インドとか言うんじゃない
遺跡内部はヒンヤリとした空気が立ち込めていた。入り口から続く回廊を進んだ先、開けた大広間でリーゼロッテの話を聞いた但馬は、彼女に依頼され、遺跡を調べることになった。
尤も、頼まれなくとも、こうも禍々しい雰囲気が漂っていては、到底無視など出来なかったろう。近未来的な建物の構造から始まり、接ぎ目のないピカピカの床や天井、広間には人間の胎児らしき物体が入ったカプセルが連なり、そして正面には、勇者が連絡に利用していたという大きなパネルがあった。
壁にかかったそのパネルは大きさや形状からすると、おそらくスクリーンモニターか何かだろう。手前にある机の上をよく見ると、規則的なボタンらしき形状が浮き彫りになっており、バックライトに照らされて、薄っすらと文字らしきものが浮かびあがっていた。
その浮かび上がった文字自体には見覚えがなかったが、そのボタンの配置には心当たりがあった。その配列、ボタンの形状からして、どうみてもQWERTYキーボードそのものなのだ。よくよく見てみると、上段は1~0のアラビア数字が書かれており、恐らく、その認識で間違いないことが窺われた。
とすると、目の前のモニターらしきパネルといい、この部屋の中に並んでいるカプセルといい……これはこれらの制御装置か何かと考えて良さそうだ。いや、外部と交信していたと言うし、この施設のシステム端末だろうか?
動かし方が分からなかったが……取り敢えず、適当なボタンに軽く触れると、
「おっ……!」
突然目の前のモニターが点灯し、真っ白な画面が映し出された。画面左上にはアイコンらしき物体が置かれており、見たまんま、コンピュータOSのGUIのように思える。
手も足も出ないようなものじゃなくって良かったが……逆に分かりやすすぎて困惑しながら背後を振り返ると、
「それに触れるとこのように、何かが動き出すようですが……これが何を意味しているのか、それ以上は分かりませんでした。聞くところによりますと、ある日、この施設から何か音が鳴り出しまして、土地の人間が調べたところ、この光と共に父の顔が映し出され、遠隔地の彼と会話が出来るようになったのだそうです」
と、リーゼロッテが語った。多分、それは電話の呼出音みたいなものだろう。今みたいにキーに触れて、コンピュータが起動すると自動的に応答したのだろうか。それとも、アプリかなにかがあって、それを人為的に起動したのだろうか。
「こっちから向こうに呼びかけたことは無かったの?」
「無かったそうです」
「……リーゼロッテさん、ここへ来たことってどのくらいあるの?」
「一度きりです。王位を継承するために……その時に、色々調べはしたのですが、私にはさっぱり分かりませんでした。執政官によれば、ここのことを把握してる者は誰も残っていないそうです」
要するにここを利用していた連中全員が裏切り者だったと言うわけか……よくもまあ騙されたものである。
連中は俗世に染まっていたから、こんな山の中に常駐していることはなかったそうだ。そのため、事が明るみに出ると、エトルリア大陸の方で勇者の手により一網打尽にされたらしい。彼はその後、人を送って、この施設を止める努力をするように言ったそうだが……誰もここの使い方がわからなく、どうしようもなかったらしい。
「勇者自身が来れば、止められたんだろうか?」
「分かりません。父がこの国を出るときは、動かすことは出来なかったようで……その方法を探しに行ったわけです」
「……ここの装置って、見つけた時にはすでに動いてたんだよね?」
「そう聞いております」
だとしたら、果たして止めることは出来るのだろうか……誰が最初に動かしたか知らないが、こんな装置を誰もが気軽に動かせるようにしてあるとは思えない。ぱっと見たところこの部屋は広く、不特定多数が利用していたように思われた。その予想が正しければ、こんな場所に置かれてるそれは、せいぜいダム端末か何かで、重要な操作を受け付けるかどうか怪しいものである。
いっそカプセル自体を破壊する方法を見つけた方が早いんじゃないだろうか。
改めて、液体の詰まった水槽のようなカプセルを眺めてみるが……その中に浮かぶ胎児のようなものを見ると、ちょっと踏ん切りが付かなかった。どうせ、装置を止めたらあれも動かなくなるのだろうが……
「くそっ……」
但馬は舌打ちすると、まだ触り始めたばかりだし、もう少し足掻いてみようと端末に向き直った。取り敢えずやれることは二つ。キーボードをめちゃくちゃに弄ってみることと、すぐそばに置いてあるモノリスのような物体を弄ってみることである。
キーボードを弄ると、どうも何らかの入力を受付けているようではあったが、殆ど動きのない画面を見る限り、その行為が意味を成してるとは思えなかった。そうしている内に、どうもキーボードの横の方にタッチパッドらしきスペースがあって、それを動かすことで画面内のカーソルを操作できることに気づいた。
それを動かして、初めから画面に映っていたアイコンらしきものを触ってみたが、何かポップアップのようなものが吹き出るだけで、それ以上画面が動くことはなかった。
こうなるとお手上げで、他のことをするしかない。
と言うわけで、今度は机の横に置かれていたモノリスを調べ始めたが……
「……リーゼロッテさん。ここ調べた時、このモノリスも触ってみた?」
「はい。残念なことに何も起こりませんでしたが……」
いや、それでいいのだ。一見してパソコンの本体っぽいので、下手に触ると取り返しのつかないことにならないだろうと不安になったのであるが……やはり、不特定多数が利用するのを考慮しているからだろうか、ちょっと触ったくらいでは何事も起こらないようだ。但馬は安心してモノリスを弄り始めた。
とにかくその形状はシンプルだった。モノリスの正面に、何かカードを差しこむような口が開いていたが、それ以外に変わったところは特に見当たらない。背面からコードが伸びているとか、そんなこともなく、床とくっついていて持ち上げようとしても持ち上がらない。軽く叩いてみたところ、中は空洞のようであるが、強度は他の壁や床と同じくかなりあるようで、多分、思いっきり殴ったら指のほうが砕けそうな感じだった。
取り敢えず、その口周辺に何かないかと思って顔を近づけてみると、急にモノリスが青く光り出し、光学的にボタンのような物を映しだした。どうも、人が近づくと作動するらしい。慌ててモニター画面を見てみたが何も変わったところはなく、このモノリスとは関係ないのかな? と落胆しかけたが、そう決めつけるのは早計だろう。
浮かび上がった光のボタンを押したり叩いたり、試してみるがうんともすんとも言わず、どうしたものかと腕組みしながら立ち上がって見下ろしてみたら、モノリスの頭の部分にも光のボタンが浮かび上がっていて、どうも、その形状が手のひらの形に見えなくもない。
つまり、ここに手を置けということだろうか? 置いたら刃物が飛び出してきて、ざっくり手首ごと……なんてことはないだろうなと思いつつ、おっかなびっくり置いてみると……
「お、動いた……」
モニター画面に何かポップアップが浮かび上がった。
しかし、先ほどのキーボードと同じく、画面に映る文字列は、生まれてこの方見たことがない代物だった。恐らくは何かの警告文であるのだろうが、それも読めなければ意味を成さない。
取り敢えずダメ元で……
「誰か、これなんて書いてあるか読める?」
と尋ねたら、リーゼロッテもブリジットも苦笑いをするだけで返事すら寄越そうとしなかった。
なんだか身内にパソコンの修理を頼まれた理工系大学生みたいな気分になりながら、諦めて別の作業をしようとしたとき……
「アクセスレベルが足りません」
そんな声が聞こえ、ギョッとして振り返ると、同じくギョッとした顔をしたブリジットとリーゼロッテが、リリィのことを凝視していた。
「実行者、ハル・タジマ。アクセスレベルが足りません……先ほどから、なんなのじゃ? これは……」
ここへ来てからは周囲が見えないからか、ずっと退屈そうにして黙っていたリリィが、突然そんなことを言い始めた。
「リリィ様、見えるの??」
「わからぬ……ただ、そのような気がするのじゃ」
と、彼女が返した。そりゃそうだ。リリィは先天的に盲目であるはずだった。なのに画面の文字が見えるわけがない。
但馬はハッとなって自分のコメカミを叩いた。
目の見えないリリィだけがそう言うのであれば、理由はひとつしか無い。右を叩くといつものメニューであったが、但馬が左のコメカミを叩くと、画面にかぶさるように、キャプションのような文字列が浮かび上がった。
「これは……」
そうして浮かび上がった文字を読むと、先ほどの画面に映し出されていたアイコンの意味も分かってきた。左上に3つ並んでいたのはどうやら、システムログイン、ヘルプ、メールという意味らしい。中央には、さっき但馬がモノリスを触った時に映しだされたポップアップがあり、リリィが言うとおりの言葉が書かれている。
画面には他に何もなく、やはり不特定多数がいじるためか、勝手に変なものが置けないような仕組みになっているらしい。メールというアイコンが、恐らく勇者が使った通信手段だろう。
興奮して起動してみるが、アドレス帳のような物がポップアップされたと思ったら、登録なしと書かれていて、それ以上どうしようもなかった。まさかこんなところでボッチの気分を味わうとは思いもよらなかった。とにかく、こういう時はヘルプだろうと、今度はそっちを動かしてみたが、検索窓のような物が出てきてそれ以上は何も出来なかった。
検索窓に文字を打とうと思っても、ローマ字打ちでは文字が意味を成さないのだ。いや、恐らくローマ字とかカナ入力とか、そういうレベルの話ではないのだろう。
そして最後に、システムログインであるが……これを起動すると、先ほどモノリスをいじった時と同じポップアップが出て、それ以上動かない。
「なるほどねえ……」
しかし、それでピンときた。多分これは生体認証か何かだ。モノリスを触った時に勝手に動き出したのは、恐らくそれが認証手段であるからだろう。手前のカードスロットのような穴は、また別の何かであろうが、取り敢えず、今この機械を動かすのは、この生体認証を突破すればどうにかなるようだ……あとは、
「リリィ様、ちょっとこっち来て、ここに手を置いてくれる?」
アクセスレベルが足りません……このアクセスレベルが何を意味してるのか。
但馬がすぐに思い浮かべたのは、あのALVのことだ。自分を含めるこの世界の住人全てに割り振られている数値。大方の人間はレベル0だが、一部の人間……特に魔法を使う人物に限って数値が高い。
直感でしか無かったが……この施設が、この世界の根幹に関わるものであるならば、試してみる価値はあるだろう。
果たして……
「あっ!」
リリィが言われる通りに手をかざすと、突然、目の前の画面が切り替わった。
根本的なインターフェースは変わらなかったが、そこに並ぶ項目……アイコンがいきなり大量に現れた。
出てきたアイコンはこの施設の制御パネルみたいなもののようだった。目立つ位置にマップというアイコンがあったのでそれを動かすと、館内マップとアイコンとが関連付けて表示されるようになった。制御系は部屋ごとに独立しているようだ。
そうこうしていると画面の右下からニョキッとポップアップが生えてきて、そこには、『アドミニストレーター権限で、ログインしました』と、そっけない文字が書かれていた。
アドミンて……あのALVが関係しているのであれば、レベル99のリリィならば多分いけるだろうと思ったが、それにしてもいきなり管理者権限とは恐れいった。しかし、当人はそれがわかっていないようで、ただ首をかしげるだけである。
リーゼロッテの予想は正しかったわけだ。この世界樹と呼ばれる施設に、リリィや但馬のような人物は何か関係があるらしい。
それにしても一体何者なんだ? この少女は……と、思いはしたが、今はそんなことを気にしてる場合でもないだろう。但馬だって他人のことは言えないのだ。
「……取り敢えず、なんとか動かせそうな感じなんだけど」
「ほ、本当ですか!?」
リーゼロッテにしては珍しく緊張した返事を返した。
「でも、この先が分からないんだ。適当に弄っていいものかどうか、手探りでやってくしかないよ。時間を掛ければ、止めることは出来そうだけど……亜人を作ってる施設ってのがどうも怖い。下手に弄ると何が起こるか分かったもんじゃないから、こっから先は慎重になった方がいいと思う」
こうなると管理者権限と言うのも逆にネックだ。何でも出来るということは、取り返しの付かないことだって出来ちゃうと言うことであるから、試しにやってみるということがしづらい。
しかし、彼女にはその辺の感覚は分からなかったし、それにこの施設を動かすのにはリリィが必要だと言うのが問題のようで……
「リリィ様がここへ来れるのは、恐らく、これが最後のチャンスかと」
「……場所が場所だけに仕方ないか。ここには何日滞在する予定なの?」
「3日が限度です……いえ、帰りにがけ崩れに遭ったとでも言えば、もう少し伸ばせるでしょうか。それでも1週間というところでございます」
1週間でどうにかしろと言うのか……ゼロよりはずっとマシなので、まあ、仕方ない。ともあれ、それならそれで、残してきたタチアナたちをどう言い含めるか考えねばならないと、相談をしようとした時だった。
但馬はふと、画面に見慣れた文字があることに気が付き、思わず画面を二度見した。
「……あれ? あそこに書いてる文字って、もしかして読める??」
そう言って彼が画面を指差すと、先程から何をやってるか分からないで居たブリジットとリーゼロッテは、
「……読めますね。あれだけ」
「なんでしょうか……Victoria?」
ずらりと並ぶ謎文字アイコンの中で何故か一個だけ、このブリジットたちにも読めるものがあった。
明らかに他とは違う雰囲気のそれを見つけると、但馬達は顔を見合わせた。そして、但馬が操作してそれを動かしてみると……
画面の中央に見たことのない白髪の老人が突然映しだされるのであった。
「……果たしてこれを見るものが居るかどうか……居たとしても自分にとって敵か味方か分からないが、もしかしたらこれが最後かも知れないので残そうと思う」
その老人は、一方的に話しかけてきた。どうやら、それはビデオレターみたいなものらしい。
老人はこちらというか、恐らくはカメラを見ているからだろう、その焦点があっていなくて、よそよそしく思えた。最後という言葉を口にしたから、これはもしかして遺言だろうか。
一体、この老人は何者だろうかと首を捻っていたら、
「お父さん!?」
悲鳴に近い声がリーゼロッテの口から漏れて、但馬は口から心臓が飛び出そうなほど驚いた。
それじゃあ、この白髪の老人が、あの勇者ということか?
困惑しながら続きを待っていると、但馬は今度は自分が悲鳴を上げていることに気がついた。
「俺の名前は但馬波瑠。タージマハールじゃないよ、そこ、インドとか言うんじゃない……くっくっく……この自己紹介も何十年ぶりだろうか。もはや通じるものも居ないだろうが、もしも居たとしたら、つまりそういうことだ。分かるだろう?」
但馬は息を飲んだ。なんでこいつがこのセリフを……?
いつかどこかで聞いたことのあるセリフと思ったか、ブリジットが振り返る。しかし、そこにいる顔を真っ青にした男と、モニターの中の老人が重ならなくて、結局思い出せなかったようだ。
それもそのはずだ。どう見てもその男は、但馬とこれっぽっちも似ていない。
「時間が惜しいから本題に入ろう。俺はこの世界の住人ではない。いや、正確にはこの世界の住人だったものだ。ある日、意識が途切れたと思ったら……気がつけば何もない森の中を彷徨っていた。
わけもわからないまま、とにかく森から脱出しようと右往左往していると、どこからともなく現れた魔物に襲われた。万事休すと諦めかけたその時、頭の中で声が聞こえてきて、その声に導かれるように魔法を発動した俺は九死に一生を得た。
声の主はキュリオと言って、イルカというか、何か禍々しいものだった。どうも俺の頭の中に住んでるらしく、決まったセリフしか喋れない奴だったが、俺はそいつに武器を与えられ、魔物との戦い方を教えてもらうと、どうにかこうにか森の外まで這い出ることに成功した。
だが、森から出たところで、そこには何もない海が広がってるばかりで、俺は途方に暮れた。何日間かはそこで船が通りかからないかと待ったが、やがて諦めて海岸線に沿って歩いて行くと、数日かけてたどり着いた先に、小さな集落を見つけた。
集落というか、ただの穴蔵で、中を見れば子供だらけだ。俺はそのとき初めて見たものだから大いに驚いたが、そこは亜人の集落で、猫耳をつけた彼らが寄り添うように暮らしていた。
人懐こい彼らと暮らし始めた俺は、やがて集落の長になった。亜人達は逞しいとは言え、やはり子供で判断力に乏しい。常識に欠けて、農耕などの知識もない。おまけに気がつけば森の中で逸れた子供が集まってきて、ただ、狩猟や木の実を取ってるだけじゃ、暮らしていけなくなったのだ。
そこで俺が村長になって、彼らを導くようになった。農耕を始め、村が大きくなってくると、周囲から更に亜人が集まってきた。そして、別のものもやってきた。亜人狩りだ……
亜人狩りは奴隷商の手先で、かなりしつこかった。ことごとく返り討ちにしてやったが、このままじゃ埒が明かないので、元締めに文句を言いに行ったところ、やがてリディア王となる男と出会うことになった。
そして奴隷商を排除することを約束したリディア王と俺は、リディアの地に人間と亜人が仲良く暮らせる国を作った。国を作った当初は奴隷商が邪魔をしに来たものだが、森を切り開き、開拓を進めていくと、やがて移民の数が上回っていって、彼らも手を出せなくなってきたようだった。
そうしてリディアを作った俺だったが、一つ気になることがあった。建国した後も、海岸線にはたまに亜人の子供が逸れて出てくる。大抵、同じ方角……リディアの西方だったから、俺はそっちに何かがあるんじゃないかと思い、ある日、それを探しに出かけることにした。
そして見つけたのが、この施設だ」
そう言うと、老人は言葉を区切った。何か嫌なことでも思い出すかのような、苦み走った顔をしていた。
但馬は妙な寒気がして、誰も居ないとわかっているのに、背後を振り返った。そこには薄気味悪い人間の胎児が入れられた、無機質な色をしたカプセルがずらりと並んでいる。
暑くはない。寧ろ空調が効いていて涼しいくらいなのに、額に汗をびっしょりとかいていた。
「施設を見つけた俺は戸惑った。てっきり、剣と魔法のファンタジー世界にでも迷い込んだんだと思っていたのに、出てきたのはこんなメタリックな人工物だ。
考えても見れば、魔法を使うときに表示してるメニュー画面も、まるでゲームのようだったし、もしかしてここは自分が思ってるような世界とは、根本的に違うものではなかろうかと思った俺は、この地に滞在して施設を詳しく調べることにした。
しかし初めは全く手も足も出なかった。入り口は何者かがこじ開けた形跡があったから、きっと俺にも出来ると思ったのだが、実際にやってみると全く歯が立たない。所々にある部屋も、開く部屋と開かない部屋があって、部屋内を探しても手がかりは何も見つからない。
結局、一番あやしい奥の広間にあったカプセルとモニターに行き着いた俺は、集中的にそれを調べることにした。しかし、それがコンピュータのようなものだと分かっても、操作することが難しかった。画面にはヘルプがあるのに、文字が読み取れないからそれを使って調べることが出来ない。
埒が明かないと一旦は諦めかけたんだが、部屋を回ったときに偶然見つけたいくつかの物には文字が書かれていたんで、そこに書かれてる文字なら、見ながらキーボードの文字を打つことも出来るだろうと、持ってきて確かめることにした。
その試みは正解だった。初めに持ってきたのは、どうやらエアコンのリモコンか何かだったらしい。検索窓に打ち込むと、運転とか切り替えとか、そんな当たり前の言葉が辞書的に返ってきた。しかし、この方法が有効だとわかった俺は、他のものも次々と試してみることにした。
そして思いもよらない物を見つけた。
俺はどこか見知らぬ異世界にでも迷い込んだのだとばかり思っていた。でも違った。ここは俺がよく知る世界そのものだった。
もしも、俺と同類がこれを見たのなら、覚悟して聞いて欲しい。おまえは別に異世界に飛ばされたわけじゃない。この大陸はロディーナ大陸なんてもんじゃない。ましてやガッリアやエトルリアなんて以ての外だ。
ここは地球上、Antarctica、南極大陸。Victoria Landの地だったんだ」