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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第八章
250/398

うるさいっ!

 ダルマチア子爵アウルムが投獄されてから暫くして、カンディアのクーデター勢力を操っていたネイサン・ゲーリックもまたアクロポリスに連行されてきた。


 カンディア島民の世論と、若い高官たちの自尊心を上手に煽り、シルミウムの支援を受けて反乱を起こした彼であったが、人質にしていた公爵夫人ジルを奪還され、帝国軍がガラデア会戦で勝利した段階で、もはや命運は尽きていた。


 但馬達の救援を断り、責任を取ると言ってカンディアに残った帝国軍大将マーセルの説得が始まり、次は自分たちが攻められる番だと青ざめたクーデター勢力が、態度を強硬姿勢から恭順へと向けていく中、後が無い彼はそれでも反乱軍の維持を画策していたようであるが、アクロポリスで但馬とアスタクス方伯が接触したことで正体がバレ、カンディア副都シドニアで起こったレジスタンスとの激闘の末に敗れ去った。


 彼がただの一平民であったら、まだ粘れたかも知れない。だが一度は敵とされたカンディア・ゲーリック家の彼では、元々がリディアの徴兵でしかないカンディア軍を統率するには正当性が欠けており、いくら命令順守と訓練された兵隊であっても、ついてこなくなったようである。


 逆に大義名分のあるレジスタンスは勢いを増し、数回の戦闘後、カンディア港に拘束されていたマーセルが解放され、その彼の説得で事態は終結したようだ。


 その後、但馬がアウルムを嵌めている最中は、カンディアではクーデターがまだ続いているように見せかけて居たが、エーリス村での戦闘でシルミウムが敗北した時点でそれを続けている必要がなくなり、長く続いたカンディア騒乱は、ようやく終わりを告げたのである。


 マーセルと入れ違いでカンディア港の営倉に拘禁されていたネイサンは、その後、シルミウムの戦争責任を問う証人喚問のために、アクロポリスまで連行されてきた。彼がアクロポリスの牢獄に入った後、その身柄確認のために元上司である但馬とウルフは、皇国の憲兵に呼ばれて彼と面会した。


 但馬達が牢獄にやってくると、彼を連行するために一緒にアクロポリス入りしたマーセルが待っていた。彼は詰め所で典獄たちと親しげに会話を交わしていたが、ウルフがやってくるのを見るとさっと立ち上がって敬礼をした。


 通りすがりに但馬が会釈をすると、にっと口だけの笑顔を見せつつ、


「カンディアの営倉まで、おまえが助けに来てくれたことは一生忘れないぞ。戦争では役立たずだったが、これからはおまえのために戦おう。何かあったらいつでも頼ってくれ」


 握手を交わし、先を行くウルフに小走りで追いつくと、いくつも並ぶ牢屋の一つにその男は繋がれていた。


 彼と最後に会ったのは帝国議会が発足した直後であったから、時間としてはせいぜい半年しか経ってない。しかしそのたった半年間で、彼の風貌は驚くほどに変わっていた。目は落ち窪み、頬はこけ、牢獄という薄暗闇の中でランランと瞳だけが輝くさまは、まるで地獄から這い出てきた亡者か餓鬼のようであった。


 ハリチの工房で働いていた頃は、どことなく愛嬌と言うかお坊ちゃんっぽさを残した感じだった。その後、ひねくれた態度をとってはいたが、まだ憎みきれない甘さを持っていたが、もはやその頃の姿は見る影もない。


 但馬達が現れると、鎖で拘束された彼はジャラリと一瞬だけ音をたて、ただ憎しみの篭った瞳だけを元上司に向けてきた。その迫力は檻の中であっても緊張を強いるほどだった。本当にこれが同一人物かと疑いたくもあったが、紛れも無くそこに居たのはネイサン・ゲーリックであり、但馬とウルフはお互いにそれを確認しあうと、憲兵に彼で間違いないと返事した。


 但馬達はそのまま無言で見つめ合った。聞きたいことは山程あったが、口から出てくるのはため息以外に何もなかった。


 ただ、一時とはいえ、ハリチで共に働いたことがあった但馬は、止せばいいのにその頃を思い出して、


「……どうして何も言わなかったんだ。あれだけ努力することが出来た君なら、復讐など考えなくても良かっただろう。話してくれればもっと別の解決策があったかも知れない」


 するとネイサンは一顧だにもせず、ペッと唾を地面に飛ばし、何の返事もすることなく、黙って但馬を睨みつけた。


 本当に、何か解決策があったとでも?


 彼の瞳はそう告げていた。彼の目的はカンディアの奪還のみならず、リディア王家への復讐もあったのだ。そこに妥協の余地は無かった。


 今後、彼はリディアで起きた一連の事件に、シルミウムの関与がどこまであったのかを暴くための取り調べを受け、その後、戦犯法定でも裁かれることになるだろう。その結果、どうなるかは分からないが……


 彼は但馬の部下であっただけでなく、ウルフにカンディアを任されるくらい有能だったのだ。不正や陰謀に頼るのではなく、真面目にやっていさえすれば、いつかはまた身を立てることも出来たかも知れないのに、残念でならなかった。


 ウルフが何を考えていたかは分からない。彼は但馬とネイサンのやり取りを見た後、何も言わずに踵を返した。


 と……但馬がその後に続こうとした時、


「無能力者が」


 立ち去ろうとするウルフの背中に、ネイサンの言葉が突き刺さった。


「魔法を使えぬ者は貴族に非ず。聖遺物を持たぬおまえに、カンディアを統治する権利など無い。何も出来ぬ家畜と同類のくせに、いい気になるんじゃねえぞ」

「そいつを黙らせろ」


 マーセルが冷徹に言い放つと、悪態を吐くネイサンに鞭が振り下ろされた。


 捕虜に対し、まさかそんなことをするとは思ってなかった但馬は、慌てて止めようと思ったが……考えてもみれば、ハーグ条約もクソもない、これがこの世界の常識なのだ。罪人は人として扱われず、裁判が終わったら死刑だってあり得る。


 鞭が振るわれるたびに、乾いた音と共に悲鳴のような罵声が飛んだ。


「無能力者が! 出来損ないめがっ!」


 但馬はそんなネイサンの声を聞きながら、黙って突き進むウルフの後を追った。


 普段のウルフなら怒鳴り返していただろう。だが、これが最期の悪あがきだと思うとそんな気にもなれなかったのだろう。ウルフは何も言わず歯を食いしばりながら、建物から外へ出た。


 昼間でも薄暗い牢獄とは打って変わって、雪が太陽を乱反射する外は眩しいくらいだった。


 二人は建物から出てすぐのところで立ち止まると、瞼を閉じて目が光に慣れるのを待った。


 背後から聞こえていた悪態は、いつの間にか鞭を打つ音だけになっていた。


「貴族でも魔法を使えない例なんていくらでもいるんだ……あんな言葉、気にするんじゃねえぞ。これからは、銃の時代だ」


 但馬はいたたまれなくなって、思わずそんな慰めの言葉を口にした。現代人にとっては、あまりにも刺激が強い状況に、少し冷静さを欠いていたのかも知れない。


「うるさいっ!」


 ウルフはそんな但馬に吐き捨てるように一喝すると、ズンズンと肩を怒らせて歩いて行った。


 地面は踏み荒らされた雪でズルズルにぬかるんでいた。靴が水を含んで、凍えてしまいそうなくらい、冷たかった。


**********************************

 

 それにしてもシルミウムと言う国は、よくもまああれだけ悪さが出来たものである。


 思い返せば、メディアの遺跡でリリィを暗殺しようとした時から、リディアには彼の国の間者が紛れ込んでいたわけだし、おそらくはそれ以前から……もしかするとブリジットの母親が暗殺されたのも、あの国の仕業だったのではなかろうか。


 その点も気になるところだが、少なくとももう一つハッキリさせるべきことがある。


 シルミウムが亜人の秘密をどこまで知っているのかということだ。


 これまでの経緯を踏まえると、まず間違いなく、彼らはメディアの世界樹が亜人製造機であったことは知っていたはずだ。ところでそれをいつ頃、どうやって知ったのだろうか?


 リディアの建国当時、勇者はメディアの遺跡の存在を知らなかった。だから人間と亜人が共存できる国を作ろうとして、その過程で世界樹を発見し、今度は逆に、これを隠さねばならないと考えたわけだ。そのせいか、先帝はメディアの世界樹の機能について何も知らなかった。


 だが皇太子派と呼ばれた現大蔵卿や近衛隊長は、それを以前から認識していたらしく、メディア平定後にトーが但馬にその理由を教えてくれた。それは合理主義者だった皇太子に、亜人商人が接近してきたからだった。


 つまり、この時点でシルミウムの商人は、メディアの世界樹が亜人製造機であることを知っていたようで、これを活用しようと目論んでいたわけである。


 じゃあ、この情報は一体どこから漏れたのだろうか? リディア人はその話を知らない。メディア人が自ら漏らすはずもない。でもシルミウム人は知っていた。おかしな話ではないか。


 普通に考えて、それは勇者か、メディアの亜人からと考えるのが妥当だろう。しかし、勇者がシルミウムに教えるという理由は無いだろうし、その彼に付き従う亜人達がペラペラ喋るというのも解せない。亜人はその生まれ持っての性質上、従順で忠誠心が高く、勇者が命令でもしないかぎりは、自分たちの秘密をおいそれと話すとは考えにくいのだ。


 といったわけで、この理由が知りたいと思っていた但馬は、シルミウム方伯がやってきたら何としても一度話を聞きたいと考えていた。


 ところが、講和会議が始まっても、シルミウム方伯は国にとどまり、やってきたのは交渉団だけだった。本当に反省してんのか、こんちきしょーと叫んでも、来ないものは来ないのである。


 まあ、普通に考えれば、トップが何でもかんでもやってしまう帝国の方がおかしいのだから、適材適所の人員を送ってくるのが正解だろう。しかし、そうなるとこれらの疑問は誰に尋ねればいいのだろうか。


 投獄されてるアウルムに面会するのも手であろうが、正直なところ、知っていたところで素直に答えてくれるとは思えなかった。かと言って、交渉団の誰かに話しを聞くというのもあり得ないだろう。デリケートな問題であるし、噂が立っては困ってしまう。


 というわけで仕方ないので、但馬は疑問を抱えつつもそれを一旦忘れることにして、また別の機会に調べようと考えた。いっそ、クロノア辺りをシルミウムに派遣するのもありかもしれない。彼はエトルリア皇室関係者なので、向こうも下手な真似は出来ないだろうし……


 そんなことを悶々と考えながら、講和会議のための準備をしていた但馬であったのだが……ところがそんなある日、思いもかけないところから、その疑問にヒントを与えてくれる者がフラリとやってきたのである。

 

******************************

 

「おっ! ようっ! にいさん、にいさん!」


 皇王による講和会議招集の下知がくだされてからおよそ半月ほどのことだった。開催を2週間後に控え、資料作成や関係各所へのあいさつ回りで忙殺されていた但馬は、馬車にも乗らずにアクロポリスの街を歩き回っていた。


 暦の上では春とは言え、未だに厳冬と呼ぶべき2月。当初は馬橇(ばそり)を使っていたのだが、それこそ講和会議の出席者が増えてきたせいで道が混雑しており、交差点で一々立ち往生するせいで、歩いたほうが早くなってしまったのだ。


 しかし一応国賓待遇の身の上であるから、警備の兵士を大勢引き連れる羽目になり、言うほど身軽では無かったのであるが、考えてもみればローデポリスでもこうだったのだから、それほど気にはならなかった。


 そんな具合に但馬が道端をテクテク歩いていた時だった。


 前方からたくさんの亜人を連れた小柄なおっさんが、但馬を見かけるなり、にいさんにいさんと呼びかけながら、やけに馴れ馴れしく手を振って近寄ってきたのである。


 メディアやリディアとは違って、大陸は亜人が少ない。居ないことはないが、人と比べたら微々たるものだったし、それも差別を気にして変装などカモフラージュをしているために、見た目ですぐにそれと分かるような者は珍しかった。


 そんな亜人の従者を堂々と何人も引き連れて歩いてくる男は、かなり異様であり、驚いた警備の兵士達は但馬の前に飛び出ると、問答無用に抜刀した。因みに但馬の専属護衛(エリック)はボケーっと見ていた。


 すると、突然剣を向けられた亜人はギロリと兵士を睨みつけると、


「やろーってのか! こんちきしょうっ!」


 と言い放ち、おっさんの前に立ちはだかり、同じように剣を抜こうとして、


「おうっ! こら、おめえたち、やめねえか。ったくよう」


 そのおっさんに窘められて、シュンと耳を垂れるのだった。


 その光景がまるでアナスタシアに怒られているリオンを思い起こし、但馬は思わずくすっと吹き出した。それを見ていたおっさんも、にやりと笑ってから兵士をぐるりと見渡して、


「おうおうおう、兵隊さんよ! なんのつもりか知らねえけど、いきなり剣を抜くってのは、やり過ぎなんじゃあないのかい。こちとら、まだ何もしてないんだぜ。これからするつもりだってねえさ。それともなんだい? こいつらが亜人だからって、あんたらはそれだけで危険だなんだって差別しようってのかい?」

「いや、そんなつもりは……」

「だったらそんな物騒なもん、さっさと引っ込めてくれないか。心臓に悪いからよ。他の通行人だってビビってらあ」


 そう窘められた兵士は少々考えた後、剣を下ろして一歩下がった。だが、抜いた剣を鞘には戻さず、


「失礼しました。しかし我々には、例え差別主義者と言われようとも、こちらの方をお守りせねばならないのですよ。何しろ、この御方は……」

「んなこたあ、分かってらあ」


 すると男はニカッと不揃いの歯を歯茎まで見せて笑い、


「おめえさん、あれだろう? はるばる海の向こうから来た、リディアの宰……サイ……ヤング賞だっけ?」

「宰相です」

「そう、それよ。オイラはそいつに会いに来たってわけよ……あー……」


 おっさんは何から話そうかといった顔をしてから、


「自己紹介がまだだったな。オイラはVP(ブイピー)ってんだ。トリエルからやって来たんだけどよ、なんでも今度、シルミウムの連中から金をむしり取るための話し合いをするそうじゃねえか」

「むしり取るって、ああ、講和会議の……トリエルの代表団の方でしたか」

「おう! ついさっき港に着いたもんで、それじゃ早速とばかりにあんたに挨拶でもしとこうかと思ってよ、城まで行ったんでえ。そしたら、にいさんは外出中で、徒歩で街中うろつき回ってるって言われたもんだからよ。こうして探しに来たって寸法よ」


 普通なら出直しそうなものであるが、兵隊をぞろぞろ引き連れてるから、とても目立つだろうと言われ、ならすぐ見つかるだろうと、散歩がてら街をぶらついていたらしい。


「そりゃまた、ご足労掛けました。ここじゃなんですから、一旦迎賓館まで戻りましょうか?」

「いやあ、立ち話でいいさ。どうせ、今日は挨拶だけのつもりだったしよ。にしても……にいさん、若いとは聞いていたが、本当に若いな。大将なんてヒゲ面の爺さんがなるもんだって思ってたが、その年で本当に大したもんだ。さぞかし大活躍だったんだろう?」

「宰相です。いや、俺は後方でウロウロしてただけですよ」

「大将? 宰相? どう違うのかよく分からねえが、それにしたって、大国を立て続けに破るなんざあ、すげえことだぜ。おまけに、関係ない俺らにまで分前くれるなんて、えらい気風のいい話じゃねえか。オイラ、最初聞いた時は冗談かと思ったよ」

「いや、分前を上げるとかそう言う話じゃないですよ?」

「え、そうなの?」

「当たり前じゃないですか」

「それじゃあ、一体何するためにオイラ呼ばれたんだよ?」


 但馬は、各国には首脳クラスか有識者を頼んだはずだったが……こいつで本当に大丈夫なんだろうかと思いつつ、


「えーっとですね。講和会議では、まずシルミウムの責任を問い、一連の戦争を国際問題として広く討議すると共に、戦勝国である我々がその有利な立場使って、あまり暴走しないように見張ってもらう、というのが目的です」

「ふーん……なんだか知らねえけど、眠くなりそうなお題目だな、おい。その、なんちゃら会議ってのはよ、本当にオイラなんかで役に立つんかい?」

「立ちますよ。つまりですね……わかりやすく言えば、これから俺たちはシルミウムの尻の毛をむしり取るんですけど、どの程度までなら相手が死なずに済むか、みんなの意見が聞きたいってことです。ほら、債務者が首をくくっちゃったら、借金取りだってお手上げでしょう?」


 但馬がこれ以上ないくらいに噛み砕いて、身も蓋もない説明をすると、VPはポカーンと口を半開きにした後、ガハハと笑い出し、


「ガハハハ! ひぃ、ひぃ……そいつぁ~、分かりやすいなぁ、おい。なるほど、そういう事ならオイラに任せてくれりゃいいよ、あいつらとは長い付き合いなんだ。さじ加減ってものは心得てる……ま、悪い意味でかも知れねえけどよ」


 どういう意味だろうと思いつつ、


「ところで、さっきから気になってたんですけど……」

「なんでい」

「VPさんのお連れの方々は、どうやら亜人だらけみたいですけど、トリエルってのは亜人が多い国なんですか?」

「ん? おうよ。おめえさん、そんなことも知らなかったのかい? トリエルでは亜人と人間は共存共栄。世界の常識ってもんだろう」

「はあ、常識がないってよく言われるもので……共存共栄? そういやあ、さっき兵士に向かって怒ってましたね」


 亜人だからって差別するのかと……


 勇者が出てきて以降、亜人差別はなくなったことになってはいるが、現実問題、本当にそうなったかと言えばそんなことはなく、未だに亜人を見ると露骨に蔑視する人間の方が多かった。特に、エトルリア皇国は中央に来れば来るほどそう言う傾向が強く、アクロポリスでは亜人を殆ど見かけない。それなのに、ここまでハッキリと言い切る人は珍しいと思い、但馬は俄然、トリエルという国に興味が湧いてきた。


「しかし、珍しそうに言うけど、にいさんとこの国だって、亜人とは仲良くやってんじゃあないのかい」

「リディアですか? ええ、一応は……やっぱり戦争が長く続いていたからか、中々根深いものがあるみたいで」

「いや、そうじゃなくって、おめえさんの国だよ……確か、ハリチっつったか」


 領地の話題が出てきて但馬は目を丸くした。ハリチは新興都市で、イオニア海ではそこそこ名前が知られてきたと思っていたが、まさか世界の端と端と呼べるくらいに離れた国の人の口から出てくるとは思わなかった。


 ともあれ、国と言われると御幣があるので、


「国じゃなくって、領地ですよ。アナトリア帝国の一部ですが、仰るとおり、俺が運営している土地ですが……」

「そんなことは知ってるが、おめえさんが治めてるんだから、おめえさんの国って言ってりゃいいんだよ。ほら、故郷のことを国って言うだろう」

「言いますね。でも故郷ってわけでもないんで」

「かあーっ……気が小せえんだか堅物なんだか、よくわかんねえガキだなあ、しかし。ああ、ああ、ほれみろ。おめえさんがそんなんだから、こいつらすっかりしょげ返っちまったじゃねえか」


 VPはそう言うと、ふいに背後を振り返った。見れば彼に付き従う亜人達が、いつの間にか耳を垂れてシュンとした顔をしている。


 一体全体、どうしたのだろうか。何か悪いことでも言ったのだろうか?


 但馬が首をひねっていると、彼はボリボリと頭をかきむしりながら言った。


「実はよ、大将。今日は挨拶がてらによ。こいつらの何人かを、あんたの国に連れてっちゃあくれねえかってよ、お願いに来たんだよ。そのう……出来れば少し話を聞いてはくれねえかい?」


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