第九章 戦争の予兆
最近短すぎだな......
大きな宴から一夜明け。ボクは目をうっすら開き、よろよろしながらキッチンへと向かった。
「超~~~~~~~眠い」
大きなあくびを漏らす。今にも転びそうな足取りでボクはキッチンにあるフライパンを手にした。
「......」
しばらくそれを見つめる。そしてフライパンを元の場所に戻し、すぐ近くにある椅子に座り込む。何でこんな行動をとったのか自分にもよく分からない。きっと寝ぼけていたのだろう。
椅子に座り込んだボクはそのままゆっくりと目を閉じ寝そうになる。ゆっくりと周りが闇に包まれあと少しで夢の世界に行きそうになったその時。
「何しているんですか、王子」
優しく包むような声。...ノエル将軍だ。
「ノエル将軍がこんな時間に起きてくるなんて珍しいですね」
「まぁ......昨日の宴で酒を飲みすぎて二日酔い気味だけどね...」
そう言われてノエル将軍の顔を見ると、少し青白くなっているのがよく分かった。
「酒の飲みすぎ......ですか。...ノエル将軍下戸のくせしていっぱい飲みますよね」
「飲んでるんじゃないよ。飲まされているんだよ」
ボクがノエル将軍にツッコミをいれた途端、ノエル将軍が訂正しにきた。相変わらずこの人は上手く誤魔化そうとするよなぁ......。そう分かっているけどこれ以上言い合っていても意味はないし。
「そうですか」
とボクは言った。
しばらく将軍と雑談を交わし朝ご飯を食べた後、ボクはいつもの王子服に着替えて父様の部屋に行く。
いつもの恒例行事、「おはようコール」だ。しかも普通のおはようコールと違って声ではなく魔法で起こす。じゃないと父様は起きないからだ。
さて、今日は何で起こそうか。ボクは悩みながら足を進める。
ギギィ......
やがて父様の部屋に着くと、押した扉が鈍い音を立てて開いた。そして部屋の中に一筋の光が入る。ボクはなるべく光を入らせないように子供が一人通れる隙間にした。そこをスルッと抜けて部屋に侵入する。
「ーーーーーーズズッ」
父様のいびきが聞こえる。どうやら熟睡しているみたいだ。ボクは手馴れたように足音を立てずに進む。
ボクはこれを一種の訓練だと考えている。音を立てず、気配を消し、相手を抹殺するーーーーーー殺しちゃダメだけどねーーーーーー。それさえあれば、ある程度の暗殺など容易いものだろう。ま、暗殺者になるなんてそんなとんでもない考えはもっていないけどね。というか逆に暗殺される側っぽい......。
息を殺し、ボクは徐々に近づいていく。やがて父様が寝ているベッドの目の前まで来て、ボクは第一段階をクリアしたことを確認しホッと息を吐く。
が、問題はここからだ。今度は気づかれないように魔法を打たなければならない。
過去に何回か失敗した事がある。詠唱中や魔法を発動する時に流れる魔力に気づかれて眠りながら殺しにかかってきたことや、魔法を外して的外れなところにあたったりして部屋が燃えたり......。過去のことを振り返ると今回は成功するだろうか、という焦りみたいなものが溢れてくる。
ボクは手を震わせながらも、左手を右腕に添えて右手を父様に向けバッと開く。そして。
[水竜の陣]
ボクは魔法名を告げた。その瞬間父様の上に水の塊が出てきて割れる。それを被った父様は飛び起きベッドから落ちた。
「あたっ......!!」
頭を強く打ったのか、父様が頭の横を押さえて悶えている。それを見てボクは申し訳なさ半分喜び半分の良く分からない感情に埋もれていた。だがすぐに父様の手を取り立ち上がらせる。
「すみません......大丈夫ですか...?」
「きょ、今日はやけに手荒だな、カルミス」
半分涙目の父様がボクに怒ったような口調で言う。いや、いつものようにやったら自分から勝手に落ちたんでしょ......って思ったけど、ボクはあえて言わなかった。
しばらくして頭から手を離した父様は、近くにある王の服に着替え始める。やがて着替え終わり、腰に剣を差した後、ボクの手を掴み部屋を出る。
今から玉座へ向かうのだ。あそこはなんとなく居心地が悪いというか、じっとしていられないような場所だ。正直言ってその部屋が嫌いなので行くのは嫌だったが、固く握られている父様の手とボクの手。それを感じ取るとなんとなく行かないといけないという気持ちになった。
数分ほど歩いた後、ボクと父様は玉座の間に着いた。そして父様が空いている右手で重い扉を押す。大体巨大蛇一体分位の重さかな。
ギギギィィ......
先程の父様の部屋の扉と同じような音が鳴り響く。今はこの音は慣れたけど最初の時はなかなか慣れなくて耳を塞いでいたほどだった。でもこれがいつもの音のようになってからはそれっきり耳を塞ぐことなど無くなった。
父様がボクの手を離し、「少し待っていてくれ」と合図を出してきた。何かあるのだろうかとそう思っていると、父様より奥の玉座の少し手前の所で、昨日出会ったルーノ王国の王子エルとアムル国王、そしてフェリクスさんだった。そしてそこに父様が加わる。何か話をしているようにこちらからは見える。何をしているのだろうか。
「カルミス。こっちに来い」
しばらくして父様がボクを呼んだ。その呼びかけにボクは走って父様達のところへ向かう。
「何でしょうか、父様」
ボクがそう言うと、近くにいたアムル国王が
「突然の訪問を許していただきたい、カルミス王子。...いやぁね。エルがどうしても王子と遊びたいと言っていたものだから...。この子は友達もいなかったし遊んだ事も無かったんだよ。毎日毎日将来のため稽古に励んでいてね。そればっかりだったから......この子がやっとこんなことを言ってくれて僕はもう嬉しくて嬉しくて......つい連れて来てしまった、というわけなんだよ」
ととても丁寧に説明してくれた。要は、エル王子はボクと遊びたいってことか。ボクもエル王子みたいに毎日稽古に励んでいた日々だったからなぁ......。だから今回初めて友達が出来た時、ものすごく嬉しかったんだよね。だから......。
「はい。構いません」
とボクは答えた。するとエル王子の顔が一気に明るくなり、ボクの手を引っ張って
「じゃああそこの庭園で遊びましょう!!」
と言って駆け出した。ボクは一瞬転びそうになったが何とかそのスピードについていき転倒を回避した。
「では我々は」
「ちょっとした会議でもするとしようか」
ボク達が去った後、父様達は真剣な顔になり別の部屋へと向かっていった。
「さて、今回の議題だが......」
私達はとある会議室にてある議題について話し合っていた。それは、
「[暗黒地帯にての魔物の増加]について話し合おうと思う」
だ。前々から王族貴族達の間で話題になっていたことだ。
「この件について、分かっていることを上げていこう。一つはその魔物たちは暗黒地帯に住んでいる魔物特有の瘴気を纏っており、非常に危険だという事。二つは、魔物の異常な増加が始まったのが、あのバハムート戦からだったということ。そして三つ目は......その魔物達がこの「レヴィリア」に向かってきているということだ。これは全て把握しているな?」
「あぁ、勿論だ」
「世界樹[ユグドラシル]も気づいているようだが、どうやら追いつかないらしい。それだけ多いそうだ」
「創神の力でどうにかできないか?」
「その力に関しては、私は使いこなせていない。使って全て滅んだとしても、体への負担が大きいゆえ、寿命を削るんだ。ここは騎士団に任しておく他ない」
私はキッパリとそう言った。するとアムルが少し不安そうな顔をして軽く俯く。
しばらくの間。私も席に座り、しばらく考える。するとフェリクスが唐突にとんでもないことを口にした。
「また......起こるかもしれないな。ーーーーーーあの戦争が」
「縁起でもない事を口にするな、フェリクス!!」
フェリクスの前に座っていたアムルが勢い良く立ち上がりフェリクスの拭くの襟を掴む。急な出来事だったためすぐ抵抗できなかったが、振り払おうと暴れ始めた。昔から本当にこいつらは......。
「止めてくれ、こんなところで」
フェリクスとアムル以外の貴族王族達に迷惑が掛かっているのを感じ取り、すぐさま二人の争いを止めた。すると二人共正気に戻ったのか、落ち着いた表情で自分の席に戻り着席した。
「......どうするんだよ......。もしあの戦争が起こったら......」
フェリクスが不安そうに私に問いかけてきた。彼のこんな顔を見るのは何十年ぶりだろうか。普段見せない悲しげな顔に、私はついそう思ってしまった。だがすぐに
「大丈夫だ。......起こらないようにするのが、我々の役目だろう?」
と答えフェリクスを安心させた。するとフェリクスは少し不安な顔を残しつつも、平常心を取り戻しいつものフェリクスに戻った。
大臣達の顔や他国から来た王族貴族達の様子を窺う。やはり皆恐れいているのだ。数十年前に......カルミス達が生まれるもっと前に起きた......あの戦争を。
ーーーーーー第二次人魔大戦争をーーーーーー
あの残酷で悲惨な、人と魔物の戦争。あの時私は国王になったばかりーーーーーー十歳だったため急な戦争にどう対応すればいいのか分からなかった。だから死者を多く出したのだ。市民達を先に避難させればよかったものの、当時は市民達を動かせるほどの思考など持っていなくて多くの犠牲者を出した。あの戦争が終わった後は都市の復興に時間がかかったものだ。勿論私はその時も創神の力の一つ「物体創造」など不可能だったので手伝おうにも手伝えなかった。手伝おうとしても、私のせいでこんなにも犠牲者が出たんだとか、多くの市民達から反感を買っていたため無理だった。しかも復興中にちょっとした革命が起こったのだ。
「市民を苦しめる国王など、殺してしまえ!!」
などと叫んでいた市民達に、殺されかかったのだ。悪気は無かったのに。少人数だったため王族側の勝利となったが、市民達から私への冷たい視線が消えることはなかった。
だが最近となっては世代交代しているので、私を恨んでいる市民は徐々に減っている。
「.........よし...」
私は立ち上がる。それと同時に大臣達の視線が私に集められ、少し緊張感が走る状態に陥る。
しばらく大臣達に考える時間と心の整理をする時間を与えなければ、さっきのアルムとフェリクスみたいに喧嘩が勃発する可能性があると考え、私は大臣達に指示を出す。
「......しばらくこの会議を中断しよう。皆に心の整理をしてもらいたい」
そう言うと、大臣達はそれぞれ脱力するようにぐっと力を入れていた体を楽にした。
それを見て私は無言で後ろを向き、近くの椅子に座っていたレフィーヤに頼みごとをした。
「しばらく席を外す。これからはお前が仕切ってくれ」
「えぇ。分かったわ」
レフィーヤはそれに戸惑うことなく頭を縦に振る。それを確認した私は目の前にある扉から出て行き、世界樹の元へと向かっていった。
「バハムートよ。これも私への復讐なのか......?」
廊下で一人呟いた。
次回更新予定 七月九日




