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星見る竜  作者: 千夢
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ある誕生

 新聞を読みながら、テリーは大声で呼んだ。

「おーい、レベッカ、テレビをつけてくれないか。なんか、とんでもないニュースがあるみたいなんだ」

「そこにリモコンがあるでしょ?」

「君はリモコンなんか使わずにつけられるでしょ?」

 レベッカは、もう、と一言だけ言い、テレビをつける。ついでに、テリーの好きな局を映す。

「さんきゅ~」

 テリーは返事をすると、テレビに集中した。そのときだった。魔女の血を引くレベッカに、小さな声が届いた。

 どこ?どこにいる?

 レベッカは集中した。テレビの音もテリーの呼びかけも聞こえないほどに。魔女として、大事な仕事がある。レベッカの血がそう訴えていた。それなのに、なにか、不自然なことを感じ取っていた。他の魔法使い達が気付いてないようだ。

 なんで?この声は、きっと竜の鳴き声だ。竜の声に、誕生の声にどうして気付かないの?みんなに聞きたいことは山ほどあるのに。

 レベッカは魔女の血を引いている。しかし、父は普通の人だった。森に住む生粋の魔法使い達がこの声に気付かないことが不思議で仕方がなかった。

「誰か、呼びかけに答えて!」

 この声に答える者は一人もいなかった。考え事をしている間にも竜の声は小さくなっていく。

 大変だわ、誰も祝福を贈ってない!

 母が生きている頃、話を聞いた。生まれたときに祝福されなかった竜は邪心竜となり、魔法使いだけではなく、一般の人にも危害を加えると。他の魔法使いと呼び合う時間は残されてなかった。

 レベッカは床に膝をつくと、特別な呪文を唱えた。

 小さかった泣き声は、言葉に変わった。

「我に言葉を教えたのは誰だ」

 竜はレベッカにテレパシーを送った。

「私です。レベッカと申します』

 レベッカも心で念じた。

「そなたの祝福だけだな」

 レベッカは怯えた。母の話では、祝福が多ければ多いほど優しい竜になり、人間に何かあった時には助けてくれる。逆に、祝福したのがたった一人ということは助けるどころか、ほぼ邪心竜と変わらないという答えになる。

「そなた、レベッカと申したな」

「はい」

「我に名をつけよ」

「…………え?」

 初めてのことで何も分からないレベッカは戸惑う。

「どうやら、我に母はおらぬ」

 レベッカは動揺する。

「我はすべてに見放されているようだ。仲間であるはずの、竜達にもな」

 レベッカの動揺は恐怖に変わった。


 この竜は、確実に、邪心竜になってしまう!


 レベッカは心を研ぎ澄まし、他の魔法使いの声を探してみる。

「無駄だ」

 竜は、心の全てを知っているかのようだ。

「とにかく、そなたの今の仕事は、我に名を付けることだ。もう、時は短し…………」

 え…………?

「我には仕事のみ与えられているようだ。我の血がそう騒いでおる。人間界を壊すという仕事が…………」

「待ってください!」

「名を与えられなければ、我の力はさらに強力なものになるだろう」

「待って、ディーバ!」

 背を向けかけていた竜が、動きを止めた。

「今、なんと言った?」

「あなたさまの名前です。その美しい声は、まるで歌姫。あなたにこそ、ディーバの名前はふさわしい!」

 竜は少しの間、考えた。

「いいだろう。我が名はディーバ。皆を惑わせる歌を歌ってしんぜよう…………」

 そういい残すと、ディーバは羽ばたいて空へ消えていった。

 ドサッ……………。

 レベッカは緊張の糸が切れるとその場へ倒れこんだ。テリーが何かを言っていたが、レベッカは返事もできず、ただ眠りへと落ちていった。

 その後、あの出来事は夢だったのではと思っていた。

 あの竜は、魔法使いに祝福されなかった。それどころか、皆、気付きもしなかった。そのため、竜の名付け親という大役を、まだ二十代のレベッカが引き受けた。そして、頑張って名前を付けたのに、その竜は「邪心竜として生きる」という内容の言葉を残して去った。

 これを現実と受け止める方が無理なのでは?

 いくら魔女の血を引いている彼女でも、普通の父、普通の旦那を持ったために、レベッカは一般人の普通の生活に慣れていた。竜のことなど、現実とは思わない程度に。

 現実社会で、竜に会ったことのある人間はいるだろうか。もちろん、映画の話でも、御伽噺でもなく。出会うどころか、存在しないと思う人がほとんどだろう。

 そして、魔女の血を引くレベッカもその一人だった。

 母から話を聞き、自分も魔法を使える変わった人間だとは思っていたが、竜に祝福を贈る呪文など、本当に使うことはないと思い込んでいた。

 そして、レベッカ本人はただ眠ってしまい、夢を見たのだと思っていた。

 その気持ちは、すぐに裏切られる……………。

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