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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第九章
310/398

こんなのが戦場だというのか?

「ええいっ! ちくしょうちくしょうっ!」


 アーサーは荒れに荒れていた。コルフ総統との面会を実現するため、議員であるランに会ったまでは良かったが、未熟者扱いされて説教された挙句に、結局は体よく追い返されたようなものだった。


 しかも何一つ言い返せなかったのだ。そもそも、アーサーがなんで総統と面会をしたかったかと言えば、兵隊を集めるための資金援助が目的だったが、金があったところで兵隊が集まるはずがないと言われると、確かにその通りであったのだ。


 アーサーはエルフと戦ったことがない。それどころか実物を見たことすらなかったのである。


 普通に暮らしていたら危険地帯に近づくことなんてあり得ないのだから、それは当然ではあったが、そんな奴がエルフを倒すための兵士を募ったところで、冗談にしか聞こえないだろう。リディア奪還というお題目は確かに立派だが、そこへ至るプロセスが全く思い描けなければ絵に書いた餅に過ぎない。これでは自分を後継者に選ばなかった祖父や、政敵ベネディクトを見返してやることも出来ないだろう。


 ランはエルフを倒すことが出来たら話を聞いてやると言っていた。上から目線でムカつくおばさんではあるが、ここは彼女をギャフンと言わせるためにも、素直に助言に従っておくことにしよう。


 そんなわけでアーサーは従者相手にキィキィとヒスりながらも、翌日にはカンディアを発ってフリジアへと向かうことにした。いろいろと足りないところだらけの男だったが、フットワークだけは軽かった。


 フリジアはかつてイオニア海の重要交易地として大いに栄えた街だが、今は見る影もないほど寂れていた。コルフやリディアが無くなったせいでイオニア海交易自体がほぼ成り立たず、おまけにすぐ近くまでエルフの森が侵食してきてしまったせいで、大ガラデア川を使った水上交易も途絶えてしまったからだった。


 現在、物流は外洋航路と、大陸鉄道とトラックを使った陸上の交易路にシフトしていて、その中心は、かつては辺境と呼ばれたイオニアとなっており、フリジアの方がエトルリアの僻地扱いされていた。


 帝国とアスタクスが戦った時、ミラー家と共に南部諸侯のリーダーとして立ち上がり、重要な役割を果たしたフリジア子爵であったが、気がつけばミラー家のイオニアと大分差をつけられたものである。噂ではその嫉妬から、相当逆恨みしているらしく、アーサーはフリジアに入るにあたって念の為に偽名を使う羽目になった。


 ともあれ、ランの息子が前線で指揮官をしているらしいので、まずは彼を訪ねて行って、いろいろと渡りを付けてもらおう……そんなことを考えつつ、フリジア市街にある義勇軍オフィスまでやって来たのだが、


大尉(キャプテン)は留守だ。いつ帰ってくるかはわからない……なんなら伝言預かっておこうか?」

「なんだと? どうしてトップが本部に居ないのだ」

「うちはそんな大層なもんじゃないぜ」


 フリジア防衛線を支えている兵士は基本的に傭兵が主だった。最初はアスタクス方伯が民兵を主体に組織していたが、損耗が激しすぎるために徐々に精鋭化され、最終的にはその穴を埋めるため、志願してきた傭兵指揮官(オフィサー)がそれぞれ私兵を指揮すると言う寄せ集めになってしまったのだ。


 軍隊組織としては明らかに退化と言えたが、相手が謎の生命体エルフであるために、これで上手く行っている。何しろ、数百キロにも及ぶ前線のどこに敵が現れるか分からないのだ。トップダウン方式の組織では効率が悪く、小隊規模での連携と即応性を求められる現場だった。


 フリジア防衛線は大ガラデア川を背後に構築され、川に向かって徐々に進出してくる森林の拡大を防ぐのが主な任務だった。


 エルフは森の中でこそ無敵だが、外に出てくるとかなり弱体化する。昔はそれでも危険な生命体であったが、マナの影響が弱くなった現在では、人数さえかければ戦えない相手では無くなった。ただし、再三言っての通り、森の中でなければの話である。


 当然、エルフの方も自分の弱体条件を理解しているようで、奴らはおいそれと森から出てこようとはしない。そして長いエルフとの戦いの間に、どうやら敵が森林を増やそうとしていることがわかってきた。


 エルフと戦っていると、いつの頃からか奴らが何か光る礫を放出しているのが見かけられるようになった。初めはマナの奔流の一種だと思われていたが、ある時、それはマナに包まれた種子であることに気がついた。それを放置していると、雨後の竹の子のようににょきにょきと木が生えてきて、一ヶ月もしたら人の背丈ほどにもなる。


 作物がろくに育たない中で信じられないことであるが、原理は不明だがエルフは作物の成長を促進する方法を知っているらしい。それは恐らく、かつて人類が行使することが出来たというヒール魔法の応用であろうが、ともあれ、この種子を放置しているとエルフの生息域がドンドン人類の生活圏を犯してくることになるのだから、なんとしても除去せねばならない。


 そんなわけで防衛線の兵士たちは、森から出てきたエルフと交戦し、彼らを撃退した後、飛ばされた種子を回収するという作業を延々と繰り返していた。


 アーサーはフリジアの義勇軍オフィスに目的の人が居ないと知らされた後、仕方ないのでその前線にまで足を運んだ。


 ランの息子の方は後回しにして、エルフ狩りのエースとやらの方を先に片付けておこうと考えたのだ。それにランはエルフを一体でも倒すことが出来たら話を聞いてやると言っていた。それなら別に息子の力を借りなくても、目的さえ果たせば問題無いだろう。


 身なりの良い服を着て、従者二人を引き連れたアーサーはかなり悪目立ちしたが、好奇の視線を送られるだけで特に誰も近づいてこようとはしなかった。彼らは道行く兵士を捕まえては、吟遊詩人(ミンストレル)はどこにいるかと訪ねながら、ガラデア川東岸をずんずんと北上していった。


 ガラデア川東岸、フリジア防衛線は酷い有様だった。そこには蜘蛛の巣のように張り巡らされた塹壕が、数百キロにも渡って複雑にからみ合っており、そのあちこちから煙突のような物が突き出していて、異常な臭気を放っていた。後で知った話だが、それは臭突と呼ばれる便所の臭いを外へ逃がす仕掛けだそうだ。


 防衛線の兵士は24時間この塹壕の中で暮らしており、交代以外の理由で外に出ることはない。基本的にただ穴を掘っただけの構造物だから、雨が降れば泥濘(ぬかる)むし、汚物や土中の湿気で四六時中ジメジメしてとても不快だ。その中で彼らは飯を食い、睡眠を取る。衛生なんて概念はなく、病気が蔓延していたが、治療薬が足りずほぼ野放し状態だった。


 初めて戦場を間近に見たアーサーが、想像していたものとのギャップに呆然として佇んでいると、運悪く森からエルフが現れたらしく、にわかに辺りが騒がしくなり、大慌てになったエリックに地面に転がされた。


 強かに顎を打ち付けたアーサーが文句を言おうと声を上げると、途端にあちこちから爆音が轟いて、抗議の声はかき消された。塹壕の中から顔だけをひょっこりと出した兵士が、ライフルで必死に弾幕を張っている。森の方からは絶えず炎が吹き上げ、どこから飛んで来るのか分からない石つぶてが、アーサー達の周りにも降り注いでいた。


 ドスンッ! ……と、鈍い音が聞こえた方を見やったら、人間の頭くらいの大きさな岩石が落ちていた。これに直撃されたら即死だろう。ゾーッとして、一刻も早く姿を隠したかったが、もはや立ち上がる事もできず、耳をつんざく爆音の中で、三人は小さくなって丸まっていた。


 永遠とも思えるほどの長い時間が過ぎ、ようやく交戦が沈静化すると、あちこちから衛生兵を呼ぶ声が聞こえてきた。うめき声が絶えず漏れ、さながら地獄絵図のようである。


 そんな中、前線の塹壕の間に作られたタコ壺と呼ばれる穴から、ワラワラと何人もの子供たちが飛び出して、たった今交戦があったばかりの戦場へ我先に駆けていった。何をやってるのかと思えば、エルフがばら撒くという種子を回収しているらしい。それを兵士のところへ持って行くと、小遣いばかりの金が貰え、子供たちはそれで生計を立てているようだった。


 アーサーはそんな前線の、当たり前の光景を前にして閉口した。


「なんだこれは。こんなのが戦場だというのか? 一騎当千の英雄達がしのぎを削り、名乗りを上げて一騎打ちしたり、舌戦で敵を挑発したり、華々しい騎兵突撃はどこへいった」


 するとエリックがプーっと噴き出し、


「そんなの、俺の時代にだってもうありませんでしたよ。兵隊はみんな銃で武装し、弾が当たったらまず助からないから身を隠す、これが当たり前の戦場です」

「そんなことないだろう。ヴェリアの山へ騎兵突撃を敢行し、アスタクス方伯を蹴散らしたと言う、剣聖エリザベス・シャーロットの伝説が嘘だと言うのか?」

「あー、いや……あの人はちょっとアレだから……あれを基準に考えないでくださいよ。殆どの兵士はこんなもんです」

「うーむ……それにしたって」


 エルフの襲撃という未曾有の危機が間近に迫っているというのに、誰もが目を背けて戦いに行かない理由がよく分かった。みんな現実逃避しているのだ。


 この戦場は絶望的すぎる。敵は謎の生命体でいつどこから現れるか分からず、24時間対応するために警戒を怠れない。敵が出てきたらきたで、絶え間なく飛んでくる爆撃や石つぶての前に、今見た通り人類側は防戦するのが精一杯で、こちらから仕掛けるなんてとてもじゃないが出来ないだろう。


 きわめつけ、一番あり得ないのはあの子供たちだ。こんな危険な戦場だと言うのに、戦闘の後始末をしているのは非武装の子供なのだ。しかも小遣い程度の金で。もしも今、さっきのエルフが戻って来たら、彼らは為す術もなく殺されるだろう。だが、誰もが見て見ぬふりだ。


 子供たちがなんでこんなことをしているのか……そんなのは聞かずともすぐ分かる。彼らは捨てられたのだ。魔王の引き起こした大飢饉のせいで、人類は人口の五分の一を失った。食うに困った人々が、口減らしのために子供を捨てたのだ。その子供たちが生きるためにたどり着いたのがこの戦場であり、恐らく、塹壕の中で応戦している兵士もまた、元をたどればそうだったのだろう。でなければ、志願してまでこんな戦場にまで来るわけがない。


 これは人生の縮図だ。アーサーは奥歯を噛み締めた。自分が都会でぬくぬくと帝王学を学んでいる間、前線をこうした子供たちが支えてくれていたのだろう。自分の足元を確認することもせず、何の上に立っているのかも考えなかったのは痛恨の極みであった。


 自分は彼らに生かされていたのだ。人民は守らねばならぬか弱き存在、これでは立場が逆ではないか。

かくなる上はなんとしてでも彼らを救わねばなるまい。そのためには一刻も早く魔王を倒すしかないのであるが……今の自分は公爵とは名ばかりの貧乏貴族。一体、どうしたらいいものやら……


 そんな風にアーサーが明らかに自分の手に余る問題に頭を悩ませている時だった。


 パンッ!


 っと、乾いた銃声が何もない殺風景な戦場にこだました。すわ、新手か? と驚いて、瞬時に地面に這いつくばったアーサーであったが……恐る恐る辺りを眺めてみても、森の方は何も変わりがない。


 それでもまだパンパンと銃声が続いていることに困惑しつつ、音のする方をよくよく確かめてみたら……前線で種子を拾っていた子供たちが、まるでダンスでもしているかのように、右へ左へと大騒ぎしている。そしてその手前では塹壕から頭を出して、子供たちに向かって発砲している兵士の姿があった。


 男たちはゲラゲラと笑いながら、手慣れた手つきで弾込めをしては、また子供たちに向かって発砲を繰り返した。まるで鴨でも撃ってるかのような気安い仕草で、兵士たちは泣きわめく子供たちを弄ぶ。そのうち、一人の兵士の手元が狂ったのだろうか、それとも動く的に狙いが定まらなかったのかわからないが、運悪く子供の一人に弾が当たり、血しぶきが舞った。


 その瞬間、アーサーの頭の中で、ブチッと何かがちぎれる音がした。


「きっさまらあああぁぁぁーーーーっっっ!! 何をしているっ!!」


 アーサーは飛び上がると全速力で駆け抜けた。


 父親譲りの大声は、エルフの爆撃もかくやという大声量で、隣にいたエリックとマイケルは耳がキンキンしてしまい、主人が無謀な突撃をしていくのを止めることが出来なかった。


 アーサーは塹壕に飛び込むと、子供たちを弄んでいた兵士を殴りつけた。


 ……のは良いのだが、突然飛びかかられた兵士が驚いて応戦すると、あっという間にノックダウンされ、地面に這いつくばる羽目になった。


「このやろうっ! 何しやがる!」


 雨や地下水でぬかるんだ地面に顔の半分を埋めながらも、アーサーは怒りに満ちた目を向けながら、大声で叫んだ。


「何をしてると聞きたいのはこっちの方だ! 貴様ら、一体、自分たちが何をしているのか分かっているのか!」

「けっ! ちょっとガキどもをからかってやっただけじゃねえか、正義ぶりやがって」

「なんだと!? 血を流して倒れているのが、おまえらの言う戯れなのか! だったら俺がおまえらに同じことをしてやる! そこへ直れっ!!」


 すると兵士たちはゲラゲラと笑い、


「ああそうかい、そいつあ楽しみだな、だったらさっさと立ち上がってみろ」


 そう言いながら、兵士たちは地面に這いつくばるアーサーのことを踏んづけた。


「げほげほっ! こらっ! やめんかっ! その足をどけろ」

「どけろと言ってどけるバカが居るか……って、よく見ると、こいつ中々仕立ての良い服を着てやがるな」

「そうだ! 俺は偉いんだぞ! 貴族だぞ! 貴様ら、こんなことしてどうなるか分かってるのか」

「……ふーん。するってえと、この刺繍や腰にぶら下げてる剣の鞘の金細工なんかも本物か。さぞかし高く売れるに違いない。おい、そいつをひん剥いてやれ」

「ぎゃあっ! 何をする貴様らあーーっっ!!」


 服を引剥されそうになったアーサーは、そうはさせじと地面に這いつくばりながらジタバタと藻掻いた。水たまりから泥が飛び散って服にべっちょりとつくと、兵士たちは迷惑そうにそれを叩いてから、アーサーの腹をおもいっきり蹴飛ばした。


「げぼぅ~……何をするぅ~……」

「暴れるんじゃねえ、このプリケツ野郎が! 下着までは盗らないでやろうと思ったが、もう頭きた。裸にひん剥いて大ガラデアに放り込んでやろうぜ」

「やめろ! 貴様らっ! やめろーっ!!」


 ジタバタと藻掻くアーサーを羽交い締めにして、男たちが彼の服を脱がそうとする。母のくれた刺繍入りのボレロがとられ、祖父からもらった金細工の柄がついたサーベルが奪われた。


 彼は奪われた物を取り返そうと、必死になって抵抗したが、多勢に無勢で敵わなかった。アーサーは涙目になりながら、従者共は一体どこでなにしてやがると腕をめくらめっぽう振り回していたら……


 そんな時だった。


「あらぁ~、可愛いオケツ……私もその彼氏のヌードにはちょっと興味あるんだけど、あんた達やり過ぎよ、そこまでにしておきなさい?」


 塹壕の上からヌッと影が差したかと思うと、兵士たちの周りを屈強な男たちが取り囲んでいた。数は十数人ほど、その全員が屈強な体つきをしていて、フリジアのオフィスで見た志願兵の制服に身を包んでいた。恐らく前線を任されている下士官であろう。


 そのうちのリーダー格らしき巨漢の細マッチョは鋭い目つきで兵士たちを睨みつけると、手にしていたライフルの銃口を突きつけた。オカマみたいな口調で喋るが、その眼力は歴戦を思わせるほど残忍で、冗談が通じないということを如実に表していた。


 アーサーを羽交い締めにしていた兵士たちは、その空気を感じ取ると彼を離し、手を上げて降伏のポーズを見せる。


「よう、キャプテン……その物騒なもんをしまってくれよ。ホンのお遊びじゃねえか」

「お遊びね……あんた達、そう言ってこの間も何の罪もない子供を嬲りものにしてたわね。あの時の子は死んだわよ」

「そうかい、それも天寿ってもんじゃねえのか。放っておいたところで、飢え死ぬだけだ。それがちょっと早まったってだけの話さ」

「そうね、それならそれで仕方ないわ。でも、そこの彼氏も言った通り、あんた達は同じことをされて、文句も言わずに居られるかしら?」

「そう目くじら立てんなよ。ガキなんざいくらでも代わりが居る。そうだろう?」

「……確かに。あんたの言うとおりよ」


 パンッ!


 と、至近距離から銃声がしたかと思うと、次の瞬間、アーサーの顔面にピチャピチャと兵士だった男の脳髄がぶちまけられた。見れば目の前の男の頭の真ん中に、ポッカリと大きな穴があいていて、そこからピューピューと血が噴き出している。男はそのままどっさりと塹壕の中に倒れると、モノ言わぬ屍になった。


 パンッ! パンッ!


 ……っと、次々と同じように周りの男達の頭に穴が開けられていった。中にはその空気を察知して逃げ出そうとした者も居たが、すぐに背中を撃たれて倒れたところを念入りに銃撃された。


 嫌なやつらだったとは言え、たった今まで、普通に会話していた連中だ。それがもう二度と起き上がることも出来ないし、口を利くこともなくなってしまった。


 こんなにもあっさりと人が死ぬものなのか……アーサーは目眩を感じた。


「あんた達が居なくても、代わりはいくらでもいるわ。私たちはいつ死んでも代えが利く兵隊、ただの道具よ。でも、味方に背中を撃たれていい道具じゃないの。あんた達に死ねと命じることが出来るのは、ただ上官だけなのよ。肝に銘じておきなさい」


 下士官のリーダーらしき細マッチョは、その残忍な目つきでモノ言わぬ屍に吐き捨てるようにそう言うと……


「あら……そうは言っても、もう銘じる肝もなかったわね。ただの糞袋に」


 今度は冗談めかした口調で辛辣な言葉を死体に浴びせかけると、それを運びだして埋葬するように部下に命じた。


 そして彼は、部下たちがいそいそと死体を運んでいる中で、呆然と立ち尽くしているアーサーの元へと歩み寄り、


「あなた、貴族のくせに見知らぬ子供のために怒れるのは中々素敵よ。でも、一人で大勢に突っかかっていくなんて無謀ね。その正義感が身を滅ぼさないように、もう少し慎重になりなさい?」


 そう言って握手のために手を付き出したが……アーサーはピクリとも動かなかった。


「……ん?」


 細マッチョが顔を覗き込むようにして確認すると、アーサーは立ったまま目を回して気絶していた。人が死ぬところを見るのは、生まれて初めてだった。


 アーサーはこれから何日間も、このことを思い出し、悪夢にうなされることになるのだった。


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