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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第三章
66/398

最弱なの?

 謎のメイドさんを追いかけようとすぐに店を飛び出したが、後の祭りだった。商店街の人混みをいくら見回しても、もう、あの目立つ白黒のお仕着せはどこにも見当たらなかった。


 パフェを注文するだけしておいて、食い逃げ状態だったため、慌てたアナスタシアが飛んできて、但馬をグイグイと店の中に引っ張った。リリィの姿も見えないので訪ねてみると、ほんのついさっき帰ったと言われた。


 どこへ? と聞いても、


「知らないよ? ルルちゃんはいつもフラってやって来るだけだし」


 彼女はいつも勝手にやってきて勝手に手伝ってるだけらしい。別に雇い入れたというわけではないから、住所までは聞いていなかったようだ。店内で誰か知ってる人いないかと尋ねて回ったが、誰も知らない。いつもアナスタシアにくっついてて、パフェの一つでも食べさせて貰えば満足するし、仕事自体を楽しんでるようであるから、店員たちも別段気に留めていなかった感じだ。


 こうなるとお手上げである。最初に接触した時に、再会の約束を交わしておくべきだった。


 しかしまあ、ここで会ったと言うことは、恐らくは王宮に逗留してるのだろうし、明日また来れば会えるかも知れない。と言うか、そもそも何しにリディアに来たのだろうか。また湯治か何かだろうか。ブリジットに尋ねてみれば分かるだろうか。


 機会を逸してしまったが、仕方ない。但馬はパフェを食べ終えてから店を出ると、目抜き通りを戻って川沿いの工場へと向かった。アナスタシアへの報告も済んだし、今度は工場の連中にも帰還を伝えねばなるまい。


 工場へ行くと親父さん以下、いつもの工員達が出迎えてくれて、但馬が留守中に起きた出来事を報告してくれた。みんな別段変わったこともなく、工場は順調に稼働している。それから但馬のみやげ話に花が咲いて、案の定と言うか、そのうち仕事そっちのけで、みんなで作りかけの自動車の調子を見るという名目で、河原で走らせて遊ぶことになった。


 旅行に出かける前と比べて蒸気自動車はかなり改良されており、クラッチでギアチェンジする仕組みと、蒸気エンジンを積むため、タイヤがデカく頑丈になっていた。見た目はまだただの荷車で、カーブを曲がる時が安定しないので、そろそろ専用のデザインとか考えた方がいいかもと、地球に居た時の記憶を頼りに、うろ覚えのSLのデザインをいくつか描いて披露していたら、フラリとトーがやってきて、問答無用で但馬の頭を引っ叩いた。


「帰ってるのなら帰ってると、さっさと報告しろ、馬鹿野郎」


 普段から、ろくに会社に寄り付かないくせに理不尽じゃないか……そうは思うも、そもそも銀行からの出向扱いで給料を払っていないのだし、なんやかんや仕事はしているので口出しできず、今回も但馬が留守中に結構精力的に動いてくれていたらしく、その報告を聞いて背中が小さくなっていった。


 会社が大きくなりすぎたせいで分社化したため、そのへんの法的な手続きとか、フレッド君もよく分からないことを、色々とやってくれてたらしい。大量の報告を口頭で聞かされ、シュワシュワと頭を湯立たせていると、やがて但馬が帰ったと聞きつけた新会社のメンバーも報告にやってきて、気がつけばかなりの大所帯になっていた。


 そうこうしていると就業時間も終わって、それじゃせっかくだから帰還祝いと親睦も兼ねて飲みに行こう、奢るからと言う流れになって、みんなでゾロゾロと、街灯が設置されたお陰で夜には毎日屋台村と化す中央公園までやってきて、そのまま宴会になだれ込んだ。


 屋台のおっちゃん連中も心得たもので、宴会が始まるとザル勘定でガンガン酒と料理を提供し、そのうち調子に乗った奴らがあちこちで空を飛び始め、気がつけば大道芸人が勝手に混ざっていて、よく分からない色とりどりのボールをお手玉しながら屋台を練り歩き、おひねり代わりに酒をもらっていた。


 やがて野次馬にきた通行人と港に到着したばかりの旅人も加わって、席が足りなくなってきたので、仕方なく路上に座り込んで酒を酌み交わしていたら、怒った憲兵隊が詰所から出てきてしこたま怒られた。


 どうでもいいが、どうして自分のとこに真っ先にやってくるのだろうと、理不尽な思いを抱えながら説教を右から左へと聞き流し、ようやく解放されたときには酒が回りきって、もう上下の感覚もないほどフラフラするものだから、植え込みに潜り込んでここをキャンプ地とし、来るべき聖戦に備えるべく南無阿弥陀仏を唱えていると、先生起きてください、ここはお家じゃないですよとブリジットの声が聞こえてきて、ズリズリと植え込みから引きずり出された。


 そこから先の記憶はもう曖昧で、断片的に覚えているのは、アナスタシアのいつも困ってるような眉間が更に深い陰影を刻みながら但馬を呆れるような素振りで見つめていたことと、両脇を抱えられ宙ぶらりんにフワフワしている頭の上で、ブリジットとアナスタシアがため息混じりに但馬に対する愚痴を互いに投げかけあってる声だった。



 

 明けて翌朝。


 但馬は、旅行帰りなのにいきなりやっちまった感と、ガンガンに痛む頭を抱えながら、旅の疲れを癒やすべくベッドで横になっていると、まだ日が昇って間もなくなのに、ズカズカと家に上がり込んできたエリオスに叩き起こされた。


「……え? トレーニングやんの? 昨日帰ってきたばかりなのに??」

「当たり前だろう。寧ろ二週間も休んでいたんだ。すぐに取り戻さないと、せっかく鍛えた筋肉が台無しになる。いいか、筋肉は1日トレーニングを怠ると3日取り戻さねばならんのだ」


 どうしてこいつら脳筋は3とか5とか奇数が好きなんだろう。


「いや、筋肉とか要らないし、流石に今日はまだ疲れが取れてなくて……」


 しかし、プンプンと酒の匂いを漂わせていては説得力が無かったらしく、


「いいから着替えるんだ、社長。アナスタシアもすでに待っている」


 言われて窓から軒先を見てみると、既にトレーニングウェアに着替えたアナスタシアが、いつものTシャツ姿のブリジットと準備運動をしながら談笑していた。


 どうやら、但馬の留守中にも二人で朝練を続けていたらしい。ブリジットの素性が素性だけに、アナスタシアはかなり遠慮がちではあったが、少しずつ馴染んで来たのだろうか。


「ほら、社長。あまりサボっていると、アナスタシアとの差がどんどん開くぞ」


 その言葉が引き金となって、但馬はしぶしぶと起きだした。追い抜かれるのではない、差が開くのだ。別に競争をしてるわけではないが、5つも年下の女の子相手にそれでは流石に情けなさすぎた。


 そんなこんなで、焚き付けられるように朝練に連れだされた但馬は、旅行前にはいつもやっていたように、街の外の穀倉地帯を一人でジョギングした。


 他の三人は、準備運動をして、ウォームアップのジョギングをした後、それぞれ武器を持った訓練をしていたのだが、但馬はそもそも体力が無さすぎて、体力強化をしていたほうがマシだと匙を投げられた格好だ。


 まあ、早朝のジョギング自体は悪く無い習慣と言える。慣れてくるといくらでも走れるようになるし、その間は考え事も出来るし、血行が良くなると良いアイディアも浮かぶ。汗をかけば酒も抜けるという利点もあった。


 普段はここで会社の方針を考えるのが定番だったが、しかし今日は他のことを考えていた。言うまでもなく、リリィのことだ。


 昨日はうっかりしたが、今日こそはなんとしてもリリィと会って話がしたい。思い返せば、彼女について一番気がかりなのは、あの但馬にしか見えないステータスのことだ。


 最近は女性の身体検査くらいにしか使ってない機能だったが、初めて気づいた時はかたっぱしから色んな人のステータスを表示したものだった。その中でも、彼女は特別異様な人物だった。何しろ、軒並みレベルが99とカンストしていたのだ。


 初めはALVと言う数値がなんなのか? と言うことばかり気にしていたが、今にして思うと、他の数値も十分おかしい。例えば、ブリジットはSwordsレベルが11だが、はっきりいって人類を超越したような剣の使い手だ。99って何だよ。


 それから、昨日出会ったメイド服のあの女……彼女のことも気になる。彼女はあの時、間違いなく但馬がステータスを見ようとした行為を咎めた。なにか知ってるとしか思えないだろう。


 あのメイドもリリィの関係者のようだし、今日こそはなんとしてもリリィと接触を図りたい。尋ねたいことが山ほどあるのだから……


 そんなことを考えつつ走っていると、気づけばいつの間にか周囲を一周してきたらしかった。前方にブリジットが腕組みをしながら佇んでいた。オッパイが強調されて鬱陶しい。


 ともあれ、丁度いいから、リリィの滞在先について尋ねてみようと思い、但馬が近づいていくと、彼が話しかけるより先に気配に気づいたブリジットが言った。


「あ、先生、丁度良かった。これから面白いものが見れますよ」

「面白いこと?」


 見ればブリジットの視線の先で、アナスタシアとエリオスが各々の武器を構えて対峙していた。どうやらこれから二人で試合を行うらしい。


 但馬は随分前に匙を投げられたのだが、アナスタシアは筋が良いらしく、この朝練を始めて以来ずっとエリオスに剣を習っていた。


 面白いこととは何だ? 流石に師匠がそうやすやすと弟子に追い抜かれるということはないと思うが……そんな風にぼんやり眺めていると……


 アナスタシアが先に仕掛けた。


 剣が風を切る、ヒュッという音が響き、続いてカンカンカン! と木剣とメイスが交わる音が響いた。小柄なアナスタシアが、撹乱するように飛んだり跳ねたり、近づいたり遠ざかったりしながら隙を窺い、直線的に剣を振るう。対してエリオスの方はどっしりと構えて迎え撃ち、素早い彼女の攻撃を物ともせずきっちりと受けていた。ぶっちゃけ、但馬は速すぎて目で追えないくらいだ。


 ものすごい速度で踏み込む彼女の剣を、重量級のメイスを構えたエリオスが軽く捌いていく。まるでブースターでもついてるんじゃないの? と言わんばかりに、軽々とメイスを振るう様は、本当に彼が味方でよかったと安堵するものだったが、それにしても今日は一方的に受けすぎるなと思っているとき、ようやく違和感に気づいた。


「あれ? アーニャちゃん、武器変えたの?」

「やっと気づきましたか」


 気がつけば、いつも木剣を使っていたアナスタシアは、剣先がしなる細剣を握っていた。見た目、フェンシングで使う感じの剣そのままで、細い鉄の刀身の先は、突き刺さらないように丸められていた。


 木剣の切る動作に対して、突く動作に特化した剣のため、いつもとは勝手が違うのか、エリオスも押され気味のようだった。恐らく武器の相性が悪いのだろう。なるほど、考えたなあ……と思って見守っていると、


 バシィッ!!


 っと、突然、エリオスが構えていたメイスを横薙ぎに払い、細身の剣では受けきれなかったアナスタシアが、剣を握ったまま吹き飛ばされた。


「きゃあっ!」


 悲鳴が上がり、驚いて但馬が咄嗟に駆け寄ろうとすると、ブリジットが邪魔をするなといった感じに片手で彼の行動を制した。


「おい、ブリジット!」


 怪我してたらどうすんだと、非難がましい声で抗議したが、彼女はそんな但馬には全く注意を払わず、ニヤニヤと、心なしかドヤ顔をしながら試合をする二人の方を見つめていた。


 なんだろう? と思って彼女の視線を追ってみると、メイスを横薙ぎにしたままの姿勢で固まったエリオスが渋面を作り、何とも悔しそうに唇を真一文字に結んでいる。やがて彼は、ふぅ~っと息を吐くと、


「むぅ……参った。これは一本取られたな」


 と言って、悔しそうにしつつも、心なしか嬉しそうに苦笑いしながら負けを認めるのであった。


 どゆこと? ワケガワカラナイヨと言った感じで但馬が首を捻っていると、ブリジットが簡単に解説してくれた。


「攻撃を捌ききるので手一杯だったエリオスさんが、カウンターで打って出ようと剣を弾きながら前に出たところを、アナスタシアさんが一瞬剣をしならせて防御をかいくぐり、彼の脇腹をちょこっとだけ抉ったんです」


 勢いが殺せないエリオスが、そのままメイスを横薙ぎにして弾き飛ばされてしまったが、


「人間は脆弱ですからね、手にも足にも急所はありますし、ましてや脇腹なんて、ほんの数センチ刃物で抉られても致命傷になりますよ。すぐに手当をしないといけません」

「……え? つまり……勝っちゃったの?」

「ええ、まあ。致命傷を受けたと言っても、すぐに動けなくなるわけじゃありませんから、実戦ならエリオスさんの攻撃も当たってせいぜい相打ちか……逆に負けですね。でもこれは試合ですから。彼もそう思って、負けを認めたようです」


 ブリジットがそう嬉しそうに言うと、逆にエリオスが悔しそうにしながら尋ねた。


「……細剣を使ったのは、姫の入れ知恵ですかな」

「見たところ、剣に振り回されてるようでしたので。試しに教えてみたら、面白いように吸収していくので、教えがいがありましたね」


 エリオスは、はぁ~……と溜息を吐いてから、今も尻もちをついているアナスタシアの元へ歩いて行き、手を差し伸べて、彼女を引き起こした。そして、嬉しそうに頭をポンポンと叩くと、


「ほんの少し見ない内に、だいぶ腕を上げたな」

「うん」

「その調子で頑張ろう。俺が居ない時は、君が社長を守るんだ。よし……そうと決まったら、もう一本だ。これからは手加減しないぞ」


 そう言うと二人はまた距離を取って、お互いの武器をそれぞれ構えた。


 それを見ながら、ブリジットは如何にもいい仕事をしたと言った感じの、やり遂げた表情で振り返り……


「う……う……うわあああああああ~~~!!!!!!」


 なんでか知らないが、顔面硬直した但馬は猛ダッシュしていくのだった。


「あ、あれ!? 先生? せんせーいっ!!!」


 猛然と駆け抜けていく但馬を見送りながら、ブリジットは首をかしげていた。


 おかしい……同じ日にトレーニングを始めたはずなのに、どうしてここまで差がついたのだ。そりゃ、はじめから彼女のほうが体力がちょっとばかし上だったけど、それでも性別差から普通なら男の但馬のほうが伸びていくのが筋じゃないか。いや、ブリジットのような化物もいるから、一概にそうとは言い切れないが、それにしたって差がつきすぎだ。きっといまアナスタシアと試合したら、けちょんけちょんにやられてしまうに違いない。


 それが悔しいとかそういうわけではない。彼女が強くなっていくのは素直に喜ばしい。だが、そう言う類の話じゃないのだ。リディアに来てそろそろ1年……色々と鑑みる限り、もしかして但馬ってば……


 最弱?


 最弱なの?


 確か、ああ見えてトーの野郎は剣の腕がそこそこ立つ。親父さんにしてもあのシモンの親父なんだから、顔に似合わないけれど弓と馬が出来たりする。フレッド君ならあるいは……って、あんな子供相手にホッとしてどうするんだ。しかも絶対勝てるとも言い切れないと来ている。


 やばい……なんか知らんが、やばい。社長とか呼ばれて偉そうにふんぞり返ってるくせに、実は最弱なんて、社内運動会とかやったら、きっとパン食い競走とかイロモノ枠だよ? 最高責任者なのに、仮装とかして積極的に笑いとってく役だよ? ……そんなの嫌だ。このままじゃやばい。


 そして但馬は走った。


 この世界にきて、こんなに必死になったのは恐らく始めてだったに違いない。




 ……そのお陰で、旅行明け一回目の朝礼だというのに、殆ど抜け殻状態の但馬は、使い物にならなかった。


 尤も、朝礼出席者には昨日の宴会で飲み過ぎたのだろうと、さして問題視されず、会議は滞り無く進んでいった……ぶっちゃけ、普段からこういう扱いを受けてるのだから、今更最弱と気づいたところでどうということも無いのだが……


 そんなこんなで、ショック状態の但馬が、はっと目を覚ますと朝礼はとっくに終わっており、何やってんだ、この人は……と言った感じに、アナスタシアが怪訝そうに但馬の顔を覗いているのであった。


「先生、大丈夫?」


 あ、まつげ長い……とか呆けている場合ではない。


「はっ……!? しまった! なんか知らん内に時が加速している。ここは誰? 俺はいつ!?」

「……大丈夫そうだし、もう、いくね」

「行くって、お店に? って、チョット待って。俺も一緒にいくから」


 そう言う但馬が取るものを取って席を立つのを見守りながら、アナスタシアは小首を傾げて尋ねた。


「お店に何か気になることでもあるの? 直すけど……」

「いや、お店じゃなくって、昨日のルルちゃん」

「ルルちゃん?」

「実は彼女とは、ちょっとした知り合いなんだよ。久々に再会したから、少し話がしたくって」

「……そうなの? でも、だったらダメだよ」


 そう言って彼女は肩をすくめながら言った。何がダメなんだろう?


「昨日、別れ際に、今日は用事があるから来れないって言ってた」

「え、マジ?」

「うん」


 うかつだった。せっかく見つかった手がかりなのに、こうも後手後手に回るとは。やはり昨日、なんとしてもでも捕まえておくべきだったか。後悔しても遅いが、すぐに次の手を打たねばなるまい……こうなったらブリジットに頼んで、直接に乗り込むのが手っ取り早いだろうか。


 そもそも偶然に頼り過ぎなのだ。居るのは分かってるのだし、まさか避けられてるわけは無いだろうから、ちゃんとアポさえ取れば会ってくれるだろう。ブリジットは怪我人巡回で工場を回ってるところだろうか。まだ出たばかりだろうし、走って追いかければすぐ追いつくはずだ。


 そんなことを考えながら、アナスタシアと一緒に本社ビルから外に出た。


 リディアの太陽は12月だというのに今日も高い。そのせいで暗い建物から出たばかりの目が眩んで、考え事もしていたせいで前方不注意であったらしい。ビルを出るや否やいきなり、


 トンッ!


 っと、但馬の胸に何かがぶつかって、パタリと地面に転がった。


 あまりにも軽かったので、それが人間であることに気づくのに一瞬遅れた。ギョッとして何事かと確認すると、但馬は足元に小さな子供が転がっていることに気づき、慌てて助け起こそうとしたが、


「いたたたた……これ、無礼者! 何をぼーっとしておるのじゃ」


 彼の差し出した手をパンッ! と払いのけて、ぷりぷり怒りながら少女は立ち上がった。そのあまりにも特徴的な口調に、思わずハッとする。


「あれ? ルルちゃん?」


 傍らのアナスタシアが珍しいくらい素っ頓狂な声を上げる。


「おや、こうして会うのは奇遇じゃのう。そちらはこれから仕事か? 付いて行きたいところじゃが、今日はこやつに用があってな」


 エトルリア皇女リリィが目の前に居た。


「では行くか、勇者よ。共をいたせ」


 そして、その神出鬼没な待ち人は、当たり前のように言い放ち、こちらの返事も待たず、振り返りもしないでテクテクと歩いて行くのだった。


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