第十五章 約束
...今回の父親、キャラ崩壊激しいなぁ...ww
「父様...」
僕達が街を発って、数時間が過ぎようとしていた。父様が出した指令でなんとか被害が少なくなったものの、相変わらず敵の軍が有利になっている。
最悪の戦況といってもいい。はたから見れば、勝ち目はない。僕だってそう思う。
「...」
黙々と馬を走らせ、僕は次から次に魔物達を斬っていく。慣れない魔物達の血飛沫が僕の体にたっぷり付いて、僕は吐きそうになった。この鼻を腐らせるような異様な臭い。他の種族の何倍もの嗅覚を持つ獣人にとっては、その空気を少しでも吸っただけでノックアウトしそうだ。
だが、そんな事に気を取られている場合ではない。
今すぐにでも形勢逆転をしなければならないのだから。
このままいくと、恐らく...いや、確実に負ける。それでは、死んでいった兵士達の意味がなくなってしまう。
それだけはさせたくない。生物の命を冒涜することなど......決してあってはならない。
先程から何度も言っているが...この戦いは勝たなくてはならない。
「[炎の怒涛]」
ある程度の範囲の魔物達を上級魔法で一気清掃する。その魔法を打った途端、魔物達は勿論のこと、世界の始まりのように大地を包んだ。
少しやり過ぎたか...。そうは思ったが手加減は無用だ。
国からは大分距離はあるが、そろそろ援軍の数も減ってきているのが見える。
二回目の戦争。戦争というのは甘く見てはならないものだが、ここまでのものとは...。恐怖を覚えてしまって、今にも馬から落ちそうだ。
僕は震えた足を強く二、三回叩いて、再び馬を走らせた。
にしてもこの魔物の数。いくら世界が広いからとはいえ、多すぎやしないか...?もし誰かが魔物を増やしたり生み出したりしているのなら...まずそいつから先に息の根を止める。
僕は最高速度で馬を走らせ、魔物達の間を突っ切った。
「...父様...!!」
先程からとても気がかりなのは、父様の姿がどこにもないことだ。やられた、なんていうことは絶対にありえない。となると、大敵と遭遇している可能性が高い。
もしそうだとしたら、一刻も早く援護に向かおう。二軍の兵士達の指揮を任されてはいるが、ほぼ壊滅状態。数十人いるかいないかの数しかいない。
「ッ...!」
辺りに色んな姿で転がっている兵士達の死体が視界に映る。胸が、とても痛い。
「...すぐに、安らかに眠らせてあげるから...」
僕は兵士達の死体にそう言って、地面から再び前に視線を移した。
父様はこんな気持ちを何度も味わってきたのか...。そう考えると背筋が凍る。
僕には到底、耐えることができないだろう。
「王子!!」
「!!」
しばらく馬を走らせていると、反対側から来たノエル将軍と遭遇した。相変わらずノエル将軍は凛々しい顔で、傷一つ付いていなかった。
死んでいった兵士達も、この人みたいに屈強な兵士になりたかっただろうに...。いつの間にかそんなことを考えてしまっていた。こういう争い事とかになると、どうしても死んでしまった兵士達や他人のことを優先に考えてしまう。僕の小さい頃からの悪い癖だ。そのせいで酷い目に遭ったというのに。
馬を一時的に止め、僕は将軍に今後の動きについて告げた。
「将軍。僕は今から父様の所に行ってくる。できるだけ兵士達を死なせないように、かつこれ以上敵を進軍させないように指揮をとってもらいたい。...いいかな?」
「あはは...随分と無茶ぶりをさせるんだね」
「ごめん。こっちも心の余裕と時間がないんだ」
とほほ...と弱々しく笑う将軍。大分余裕な感じだ。その余裕、僕に分けてもらいたいよ。
しばらくして承諾した将軍は、騎士の敬礼をした。
「......レルミス達は、平気?」
僕は妹達の安否を尋ねた。兵士達が救えなかったとしても、せめて家族、その中でも妹達は守らなければ。
聞くところによると、平気だそうだ。むしろ魔物達の大軍に突っ込んでいって____特にレルミス____返り血で濡れたまま暴れまくっているそうだ。
元気で何よりだけど...すごい危ない。妹達の所に行ったほうがいいかと尋ねると、それは平気だと言われた。あの子たちが苦戦することはないだろうと、半分僕をシスコンと馬鹿にしながら言った。
あ、僕はシスコンではない。シスコンではない。ただ兄妹思いなだけだ、うん。
「じゃあ、そろそろ僕は行くよ」
馬の紐をしっかりと握りしめ、僕はスタンバイをした。将軍も自分達の軍に行こうとしたが、最後に一度だけ、問われた。
「王子。行くのはいいが、場所は分かるのかい?」
確かに。場所が分からずずっと走り回っているのはかなりの労力と時間を消費する。もし父様が大敵に襲われてしまっていた時のために、体力も魔力もこれ以上消費するわけにはいかない。
...そう言ってるけど...正確な場所は、正直言って把握できていない。
「...」
「......まさか、分からないのに陛下の所に行くって言ったわけじゃないよね?」
...。......ご名答です、将軍。
僕はしばらくしてコクッと頷くと、将軍は長い溜息をつき、細い目で僕をみつめた。
しょ、しょうがないじゃん!?獣の野生本能が父様の所に行けとうるさいから、文句があるなら獣を生み出した人物に言って!!
「そういう所まで陛下にそっくりとは...」
頭を抱え俯く将軍。変なところまで似てしまったな、と再び溜息をつかれ、そろそろ僕は苛立ってきた。うるさいなぁ、黙っててよ!!と一発ガツンと言うとごめんごめんと苦笑いで謝ってきたが、その後すぐにぼそぼそ何か始めた。
こうやって将軍と話している間に、僕の心の胸騒ぎは大きくなっていく。早く行かなければ駄目のような気がして、居ても立っても居られない。
「王子」
ある程度将軍から回復アイテムなどをもらうと、将軍は再び僕を呼んだ。その声に僕は振り返る。
「...ご武運を」
その後すぐに将軍は立ち去った。僕はその後ろ姿を見えなくなるまで見送る。
「......」
将軍もね...と言おうとしたが、あの余裕顔じゃぁ負ける帰ってくることはないだろうと思い、口に出さなかった。
馬を走らせ、父様の元へ。どうか、無事であってくれと願いながら、僕は風を切った。
_______ドゴォオオォオォ_______
爆発音が辺り一面に響き渡る。私が放った魔法だ。これで何発目だろうか。
やつには確実に当たっているはずだが、傷がつかない。魔力が失われていく一方だ。世界樹の加護は受けているものの、ここまで追いつめられるとそろそろ限界だ。
「ゲ...ゲルドォ......!!」
声が掠れている。息も切れている。呼吸の乱れで、周りの魔力の流れも乱れている。何もかもが乱れていた。
「うふふ......やっぱり変わってないじゃない」
彼女は私のこの姿を見て嘲笑した。己の力を過信し、挑んでしまった故に返り討ちに遭う哀れでみっともない男を...男の生き様を嘲笑するかのように。
私は甘かった。最初から本気を出していればいいものを、自ら滅びの道を選んでしまった。自殺しにいった。
彼女は変わっていないと言った。全くその通りだ。私は昔から何一つ変わっていない。変わったのは地位だけで、中身は子供のままだ。
私は今まで必死に変わろうと努力した。王子と王では立場が違いすぎるからだ。
それよりもなにも、レフィーヤが妻になった。カルミス達が生まれた。私がこどものままでは大切な者達を守ることができない。
私は家族を守れないことを恐れ、必死に強さを求め必死に生きて必死に抗った。
「...」
だが_____そんなものは無意味だった。
私の時は止まってしまったのだから。
「......ッ...」
口から血が出てきた。体の傷は少ないものの、魔力の大量消費により体に負担がかかってしまったようだ。
眩暈がする。今まで味わったことがない疲労感が私の体を襲い、重たくさせる。
クソッ......これではレフィーヤやカルミス達に向ける顔がない...!!私は終始やけくそになっていた。
もう周りなんて気にしている余裕などない。私はひたすらに連続魔法を放った。
「今ここに、神の炎を[爆裂魔弾]」
だが当たらず。当たり前だ。呼吸が乱れていては魔法なんかまともに打てるはずがない。
国王としての冷静さも、理性も、誇りも、威厳も。全てなくなっていた。死に急いでいる馬鹿なやつだ。
「......我が血に応えよ[安息の月光]」
神聖魔法も、もう上級までが限界だった。魔法は、私の体の傷を止血するだけで傷までは全部塞いでくれなかった。
そろそろ、潮時かもしれない。そう思ってしまった。そう思わざるをえなかった。この結果を招いたのは私だ。そうなるのも当たり前である。
迷ったな...と小さく呟き、下唇を噛む。歳のせいにしてしまいたいくらい、私の計算は狂っていた。
大人になってこんなにまで追いつめられたことは一度もなかった。それが悔しくて、私はたまらなかった。
「そろそろ限界のようね。...残念だわぁ...」
再び悪魔が笑った。そしてまた、自分の体に寒気と恐怖が巡った。
こんなにも疲れたのは、子供時代以来だ。そして、この体を激しく襲う寒気も。久々だ。
「...あぁ。私もだよ...!!」
どうしても言葉に力が入ってしまうため、私はそう告げた後しばらく口を閉じた。これ以上馬鹿にされたらたまったものじゃない。
心身ともに疲れ切った私は、やがてその場に膝をついた。相手の視線を途中で感じ取れなくなったせいか、膝をつくときは楽につけた。
「哀れな子。亡き友のためにぶつかっていったというのに、通用しなかった。挙句の果てには笑われ者にされて...本当に、哀れな子。実に滑稽だわ」
「殺されたいなら、最初からそう言え...!!」
怒り任せの言葉。次々に吐きそうな言葉が出てきて、もう私は己を解放した。
死ね。マジで死んでくれ。ただそれだけが私の脳内を回っていた。
殺す。息が止まっても殺す。灰になっても殺す。どこまでも殺す。地獄の果てまで殺す。そしてあいつの仇を取る。
そうしなければ私の気が済まない。そしてあいつに向ける顔がない。
もうどれが正しい選択なのかなんて分からない。
ただ私にできることは。今の目的の遂行に集中するだけだ。
再び私は剣を鞘から抜いた。刀身はもうボロボロで、あと少しでも魔力を込めたら朽ち果ててしまいそうだ。
だがそんなことは関係ない。知ったことはない。
このクソ野郎(巨人)に傷を入れられるのなら、何を犠牲にしたって構わない。今までそうやって数多なる戦場を潜り抜けてきたんだ。今更恐れることはない。
世界に絶望と終わりをもたらした、この巨人族の一人に。私の大切なもの全てを奪い去っていった巨人に。
__________復讐だ。
「[地獄の黒炎]」
忘れられない、あの炎が燃え盛る音。景色。忘れられない、仲間達の悲鳴。
「...本当に、下等種は......」
忘れられない、あの絶望感。...忘れられない、友を失った、あの引き裂くような痛み。
お前と過ごした日々を、思い出にしてしまった。私の無力さのせいで。
「ルイン」
私は王族の身であるせいか、周りからは恐れられ生きてきた。話しかけても逃げられ、時には武器や殺意を向けられたこともあった。
だがお前だけは。ルイア。お前だけはこの私と向き合ってくれた。孤独で死にそうな私を、救ってくれた。
たったその一言で、私はこれまでにない幸せを味わった。この人についていこうと、初めて思える人物だった。
お前だけは、私を分かってくれた。お前...だけは。
「お前がもし、また途方に暮れたときは...」
(約束したじゃないか)
魔力を溜めながら、私は叫ぶ。亡き友が言ったあの言葉を思い出して。
(誓っただろう...あの場所で)
あの花園で、約束したじゃないか。
「...私が救ってやる。何度でも」
「______言ったじゃないか!!」
涙がとめどなく流れた。魔力が膨張する。様々な感情が心を行き来し、やがてキツく胸を締め付ける。
この感覚が辛くて。辛くて。しんどい。吐き気がする。助けてくれ。死にそうだ。助けてくれ。......助けてくれ。
誰に何をぶつければいいのか。何をすればいいのか。今の自分は何をすればいいのか。目の前の敵を倒して、果たして彼と私の心は満たされるのだろうか。
答えを追い求めた先に、何が待っているのだろうか。疑問だらけの頭に、これ以上考えていていい案が出てくるとは思えない。というか、これ以上考え事をしたくない。もう、疲れた。
「...約束、したじゃないか...!!」
やがて力が入り震えた右手にどす黒い、禍々しい炎が面積を大きくしながら出現する。これをこの地面に叩きつけたら、ヤツの体は勿論、己の体ごと灰にしてしまうだろう。そして辺り一面を、あの時みたいに焼け野原にするだろう。
......あの時...?私はふと思い返す。あの時の戦争を。
......。...あれ...。あの時私は...。
...そうか。
あの時親友を殺したのは、[私]だ_________
次回更新予定 4月22日(日)




