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ファースト村人

 夢ならそろそろ覚めてもいい頃合だと思うのだが、残念ながらそんな気配は微塵も無かった。辺りには綿埃(わたぼこり)のような水滴が立ち込め、キラキラと朝日を反射して、いつかテレビの中で見たダイヤモンドダストみたいだった。その長閑(のどか)な光景は、この世のものとは思えない美しさであった。


 しかし、目の前のイルカっぽい化け物は相変わらず不気味である。


 その事実が但馬をすぐに現実に引き戻すのだけれども、現実に戻ってもなお目の前には夢のような世界が広がっていた。何しろ月が二つある。もはや考えるだけ無駄だろう。少しでも良いから現状把握に努めたほうがマシである。


『魔法はMPを消費して行使されるよ。今、君のMPは0になってるけど……』


 そう言われて、ステータス画面を見てみると、確かにMPが0になっていた。記憶違いで無ければ、最初は100あったはずだ。


『魔法にこめるMPの量によって、威力が変わるんだ。全部使っちゃうと大変なことになるから気をつけてね』

「それを先に言えよ」


 それじゃ何か? 自分が何も考えずに、漫然と魔法をぶっ放したもんだから、あんな大量破壊兵器みたいな威力になっちゃったのか……ざっくりMP100と言われてもよく分からない尺度であったが、どうやら100と言う数字は凄いらしい。考えても見ればイオナズン6発分はあるし、妥当と言えば妥当な気がしないでもない……本当か?


『HPやMPは時間経過と共にちょっとずつ回復するほかに、食事や睡眠でも回復するんだ。どちらかと言うと、後者のほうがお薦めだね。あと、MPは0になってもペナルティはないけど、HPが0になると死んじゃうから気をつけてね』


 死んじゃうとか軽く言われても、一体どんな具合に死んじゃうのか……もしかして、死んだらこの馬鹿げた世界から解放されるのだろうか? だとしたら検討しなくも無いのだが……ついでに人生からも解放されちゃいそうで、さすがに試すには勇気が要った。何しろ、やけにリアルな世界である。


 ところで少し気になったのだが、HP0になったら死ぬのは分かる。じゃあHP50というのはどんな状況なのだろう。割りと余裕があるのだろうか。それともガチの半殺しなのだろうか。はっきり言って、そんな状態で生きている自信は無いぞ……


 などと但馬が死のリスクについて考えていると、意に介さないといった感じの能天気な声が続けた。


『それじゃ、次は敵のぶっ殺し方を覚えよう! Let's try easy!』

「……いや、分かりやすいけどさ……もうちょっと言い回しに気を配ろうよ」


 チュートリアル(?)を続けようとキュリオが宣言した。その造型もそうであったが、言動も欧米臭が半端無い奴である。グーグル先生だって、最近はもう少し回りくどい表現をすると言うのに、こいつはど直球である。ちゃんとCEROの指定を受けているのだろうか。


「しかし、そんな簡単に殺すって言ってもさ、何を殺すってのよ。敵? 敵ってなに? やっぱ魔物とか居るわけ?」

『ロディーナ、大陸、は、人間、亜人、エルフ、魔物、野生動物、が、居ます』

「え、あ? およよ?」


 返事は期待できないだろうと、殆んど独り言のつもりでぼやいたのだが……肩透かしのように反応があって、但馬は思わず仰け反った。それにしても急に機械っぽくなるのはどうなんだ。あの馴れ馴れしい態度はどこへいった。


『メインスクリーンの右上にあるレーダーマップを見てご覧。そこにいくつかの赤い点が見えると思うんだけど?』


 と思ったら、また元通りのうざ口調に逆戻りである。あまり融通の利かないプログラムか何かなのだろう。多分そういったシステム面に突っ込んでも、また無視されるだろうし、仕方ないので言われた通りに、中央のメインウィンドウっぽいものの右上を見る。


 確かにレーダーマップみたいなものがある。8分割された同心円の中心から波のように光が広がり、それが通りすぎる度に、特定の場所でビコーンビコーンと赤い点が点滅するのである。


『そこに映る赤い点は生体反応を示してるんだ。中型犬くらいの大きさの動物から反応するよ。敵、味方の識別機能は無いから、それは目視で対処しようね。街中では真っ赤に染まっちゃうから、メニュー画面のマップの項をタッチして消すといいよ』

「中途半端に便利だなあ……」


 キュリオの説明が続く。と言っても、ぶっちゃけ船舶とかに積んである魚群探知機と同じようなものなので、わざわざ説明してくれなくても殆んどわかった。


 それよりも、今気になるのはさっきちらっと出てきたエルフと言う単語である……エルフ。エルフかあ……なんだろう、この胸の高鳴りは。


 やっぱりエルフと言えば長命で長身痩躯(そうく)の耳長族で、男女共にやたらと美形で、弓と魔法が得意で、森の隠れ里に住んでて、何故かよくオークとか触手系モンスターとかに襲われてて、男は殺されて女は孕まされたりするんだろうか。因みに但馬はエルフと言えば貧乳派で、ダークエルフと言えば巨乳派である。そしてどちらかと言えば貧乳の方が好きである。


 ところでさっきこのイルカは、このなんちゃら大陸には人間、亜人、エルフが居ると言っていたが、エルフも亜人ではないのだろうか? と言うか、人間と亜人もどう違うのだ? 生物学的にこれら3種族の違いって? 黒人白人程度でしかないのなら、人権団体が黙っちゃいないぞ。その点どうなってんだ。


『時に、古代種、とも呼ばれるエルフ、は、かつて人間(モルモット)、から、亜人(キメラ)、を作り出し、ました』


 と思って、ものは試しと聞いてみれば、想像以上に真っ黒な答えが返ってきた。


 なにそれ怖い。


 このファンタジー世界は意外とハードなようである。こうもり傘がチャームポイントのベビーシッターが、風に吹かれて街から街へ、幸せを運んでくれたりはしないらしい。まあ……魔法一つとっても、あの威力だし……


『それじゃ、次は武器の使い方を覚えよう! と言っても、君はまだ何も武器を持っていないね?』

「お、おう。まあな」


 よそ事を考えていたら、チュートリアルが勝手に進んでいた。どうやら、今度は武器についての説明らしい。もしかしてこれはあれか。武器は持ってるだけじゃ駄目、ちゃんと装備しないと意味が無いとか、お決まりの台詞が聞けるのだろうか。


『そう言うときは手近なものを手に取ろう。例えば、そこに落ちてる石を使えば投石が出来るよ』

「……い、いや、そりゃ、そうだろうけどさ……」


 と思ったら、もっと当たり前な答えが返ってきて顔面が硬直した。投石? 投石なの? 魔法があれだったので、もうちょっと凄いものを期待していたのだが、えらく尻すぼみなものである。


 しかし言うに事欠いて、初心者にいきなり投石で戦えとか、無謀の極みも甚だしい。はっきり言って、コントロールには自信が無いぞ。かつて野球部に所属していたと言う過去もなければ、どこぞのセクトにも参加していない。


 もしかしてこの世界の戦闘は、何でも魔法で解決するのが一般的であって、剣や弓などの武器はあまり使わないのでは無いだろうか? だとしたら納得ではあるが……自分はさっきのあれでMP0になっちゃったから、今は魔法が使いたくても使いたくても使えないのだ。ぶっちゃけ丸腰状態である。


 どうしてこうなった? あれ? チュートリアルってもしかして罠なのか? 他にやれることもないから、ついつい言うこと聞いちゃっていたが、このまま、はいはい受け入れ続けてたら、そのうち人肉とか食わされるんじゃなかろうか。


『でも、ここへ来たばかりの君に、それは酷だから、今回だけ特別に初心者にも使える武器を用意してあげよう』

「疑ってすみませんでした。キュリオさんの寛大さに感謝の念が堪えません」


 と思ったら、お約束と言えばお約束の、初心者向けボーナスアイテムが貰えるようでホッとした。なにしろ但馬は何も持っていないのだ。普通のRPGとかなら、初期装備くらい持ってそうなのに。


 キュリオが淡々と続ける。


『それじゃあ、その辺に転がってる流木を拾ってごらん。出来るだけ細長くて、握りやすそうなものを選んでね』

「お、おう……」


 なんとなく嫌な予感しかしないが、取りあえず言われたとおりに、そこら辺に落ちていたひのきの棒っぽいのを拾った。握ってよし、払ってよし、これが下校途中の通学路だったら、伝説の剣とか言って振り回してそうな、見事な棒切れである。


『拾ったね? そしたら、それを天に掲げて、こう叫ぶんだ『クリエイトアイテム』』

「……クリエイトアイテム」


 魔法の詠唱と違って、ずいぶん簡潔だなあ……などと思ってると、突然、拾った棒が振動し始めた。但馬はあまり期待していなかったせいか、その変化に驚いて、思わず拾った棒を振り落としてしまった。あ、やばい……とオロオロしたものの、それは彼の手を離れてもなお振動を続け、突如ガリガリガリっと音がしたかと思うと、その先端が鋭く削れていき、やがて鋭利な穂先を持った木の槍へと変化した。


『Congratulations! やったね! 木の槍をゲットだぜっ!』

「……こんなんでどうしろと?」


 とほほと溜め息を吐きながら、但馬は地面に落ちていた槍を手に取った。始めに拾った状態と比べれば、確かに武器っぽいが、しかし所詮は木の槍である。そりゃ、ひのきの棒よりは強そうだし、気合さえあればB29だって落とせそうだが、初心者にこれで戦えってのは、死ねと言ってるようなものじゃないのか?


 確か、亜人だのエルフだのの他にも魔物が居るとか言ってなかったか? それどころか、こんなんじゃ野良犬にすら太刀打ち出来ないだろう。


 まさかこれ、自決用じゃないだろうな……但馬はうーんと唸りながら、手に入れたばかりの木の槍をブンブン振り回しつつ聞いた。


「何か武器固有のスキルとかってないの? 技名叫んだら、勝手にごちゃごちゃやってくれるようなの。もう、この際だから、厨二的な台詞のオンパレードでも我慢するぜ?」

『さて、武器も手に入れたことだし、今度は実践してみよう。まずは簡単な敵をサーチするところから始めようね。レーダーマップに映る、赤い点を目指して歩いてみよう』


 淡い期待を抱いて尋ねてみたが、返事は返ってこず、チュートリアルが勝手に進んでいるようだった……とすると恐らく、残念ながらゲーム的漫画的アクションスキルのような便利システムは存在しないのだろう。


 しかし、これではっきりしたが、この作画崩壊した不気味の谷からやってきた畜生は、どうやら答えられない質問はガン無視するらしい。最初にシステムについて尋ねてみたときもそうだったし、ほぼ間違いない。見た目通り、不親切で、全然役に立たない奴である。


 そろそろ用済みだろうか。


 ……他になんか答えてくれそうなことってあるかなあ?


 などと考えつつ、チュートリアルを進めようとするイルカを無視しながらメニューを弄っていたら、期せずしてレーダーマップの赤い光点が動いていることに気づいた。


 もちろん、赤点はイルカの言うとおりなら動物の生体反応なのだから動いていて当然なのであるが、その速度が他と比べて群を抜いている。しかも赤点は三つあり、その三つがかなりの速度でレーダーの中心へ……つまり、こちらへ向かっているようなのだ。


 なんだこれ、いわゆる開幕イベントとか何かか?


 ちらりとキュリオを見てみる。


『さあ! レーダーの赤点目指して歩いてみよう!』

「なあ、これってなんかのイベントか?」

『さあ! レーダーの赤点目指して歩いてみよう!』


 イルカは同じ言葉を連呼していた。こっちが無視していたせいか、ある時点から機械的にそんな言葉を繰り返すようになった。とにかく、その赤点とやらに接触させたがってるようだが、その赤点のほうが、こちらへ向かってきているという認識は、どうやら無いらしい。


 どうしよう……


 もし仮にこの赤点が魔物のような、こちらへ危害を加える生き物なら、この右も左も分からない状況で、木の槍一本でカミカゼするなんて危険極まりない。隠れてやり過ごす方が賢明だ。


 しかし、先ほどの説明からすると、赤点は生態反応であるから、必ずしも敵と言うわけでもないらしい。友好的な、例えば人型のNPCとかなら、もしかしたら人里まで案内してくれるかも知れない。


 どちらにしろ、相手の出方を見たほうがいいだろうと思い、但馬はどこか身を隠せる場所がないかと辺りを見回した。


 しかし、白い砂浜の海岸には隠れるような場所は無く。遠くの(いそ)に岩場が見えるくらいだった。そうこうしている内に、パカラッパカラッ……という、馬の(ひづめ)の音と共に、朝日に照らされて真っ黒に伸びた人影が、遠目に肉眼でも確認出来るようになった。なってしまった。


 恐らく、向こうからもこっちが見えているに違いない。


 但馬は身を隠すことを諦めると、手にした木の槍をぎゅっと握り締めた。最悪の場合、こいつだけが頼りになるはずだ……なるのか?


『やあ、生命体と接触したようだね。向こうはこちらを警戒している。恐らく敵だよ。反応は3。種族は人間だね。人間は心臓、首、内もも辺りに弱点があるよ。さあ、それじゃ早速武器を使ってぶっ殺してみよう!』


 正確には向こうからやって来たのであるが、赤い点に近づいたからだろうか、キュリオの台詞が変わった。


「おまえは何を言ってるんだ? ……人類みな兄弟。そんな簡単に人を殺せなんて、物騒なことを言うんじゃない」


 つーか、そんな余裕無いから無理です。但馬は木の槍をギュッと握り締めて、ビクビクしながら相手の出方を(うかが)った。


 やってきたのは遠目にも人間だと分かった。いかにもゲームっぽい、馬に乗った中世の兵士らしき三人組。一人は小柄だが身なりが良く、シルバーの篭手(こて)と具足、肩まで覆った胸甲(きょうこう)、腰に(きら)びやかな剣を()いていた。見た感じ、三人のうちで一番身分が高そうに思える。


 もう一人はその従者と言った感じだろうか、左手に篭手のようなプロテクター、右手には弓がけをはめ、体は革のよろいで覆われていた。いかにもなアーチャーだ。


 そして最後の一人は巨漢のマッチョで、こりゃ鎧なんて着てても無駄だわ……とフルプレートの騎士が絶望するに違いない、棘付きのでっかい球棍(メイス)を担ぎ、膝に矢を受けた過去がありそうなごっつい兜をかぶっていた。


 その表情は全く読めなかったが、


「……動くな!」


 砂浜に響いた声は野太く、ビリビリと但馬の鼓膜を振るわせた。明らかに威嚇の大声を出し慣れていると言った貫禄のあるバリトンは、彼が剛の者であることを証明しているようにさえ思われた。


 背後の従者っぽい男がキリキリと弓を引き絞る。


 鋼鉄の矢じりの先端が、正確に但馬の目を捉えキラリと光った。


 但馬は木の槍を放り投げてバンザイした。


『武器はちゃんと装備して使おうね。両手持ち武器は盾が持てないけど威力が強いんだ。さあ、改めて武器を手にとって、目の前の敵に一発お見舞いしてやろう』


 能天気な声が頭の中で武器屋の親父みたいな台詞をほざいていた。ちょっと黙ってくれたまえ。今、危険が危ないんだ。


「わー! 怪しくないです! 怪しくないですから! 撃たないで!!」

「手を頭の後ろで組んで、膝をつけ。ゆっくりだ」

「はいっ! 迅速に早急にゆっくり膝をつきますとも!」


 なんだったら土下座しよう。しろと言うなら足の指をペロペロしたって構わない勢いで、但馬は砂浜に膝を屈した。


 それを見て巨漢は慎重に但馬に近づくと、彼の体の上下を叩いて所持品検査をし始めた。ハリウッド映画なんかでお馴染みの、警官がやってるあれである。


 幽霊みたいに異様な面構えをした、鈍色のフルフェイスの隙間から、鋭い眼光が覗いて但馬をジロリと睨んだ。体中まさぐるように動く二の腕は、明らかに但馬の太ももよりも太くて毛むくじゃらであった。


 背筋に悪寒が走ってぞぞげが立つ。ちびりそうだ。さっきからおちんちんがキュッとすると言うか、体の中に減り込んでしまいそうな勢いで縮こまっている。因みに乳首は立っている。さっきは死んだら元の世界に戻れるかな? とも思ったが、今となっては死んでもごめんである。お尻の処女までならあげるから、お願いだから殺さないで……


 と、生まれたての小鹿のようにプルプル震えていたら、やがて巨漢はふっと溜め息を漏らして立ち上がった。但馬はビクリと体が震えた。


 あ、やばい……いまちょっと股間が温かくなった気がする……


「分隊長! 何も持ってませんぜ」


 そんなビビリには目もくれず、巨漢は砂浜の上のほうでまだ但馬を見下ろすように馬に跨っていた小柄な兵士に手を振った。兵士は手を上げて応えると、馬を下りてゆっくりとこちらへと歩いてきた。


 それを見て、弓を引き絞っていた従者らしき男が射線を外す。


 こちらからは逆光になっていて、良く見えなかった。だから、その人を見ても小柄だなあ……としか思わなかったが、それもそのはず、


「あのぉ~……手荒な真似をしてごめんなさい。私はリディア王国、征メディア軍第3大隊第2中隊第1偵察小隊所属、ブリジット・ゲール軍曹です」


 ブリジットと名乗る女性兵士は、そう言うとペコリと頭を下げた……と思ったら、あっと小さな声を出し、すぐさま姿勢を正して手を額に(かざ)した。それはどう見てもお辞儀と、そして陸軍式の敬礼そのものだった。


「……へ?」


 但馬はポカンとバカみたいに口を半開いた。取りあえず、危機が去ってほっとしたのもあるが、まさかこんなところで、こんなものが見れるとは思わなかったからだ。


『さあ! 但馬、波留、さん! 今すぐ武器を取って敵を殺すんだ!』

「うっせえ、てめえは少し黙ってろ」


 頭の中に響く能天気な声に苛立って怒鳴ると、巨漢がギロリと眼光を飛ばし、目の前の女性兵士は怪訝(けげん)そうに首をかしげた。


「いやいやいや、すみません! お嬢さんに言ったんじゃないっすよっ!?」


 あっはい。怒鳴った自分が悪かった。命あっての物種である。イライラしつつも恐縮しながら、但馬はしどろもどろに言い訳した。だから、あんまり下を向かないでくれ。股間のシミがバレてしまう……


 それにしても、この糞イルカ、どうしてくれよう……


 しかし、やっぱりと言うか、この緑色のイルカは他人の目には見えないようだ。さっきからピーチクパーチク頭の中で響くような声も、恐らくは聞こえないのだろう。聞こえていたらその不穏当な内容で、但馬の首と胴体は離れ離れになっているはずである。


 但馬がキュリオに突っ込みを入れる姿は、恐らく他人の目には頭がいかれた奴が一人芝居をしてるようにしか見えなかったに違いない。


 困った。どうしよう……このイルカが邪魔さえしなければ……そう思っていたら、


『チュートリアルを終わりますか?(Y/N)』


 などとメッセージウィンドウに表示され、イルカが急に黙りこくった。


 どうやら空気を読んだらしい。但馬は一も二も無くYesを押すと、そのままの勢いで地面に平伏した。


 端から見るだけでは、本当に何をやってるかさっぱり分からなかったのだろう。


 その奇妙な振る舞いにドン引きしたのか、女兵士は巨漢と顔を見合わせて、なんともいえない渋面を作るのであった。


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