第十四章 再戦~仇~
インフルかかったりして...しばらく休業してました。
皆さんも気を付けてくださいね。マジでつらいですから
「...」
私は辺りを見回した。次に次にやられていく兵士達の姿が、この眼に映し出された。
普通は悲しくなるはずなのに。私の心は何の反応も見せなかった。
捨て去ってしまった心。戦争が頻繁に続いていた昔のお陰で、私は幼い頃から心を捨てることになってしまった。
いや、もう捨て去ったのかどうかすら分からない。
何度も見てきた、何度も繰り返してきたこの惨劇。
自分の手の上で、兵士達が抗い、そして死んでいく。
もう見飽きてしまった。この景色には。
「永久の平和」など、手に入るはずがない。手に入れたと思っても、その奇跡はすぐに逃げていく。
気まぐれなのだ。
「陛下!!」
「っ!!」
後ろにいた熟練の兵士が危険を知らせる。それとほぼ同時に犬型のモンスター「ヘルハウンド」が私を襲ってきた。何となく気配を感じていたのは分かっていたが、ヘルハウンドの中でもかなり俊敏性が高いモンスターだった。
こういう異常に戦闘力が高いモンスターがいると、危険モンスターの出現が起こりそうな気がしてハラハラする。危険モンスターが出現すれば、今よりもっと死者が出るだろう。
できるだけ被害を小さくしたいが、今私の愛馬は怪我を負っている。自然治癒が完了するまで乗って移動することはできない。
戦場で馬がいないとなると、動きにくい。移動手段が減ってしまった以上、下手に動くとやられる。
「世界の運命はこの一戦に賭かっている!!皆、屈せず耐えてくれ!!」
私は精一杯の大声で、周りの士気を上げる。が、それでもやる気を失った兵士、恐怖に足がすくんでいる兵士は絶えなかった。
「戦況が悪化している。......どうする」
不死鳥が不死鳥の姿のままで私の肩に乗った。
フェリクスの言う通り、戦況はますます悪化していくばかりだ。魔物の数がなかなか減らず、兵士達が一方的に減っていくだけだ。
ノエルも数が多すぎるのか、珍しく息を切らしていた。
「王子の到着はまだなのか」
「あぁ。まだ見ていない」
やっぱりあいつに任せないほうがよかったんじゃないか、とフェリクスが溜息交じりに言う。
確かにそうだが.........。私は喋るのを止めた。
「たくっ.....何の為に[一個旅団]並の戦闘力まで鍛え上げたんだか.........何が目的なのかさっぱりだな」
目を細め、私の考えていることを読み取ろうとするフェリクスだったが、途中で諦め、再び大きな溜息をついた。
それを見て私はフッと笑い、フェリクスを腕に移動させた。
「聞きたいか?」
蒼眼で朱眼を見つめる。その目を見たフェリクスはうっ.....と言葉に詰まったようなうなり声を出し、
「聞きたくねぇ......どうせ碌なこと考えてないんだろ...」
とキッパリ言った。そりゃぁ残念と言ってフェリクスを空に放った後、私は周りを見渡した。
すると遠くに、多くの人の影が見えた。それが誰の影なのかはすぐ分かり、再び私は口に笑みを浮かべた。
「英雄の登場だな」
上で羽ばたきながらフェリクスが呟く。
結構時間と労力と勢力を食ってしまったが、あの軍が加わればこの戦況も穏やかになるだろう。
いつの間にか自然治癒が終わっていた馬が私の隣に来ていた。その馬にまたがり、再び私は兵士達の士気を上げる。
「今、二軍の兵士達が到着した!!だが油断はするな!!たとえその身が滅びたとしても、抗い続けるのだ!!今こそ人類の未来に_________勝利を!!」
私の声に皆が注目した。それを見て私は馬に乗り前進した。
「魔物達をこれ以上進軍させてはならない!!」
剣を片手に魔物達の大群に突っ込んでいく。それに合わせて、一人二人と次々に身を投じていった。
普通は司令官は前線に立ってはならないのだが、私はそれどころではなかった。このまま兵士達が散っていく姿を眺め、人に守られるのはどうも性に合わない。プライドが許せない。
決して死など恐れてはならない。かつて母がそう言った。その時私はまだ子供だったためその言葉の意味が理解できなかったが、今は痛いほど分かる。
散々仲間を失ってきた私には......。
「兵士達よ!!ここから挽回だ!!早急に陛下率いる兵士達の援護をしろ!!」
次から次に襲い掛かる魔物の大群を己の剣で斬り倒しながら、私はカルミスの声を聞き取った。その後すぐに一軍に新たな指令を出す。
「二軍と連携せよ!!」
私の声に皆が反応し、それぞれ動いていく。
魔物達よ。
ここからが我々の実力だ。
もう、前のように弱くはない。
「......」
私は魔物の大群をきり抜け、あるところに向かった。
決して逃げているわけではない。だが、先程からすごく気がかりなことがあったのだ。
「......この匂い....まさか......」
辺りに残っている異様な匂い。鼻がひん曲がりそうなくらい刺激的で、邪悪だった。
ただこの匂いには覚えがある。
「.....ルイン」
妖美な声が響いた。この声を聞いて、私は確信した。
「_______ゲルド」
声の主の名を告げる。[巨人族]である彼女の名。多くの女性の中で最も美しいとされる女巨人。豊穣神フレイの妻である。
「久し振りね。元気にしてた?」
「...お陰様でな」
彼女の名は、垣で囲まれた播種された耕地、という意味らしい。さすがは、豊穣神の妻といったところか。母が山の巨人であるため、母似である彼女は他の巨人より少し大きい。
といっても、我々からすればどんな巨人でも大きすぎることに変わりはないのだが。
「相変わらずのようだな」
「ウフフ......その言葉、そのままそっくり返すわ」
不気味に笑う彼女。本当に相変わらず気味の悪い女だ。
「この反乱を起こしたのは、お前か」
「そうだ、と言ったら?」
余裕の顔。そんな顔もできなくなるぞ。
私は今すぐにでも消滅したいこの殺意を抑えて、冷静にその場に佇んだ。
震える右手を抑えつけ、剣を取らせないように。
「______斬り飛ばさないのね。そこだけは大人になったわ」
私の右手にチラッと視線を移しすぐに私の目に視線を戻した彼女は、「相変わらず、と言ったのは取り消させてもらうわ」と言い己の腰に手を添えた。
右手の震えが止まらない。あの時と何も変わっていないな。
子供の時、こいつと初めて会った時のこと。私は震える手をそのままにし、彼女に斬りかかった。勿論結果は敗北だ。己の力を過信しそれを見せつけようとした私の王子らしからぬ行動で。私は親友を犠牲にした。
死にかけの私を、我が親友は庇った。ゲルドの攻撃をもろに食らった親友は、その体を粉々にさせて...死んだ。
あの時の怒りが蘇る。彼女と会うと.......
________こいつと会うと、無性に殺したくなる。
そんな自分を情けないと思う。親友の仇を取ってなにになるのだ、と。もう彼は死んだのだと。
もう彼は戻ってこないのだと...。
「...ッ」
私は今にも狂いそうな精神を必死に抑えた。かなり辛い。しんどい。
通常より熱い汗が頬を伝い、地面に落ちる。呼吸も魔力も乱れており、暴発しそうなくらい膨張している。
冷静に...冷静に冷静に。
もう子供の時みたいな結果は招きたくない。
手の震えが増す。周りからバレるくらいに震えている。だが、そんなことを気にする余裕もなかった。
「......どうしたの」
彼女は再びその口を開き、怪訝そうな顔で私に話しかける。
止めろ。もうそれ以上喋るな。その声を聞く度に殺意が増すじゃないか。
私は平和に終わりたい。無駄な血を流したくないのだ。今まで散々兵士を犠牲にしてきたやつが何を言っているのだ、と頭をよぎるが、無視。
「......殺したいの?」
彼女はにこっと笑い、私の思っていることを当ててくる。
あぁ、その通りだ。今すぐにでもその首を吹き飛ばしたい。いや、体を斬り刻みたい。
親友の魂に安らぎを与えるために...お前を葬る。
「...あぁ」
震える口をやっとの思いで動かし、返事をする。それを聞いて、高笑いをするゲルド。
何が可笑しい。また殺意が膨らんだ。
「殺したがっている貴方の目、素敵だわ。もっと見たい」
興奮したように身をよじらせる彼女は、私の顔に欲情していた。
ますます殺したくなる。そんなことを言われると。
しばらくの間、彼女と私の間に沈黙が続き、彼女は私の顔をじっと見つめる。
そして。
この雰囲気を一転させるように彼女が口を開いた。
「____殺してみなさい。この私を」
「_____」
あぁ。我が親友よ。
また同じ過ちを繰り返してしまう。
すまない。
_____ルイア_____
次回更新予定 1月28日




