木の的のど真ん中に丁度刺さり、貫通する寸前で止まった。
誰がこんな危険な事をしたんだろう、とボクはナイフを的から抜きながら呟く。
結構傷があるナイフだなぁ...でも威力は強い。軽いし持ちやすいし......って。あれ?このナイフどこかで見たことあるような...。あ。
「もしかして...」
「そのもしかして、だよね♪」
「わっ!!」
やっぱり生きてたか、ノエル将軍。だよね、死んでもらったら困るしね。ボクは急に出てきた将軍にビックリして尻餅をついた。スッゴイ痛い。
「いやー、成長したね。王子。結構勢いよく投げたつもりだったんだけど」
「あ、やっぱり将軍のせいだったんですか!?もう、危なかったじゃないですか!!」
ごめんごめんと軽く謝る将軍にボクは少し腹が立ったが、なんとか怒りを抑えそのままナイフを将軍に返した。
ありがとう、と将軍はボクからナイフを受け取り、そのまま立ち去ろうとした。
「あれ、もう終わりですか?」
いつもなら、夜ご飯の時間が来るまでずっとやっているのに。今は午後一時三十二分。夜ご飯までまだ五時間もある。
正直、五時間もこれからやるとなると気が遠くなるけど、でも将来のためなら。やろう。
ボクは将軍の服を掴み、逃げないように確保した。すると将軍は、もう勘弁だといわんばかりの顔で、
「ごめんね。今日はここまででお願いできるかな...?」
と言った。何故ですか言おうとしたが、その前に理由を言われた。
「君、さっきのあのナイフ、避けただろう?」
「あ、はい。ギリギリでしたけど」
さっきのナイフのことについて質問され、ボクは疑問に思いながらその質問に答えた。それが何?しばらく返事を待っていると。
将軍の口から、驚きの発言が。
「あれ、剣王ですらよけられないスピードで投げたんだけど」
へ?
「それをよけたってことは、[剣帝]の才能があるんじゃないかな...って思ったりして。まぁあくまでも僕の意見だから、あんまりあてにしないほうがいいよ!うん!じゃ、じゃあね!」
将軍はそれだけを言い残し、そのままこの場を去っていった。
「へ?」
ボクの間抜けな声だけが、訓練所に響く。
「...」
ボクはしばらく動く事ができなかった。状況理解するために。
そして。ボクの喜び半分驚き半分の声が庭園まで響いたのは、将軍が去ってから一時間後だった。
次回更新3月24日予定