表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

序章

 そこは小さな小学校。

 全校児童を合わせても、三十人もいない学校の六年生の教室。放課後の掃除の時間なのだけど、三人きりの六年生で真面目にやっているのは一人だけ。男の子二人は、ほうきを持ってチャンバラごっこ。古い? 実は、何やらTVヒーローの真似らしい。

 「いい加減にしてよ、あんたたち。毎日毎日、私にばっかり掃除させて」

 「別に掃除なんてしなくても、汚れてなんかいないって。なんせ三人しかいない教室だぜ。児童会長だって、そう思ってんだろ?」

 短く刈った髪の毛が、ツンツン立ってる男の子が、手のひらにほうきを立ててバランスをとりながら言った。

 たった一人の女の子、児童会長と呼ばれた彼女は、そのほうきを取り上げて、男の子の前に突き出す。

 「その呼び方やめてよね。私にはちゃんとノビタキ ヒバリって名前があるの。ちゃんと名前で呼んでよね」

 すると、その横から素早くもう一人の男の子が、ヒバリの腕を取って横に立つ。ちょうど恋人同士が腕を組んでいるようだ。

 「それを言うならヒバリだって僕らの事、あんたたちって呼ぶのやめろよな。僕にはメジロ セッカっていうちゃんとした名前があるんだよ」

 「俺もアマサギ ジュウイチって名前だぜ、児童会長」

 ヒバリは、セッカに腕を組まれたずかしさと、二人にからかわれたずかしさで顔を真っ赤にしてうつむくと、わなわなと肩をふるわせた。

 「ヒバリ?」

 セッカがその顔をのぞこうとした時、彼女はセッカを突き飛ばし、逃げるように教室を出て行った。

 「なんだい、あいつ?」

 「ヒバリ、泣いてた」

 「あ?」

 セッカは、突き飛ばされた時に見てしまったのだ。窓から射し込む光を反射したヒバリの涙を。

 「言い過ぎたみたいだ。ジュウイチ、謝りに行こう」

 「なんで?」

 「なんでって…」

 「別にいつもの事だろ? 明日になったらいつものあいつに戻ってるって」

 「そうかな」

 セッカには、ヒバリの泣き声がはっきり聞こえるような気がしている。いや、実際、今もセッカの耳には、泣き声が聞こえていた。かすかに何かを訴えているような言葉が、確かに聞こえていた。

 「しょうがねぇなぁ…セッカ、はやいとこ掃除済ませて帰ろうぜ」

 「あ・うん」


 次の日、彼女は来なかった。

 放課後、掃除の終わった教室で、二人は黙ってヒバリの机を見つめていた。

 「あいつ、今日来なかったな」

 セッカは、何も答えなかった。彼の耳には、昨日からヒバリの泣き声がずっと聞こえていた。今も、彼女の泣き声が聞こえている。

 「俺が悪いのか?」

 ジュウイチは、独り言のように続ける。

 「あいつが嫌がってんの知ってて、わざと児童会長って呼んでたのが悪かったのか?」

 セッカはやはり、答えない。

 「何とか言えよ! お前、俺が悪いって思ってんだろ!? あいつが今日、学校休んだの、俺のせいだって思ってんだろ? なぁ…何とか言えよ!」

 実のところ、セッカにはジュウイチの言っている言葉が届いていなかった。昨日から聞こえている泣き声の、訴えているような声が、なんて言っているのか聴き取ろうと必死だったのだ。

 でも、そんなことはジュウイチには判らない。なにせ、彼にはそのことを話していないのだ。

 「俺、あいつん家行って、謝ってくる」

 ジュウイチはそう言うと、腹いせにセッカを突き飛ばして、教室を出て行った。

 「あ。ジュウイチ」

 我に返ったセッカが、ジュウイチを追いかけようとした時だ。不意にあの声が大きく、はっきり聞こえてきた。

 「…助けて…助けて」

 確かにそう聞こえる。

 「…助けて、セッカ」

 今度はよりはっきり、それも彼の名を呼んだ。

 「ヒバリ? …違うのか?」

 その泣き声は、ヒバリによく似ていた。けど、はっきり聞こえるようになった声には、どこかヒバリとは違った響きがある。

 「セッカ。私を…助けて。ブルーを、ブルーを守って…セッカ」

 「ヒバリ…」

 そう言いかけたセッカの頭の中に、別の名前が浮かんできた。知らない名前だ。彼は無意識にその名をつぶやいた。

 「ミサ…ゴ?」

 と、突然、教室に雷鳴がとどろき、稲妻と共にセッカは消えた。

 それから五分くらい過ぎた頃、真っ青な顔をしたジュウイチが、息を切らして戻ってきた。

 「セッカ、大変だ! あいつ、ヒバリ行方不明なんだって。今、先生たちが職員室で…!? セッカ? ……どうなってんだよ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ