第十六章 目覚め
最近自分でも何を書いているのか分からなくなってきた...www
そろそろゴールデンウイーク。はぁ...そのあとは修学旅行かぁ...
...。
「ねぇ。さっきから思っていたのだけれど」
............。...。
「あの子ってさ...あの戦争で亡くなった大事な人って...」
........................。
「________殺したの、貴方でしょう?」
......嫌。嫌。
嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいいやだいやだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだ嫌だ。
認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない認めない殺してない殺してない殺してない殺してない殺してない殺してない殺してない。
違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
「......」
魔力が膨張する。底を知らぬその力は自分の意思なんか無視して成長する。ヤツを、自分を殺すことだけに作られた自殺道具。いつの間にか右手は私の方を向いていた。このまま放っても死ぬが、魔力は成長を止めない。
偽りの私に蝕まれていく心と体。いつからか自分は自分でなくなっていた。嘘の正義を振りかざして、多くの人の血でこの手を染めた。
もう彼がいなくなった時から私は狂っていたのだ。あぁ。狂ってる...狂ってる...。
「...グフッ..!!」
炎がとうとう自分の体に触れ始める。燃え移ったりしないこの炎での自殺というのは苦しいものだ。徐々に熱くなっていく、徐々に痛くなっていくこの罰を耐えねばならないのだから。
自殺で償えるとは思えないが、とは思いつつも、私はその炎を己の体に押し付けた。
「______ッ!!!!!!」
痛い。痛いを通り越してもう何も言えない。
炎を押し付ける右手はやがて自分の体内に侵入する。
「ぐっ、かはっ...!!がッ......!!!!」
ゼェー、ゼェーと呼吸音が掠れる。生きることを諦めても本能で体は酸素を取り込もうと必死になり、傷を治そうと必死になる。もうう動かなくていい、細胞達よ。
生き物というのは、死にたいと思うときこそ細胞の働きが活発になってしまう。生きることに必死になってしまうように作られてしまっている。この定理を、どうにかして壊せないものだろうか。
私はそのまま腹部から腸を出し、投げ捨てる。
「____」
もう何も声は出なかった。ただ単に頭がクラクラし、視界がフラッシュするだけだ。
ヤツはどんな顔をして今の私の姿を見ているのだろうか。気になったので顔を頑張って上げて様子を窺った。
普通の顔。だが先程とは打って変わって、気持ち悪がっていた。そして少しの驚きも見せていた。だろうな。急に目の前で自殺をしている人がいたら私だってそう反応する。
「......だから哀れな人なのよ。貴方」
少し俯き、ヤツは肩に乗っけて持っていた巨大な斧を一度降ろした。
「...笑い、たければ......笑えばいいじゃないか...」
はは、と掠れた声で笑いながら両手を横に広げた私は、降ってきた小さくて多い雨を浴びた。流れていく血は雨に交じって地に落ち、その匂いを嗅ぎつけた魔物達が私の周りにたかってくる。すると、
「その子は私の獲物よ!!あんた達は引っ込んでいなさい!!」
とゲルドが魔物達に怒鳴った。しばらくその場を動かなかったものの、嫌々ながら退散して他の獲物を探しに行った。
「.....。...何故、だ...?」
「助けたわけじゃないわ。ただ、貴方には長年の恨みがあるからね。自分の手でトドメを刺さないと気が晴れないのよ」
彼女はぶっきらぼうにそう言った。
そうか、ならば早く殺してもらいたいな、と私はヤツに近づく。
彼女には傷一つ付いていない。理由は、私の飛ばした魔法は、私に向けての魔法であったからだ。だから私だけボロボロの体なのだ。
「なら...殺すといい...。存分、に...その斧で斬ってくれ...」
被害妄想で部外者に罪を擦り付けてしまった私にもはや生きる資格などなかろう。私は再び自暴自棄になり、ゲルドの目の前で膝をつく。
「...私はもう...生きていける気がしないのだ...。何もかも失い、自分すら失った私は......。あまりにも...代、償が、大きすぎた...」
きっとこれも運命なのだろうと受け入れて。そうすれば、私も楽に死ねる。この世から存在を消すことができる。
脳裏に走る走馬灯。
「...本当に、やってしまっても構わないのね?」
「あぁ...」
私の[傲慢]たる態度で生み出した結果だ。何もかも消して、何もかも私に従わせようとして、何もかも私にとって好都合な世界にした。その欲望を満たすためなら、どんなものであったも捨てることができた。家族であろうが、兄妹であろうが、恋人であろうが、親友であろうが。
私は何もかも捨てた。いらなくなった駒はすぐに捨てて、すぐに新しい駒を買う。それの繰り返しだ。
そして彼も、ルイアもその犠牲の一人だ。
だからこう呼ばれた。______[傲慢の王]と。
自分の戦力を振り回し、人の命を軽く扱った、悪逆非道な殺人鬼。非情すぎるその性格さに、私は日に日に嫌気が差していた。もうこれ以上続けるのはやめろと。
だが、そんな自分さえ殺してしまった。理性と冷静と優しき心を持っているそんな、王の理想像である私を。
自分の欲望は、呑み込んでしまった。
生き物の欲望というものほど、怖いものはない。
「......」
ゲルドが私を見つめたまま動こうとしなかった。だがすぐに、己の肩に乗せている斧を振り上げる。
あぁ。レフィーヤ。レルミス、エルミス、ラルミス......カルミス。
それぞれの顔が頭に浮かぶ。今までの思い出が...偽りの思い出が......。
わ、た...し...の......す...べ......て.........。
「!!」
その瞬間。体に力が入った。死にたくない。死にたくない、と。生きろ。生きろ、と。
ゲルドが振り上げた斧は、確かに私を両断した。両断する...はずだった。
だが。
「...貴方...!!」
両断されたのは______ゲルドの斧。
ふいに動いた私の剣が、彼女の斧を真っ二つに斬った。
「...すまないな。皆」
自分をまた失うところであった。そしてまた、皆を失うところであった。
剣を固く握りしめ、呼吸を整える。そして再び、魔力を身に纏い見えない鎧を作った。多分、これが最後の魔力になるかと思われる。
自分の体から出て行ってしまった腸は、いつの間にか元に戻り、火傷の痕も、ところどころにあった深い傷も全て。塞がっていた。
体力は元には戻らない。だが、体力が無かろうとも、今の私には強い意志がある。
生きたいという意志が。平穏なこの世界で仲間と馬鹿な会話をしていたいという意志が。
____________大切なものを、死ぬまで守り続けたいという意志が。
「......その再生能力......。上級長耳族の[不老不死]の力...」
「......ご名答だ、ゲルド」
ハイエルフは古代から神に近い存在である。強大な魔力と、神聖なる力。そして、不老不死の力。
それらがハイエルフの特性であり、他の種族に勝る能力。
「この特性があって助かった。もしこれがなければ、炎に焼き殺されていたところだったな」
まぁ、腸を出した時のほうがヤバかったが、と言葉を続ける。
ゲルドは驚きを見せつつも、先程のように、興奮している様子もあった。
異常な戦闘狂。かなりヤバい奴だ。
「ただ...万能ではないことは確かね。不老不死の力は、外傷を治す程度。精神の傷までは癒すことができない(・・・・)。...どこまで持つのか、見物ね」
「...」
確かに、ゲルドの言う通り、体力までは元に戻らない。むしろ、減ってしまうのだ。傷を塞ぐ代わりに、体力を代償にして回復する。
そして、生きたくない、死にたいという感情が術者に渦巻いた時、再度生きたいと思うまでその機能を停止させる。あと、術者の心臓が止まれば、不老不死の力は失われる。万能そうに聞こえて、実は万能ではないのだ。
心臓一突きで終わってしまう。だから心臓だけは守らなければならない。
「...余裕顔でいられるのも今のうちだ、ゲルド」
剣先をヤツに向け、その鋭い蒼眼で真っすぐ見つめる。
残り僅かの魔力を体で感じながら、私は剣を縦に振る。
「残滅剣」
創神流、剣帝級の技。使用者から半径百メートル以内の敵を灰にする破滅技。確実に殺せるものは確実に殺せる。だが敵がしぶとい場合は三回ほど発動させなければ息の根を止めることはできない。
だが、剣帝級の技の中でも魔力消費が少ない技である。
「...」
剣魔法を打ったと同時に目に見えぬ黒の疾風が、辺りのモンスターを一瞬で消し去った。ゲルドは......深い傷は負わせたものの、まだ立っている。
「...[無詠唱魔法]ほど厄介なものはないわ...」
口から血の唾を吐き、彼女は己の手にある斧を持ち上げ、構える。それと同時に私も次の攻撃に移るために剣を持ち上げ構える。
聞こえるのは、魔物達と戦っている兵士達の叫び声。悲鳴。そして微かな風の音。その他はかき消されて聞こえない。
気を張り詰め、相手と目を合わせる。多大な集中力と精神力が問われ、私は眩暈が起きそうになった。このまま態勢を崩せば確実にヤツにやられてしまうだろう。
だからここで踏ん張らねば、と脚に力を入れ、地にしっかりと足の裏をつける。
頼れるのは、嗅覚と視覚と感覚のみ。それ以外は役に立たない。嗅覚で相手のころころ変わる臭いをかぎ分け、視覚で相手の僅かな動きを捉える。そして感覚で相手の魔力を察知し、相手の呼吸を感じ取る。
これまでの経験を生かして、ヤツの動きは読めてきたきた。
もう今度は失敗しない。失敗は許されない。
もう誰が殺したとしても、元を辿ればルイアの仇であるのはこいつである。
ならば、私が、ルイアを殺してしまった私が罪の償いとして。親友、戦友としてヤツを討つ。私の使命はそれだ。
「...」
神経を研ぎ澄ませ、相手とくるくる回りながらしばらく睨み合いっこをする。ヤツもそろそろ余裕がなくなってきたのか、先程とは違い、口角が下がっている。このままいけば追い込めそうだ。
「______」
やがて、私達は再び激突する。ゲルドは巨人特有の大地の力を借りて、小規模の地震を起こす。グラグラと揺れるその地面に私は足を取られることなく立っていられたが、やがて地面の亀裂からマグマが噴き出してきた。そして。
「[グオォォオォオォォォオォォオォオォオッ!!!!]」
「!!」
噴き出したマグマはやがて炎の竜の姿へと変わる。帝級竜型モンスター、「ドラコフラマエ」。マグマから生まれる彼らは遥か昔、その強大すぎる力を危険視され世界の奥底、「核」と呼ばれるところに幽閉されたのだという。
だが、誰しもがその核に閉じ込められたわけでもなかった。中には途中で埋まっているものもいれば、全く核とは逆の方向にいたりなど、神々の力不足なのかなんなのかの理由で、全部が全部眠りについたわけではない。そのせいで、世界ではところどころでマグマの噴出や、ドラコフラマエの討伐など増えているのだ。
そして今回も。その生き延びた竜達の中の一匹が今目覚めた。目は怒りに溢れており、もう竜の冷静な理性などない。
何千年もの時を経てその身に溜めに溜めこんだ怒りと恨みが、今解き放たれた。怒りの叫びは周りのモンスターを怯えさせ、口から出る炎は永遠に燃え続けるように辺りを焼き尽くす。その翼は強力な疾風を引き起こし、薄く開いている口から見える大きな牙は、もう今すぐにでも血で濡れたいと叫びをあげている。
「[モンスターの王者]」という異名に相応しいその力強さと存在感は、私までもを恐怖させた。周りの兵士達も、この竜に目を奪われている。
「思う存分に暴れなさい。貴方、彼が自分に何をしたのか分かっているでしょう?」
「[ガルウゥゥゥウウゥゥゥウウウゥッ...!!]」
ゲルドの言葉に反応し、私の方に怒りに満ち溢れた視線を移す。こちらを見られた瞬間、恐怖に囚われていた私は少しびっくりしたが、すぐに冷静さを取り戻し持っていた剣を再び構える。
(といっても......どうすれば...)
まさかの出来事にタイムラグが起きている私の頭に、もう一度問いかけてみる。だが、良い案というのは思い浮かばなかった。
魔力はない。ましてやこの竜を殴れるほどの体力も力も持っていない。
「...!!」
すると、近くに微かな水溜まりが。そして草や花が咲いているのを見つけた。運がいいな、と。私はそう思った。
「...すまないな...もらうぞ」
そう小さく呟いて、私はそれらに手をかざす。それと同時にしぼんでいく草や花。無くなっていく水溜まり。
そう。蒸発させたのだ。
水蒸気は私の手に来て、再び水へと姿を変える。それを膨張させ、目の前の竜の頭上にもっていく。
「[グアァァ...]」
怪訝そうにその水の塊を見る竜。目覚めたばかりで寝ぼけているのか。私がやろうとしていることを先読みできていない模様。
今がチャンスだ。
「しばらく動かないでいてくれよ」
そう言った時。
「[グギィィイイィッ!!??]」
水の塊が割れた。雨となって降ってくるその水は、竜の体中で燃え盛る炎の生命力を低下させた。まさに裸となった竜は動きが鈍くなり、苦しみの叫びをあげる。
「[グァァアアァァアッ!!!!!!]」
劈くようなその声は、耳の良いエルフにはかなりキツイ。頭が少し痛くなってしまった。
やがてその声は消え、竜はそのまま俯き動かなくなった。強力な鎧を失った竜は一時的に動けなくなる。しかもそれが弱点属性である水で壊されたとなると、行動不能時間は倍になる。それを私は狙っていたのだ。
他から水を奪えば、自分が消費する魔力は減る。
「...いなくなったか。...いや」
いつの間にか姿を消していたゲルド。だが、まだヤツの気配がする。そこまで遠くには行っていないだろう。一人だけ逃げようとするとは、つくづく卑怯なやつだ。
剣を持ち直し、剣先を竜に向ける。
「もう一度眠りにつけ。今度は世界が滅ぶまでな」
無言で何もできなくなった竜に一言放ち、構える。
私が前に足を踏み出し攻撃をしようとしたその瞬間だった。
「父上!!」
遠くから、聞き覚えのある声が。
「!!」
声の主の方へ視線を移すと。そこには。
大勢の兵士を引き連れた、カルミスがこちらに向かっていた。そして、多くの魔物達も。引き連れて。
(遅い...遅いぞ。カルミス)
後で叱ってやろうと思いながら、私はカルミス一行を迎えた。
我々はその時気づかなかった。
何故ゲルドが消えたのか。そして、行動不能になった竜が。まだ意識があることに。
次回更新予定 5月6日




