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創神~善悪宿りし神の化身~  作者: とりあえずネタ
13/19

第十二章 理不尽な世界

いや、青年期まで一気に飛ばさないとやっていけなかったこれ。

 昨日のエルとの戦闘で疲れ果てた僕は、あの後少しだけエルと雑談を交わして風呂と食事を済ませすぐ寝てしまった。大体、八時ぐらいだろうか。

 そこから約十一時間くらい、寝ていた。自分もよく寝たなぁ、と驚いてしまうほどだった。そのお陰か疲れが綺麗さっぱり吹き飛び、朝は目覚めが良かった。

 

 「ふぁ......」


 それでも、少し眠いんだけどね。

 僕はいつものようにキッチンへ行き、朝飯を漁る。

 ..........あ、昨日の夜の...。

 保管庫の奥に、昨日の夜のご飯が残っていた。匂いを嗅ぐ。よし、まだ食べれるね。


 「よい......しょ...!!」


 身長約百五センチの僕の身長ではなかなか背伸びせずには届きそうになく、軽くジャンプして上半身が保管庫に入る感じで食べ物が乗った皿を取る。皿が軽かったので案外楽に引っ張れた。

 そのまま引っ張り出した皿を手に、ボクはテーブルのところへ行こうとすると、 

  

 「兄様」

 

 「わぁああぁぁぁあっ!!??」


 急に現れた妹に驚き、つい皿を落としてしまった。バリンッという音が割れたということを知らせ、僕のテンションを落としに来る。そして、目の前に広がる悲惨な光景が、僕の生気を吸い取り地獄のどん底に堕とす。

 

 「......大丈夫ですか、兄様」


 大丈夫なわけないだろう!?これを母様か侍女のミリアに見られたら.......と言いたい所だったが、ここは兄としてちゃんとしたところを見せなくてはと思い、僕はいつもの笑顔で


 「大丈夫だよ、気にしないで」


 と言った。だが彼女にはそんなもの通用しなく、


 「兄様。嘘ついてる」


 とあっけなく見抜かれてしまった。どうやら僕は顔に出やすいタイプらしく、すぐに隠し事とかがばれてしまうのが欠点。ポーカーフェイスになれば今後役に立つと思う.......多分。

 ばれた?と苦笑いしながら言うと、彼女はコクッと一回縦に首を振り、床に散らばっている食べ物たちを拾い始めた。それを見て僕も拾い始める。

 一通り片付け終わると、エルミスは拾った食べ物が乗った皿をシンクのところに置き、何かを考え始める。

 

 「どうしたの、エルミス」


 少し不思議に思ったので声を掛けてみると、

  

 「......兄様のために朝ごはんを作ろうかと......」


 と真顔で言われた。さすが妹だ。お詫びか...なんて思ったが、どうやら自分もお腹が減っているらしく、僕はついでなんだそうな。口先だけで、結局は自分のことかよ......。 

 ちょっとショック......。

 しばらくして妹の作った朝ご飯がテーブルの上に並べられると、僕とエルミスはいつもの定位置に座り早速食事を取る。

 エルミスの料理を食べるのはこれで四回目だが、相変わらずのプロの味だ。最初食べた時、誰に教えてもらったのか気になり聞いてみたが、「独学」と言い放ってそれ以上は何も教えてくれなかった。

 独学でこんな味を生み出す事ができるのなら.......いっそ王女なんかやってないで料理人を目指せばいいのに....と思ってしまったがそうもいかない。なんでだろうね。

 黙々と食べ続け、半分まで食べきったところでエルミスが沈黙を割ってきた。


 「......今日はお早いですね、兄様」


 いつの間にか食べ終わっていたエルミスは、手に持っていたフォークを皿の上に置き、姿勢を正して僕に言った。

 兄妹同士なのだから、いい加減他人行儀は止めてほしい。そう思ったが、言っても止めなさそうだ。

 

 「まぁね.....」


 口に食べ物を含みながら返事をすると、行儀が悪いと注意された。

 お前は僕の母親かよ......!!


 「どこかお出掛けでもされるんですか」


 洞察力が鋭い彼女は、僕が行おうとしていたことをいとも簡単に見抜いた。いや、さすがだ。


 「まぁ.......ちょっと外にでも行こうかと思って......」


 今日はエルと一緒に街まで下りて遊ぶという約束をしている。一度も城の外に出た事の無い僕は、街がどんなところなのか気になってしょうがなかったのだ。その話をするとエルは少し戸惑ったけど、ぎこちなくだが頭を縦に振って城の外に一緒に行くのを承諾してくれた。

 正直、一緒に行きたいと言われるのが怖くて言いたくはなかったが、言っておかなければ後から色々咎められそうな感じがしたので、流すような感じで僕はそう言った。

 次の言葉を待ちながら食事を進めていたが、なかなか返事が来なかった。どうしたのだろうと気になりエルミスの方に視線を移すと。


 「.......」


 無言で目を見開いていた。それが何故なのか分からない。ただ、何かに驚いているのは確かだった。


 「...エル、ミス....?」

 

 手を止め恐る恐る声をかけると、ハッと我に還ったエルミスは自分の頬をパンッと一回叩き、再び僕のほうに視線を戻す。


 「......そう、ですか...」


 そう言って彼女は、自分が使用した皿やフォーク等をシンクに持っていき、洗い始めた。それを見て、僕は残りの食材を頬張り、洗い終わる前にシンクに出した。

 その時、何かエルミスに睨みつけられたような気がしたけど。

 一息ついて、時計を見る。今は八時三十六分。三十分前だけど、早めに出ておくか。

 椅子から再び立ち上がった僕は自分の部屋に荷物を取りに行こうとした。が、途中で


 「兄様」


 とエルミスに止められた。今度は何?僕は忙しいんだけど........。


 「何?」


 少し冷たい感じの言葉が口から出た。しまったと思ったがどうやら彼女は気づいていないようだ。危ない.....。

 そう振り返ると、エルミスは洗い物を終え、僕に向かって一歩、二歩と足を進め、やがて僕と一メートル位の所で止まった。

 何かすごい怖いんだけど......。そう思って言葉を発そうとすると


 「エルミ_____」


 「兄様。忠告しておきますが、城から出て行かれるのはあまりお勧めしません」

 

 と。相変わらずの冷たい口調でそう言ってきた。

 エルもそうやって僕が城外に出るのを止めようとした。何でみんなそうやって城外に出るのを止めるんだろう。何か僕達に直接的な害があるのだろうか?

 何にせよ、エルも一緒に行ってくれるんだ。父様と母様と師匠以外の誰が止めようと、僕は城外に出る。もう決めたもん。


 「.....そう。分かった。頭に入れておく」


 ひとまず時間も押しているし、一刻も早くこの場から離れよう。僕はそれだけ言い残してその場を去っていった。









 「待たせたね、カルミス」


 「大丈夫。そんなに待ってないし」


 現在地は城の門の前。この門を通ってしばらく歩けば城下街に出れる。

 僕の夢に見た城下街が、すぐそこに_____

 早く行きたいとエルの手を引いて門を出ようとするが、動かないエルに僕も止まった。


 「どうしたの、エル。早く行こうよ」


 「......いや、カルミス。ちょっと待ってくれるかな」


 エルが自分が羽織っているローブを取り、僕に被せてきた。


 「これを着て。それについているフードで自分の顔を隠して」

 

 急にそんな事を言い出すので、


 「え、何で?」


 と言うと、どうやら民衆の視線を気にしているらしく、大騒ぎにでもなってしまったら困るらしい。

 まぁ確かに。父様が城下街に下りているのを窓から見ていると、すごい周りの市民達が大騒ぎして父様にたかっているのを見たことがある。

 父様は他の国の王と違って、市民達にとって「尊い」というより「憧れ」に近い存在。なので、市民達からは凄いモテており大人気なのだ。他の国で王の前に市民がたかれば、相当心が寛容でない限り、すぐに斬り捨てだろう。

 まぁ、そんなことする国なんて一つしか聞いたこと無いけどね。

 いくら王子であるとはいえ、ルイン=クラリス=ソレイユの息子なので市民の騒動は回避できなさそうだ。自分で言うのも何か変だけど。


 「はい。着たよ」


 着たことを確認させるために、両手を広げてみせる。するとエルはしばらくじっと見つめてきて、「いいよ」と言って僕の手を引いた。

 一、二歩踏み出して、門から出る。城から出る事が出来たと思うと、胸がわくわくして走り出しそうな勢いだった。

 でも、一応王族だしそんな目立つ行動はしないほうがいいだろうと思い、その気持ちを押し殺しエルと同じペース足を進めていく。

 

 「.....」


 突如、嫌な予感が走ったの時にはもう僕は引き返せないところまで来てしまっていた。









 立て続けに並ぶ店。どこからともなく匂ってくる美味しそうな匂い。人同士が楽しく喋り、賑やかになる大きな街道。

 まさにそこには、平和の象徴が醸し出されていた。


 「わぁ......!!」


 窓越しでしか見たことなかった僕にとっては。

 [理想郷ユートピア]と呼ぶのに相応しかった。 


 「こんなにも,,,賑やかだったんだね、エル」


 「うん...まぁね」


 僕一人ではしゃいでいる中、エルは辺りを警戒しながら足を歩めていた。気持ちが高ぶっていた僕はエルのその不可解な行動に気づかず、ただ目を輝かせていた。

 エルと距離が離れている事を。そして自分の身に_________危険が迫っていることを。


 「あれ、エル?」


 エルのことは気にせずに足を進めていた僕は、さっきまで隣にいたはずのエルを見失ってしまった。

 いない。いない。

 どこを見渡しても......見つからない。


 「エ、エル......?」


 急に恐怖が僕を襲ってきて、体が震えた。まだこの世界に足を踏み入れたばかりの僕のとって迷子とは.......「恐怖」でしかなかった。


 「エル...エル!!」


 周りには大人たちばかり。あいにく僕はまだ身長がそこまで伸びていない。上から見渡す事は出来ない。狭い視野で人を探すのは非常に困難だ。

 一回城に戻るか...?いや、城に戻って父様に見られたらどうする?雷一発ではすまない事態になるだろうし、エルとはぐれてしまったとなればエルの父親も黙ってはいられない。

 

 「エル!!いるなら返事してよ!!」


 街のど真ん中で叫んでしまったため、周りの視線が僕に集まる。

 そうだ。誰か、誰かに助けてもらおう。

 取り乱しちゃ駄目だ。取り乱せばここで魔法暴発マジックアウトバーストズを引き起こす事になる。こんなところで暴発したら、被害が出てしまう。

 なんとかして呼吸を安定させ、魔力マナの流れを一定にさせる。

 危うい状況になった時に出てしまうのは僕の悪い癖だ。どうにかして冷静さを保っていないと......。

 そう自分に言い聞かせてエルの捜索を続けていると、


 「っ......!!」


 前から来た人とぶつかってしまった。その衝撃で僕は後ろに尻餅をついてしまい、転ぶ。


 「痛.....!!」


 尻から上半身へと走る痛みに襲われしばらくその状態のままでいた。が、


 「おい、クソガキ!!どこ向いて歩いていやがるんだ!!」

 

 ぶつかってしまった相手の人が僕の服の襟を掴み、それを受けた僕は軽々と持ち上げられる。

 相手は僕よりも数十倍大きくて、一般の人より体格が大きい髭の男性だった。種族は人間ヒューマンだ。

 彼は顔を怒りの形相に変え、僕に怒鳴り散らしていた。これが噂にいう、「ゴロツキ」というやつか。結構怖いな。

 

 「す、すみません.....!!人を探していたもので...」


 そうやって必死に謝るも、彼は一切聞く耳を持たず、


 「テメェどこのガキだ、あぁ!?親は誰だ!!」


 とより一層怒りをぶつけてくるだけだった。

 あまりの声に僕はひるんでしまい何も言えなくなった。

 口が震え、手も震え、足も震える。

 抵抗ができなかった。

 ここで魔法を一発打てばいい話だったのだが、城下街で魔法を使用することは法律によって禁じられている。犯せばどの身分であっても牢屋行きだ。

 抵抗ができなかったのは半分で、残り半分は抵抗する術がない。

 この人を殴るにも、あまり強すぎると場合によっては殺してしまう可能性があるし、何よりもエルが言っていた通り目立ちたくない。もうこの時点で既に目立ってしまっているのだが。

 どうすればいいのか頭で考えようとしても、なかなか回らない。恐怖のせいで思考速度と判断力が鈍っているのだ。

 これ以上この人と関わっていれば、そのうち父様派遣の兵士に見つかってしまう。

 早くどうにかして離れなければ.....。


 「すみません....!!このことは深く反省しております!!だからどうか離して下さい!!」


 やっとの事で動いた口から、再びお詫びの言葉を出す。が、またしても


 「その服を見るにどこかの坊ちゃまみたいだが....顔を見せろ!!」


 と言われてしまい、挙句の果てにはフードを外されそうになった。

 それだけは止めてくれと思いフードを必死に抑えたが力が及ばず、


 「あ!!」


 僕の顔が民衆に晒された。その時、再び僕に視線が集まる。

 このまま騒がれたら........父様に見つかる......!!

 そう思っていたはずだが。


 「ぁ......」


 先程まで僕を怒鳴り散らしていた男性はその細い目を限界まで見開き、怖がるような目で僕を見ていた。周りを見てもこの男性と同じような感じで僕を見ている。

 何を怖がっているんだろうか、と、口を開こうとすると。


 「え、エルフビーストだぁぁあぁあああぁあぁあっ!!!!!!!」


 男性が僕を地面に投げ飛ばし、叫び、一目散に逃げた。

 

 「きゃぁああぁああああぁああぁ!!!!!」


 それに合わせて、周りの市民達も叫び声をあげ、一目散に逃げる者。武器を持って僕に立ち向かう者。恐怖に屈し動かなくなる者や気絶してしまう者。そして狂ってしまう者。

 僕が顔を出してだけでこんなにも市民達が怯えてしまっている。

 何故...?僕が何かしたとでも......?


 「エルフビーストめ......!!い、今俺達を殺そうとしてみろ...!!そ、その瞬間心臓に刺すぞ!!」


 長剣を持った狼人ウェアウルフの男性が、後ろの子供達を庇い震えながらも僕に剣先を向けている。

 何で......?何でそんなに怯えるの...?

 無意識に手が伸び、足が動く。すると、


 「動くんじゃねぇ!!動いたら今すぐその頭を吹き飛ばす!!」


 「獣人だ!!頭を吹き飛ばして死ぬとは思えない!!」


 僕の後ろで銃を構えた市民が今すぐにでも引き金を引きそうな勢いで叫ぶ。

 だから......何で...


 「何で......」


 そう呟くと周りはより一層警戒し、血眼になる。

 僕はそれになりふり構わず言葉を続ける。


 「何でですか...」


 その場で言葉を発する者は僕だけで、後は全員息を飲み震えている。

 何で殺されなければいけないんだ。

 父様達はこのことを恐れていたのか?

 僕が世間に出ればこうなってしまうことを......。

 何故教えてくれなかったんだ。

 父様も、母様も。そしてエルも。

 分かっていたら、こんなことにはならずに済んだ。

 分かっていたら_______こんな思いをしなずに済んだ。

 

 「何で僕は......」


 眼帯をしている右目が酷く痛む。多分心から込み上げてくる何かのせいだろう。

 それが何なのかは大体は分かっているが。

 それは。


 「何で僕は殺されなければならないのですか!!」


 ________この残酷な世界に向けた、怒りと悲しみだ。

 こんな人生を僕に与えてしまった神々への、反逆。

 僕は魔力を自分の体に纏い、防御態勢を作る。

 小さな少年の怒りに市民達は再び屈してしまい、僕に向けている銃口や剣が震えている。

 

 「」


 しばらくの沈黙があり、その間僕は鋭い眼光で周りの様子を窺う。

 獣人の......いや、創神の家系の「神眼しんがん」に捉えられないものはない。誰かが一ミリでも動けば神眼は反応し僕に知らせてくれる。

 その瞬間に、僕はそいつの心臓を貫く。

 僕はこの場にいる全員の市民を敵に回すつもりだ。

 そうしなければ、勝てない。

 

 「それはなぁ......坊主」


 僕の後ろで先程から銃を構えていた一人の男が、口を開く。

 僕はその男を見て、睨みつける。

 男は一瞬ひるんだが、すぐに正気を取り戻し言葉を続けた。


 「お前がエルフビーストだからだよ」


 「...!!」


 目を見開く。驚きではなく、恐怖でもない。

 ただその言葉にイラついただけだ。

 エルフビーストだから何だっていうんだ。

 何で種族がエルフビーストだってだけで、こんなにも迫害されないといけないんだ。

 もう僕の怒りは最大限まで達してしまった。

 ねぇ、神様。

 どうして僕は生まれたのですか。

 何のために生まれてきたのですか。

 どうして。

 

 「」


 どうして貴方は、見ているだけなのですか。

 

 「っ!!」

 

 右手を構え、全神経を集中させる。無詠唱魔法を一発で決めるために。


 「!!構えろ!!魔法が来るぞ!!」

 

 「魔法が来るって......やっぱりこいつは貴族だったのか!?」

 

 「貴族ってことは、[ハイエルフビースト]じゃない!!」

 

 僕が魔法を打つ事に気づいた市民が周りに知らせ厳戒態勢を整えさせる。が、そんなのは無意味だ。

 僕は今から聖級魔法を打とうとしているのだから。

 それに、彼らは態勢をとるのが一足遅かった。もうその時点で僕の勝利は確立。

 もうどうにでもなってしまえ。考えることを放棄した僕は、最後の言葉を口にする。


 「貴方達は_______残酷だ」


 そう言って僕は魔法を放った。はずだった。


 「止めなさい」

 

 僕の魔法は市民に当たらず、そのまま消えてしまった。

 誰が...こんなことを?

 周りを見渡し、僕の魔法を消したやつを探していると。


 「!!」

  

 僕の魔法を止めたのは、市民でもなく戦士でもない、兵士でもなかった。

 

 「父.....様...」

 

 静かな怒りを纏った父様が、城の方向からきていた。

 

 「へ、陛下......」


 市民達が全員父様に注目し、固まる。そして僕も。

 父様が微かに怒りの形相をしていて、その周りは触れてしまったら命を吸い取られてしまいそうな禍々しいオーラが漂っていた。

 父様は本気でキレていた。その怒りの矛先は僕か、市民かは分からない。

 

 「無駄な争いは止めなさい。我が国は平和を象徴する国ではなかったのか」


 冷静な声で淡々と、だがどこか冷酷な感じが出ている父様の声に、僕は何も言えずにいた。


 「で、ですが陛下.........このような危険な種族を放っておいては、いずれ我々の国は滅びますぞ...」

 

 そんな中でも勇気を出して、父様に言葉をかけた市民がいた。


 「あぁ......その子か」


 市民に言われて、僕に視線を移した父様。その目は僕の心臓を貫き、息の根を止めにかかる。

 まるで「蛇」にでも睨みつけられているようだった。

 

 「ぁ......」


 とうとう僕はその視線に耐えられずに膝をついてしまう。それを引き金に、僕から視線を外し、父様は市民達に言う。


 「その子は______私の息子だ。この国の王子であり、次期国王候補のカルミス=フィン=ソレイユだ」


 僕のことを自分の息子であると主張した。すると周りの市民達はざわつき、先程父様に声をかけた人は目を見開き「ご冗談を......」と言いながら、市民達の大群の中に消えていった。


 「私の言う事が嘘だと思うのならそれで構わない。が、この子が創神の力を解放すればこの国はもとより、人間の世界を滅ぼすことになるだろう。勿論、私はそんなことをしたくない。貴方方はどう思っている?」


 父様が脅すようにざわつく市民達に言う。それを聞いた市民達は、父様に敵意を見せる者、それを聞いても尚嘘だと言う者、父様に敵意など見せず、これからも信用し従っていくという態度を見せる者。色んな人がいた。

 だが父様はそんなもの眼中に入れず、すぐに僕の手を引いて城の方に歩いていった。


 「父...様...」


 「......」


 僕と反対側の父様の隣にはエルがいて、僕の方をチラッと見てすぐ前を向いてしまった。

 謝っても許してくれないだろう。市民達の命を危険に晒すだけでなく、この都市全体を滅ぼそうとしていたのだから。

 どんな罰でも受ける覚悟はしている。死刑だってなんだって、かかってこい。

 声を掛けても反応を見せなかった父様だが、その顔からは怒り、というよりも悲しみの方が強く感じられた。


 「.....」


 市民達の視線を背に受けながら、僕達は城に帰った。









 「今回の件については、私が全責任を負います」


 「!?エル、何を言って_____」


 「王子を外に連れ出したのは私です。彼は最初抵抗しましたが、私が無理やり連れていきました」


 城に戻った後、玉座の間で父様とエルの父親アムル王と僕とエルで話をしていた。

 今回の件は全て僕が悪いのだと、僕が行きたいと言ったからこんな事態を引き起こしてしまったのだと。

 そう言おうと思ったのだが、エルが嘘をついて自分のせいだと仕向けてしまった。


 「......そうか......。となるとお前は、世界の王の息子である者を危険に晒し、挙句の果てにはこの都市を滅ぼそうとしていた。......そういうことだな?」


 「はい。間違いありません」


 違う。エルは悪くない。

 

 「違います父様!!エルは悪くあ____」


 「黙りなさい、カルミス」

 

 間違いを正そうと二人の会話に口を出そうとすると、父様に口止めされた。

 何で邪魔をするんだ?再び口を開いて対抗するも、


 「何故です父様!!私が被害者だというのなら、私にだって発言の権利があるはず______」

 

 「いいから黙りなさい、カルミス!!」


 またもや口止めされた。父様の鋭い視線が再び僕に向けられ、僕は何も言えなくなった。

 僕が悪いのに。父様達は勘違いをしている。

 何で言わせてくれないんだよ!!

 そう思いながら、僕は父様の言葉に従った。


 「.........世界の王の息子を危険に晒すなど、重罪に値する。それは分かっているな?」


 「はい。どんな罪でも受けるつもりです」


 エルが真っ直ぐな視線で父様を見つめる。その視線を受け、しばらくの間目を閉じ考えた後、再び口を開いた。


 「.....私はお前に罪を咎めない。私、はね」


 「......その寛大なお心、感謝いたします」


 どうやら、父様はエルのことを許してくれるみたいだ。きっと呆れてしまって制裁を加えるまでもないと判断したのだろう。

 だから、エルは悪くないんだって...!!


 「エル」

 

 色々と物申したかったが、それでなくても父様は怒っているのにこれ以上怒らせると厄介だなと思い、僕はその気持ちを押し殺した。

 すると、先程までずっと黙って二人の会話を聞いていたアムル王が口を開いた。


 「はい」


 「ルインが許したからって、俺が許さないとは限らない。ルインの代わりに俺がお前に制裁を与える」


 そう言ってアムル王はそのまま言葉を続ける。

 

 「お前には、ルーノ城の地下牢で五年間過ごしてもらおう。勿論外に出てはならない。そして、俺のことを「父上」と呼ぶことを禁じる。陛下と呼べ」


 結構キツイ内容だった。五年間も日の光を浴びれないなんて、体に悪過ぎる。


 「少し厳しすぎではないか、アムル」


 父様も僕の気持ちを察してくれたのか、その内容に反論する。

 するとアムル王はフッと笑い、


 「貴方よりかはましであろう、ルインよ。俺が前もって言わなければ、この子を処刑台にあげるつもりだったろう?」


 と淡々と言った。

 その言葉に僕はゾッとし、エルの方を向いた。エルはすまし顔で佇んでいた。

 まるで死をも恐れない勇者、もしくは怖いものしらずのようだ。

 何故あんなに平然といられるのかが不思議だ。自分が置かれている立場を理解できていないのか...?

 いや、そんなはずはない。どこかの長女みたいに馬鹿な頭はしていない。

 では何故冷静でいられるんだ...?もしかしたら表に出さないだけで内心は焦っているのでは.....いや、自ら嘘をついておいてそれはないか......。

 色々あれこれ考えていると、いつの間にかエルはアムル王に手を引かれ帰還の準備をしていた。

 

 「エル!!」


 「!!」


 それを見て僕はエルを引きとめ、ギュッと抱きついた。僕の体重が乗っかったエルは、しっかりと僕を受け止めそっと抱き返す。

 

 「.....また、ね」


 嗚咽交じりの声で、僕はエルにそう言った。悲しさを紛らわせるためにエルを強く抱きしめ、顔が見られないようにした。いや、もう顔なんてどうでもよかった。

 とにかく今はこの時をかみ締めなければ、エルとはしばらく会えないのだ。

 

 「.....うん」


 しばらくしてエルも返事をし、僕はそれを聞いて安心したように彼と距離を離した。

 もう今の僕の顔はどうなっているのかすら分からない程、僕は何かに浸ってしまっていた。ただエルは。


 「また、会おう」


 そう笑顔で言って、帰っていった。

 玉座の間に取り残された僕と父様。その場に崩れ落ちそうになった僕だったが、また会えるのだと、流れそうになっていた涙を拭い、父様と一緒にリビングの方に向かった。









 僕の目の前には、母様と父様がいる。

 今から始まるのは、説教という名の会議。僕以外にも、レルミス一向が父様の後ろのほうで壁から覗いてこちらの様子を窺っている。バレバレだよ、三人共。

 

 「......」


 相変わらず父様の顔は冷静だが怒りがこもっている顔だった。母様は少し呆れ顔で僕を見ており、何も口を出したくない。そんな雰囲気が漂っていた。


 「...カルミス」


 「...はい」


 最初の第一声は父様だった。その声に、僕は返事をする。


 「.....何故、外に出たんだ」


 単刀直入に聞かれ、僕は少し戸惑ってしまったが、素直に、嘘偽りない言葉を放った。


 「.........興味があったからです」


 単に興味を惹かれた。だから僕は父様達のルールを破り外に出た。自分の身が危険に晒されるとも知らずに。

 大体、危険だというのなら、門にいる兵士も止めるはず。なのに止めずに門を通る僕達を見過ごした。その結果がこれだ。


 「...そうか」


 父様は早く風呂に入りなさい、とだけ言って母様と一緒に去っていこうとした。だが、僕にはまだ聞きたいことがある。


 「待ってください、父様。僕からも質問があります」


 僕は椅子に座りっぱなしで、去っていこうとする父様を止める。父様は振り返らずに足を止め、聞く態勢に入った。


「.....何故、エルフビーストは迫害されるのですか」


 もうあんなことをされた以上、この質問に答えてもらわないわけにはいかない。それさえ知っていれば僕はあんな目に遭わなくて済んだし、もし遭ったとしても市民達の行動にしっかりと対応できたかもしれない。

 何故エルフビーストは迫害され嫌われ、ましてや殺されなければならないのか。

 僕はこれまでのエルフビーストの歴史を問いかけた。


 「......」


 父様はしばらくの間黙り込み、そしていつもの顔で振り返り再び僕の前の椅子に座った。


 「......少し、長くなるぞ」 

 

 「はい。構いません」


 長かろうがなんだろうが、歴史さえ知れれば僕は満足だ。

 僕はそのまま言葉を続けるようにと促した。


 「...昔、世界で最初のエルフビーストがその強大な魔力と強靭な肉体で世界を滅ぼそうとした時代があってね。そのエルフビーストは王族達によって滅んだが、多大な被害出てしまい、それからエルフビーストは恐れられるようになり、幼少期に処分してしまうことになったんだ。特に、[男性]のエルフビーストはね」


 ...だから、僕達は......。


 「でも、何故僕達が嫌われなければいけないのですか?悪いのはそのエルフビーストだというのに」 


 よくよく考えると、そのエルフビーストが悪いというのに何故僕達まで巻き沿いを食らわなければいけないのだろうか。

 何故僕達まで殺されなければいけないのだろうか。

 僕は思った疑問を父様に投げかけた。すると父様は軽く俯いてしばらくして再び僕を見て口を開いた。


 「その気持ちはよく分かる.......だがな、カルミス」


 父様が席を立ち、立った状態で言葉を続けた。 


 「一度植えつけられた悪夢は、そう簡単に消す事はできない。人々はその悪夢を拒絶しようとして、カルミス達にその怒りをぶつける。......理不尽な話だろう?」


 「.....はい」


 人々はただ逃げているだけ。怯えて、悪夢が再び甦らないように元凶を取り除く。

 ......そう思うと、僕達がモンスターを殺す理由と同じような気がする......。そう思うと...少し腹が立つというか、人の事言えないというか。

 複雑だ。


 「だから、もう外に出るなんていうことはするんじゃないよ。そのうち、その身を滅ぼす事になる」 


 「.....はい」


 これ以上家族に迷惑をかけるわけにもいかないし、この事実を知った以上、わざわざ自分から殺されにいくなんて行為はしたくない。

 僕は頭をゆっくり縦に振った。それを見て父様は再び踵を返し、玉座へと戻っていった。

 父様が去って僕はしばらくの間椅子に座っていた。特に意味はなかったが.....いや、あったかもしれない。ただ僕は椅子に座って遠くを見つめていた。

 先程からずっと僕と父様のやりとりを見ていた妹達が僕の背中を叩くまで、およそ二、三時間かかった。 

次回更新予定 未定

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