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星見る竜  作者: 千夢
7/8

親子とは…………

 ディーバはものすごい速さで飛んでいた。魔法使い達もそれぞれの方法で同じ場所を目指す。

「いた」

 ディーバが呟いた。黒い影のようなものがだんだん近づく。大量の黒い竜だ。

 ディーバがレベッカに声をかけた。

「レベッカ、今度は充分に戦ってくれ。何も考えないで。あれだけの数だ、ためらっていたら地球が割れる」

 レベッカは頷いた。

「さぁ、派手にいくぞ!」

 ディーバは炎を吐いた。最前線で飛んでいた邪心竜を灰すら残さず焼いた。

 レベッカはディーバの周りに結界を張る。守りを固めた。ディーバは光に包まれる。

「レベッカ、しっかりつかまれ」

 レベッカの返事を待たずにディーバは旋回する。後ろに回りこんでいた邪心竜を尾で叩く。不意を衝かれた邪心竜がバランスを崩したところで、さらに強風を起こして地面に叩きつけた。

 集まってきた邪心竜を風を起こして追い払う。そこにできた空の道を通り抜けた。レベッカは近くの木を一気に生長させて邪心竜の羽に枝を刺した。飛べなくなった邪心竜はジタバタしている。

 目の前いっぱいに広がっている木々をレベッカが除けさせる。木々はゴムのように曲がってディーバの通り道を作った。

 その向こうにも邪心竜。ディーバは左に見えた滝の水を使って氷を作りツララ状になったものを邪心竜に投げつけた。下にいた邪心竜には、ディーバが蔦を伸ばして巻きつけて動けなくした。

 真正面の邪心竜にディーバとレベッカは同時に強い光を放つ。邪心竜は砂のようになり、風に乗って消えた。

 ディーバとレベッカが戦っていると、後ろから女の低い声のような声がした。

「そんなに自分の仲間を蹴散らして楽しいかい、ディーバ」

 レベッカが聞いたことのある声だった。

「あなたには何を言われても喋りたくない、母上」

 答える隙を狙った他の邪心竜が何かに跳ね返されていた。

「レベッカ、こちらは任せろ!なぁに、昔は魔法使いが勝ったんだ、楽しませてもらうよ」

 魔法使い達が邪心竜を集め、その邪心竜達を内側にした結界の球を作っていた。邪心竜は攻撃できない。攻撃すれば自分に跳ね返ってくる。

「生意気なことをしてくれるね」

 母邪心竜は球の中の邪心竜達を見つめた後、呟いた。

「なぁディーバ、あんた、親に勝てると思っているのかい」

 ディーバは母邪心竜を睨みつけた。

「あなたの行動は母親のものとは思えませんが」

 母邪心竜は鼻で笑った。

「行動に関わらず、親は親なんだよ、ディーバ」

 母邪心竜はゆっくりと近づいた。

「…………おや、背中に乗っているのはあの時の」

 母邪心竜は覗き込んだ。

「丸め込まれたのかい、情けない」

「母上は長老に丸め込まれたのですか?」

 母邪心竜は尻尾を大きく振った。ディーバの頭の上ぎりぎりを通った。

 二匹の戦いが始まった。

 水竜の母邪心竜は滝つぼの水から自分と同じ姿を作った。水の竜はスパッと切れそうな高圧のナイフを飛ばす。

 レベッカが土の壁を作る。水ナイフは壁に叩きつけられ、穴を作ると形をなくした。

「女の子に守ってもらうとは、白竜も地に落ちたもんだねぇ」

 ディーバは水の竜の首を狙い、翼で払った。水の竜は形をなくし、下に落ちていった。

 母邪心竜は再び水の竜を作る。薄く、笑いながら。

 ディーバが水の竜に向かって光を放つ。水の竜の中で複雑に反射した光は母邪心竜の目に届き目を眩ませる。水の竜はその瞬間に形をなくし、滝つぼに落ちていった。

 母邪心竜がひるんだところでディーバは体当たりをした。母邪心竜はのけぞった。

 ディーバは暴風を吹く。体制を立て直した母邪心竜は水を吐く。ディーバと母邪心竜の間で風と水が長々とぶつかる。二匹の間を行ったり来たりする風と水。徐々に水が強くなり、ディーバの体を吹き飛ばした。

 空中でくるくる回りながら体制を整える。背中でレベッカが目を回していた。

 ディーバは雲を呼んだ。黒い雲が辺りを立ち込める。

「バカだね、雨ならあたしの味方だよ!」

 笑っていた母邪心竜の顔が引きつった。雷が母邪心竜に落ちた。叫び声をあげることもできずに母邪心竜は下に落ち、ドサリと音を立てた。

 ディーバが側に行くと、母邪心竜はまだ息をしていた。ディーバは何もせず、母邪心竜のすぐ上で浮いている。とどめを刺せずにいた。

「やっぱり、まだまだ子供だね、ディーバ。甘いよ、チャンスを見過ごすなんて」

 母邪心竜はディーバを見上げ、口をゆがめながら言った。

「一つ、聞きたいのですが、母上」

 返事はしないものの、母邪心竜はディーバを見つめていた。

「母上は、私を生んだとき、嬉しかったですか?」

 母邪心竜の目つきは変わらない。しばらくの無言の後の言葉はこれだった。

「そんなもの、知らないね」

 ディーバの背中で、レベッカが叫びそうになった。

 親なのに?自分で生んだ子なのに?

「私は長老の言いつけどおりに何も考えずにお前を生み、去っただけだよ。だから、知らないね」

 そう言うと母邪心竜は回りながらディーバにぶつかった。不意をとられたディーバは腹を打ち、よろめいた。

「子供の甘いところだね」

 ディーバを見つめながら言う。

 ディーバが呼んだ雲は消えてしまった。綺麗な星空が見えている。

 闇は、母邪心竜の味方だった。レベッカは母邪心竜の姿を探したが見えない。

 …………どうしよう、ディーバを守れない。

 レベッカが辺りを見渡していると、邪心竜達を結界で包んでいる魔法使い達を見つけた。彼らにも限界が来る。早く策を見つけなければ。

 レベッカはアゲハに母邪心竜の居場所を聞いた。心を閉じて少し考えたレベッカはマリーにテレパシーを送り、策を伝える。

「了解。レベッカ、健闘を祈るわ」

 レベッカは祈った。うまくいきますように。これで、きっと母邪心竜も、結界の中の邪心竜も片付けられる!

「ディーバ、北へ、北極星の方向に飛んで!」

 理由は伝えなかった。なんでもいい、とにかくディーバが北へ飛んでくれたら、もしかしたら。

「逃がさないよ、ディーバ!」

 母邪心竜が追いかけてくる。

「今!!!」

 レベッカが大声でマリーに言う。

 マリーの掛け声と共に、魔法使い達は邪心竜を包んでいる球体になった結界を空へと持ち上げた。

 ディーバが通り過ぎた、そのすぐ後ろへ。

 勢いがつきすぎてしまった母邪心竜は止まれずに結界の球にぶつかる。

 球体は母邪心竜の叫び声を残し、爆発。邪心竜達の姿は跡形もなく消えた。


 ディーバはゆっくりと空を飛んでいた。飛びながら泣いていた。

 …………母上と、分かりあいたかった。

 ディーバの心の呟きはレベッカにも聞こえる。

 どんなに大きくても、ディーバは生まれたばかり。人間にしたらまだまだ幼子だ。姿を見られない邪心竜だった頃、人間の親子関係を見ていたかもしれない。

 幼い頃に母を亡くしたレベッカはディーバの気持ちが分かるような気がした。ディーバが泣くのを止めることができなかった。

 ディーバはレベッカを乗せたまま飛び続けた。レベッカはディーバに抱きついたまま眠った。

 レベッカは夢の中でもディーバと一緒にいた。ディーバが微笑みながらレベッカに言う。

「そういえば、祝福を贈ってなかったな」

「え?」

「そなたの、お腹の子にだ」

 レベッカは目を丸くした。私、妊娠しているの?そう思った瞬間、お腹が暖かくなった。

「数百年ぶりの竜からの祝福だ、必ずいい子が産まれる」

 ディーバは笑った。レベッカも笑顔だった。

「産まれたら名付け親になってくれる?」

「いいだろう」

 レベッカはディーバにしっかり抱きつき、ディーバのぬくもりを感じた。

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