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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第七章
236/398

リリィ・プロスペクター

 エトルリアの世界樹、その内部にある2つの扉の内、右側のものは聖遺物の製作施設のようだった。それを確かめた後、エントランスホールに戻った但馬は、リリィとリーゼロッテと合流し、今度は左手の扉の内部を調べようとしたのだが……


 扉の向こう側に続いていたのは、ついこの半年前にも何度も調べた、メディアの世界樹とそっくりそのままの建物だったのである。


 まるでアクロポリスからメディアに瞬間移動してしまったような錯覚を覚え、二人が呆然と立ち尽くしていると、


「あいたっ……これっ! 出入り口で立ち止まるでない! 鼻をぶつけてしまったではないか……二人共どうしたというのじゃ?」


 後からやってきたリリィが、但馬の背中にぶつかって抗議の声を上げた。


「いや……それが」


 カクカクシカジカと、この先に続いている施設について説明をすると、


「ふむ……以前、メディアの世界樹に訪れた際に似たような雰囲気を感じたのは、それでじゃろうか。じゃが、あの施設はまだ周囲の気配が感じられたが、ここでは余は自分がどこを向いてるのかすらわからぬ」


 リリィはそう言うと、リーゼロッテに差し伸べられた腕に抱きつくように体を寄せた。


 彼女は目が見えないとは言っても、普段は魔法の力で周囲の状況把握が出来てるらしいから、本当に真っ暗闇を歩かされてるような感覚はこれが初めてなのだとか。


 いや、勇者と共に歩いたことがあるのだろうが、16年も前の話ではもうよく覚えてないらしい。


 そう言っておっかなびっくり但馬たちの後に続くリリィを連れて、取り敢えず目についた一番近い部屋の扉を開いてみたが……そこも案の定、いつかメディアの世界樹で見たことのあるような、無個性な白い小部屋があるだけだった。


 何かの研究施設のようにも見えるが、居住スペースのようにも思える。作られた意図がさっぱりわからない。そんな部屋である。廊下にはそういった部屋がポツンポツンと等間隔で並んでおり、そして右の方へ行くと突き当りは袋小路になっており、逆に左へ向かうと、そこには観音開きの巨大な扉があった。


 これもメディアの世界樹の遺跡と、まったく同じ作りである。


「そう言えば、ここは聖女リリィが作ったってどこかで聞いたけど……もしかして、メディアの世界樹を模して作ったんだろうか」

「もしくは、世界樹と言うものは、皆これと同じ構造をしているのかも知れません」


 リーゼロッテとそんな話をしながら、但馬は奥の観音開きの扉の前へ行き、そこに手を置いて深呼吸をした。


 もしも、本当にメディアの世界樹と同じなら、この先にあるのは亜人製造施設であるはずだ。かつて見たその部屋の中には、大量のポットの中に、胎児のような物体が浮いていて、非常に薄気味悪い印象だけが残されている。


 もしかしたらこの中もそうなってるかも知れない。


 いきなり目に飛び込んでくると、グロくてかなりビックリするので、但馬はしっかり心の準備をしてから、そっと扉を押してみた。


 すると、それは音も立てずに、あっけないほどすっと開き……そして……


 ついさっき、心の準備をしていたはずなのに、にも関わらず、但馬は部屋に入るなり驚愕し言葉を失った。


「…………」


 隣に立つリーゼロッテがゴクリと唾液を飲み込む音が聞こえた。彼女は奥歯を噛み締め、難しい顔をしながら、鼻だけのため息を漏らした。


「わぷっ……また鼻を……ええい、先ほどから何なのじゃ、二人共!」


 部屋に入るなり、黙りこくって立ち止まった二人に対し、リリィが非難の声をあげる。


 それが硬い部屋の壁に乱反射して、耳障りだった。


 そこには確かに、心の準備をしていた通りの光景が広がっていた。但馬も、リーゼロッテも、おそらく人の胎児のような物体が入れられた培養ポッドのような物が、右手の壁の方に並んでいるのだろうと想像していた。そして、その通りの物がそこにはあった。


 だが、あったのはそれだけではない。


 前方、メディアの世界樹で言ったら端末のスクリーンの前に、大きな水槽のようなポッドが存在しており……


 その中は他のポッドのように胎児ではなく、既に人間としての原型をとどめた……彼らが思いつきもしなかったモノが、プカプカと浮かんでいたのである。


「二人共何を驚いておるのじゃ? ふむ……? おおっ!? ここまで近くなれば、余にも分かるぞ。あそこに何か、おるな?」


 リリィの無邪気な声が、壁に天井に乱反射して、但馬の耳に突き刺さった。


 確かにその通りだった。あそこには、何かが、居る。


「しかし、これはどうしたことじゃ。ここは世界樹の最奥の部屋のはず。生き物が入り込めるような場所ではない。それなのに……リズ、そこにおるのは何者なのじゃ?」


 グイグイと腕を引っ張られるリーゼロッテが、困惑の視線を投げかけてくる。但馬は助けてやりたかったが、なんと言えばいいのか言葉が出ない。


 そこにある何かが、何であるのかが分からないというわけじゃない。ただ、そこにあるモノを口にしてしまうと、この目の前に居る少女がどうなってしまうのかが分からなくて……二人は口を閉ざしてしまったのだ。


 何故なら、そこにあったのは、


「それは、リリィちゃん。あなたのスペアボディよ」


 目の前に意識が集中しすぎて、完全に油断していた。


 但馬とリーゼロッテがギョッとして振り返ると、そこには杖を突いてハァハァと荒い息を響かせるジャンネット女皇が立っていた。


「スペアボディ……?」


 とはなんぞや? と問いかけるリリィに対し、女皇は表情こそ穏やかであったが、本当に苦しそうに続けるのであった。


「実はね。あなたは、私の本当の子供じゃないのよ。この世界樹の中で生まれた……聖女リリィ・プロスペクターのクローンなの」


*********************************


 世界樹の中に唐突に現れたジャンネット女皇は、リリィに彼女の出自を告げると、自分の知ってる限りのことを話すと言って、但馬たちについてくるようにと促した。


 突然のことに戸惑うリリィが気分を崩し、サン・ピエトロ大聖堂の私室に引きこもってしまった後、サンタ・マリア宮殿を再度訪れた但馬は、リーゼロッテと共に皇王の私室に招かれた。


 こうなることを予め聞かされていたのだろう、リリィを追いかけていったガルバ伯爵は苦虫を噛み潰したような顔を但馬に向けていたが、こちとら何が何だか分からないのだから反応のしようも無かった。


 但馬が世界樹の奥で、あれを見つけてしまったことが、彼には致命的なことだったようである。


 その理由はすぐに判明するが、要は今日、但馬が世界樹に入ってあれを見つけてしまったら、リリィに全てのことを話すのを、皇王夫妻は決めていたようで、それが叔父である伯爵は気に入らなかったようなのだ。


「さて、何から話したら良いかしらね。おばさんね、いつもこうしてベッドに横になってるくらいしか出来ないから、人の話を聞くのは平気だけど、自分が話すのはとっても苦手なのよ。すぐ疲れちゃうから」


 そう言いながら、彼女はベッドの横に待機しているアナスタシアの手を握り、


「でも、アナスタシアちゃんが来てくれてから、いつも気分が良いのよ。疲れてもすぐに元気にしてくれるから、この間なんて久々に嘔吐も喀血もしないで公務をこなせたの」


 にこにことドン引きなセリフを吐く皇王に、なんと返事をしていいか迷っていると、


「勇者ちゃんは、いつもおばさんに素敵な贈り物をくださる、サンタさんみたいな人ね。あなたが居なければ、私はこうして、ここまで生きながらえることも出来なかったでしょう」

「えーっと……ぶっちゃけ、初対面みたいなものだと思うのですが」

「でも、あなたはあの、勇者タジマハルさんなのよね?」


 そう言い切られてしまうと、そうじゃないとは言いがたかった。困ってしまい、隣に座るリーゼロッテに顔を向けると、彼女も困ったようにプルプルと首を振った。仕方ないので但馬は、自分の思ってる通りのことを言った。


「えーっと、勇者と俺は同じような生い立ちをしてるけど、記憶を共有してる同じ人間ってわけじゃないんだ。いや、途中まではまったく同じ記憶を持ってるんだろうけど。リディアにたどり着いてから先は、全然違う人生を辿ってる。だから、あなたがかつて知りあった勇者と俺は、別人って考えてもらった方がいいんですが」

「でも、途中までは同じなのでしょう。そして世界樹の中に入ったり、同じ聖遺物を持っていたり」

「ええ、まあ……」

「なら、やっぱり同じ人間だと思うわ。少なくとも、おばさんにはそれで十分よ」

「……そうですか」


 まあ、確かに、但馬に実感はなくても、全くの別人とも言い切れないから、同一人物と捉えられても仕方ない。


「それで……そうそう、何から話し始めればいいか、考えてたところね。私は前の勇者ちゃんと出会った時のことから話すのがいいと思うの。あんな素敵なおじいちゃんを捕まえて、勇者ちゃんもないけども」


 そう言って皇王はクスクス笑うと、途端にゲホゲホと咳き込み始め、慌てて隣に控えていたアナスタシアが治癒魔法を唱えた。


「……疲れちゃう前にお話するわ。まず、エトルリアの成り立ちから話さねければならないけれど……実はね、私達エトルリア皇家は、太古の昔、聖女リリィ様のクローンから生まれた子供の子孫なの」


 太古の昔、それは一般に千年前とされているが、皇家に伝わる伝承ではそれよりももっともっと昔の出来事だったらしい。


 北方のセレスティア(南米大陸)から人類を引き連れて、聖女リリィがロディーナ大陸に渡ってきたころ、人類は一握りと言っていいほどまで数を減らしていた。その脆弱な人間がリリィによってエルフと戦う力を得て、まず北エトルリア大陸を解放するわけであるが……


 それにはどのくらいの年月がかかるだろうか。


 小さいとは言え、北エトルリア大陸も大陸と呼んでいいような土地である。そこにある原生林を切り倒し、少ないとは言えエルフを狩って安全を確保するのにかかる年月は、10年や20年ではきかないはずだ。


「皇家の伝承では、1万の朝を迎え、10万の夜を越えたと言い伝えられてるの。1万と10万じゃ大違いだから、かなりいい加減なものだけど、仮に10万日かかったとするなら270年以上の年月になるでしょう?」


 きっと何かの間違いだと思われたが、他にもある様々な伝承からそうとも言い切れないらしい。聖女リリィは本当に200年以上生きたとされるのだが、そう考えるとリリィと言う人物は、かなり人間とかけ離れた存在だったといえる。


 考えられるのはエルフと似たような存在だったことだが……彼女自身は人と同じ(なり)をして、コミュニケーションも取れることから、多分、エルフになる前の古代人か何かだったのではなかろうか。


 そんな神のような存在に引き連れられて、人類はエトルリア大陸に渡ってきたわけだが、そんな彼女もそこまでが限界だったようだ。


 今からおよそ千年前、現在のアクロポリスの辺りに到達したリリィは、体がボロボロで先は長くないように思われた。


 そして彼女は世界樹を建て、その中で自分に似せて人間を作り始めた。


 自分のクローンである。


 聖女リリィは、自分のクローンに、自分の記憶を植え付けて、生きながらえようと試みたのだ。もしくは但馬のように、自分が死んだら入れ替わるようにしようとしたのではなかろうか。


 しかし、それは失敗した。


「聖女リリィの創りだした分身は、彼女の意に反して、普通の人間だったのよ。いえ、私達普通の人々からすれば、まるで神様みたいな力の持ち主だったけど、聖女リリィ様と比べたら雲泥の差があった……つまり、これが今のリリィちゃんなのね」


 聖女リリィは、自分が作り上げたクローンに、自分の意志を伝承させることが出来ないと悟ると、アクロポリスの世界樹を側近たちに任せ、自分は単身ガッリア大陸、今のティレニアへと向かっていった。


 その理由はわからなかったが、彼女の信奉者たちの幾人かは、聖女を追いかけて共に海を渡った。それが数百年後にティレニア帝国として、エトルリア皇国の人々に再発見されるのであるが……ティレニア帝国は初めから皇国との国交を拒んだらしい。


 以来、エトルリア皇国とティレニア帝国は、別々の道を歩んでいくことになる。


 それはさておき、アクロポリスに残された皇国の人たちは、聖女のクローンであるリリィを王として崇め、世界樹を中心とした国家を作った。


 世界樹にはついさっき見てきたような、聖遺物を製造する施設があり、それを利用するためには、聖女リリィのクローンが必要だったから、自然と彼女が次代のリーダーになった。


 だが、そこから先が大変だった。


 聖女リリィは簡単に自分のクローンを作ったが、残された人々も、皇王となったリリィにも、クローンなんてものは作ることが出来なかったのだ。作り方がわからなかったと言ったほうが正確だろうか。


 幸い、彼女の愛した男との間に生まれた子供が、世界樹に入れる能力を有していたため事なきを得たが……二代、三代と血が薄まるにつれて、能力を持っていない子供の方が増えてきた。


 それでは国が持たないと考えた皇家は、その血を保つために近親婚を繰り返し、現在に至るまでどうにかその能力を有する人物……つまり皇王を確保し続けていたが、ついにこれにも限界が訪れようとしていた。


 ジャンネット女皇は最後の能力保持者であったが、度重なる近親婚のせいで生まれつき虚弱体質だった。それは今の姿を見る通り、常にヒーラーがそばに控えてなければ、満足に歩くことさえ出来ず、とても子供を産めるような体じゃなかった。


 それでも、彼女に与えられた使命は、なんとしても子孫を……能力保持者を残すことであり、彼女は一族の期待を一心に背負って、シリル殿下との間に子供を作った。


 しかし、やはりというべきか、彼女の体では出産には耐えられず、最初の子供を死産して、その影響で彼女は子供を産めない体になってしまったのである。


「それでも、世界樹に入れるのがおばさんしかいなかったからね、私は生かされて皇王として大事にされたわ。子供を産めなくなったことは秘密にされて、死んじゃった私の子供は、白痴のまま生きていることにされたの……でもね、私にはそれは失格者の烙印を押されてるようにしか思えなくって……ある日、世界樹の奥の部屋へふらふらっと入ったっきり、おばさんはそこで何もかもを捨てて眠ってしまおうと思ったのよ。ここには自分以外の誰も入ることが出来ないから、ここで倒れてしまったら、誰にも助けて貰えなくって、おばさんはそのまま死ぬことが出来るかも知れないって……今にして思えば、馬鹿みたいな話だけど、その時はそう思ってしまったの。でもね、そんな時だったの」


 皇王が世界樹の奥で(うずくま)っていると、ひょっこりと勇者が現れた。彼も但馬同様、世界樹に入る能力を有していたから、実は度々エトルリアにおとずれては、こっそりと世界樹に侵入していたらしいのだ。


 皇王は勇者が怖い人だと聞かされていたからとても驚いたが、何しろ死のうと思っていたくらいだったから、比較的落ち着いて彼に話しかけることが出来た。


「勇者ちゃんは怖いなんて言葉は似合わない、とっても優しいお爺ちゃんだったわ。泣いてる私を慰めてくれて、何があったのかを真剣に聞いてくれた。それで少し気が晴れた私は、宮殿に戻って、以来、度々世界樹の中で勇者ちゃんと会うことになったの」


 その頃の勇者は、どうやらこの世界の秘密を探って、エトルリアやティレニアの世界樹を頻繁に行き来していたらしい。その途中で皇王と知り合った彼は、子供が産めなくなったという彼女にひどく同情し……ある日、いつものようにお城の愚痴を零していた彼女に言ったらしい。


「もしも、おばさんの願いを叶えてあげたら、自分のお願いを聞いてくれるだろうか……勇者ちゃんはある日そんなことを言い出したの。おばさんは勇者ちゃんのことが大好きだったから、何も条件をつけなくても聞いてあげるつもりだったけど、もったいぶってあなたがどうしてもというなら良いわって言ったわ。でも、おばさんの願いって言っても、それまで取り立てて何かをお願いしたことも無かったから、一体なにをしてくれるんだろうと思ったの。そしたらね……」


 勇者が世界樹の最奥にある端末をいじりだすと、それまでもぬけの殻であった部屋のポッドが稼働し始めた。


 唖然とする皇王が見守る中、それは水のように透明な液体に満たされ、中に何か得体の知れない生き物を作り始める。


 そんな中、部屋の最奥中央にある、巨大な水槽の中で、ボコボコと激しく泡を立てながら、人間の形をした何か……それは言うまでもなく、今のリリィであるが……が突然、水槽の中に現れた。


 度肝を抜かれて尻もちをつく皇王を尻目に、勇者は水槽の中から少女を取り出すと、


「これをおばさんの子供ということにして育てなさいって。この子はエトルリア皇国……ひいては人類にとって大切な子供で、世界樹の力を引き出すことが出来るから、もう皇家の人たちが近親婚を繰り返してまで血を残す必要はない。でも、彼女が大人になったら事情を話して自由にしてやりなさいって」


 それはおそらく、リリィが大人になったら、自分のクローンを作ることが出来ると考えたからだろうか……もしくは、勇者は次の自分である但馬が現れることを予測していたからだろうか……もしくはその両方だったのかも知れないが、


「勇者ちゃんはそうして私にリリィちゃんを授けてくれたの。お陰で、お先真っ暗だったエトルリア皇国は存亡の危機を免れたのよ。まさか、その立役者が、みんなが敵視していた勇者ちゃんだったなんて、皇国の誰もが殆ど知らないんだけどね」


 そう言うと、皇王はアナスタシアの手を借りて上体を起こし、但馬に対し真正面を向けて頭を下げた。


「勇者ちゃん。私にリリィちゃんを授けてくれてありがとう。あの時は驚いてしまって、満足にお礼も言えなかったけど、リリィちゃんと過ごしたこの年月は、とてもとても幸せな日々でした。いつ死んでもおかしくなかった私が生きながらえたのも、こうしておしゃべりが出来るまで回復したのも、リリィちゃんと、あなたのお陰です」

「いや、俺は何もしてないから……」


 但馬は困ってしまってボリボリと頭を掻きながらも甘んじてそれを受け入れた。彼女は多分、誰でもいいからその感謝の気持ちを伝えたかったのだろう。だとしたら、但馬はそれに適任だった。


 それにしても、勇者が皇王のためにリリィを残したのは分かったが、彼は代わりに彼女に何を託したのだろうか。


「それはね。もしも自分が死んだ後、自分と同じ存在……つまりあなたが現れたら、この話をしてあげると言うこと……そして、かつての勇者ちゃんが調べていた、この世界の秘密を、あなたに伝えるということ」


 但馬はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「この世界の……秘密?」

「そう……正直なところ、私には何を言ってるのかさっぱりだった。それでも一生懸命にその話を聞いて、暗唱できるくらいにまでなったわ。勇者ちゃんは、記録に残すと紛失するか、誰かに消されるって思ったみたいね。だから、皇国の中央で、不可侵の存在である私にこの話を託したのでしょう」


 そうして皇王は話し始めた。


 それは1千年よりももっともっと昔の話。但馬が生きた時代にまで遡る。


 未曾有の危機に晒された人類の、滅亡と再生の物語であった。


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