レムリア探訪
きっとタフな交渉になるに違いないと、長期戦も視野に気合を入れてやってきたレムリアで、アーサー達は思わぬ大歓迎を受けた。
港には溢れんばかりの群衆が押し寄せ、アーサーの一挙手一投足に歓声が上がる。みんな口々にリディア王家バンザイと叫んでおり、一体どうしたことかとオロオロしていると大統領がやってきて、彼はアーサーに抱きついて喜びを露わにすると、自分はリディア王家の忠実な下僕などと宣った。
その大統領に先導されて、一行がタラップを伝って波止場に降りると、歓声はいよいよ大きくなって、耳が痛いくらいだった。すると歓迎の曲を演奏していたバンドが、今度はシンプルな伴奏を始めたかと思うと、その音に呼応するかのように港に集まった人々が徐々に静まり返り、一瞬の沈黙の後、まるで音の洪水のような勢いで国家を斉唱し始めた。
みんな胸に手を当てて、大きな声で、直立し、清々しく歌うさまは、彼らの愛国心の強さをひしひしと感じさせた。歌が終わると、彼らは大統領バンザイ、リディア王家バンザイとまた口々に喜びの声をあげ、本気でアーサーがやって来たことを喜んでいるようだった。
どうしてこんなに自分は人気があるんだろうとアーサーが面食らっていると、大統領が言うにはレムリアはリディア難民が作った国だから、王家に忠誠を誓った者も少なからず存在する。彼は自分もその一人だと言ってから群衆を指差し、みんなはその正当な後継者であるアーサーのことを、遠い海の向こうから来てくれた王子様だと思っているのだと教えてくれた。
アーサーの到着はタスマニア島に現れた段階で哨戒艇からの無線で知らされており、ここにいる群衆はそれを聞きつけると、何も言わずに自然と集まったそうである。
大統領は当初簡単な式典を催して歓迎するつもりだったが、ここまで大事になっちゃうと何もせずにみんなに帰れというのも忍びないので、もう勢いだけでパレードをやっちまおうと、用意をしているから車に乗ってくれと言いだした。
そしてアーサーはわけも分からぬまま、エトルリア大陸では考えられないほど立派なパレードカーに乗せられ、港から続くアスファルトで固められた真っ直ぐで広い道路を運ばれた。その沿道にも信じられない数の群衆が押し寄せて、その背後には見上げれば首を痛めそうなくらい高くそびえる摩天楼が続いている。
港の時と負けず劣らず嬉しそうにアーサーに手を振る群衆に、戸惑いながらアーサーが手を振り返すと、黄色い悲鳴が轟き、女性が失神して倒れただの、嬉しさのあまり泣き出すご老人が居たりだの、てんやわんやの大騒ぎになってしまった。彼は流石にちょっとドン引きしながらも、嬉しくないわけがないから、黙って愛想を振りまいていた。
それにしても、沿道の広さ、車の快適さもさることながら、もう夜だと言うのに集まってきた人々、それを感じさせない街の明るさ、それからキラキラと鮮やかに煌くランプの灯りには驚かされた。
あの色はどうやって出しているのだろう? と思って尋ねたら、あれはネオンサインと呼ばれるもので、原理はどうだとか何だか難しい話をされて目が回った。
レムリアと言う国は、本当にエトルリアの常識では考えられないほど、技術的に進んだ国であるらしい。
こうしてアーサー達交渉団は、なんだかなし崩し的にレムリアでの初日を終え、式典、パレードを経て大統領府に隣接するホテルに連れて行かれた。
港で大歓迎を受け、夜は夜で山海の珍味をふんだんにあしらったご馳走を頂いて、暖かい風呂につかって……なのになんだか妙に疲れてしまったアーサーはぐったりとして、その日はそのまま寝てしまった。
翌朝、目覚めたアーサーがベッドの中で、
「あれ? 俺って何しに来たんだっけ?」
とぼんやりしていると、そう考える間もなく大統領府から使者がやって来て、朝食の用意が出来たことを馬鹿丁寧に伝えた後、今日は大統領たっての希望で、是非国内を視察して回ってほしいと言われた。
交渉というか殆どお願いに近いものをしに来た手前嫌とは言えず、二つ返事でオーケーしたが、なんだか向こうのペースに乗せられてるような気がしてしっくりこない。そんな思いを抱えながら、寝ぼけ眼を擦りつつ、みんなが待っていると言うラウンジへ向かうと、剣聖と大統領夫人が親しげに話をしているのを見かけた。
狐につままれたような話であるが、この辺の人物はみんな魔王を通して知り合いらしく、エリックとマイケルなんかは大統領のことを呼び捨てにしているのが印象的だった。対してアトラス、アンナはやたら大歓迎されるこの状況に少々くたびれているようで、借りてきた猫みたいに大人しい。
リーゼロッテは昔の知人に会いたくて、わざわざアンナを連れてレムリアまでやって来たようだが、残念ながら目的の人物とは会えないようだった。因みにそれは但馬の養子と亜人傭兵団のことだったが、タチアナと会話する彼女の表情が優れないところを見ると、何か問題でもあるのだろう。
二人の姿を遠巻きに眺めつつ朝食を取っていると、やがてタチアナと入れ替わりに記者とカメラマンを大勢連れた大統領がやってきた。今日は大統領自ら街を案内してくれるということらしく、それを記事にしたい新聞記者達の前で、注文されるままに笑顔で握手を交わしていると、バシャバシャとフラッシュが焚かれて目を丸くした。
閃光弾みたいな光の洪水に、一体どうやってるのだろう? と首をひねっていると、大統領に促されるままに車に乗せられ、なんと彼の運転で街を案内してもらえることになった。
広い後部座席はクッションが効いていて座り心地がよく、車の方も信じられないくらい滑らかに動き出して殆ど揺れを感じさせない。そのことに感心していると、大統領は誇らしげにしながらも、
「町中はアスファルト舗装されてて大したことないのですが、郊外はまだまだ荒野が広がっていてとても整備が追いつきません。デコボコの道を走るためにサスペンションには特に気を配っておりまして……」
技術的な話になってくるとさっぱりついていけなくなって、段々とアーサーは返事だけを返すオウムみたいになっていた。大統領は人と話すのが大好きといった感じに、ハキハキと元気に喋る人で、お陰で道中は退屈せずに済んだ。
信じられないことにレムリアでは現在、マイカー政策と言うものを取っているらしく、国民一人一人が一台の自家用車を持てるように補助金を出しているらしい。エトルリアにもトラックくらいあるから車を見ても驚きはしなかったが、その数が妙に多いと思っていたら、そんな目が回りそうな理由が隠されていたらしい。まるでおとぎ話である。
アーサーにだってまともな感性はあるから、しかし、そんな豪快な予算の使い方をしても平気なのか? と尋ねてみたが、大統領は意も介さないと言った具合に、
「我が国には有り余る鉱山があります。金銀銅はもちろん、鉄鋼にボーキサイト、まだ開発途上のウラニウム、それから石油があります。広大な土地から生み出される収穫物と、電気エネルギーを生産する発電所があります。そこで働く人々の生産量は、エトルリアとは比べ物になりません。エトルリアの国々では足りない資源を補うための交易が重要になりますが、我が国では全てのことが国内で完結するので、そちらの大陸から離れていても何も困ることがないのです」
食料に関しても、確かに日照不足が深刻だが、そんなの関係ないくらい作付面積が広いからどうにでもなるらしい。また人工照明下で育てる植物工場や、鏡の反射を利用した温室栽培など、その気になれば工夫はいくらでも出来るそうで、近年ではエトルリアのように、エルフの種子をかけ合わせた新種の作物も生産しているようである。
そんな説明を受けながら車が郊外へと出ていくと、そこは一面のじゃがいも畑が広がっていた。大統領曰く、じゃがいもはこんな状況下でもよく育つらしく、レムリアではこれが主食となっているそうだ。だったらエトルリアでも、ガンガンじゃがいもを作れば良かったんじゃないかと思ったのだが、単純にはいかないらしく……
「マン兄さんが言うには、じゃがいもばかりを作っていると、あっという間に連作障害になってしまうらしいですよ。それなりに経験と知識がある人が、計画的にやらないと駄目だそうで。シルミウムの飢饉は間違いなくそのせいだって言ってました」
「マン言うなっ」
農場についた一行が車を降りると、トラクターに乗って一人の男がのんびりとやって来た。マンフレッドと呼ばれるその男は大統領の従兄で、初期のレムリアの農政を助けた、国内随一の豪農だそうである。
これまたエリックとマイケルの友達で、ハリチで一緒だったことがあるらしく、久々の再会を喜び合っていた。
「大統領が中途半端にフレッドなせいで、従兄の俺はマン呼ばわり。全く迷惑な話です。初めましてアーサー様。このようなむさ苦しい場所にようこそおいでくださいました。仕事中ですので、作業着姿でご容赦ください」
「いや、こちらこそ仕事中にすまない。それにしても……これだけ広大な土地を、たったこれだけの人数で管理しているのか?」
アーサーが差し出された手を握り返し、マンフレッドの周りに居た若い農夫たちを指差すと、彼らはギクシャクしながらお辞儀を返した。彼の農場のスタッフらしくて、アーサーが視察に来ると聞いて、朝からずっとそわそわしていたらしい。
マンフレッドの農場はこの近辺だけでも数十ヘクタールあるそうだが、その広大な土地を、ここにいる数十人のスタッフだけで管理しているらしい。そんなことが可能なのか? と問えば、レムリアはとにかく広大だから、人が手作業で作付けしていると時間がいくらあっても足りない。だから、なんでも機械でやるのだと説明された。
先程から農場の中でちらほら見かけていたトラクターは収穫機で、畑を耕すのも種をまくのもこれで行い、なんと肥料は例の飛行機で空からばら撒くそうである。アーサーはそのスケールの大きさに目が回りそうになった。
このお陰でレムリアでは農業人口を減らせて、他の産業に人的資源を振り向けることが出来るのが強みなのだそうだ。十五年前にやってきたリディア難民のベビーブームで生まれた子供たちが、そろそろ就業年齢になってきたので、国内の産業はこれから飛躍的に伸びるだろうと、大統領は誇らしげに語っていた。
そんな農場の見学を終えたら、また大統領の運転する車で、今度は飛行場、発電所、製鉄所、自動車工場、果てはエトルリアには存在しない百貨店やスーパーマーケットのような商店に連れて行かれて、アーサー一行はその刺激の強さにフラフラになった。
初めての体験をこれだけ立て続けにしていると、大人であっても疲れてしまう。口数が少なくなってきた彼らのことを見て、それに気づいた大統領は謝罪すると、少し休憩をしましょうと言って、一人で車を降りてソフトクリーム屋台まで走っていってしまった。
「うわっ! あいつ、護衛もなしに何やってんだ!」
驚いたエリックが飛び出していって彼の護衛を買って出るが、そんなもの端から必要ないといった感じで、大統領は街の人達と気さくに挨拶を交わしては、屋台のおじさんと冗談を言い合って笑っていた。
大統領は、アーサーの勘違いでなければ、国家元首のことである。そんなすごい人が、どうして庶民相手にあんなに気安く振る舞えるのだろうか……そんな不思議な光景にポカーンとしていると、同じくそれを見ていたアンナが、
「偉い人なのに、全然偉ぶらないのは凄いね」
と呟いた。
彼女は義理とは言えアスタクス方伯の孫娘であり、アーサーもイオニア国のミラー伯爵の孫である。その虎の威を借る親戚には心当たりが多すぎて、自分のことではないのに恥ずかしくなってきた。
ところが、珍しく意見が一致した二人が大統領を褒めそやすと、
「何を言ってるんですか、アンナさんのお父さんがそういう人だったんですよ。私はその真似をしているだけです」
彼はそう言って恥ずかしそうに照れ笑いした。そして本当に懐かしそうな顔でアンナのことを見つめ、目を細めながら……
「大事なことは、みんな彼に教わりました。もし、その娘さんから見ても恥ずかしくない男になれたのであれば、これほど嬉しいことはありません」
と言った。そんな大統領の言葉に、アンナがなんと言っていいか分からず俯いていると、それを見ていたエリックとマイケルが大統領の首根っこを引っ張って、
「何言ってやがんだこの野郎」「女に手が早いところは全然似てないじゃないか」「俺たちを差し置いて、タチアナさんと結婚しやがって……」「死刑だ死刑だ」「うわっ! ふたりとも勘弁して下さいよ!! 国民が見てる前ですよ!!」
車の中でじゃれつく三人を、その国民がニコヤカに手を振りながら通り過ぎていく。アーサーはそんな幸せな光景を目の当たりにしながら、この国の大きさをひしひしと感じていた。
この国の人々は勤勉であるだけでなく、思いやりも持っている。技術が進んでいるだけでなく、精神的にも進んでいるのだ。その国の人々が、一度として見たこともないアーサーのことを、王子と呼んで歓迎してくれる。リディア王家というのは、本当に凄い血筋である。
そしてアーサーはそれを利用してでも、この国との交渉をまとめねばならないのだ。今日一日見て回っただけでも確信できる。この国の技術があれば、魔王に勝てる。いや……少なくともエルフの脅威からは解放されるのだ。だからなんとしてでも、彼らの協力をとりつけねばならないと、アーサーは自然と気が引き締まっていくのを感じていた。
***********************************
しかし、彼がどんなに気合を入れたところで、やはり交渉は前途多難のようだった。
翌日、飛行船の遊覧飛行を勧める大統領の提案を断腸の思いで断り、改めて大陸軍への協力を要請したアーサーは、大統領府で彼との会談にこぎつけた。
シドニアでは彼の妻タチアナからにべもなく断られたが、昨日一昨日と大統領と接した限りでは、彼のリディア王家に忠誠を誓うという言葉に偽りはなさそうである。だからアーサーは、改めてカンディア公爵からレムリア共和国へのお願いという形で、彼の協力を得ようとした。
ところが、彼はアーサーの言葉を聞いても、柔和な表情をまったく崩すこと無く、
「もう少しこの国を満喫して貰ってからにしたかったところですが……前置きは良いですよね。率直に言います。レムリアは協力しかねます」
「何故だ? 大統領……あなたは知っているはずだ。俺がこの国に来る前、エトルリア大陸では魔王がエルフを使って大攻勢を行った。大勢の無辜の民が死に、我々エトルリアの国家は危うく滅びかけた。だから、その時に現れたあなたがたの艦隊は、我々には救世主のように映ったのだぞ。エトルリアの人々は、断られたことを知らず、あなた方の参戦を今か今かと待っている」
「助けなければ良かったとは言いませんが、救世主にされるのはごめんですね」
「だから、なんで?」
「昨日、一日国内を見てもらって分かったでしょうが、我が国は我が国だけで生きていけます。だから積極的にそちらの大陸の問題に介入する理由はないのです。我々に何の得もないのに、下手に手を出して国民を危険に晒すのは馬鹿のすることでしょう」
「そんな身勝手な。魔王は人類を滅ぼすと言っているのだぞ?」
「身勝手なのはそっちの方でしょう。失礼ですが殿下、妻に言われたことを覚えておいでですか? ここはリディアからの難民が作った国、そしてトリエルからの避難民も住んでいる、みんなそちらの大陸から追い出された人たちばかりです。建国当時、この国には何もなく、みんな死に物狂いで働きました。その時、あなた方は手を貸してくれましたか? トリエルがシルミウムに攻められた時、アスタクスや皇国は介入しましたか? なのに、自分たちが滅ぼされそうになった途端、助けてくれというのは虫が良すぎますよ」
「た、確かにそうではあるが……」
「この国は本当に何も無かったんです。食料も満足に食べられなかった。でもなんとかなったのは、あなた方が魔王と呼んでいる男の残した技術があったからですよ。我々にはS&H社が培った科学力があったのです……でも、それはあなたがたも同じだったはずだ。イオニアを含む南部国家には、昔社長が作った工場がたくさんあった。それがこの15年でここまで差がついたのはどうしてですか。
世界がこんなに暗くなって、エルフが襲ってきて、普通ならもっと必死になるでしょう。なのに、あなた方は15年前から何も変わっていない。そんな人達に、こちらが努力して得た成果物を寄越せと言われても、いくら積まれてもゴメンですよ」
「大統領の怒りは尤もだ。エトルリアの国家に不信の目を向ける気持ちは分かる。だが、それで何もせずに見過ごして、本当にエトルリア大陸から人類が追いやられてしまったらどうなる? 次はこの国なんだぞ?」
すると大統領はジッとアーサーの目を見つめながら言った。
「……本当に、魔王はあなた方を滅ぼした後、こっちに来るんでしょうかね」
「なに?」
「もし仮にそうだとしても、それは仕方ないことだと思っています。私は、魔王を追い詰めたのは、人類のほうが先だと考えてますから」
そして大統領は、ため息混じりに昔のことを思い出しながら、とうとうとアーサーに語って聞かせた。
「リディア最後の日、クーデター軍がどれだけ非道な行いをしたか知ってますか……? なんで社長がこんな目に遭わねばならなかったんでしょうか。
確かに、あの人は陛下に対して不義を働きました。ですが、それに余りある貢献をしていた。ローデポリスがエルフに襲われた時、それを撃退したのも、リディアがあそこまで大きくなったのも、我々が日々使っている電気の力も、ヒールが使えなくなってもなんとかなってる医学の知識も、みんなみんな社長のお陰じゃないですか。殿下が欲しがってるエルフと戦うための道具だってそうだ。
我々人類は、彼がいなければとっくに滅んでいたんですよ。
……実は私はあのクーデターの日、危うく殺されかけました。クーデター軍は社長の本当の実力を知ると、彼を恐れて軍を差し向けた。そして彼の資本力をも奪おうとして、S&H社の本社にまで押しかけ、暴徒に紛れて私を殺そうとしていたのです。
私は命からがらコルフ大使館に逃げ込みましたが、もし、ブリジット陛下が偶然王宮から出ていなければ、家内ともども死んでいたことでしょう。その間に、社長はクーデター軍に襲われ、信頼する部下達がなぶり殺しに遭い、殺された。
社長が怒るのは当たり前じゃないですか。復讐だと言うのなら、それはもう仕方ないことなんじゃないですか?」
「……いや、しかし……」
「まあ、聞いてください。あの日、エルフは確かに私達を襲いました。ですが、ハリチまでは来なかったんですよ。ビクトリア山には絶対に近づかなかった。私たちはそのお陰で、ガッリア大陸から逃れることが出来ました。
それが何故かわかりますか? 私は、きっとあそこに霊廟があったからだと思います。社長は先帝陛下の眠るあの山を、荒らしたく無かったんじゃないかと思うんです……もしかしたら、今でもあの山は安全地帯のままかも知れません」
「そんなセンチメンタルな……」
「でも、社長はそういう人だったんですよ。私は、そんな社長のことを尊敬していた……だから、あの魔王が理由もなく、酷いことをするとは思えないのです。なんと言われても、私は魔王を信じる。彼と戦うべきではないと……レムリアは動くべきでないと確信しているのです」
魔王討伐への協力を拒絶するレムリア大統領の本心は、エトルリア大陸への不信ではなく、実は魔王への信頼だった。
アーサーはその事実に驚き、彼を必死に説得しようとしたが、話し合いはいつまでも平行線を辿り、とてもまとまりそうになかったのである。