第十一章 修行の成果?
夏の大会や体調不良等に二ヶ月も更新を遅らせてしまいました。
すみません
昨日のエルとの一騎打ち以来、ボクはエルと将軍に稽古をつけてもらう日々を送った。
将軍の時はエルも一緒に受けているが、エルのみの時はボクだけ。時々妹達が参加するくらいだ。
エルの教え方はとても分かりやすく、すぐエルに追いついた。と思い込んでいるボクだった。
「王子。少し忠告をしておきたいのですが宜しいでしょうか」
「何?」
エルが急に真剣な顔をして、ボクに尋ねてきた。ボクはそれに対し快く受け入れる。
忠告とはなんのことだろうか。
「今後の王子のためにも言っておきます」
エルがどこか言いにくそうな顔をして、ボクに言った。
「王子。貴方は今のままでは下等の魔物ですら倒せません」
「え...?」
急に言われたその事に、少し腹が立ってしまった。だって怒るだろう?そのままじゃぁアリ一匹殺せないと言っているのと同じなんだよ?
ボクがイラつくのも無理は無い。
「な、何で急にそんなことを言うんだよ......」
そうやって弱弱しくボクが言うと、エルが真剣な顔でまたボクに返してきた。
「僕は事実を述べているだけです。今の王子は力で相手をねじ伏せている。それではいつか命を落とす事になるでしょう。前の王子よりかは大分力以外の技術やテクニックが上がってきましたが、まだどこかで力だけで押そうとしている自分がいます」
淡々と述べるエルの言葉に、ボクは首を立てに振るざるをえなかった。だって事実だから。自身では無自覚なところも多少はあるが、本当にその通りなのだ。
力でどうにかして一撃必殺を狙う。それが今のボクの戦法だ。
だが、彼が言うにはそれが命取りになるんだと。攻撃重視にしていたら、防御の方に手がいかなくて普通に防御できるものも防御できなくなってしまう事がある。
それを防ぐために、彼はボクに稽古をつけてくれているのだが、なかなか上達していないのだとか。
その時ボクはマジかよ、と思った。数ヶ月やっても上達しないようじゃ、これ以上やっても正直言って無駄なのではないのだろうか。だんだんそう思い始める。
と、そこでボクはエルにどのぐらいでここまで上り詰めたぼか聞いてみた。
「エルはどのぐらいでその能力を手に入れたの?」
するとエルは真顔で
「一ヶ月だよ」
と言った。
はぁ!?一ヶ月!?
ボクと違ってすぐ体に身につくタイプのようだ。
でも......一ヶ月って。
現在ボクは六ヶ月ほど稽古をつけてもらっている。それの六分の一って.........。
成長速度が「天と地」だ......。
しばらく勝てそうにないな。
「では、再開しますよ!!王子!!」
そんなことを考えていると、エルが急に稽古を再開し始めた。それにビックリして出遅れたボクは、容赦なしに攻められる。
「ちょっと......手加減してよ~~~~!!」
「駄目です!!今後の王子のためにも、全力で挑まなければ意味がありません!!」
「そんなぁぁああ!!」
ボクはその後、ボコボコにやられました。
「[神ノ雷よ 罪深き大罪人に鉄槌を下せーーーーーーーーー雷剣桜残鬼]」
エルと出会ってから、二年の月日が経った。僕はエルより身長が高くなり、逆にエルを見下ろす側となった。
そして、当時僕と同じ剣帝だったエルは「剣聖」へと昇級し、僕はその一個上の「剣神」に昇級した。これも彼の稽古のお陰だ。
僕はこの二年間で、「剣神カルミス」と呼ばれるほどの有名人になり、「神速の貴公子」という二つ名まで貰った。
小さかったころの僕より、また一段と強くなったので、エルに戦闘を申し込んだ。
「力試しがしたい。いいかな?」
すると彼は喜んで引き受けてくれた。彼は若干将軍に似ているところがある。いや、そのまんまだな。
戦闘狂な所もあるし、それに性格も比較的穏やかだ。何を考えているか分からない時のエルの顔は、とても怖いんだよなぁ......。
それを一回言った事があるんだけど、どうやら本人は無意識らしい。いや、逆に怖くない!?
「二年前と違って......技術力とテクニックが上がっているね。成長速度は遅いけど......なかなかいいよ」
「そりゃぁ、成長していなきゃ僕は困るよ」
エルが言った言葉に、ボクは困った顔をしながら答えた。
二年もやって進呈が無かったら、僕泣くよ...。ていうか、下手すれば命絶つかも。
「やられっ放しもどうかと思うし、僕も抵抗してあげるよ」
やっとのとこで、エルが攻撃を仕掛けてきた。
本物の剣で、エルは僕に襲い掛かる。それを華麗に避け、カウンターを取る。それに対応できず、エルは後方に軽く飛ばされる。
だが再び立ち上がった。彼は意外と負けず嫌いで、失敗したとしても冷静に落ち着いて次の策略を練る。
これは彼の戦法の一部に過ぎないが、僕にとっては大利益だ。
相手は頭脳派。僕は肉体派。
なら、彼に考える暇を与えないようにすればいい話だ。
ふと思いついた僕の考えを、早速試してみようと思った。
彼が戦闘中に、一瞬だけ止まる時がある。それは、攻撃、もしくは攻撃された後の時。
その一瞬で彼に攻撃を入れれば、あとは連続攻撃をして相手の体力を減らしていけばいい。
「天の息吹 光の訪れ 闇を消し去り 我が神へと力を与えん その身を削り 数多なる祝福を生み出せーーーーーー[祝福のセレナーデ]」
そうこうしている間に、エルが加護をかけた。物理攻撃、魔法攻撃のダメージ半減魔法だ。
僕にとってそれは、大きなハンデとなった。
だが、無視する。
加護をかけようが魔法をかけようが、ダメージを与えられる事には変わらない。
大丈夫。落ち着くんだ自分。
さっき考えた計画を実行するんだ。
彼に考える暇を与えずに攻めるなんて、簡単じゃないか。
大丈夫。自分なら出来る。
加護魔法をかけられた事に少しばかりパニックを起こしている自分の体に、僕は冷静に問いかける。
手が震えているが.........そんなことなど気にせず僕は目的を見据える。
二年経っても、彼のスピードは一級品。その細身の体を生かして、風のようにサッと動く。彼の最大の武器だと言っても過言ではない。
相当神経を張り巡らせないと、彼に剣を当てる事は不可能だ。
例え、英雄と呼ばれる者だったとしても。
僕も何とか彼のスピードについていけるようになったが、なかなか当てる事はできない。当たったとしても五十分の一位の確立だ。
もの凄い低いって?いや、これでも縮まったほうだよ。
最初は、千分の一位の確立だったかな......。
「どうしたの?かかっておいでよ」
「!!」
彼の表情に、背筋が震えた。
あの威圧的な笑顔。冷たくて残酷な笑顔。
僕の体は金縛りにあったかのように、固まってしまった。
ヤバイと思ってふと我に帰ると、エルは既に自分の目の前から消えてしまっていた。
確実に見失った。
四方八方を見る。どこにもいない。だが、微かにエルの魔力を感じる。
上か!?そう思って上を向くと、大当たり。
彼が剣の切っ先をこちらに向けて、微笑んでいた。
「っ!!」
咄嗟に出た僕の剣で彼の攻撃は塞いだものの、彼は一歩も引くことなく次の手段を考える。
彼が一瞬止まったのが見えた。僕はそれを見逃さずに、攻撃を仕掛ける。
だが一歩遅かったらしく、エルに防御された。
ーーーーーークソッーーーーーー
心の中でつい舌打ちを打ってしまった。その悔しさがあとから大きくなって僕の心から溢れてきて、やがて怒りへと変わった。
出鱈目な攻撃。二年前の時と同じような攻撃だった。彼はそれをなんなくかわし、僕の腹に蹴りを一発入れてきた。
「がっ......!!」
僕は我に帰り、そのまま腹を押さえて相手と距離をとる。
知らぬうちに、武術の方も鍛えていたのか.........。
僕は先程蹴られた腹をさすりながら、初めて相手の武術が強化されている事に気づいた。
まぁ、この程度なら顔面に食らわない限り気絶することはないんだけどね。どっちかっていうと、僕のほうが断然強い。
二年前は岩を一発で壊せるほどだったが、現在はレンガで造られた建造物を一発で壊せるくらいまで成長した。
さすがにそんな力で人を殴ったら、気絶では済まなくなるから手加減はするけどね。
「ふぅ.......いや。武術の方も随分と腕を上げたみたいだね、エル」
「まぁね。カルミスにはなかなか追いつかないけど」
僕は生まれつきの怪力だから追いつくのは当分先だと思う。
「カルミス。また力任せにやったね」
「.......うん。ついやっちゃって...」
どうやらばれたらしい。いや、ばれて当然だろう。
彼は長い事僕と共に時を過ごしていた。相手の欠点などすぐに見通すことができるだろう。
「前から言ってるけど、君は感情的になりやすいんだよ。感情的になって、つい我を忘れる」
「分かってるよ、そんなの......」
「分かってないから言っているんだよ、僕は」
また始まった。エルの説教。
彼の説教は短くても三十分、長ければ五時間だ。
彼もよくもまぁあんなに言葉が出てくるな、って思ってしまうくらいいっぱい喋っていて、終わったあとのこっち側の疲れが半端ない。
もう彼の説教している声がしばらく頭の中をグルグル回っているぐらい。そのぐらい彼の説教は退屈でしんどい。
今回はどのぐらいかかるのだろうか......そう思っていると。
「はぁ......。もういいや。君の性格自体を変えない限り、変えられないと思うしね。これ以上言ったってすぐに変わることはできないんだろう?」
「ま、まぁ......」
「だから、もうこの話はおしまい。続き、やるよ」
......え。
意外と早く終わった事に驚いた。最高記録だ。
正直ホッとした。早く終わってくれて。
「さて......次は僕から行くよ、カルミス」
そうホッとしている間に、エルは戦闘態勢に入り僕に反撃してきた。ボッとしていたため、僕は一歩遅れてその攻撃を防ぐ。
綺麗に守れなかったから、すごい両腕が痛い。
後ろに綺麗に飛んでいくが、着地は成功した。そして僕も倍にしてエルに攻撃。
「[戒刃]」
上級魔法発動。相手の動きを一時的に止める魔法。
そんな卑怯な魔法を僕は彼に打ち、動きを止めて隙だらけにした。
彼もこの魔法を打たれるとは思わなかったのか、唯一動く目をかっ開いていた。
「油断は禁物って誰が言ったんだっけ、エル」
そんなエルに僕は言う。
完全に油断していた彼は視線を地面に移し、笑う。笑うといっても、降参の笑い。
僕はそれを見て、罠か何かと思ったので自分の愛用剣をエルに向け脅す。
「もうここまできたら逃げ場は無い。素直に降参したほうが身のためだよ」
すると魔法が解けだしたのか、エルの口が動くようになり
「もう降参だよ、カルミス」
と諦めの声で言われた。本当に降参したようだ。
僕はその言葉に納得し、剣を収めた。すると
「え」
エルに転ばされ倒れた。
そのまま焦って僕は立ち上がろうとしたが、剣先を向けられ動きを封じられた。
完全に騙された。
「っ.....騙したね、エル」
最初口から出た言葉はそれだった。するとエルは
「ほら、油断するからいけないんだよ」
といい不気味に微笑む。僕はその微笑にゾッとした。
冷たくも無い、ましてや温かくもない、どっちともいえないその笑顔。
ここで初めて、彼の怖い部分を知ったような気がする。
「.....」
しばらく無言になったまま、僕はそこで静止していた。やがて体の金縛りが解けたかのようにフッと後ろに引っ張られ仰向けになる。
「......ハハッ...」
ついこぼれた降参の笑いが無意識に出る。エルもその笑いにつられたのか、クスクスと静かに笑い始める。
「はぁ.....やっぱりエルの頭の回転の速さとその体の俊敏さには勝てないや」
雲ひとつ無い快晴の空を見ながら、僕は言った。それを聞いたエルが僕の隣に座り込んで言う。
「......いつかきっと、勝てる日がくるよ」
まるで僕の未来を知っているかのようにそう言った。僕の角度からでは彼の表情はあまり見えなかったが、見なくともどんな表情かは想像がつく。
「......そっか」
その言葉は風と共に消え、エルの耳に届く事は無い。でもただの返事だから、正直届かなくてもいい。
今日はいつも通りの快晴。明るい太陽が僕ら二人を照らし、光り続ける。
「必ず、貴方は僕を越すだろう」
そんなエルの声を聞き取れないまま、僕はしばらくの眠りについた。
次回更新予定 9月17日




