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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第六章
203/398

旅立ちの時⑧

 ホテル・グランドヒルズオブリディアに戻ると、支配人が露骨に嫌そうな顔でやってきて、また但馬と漫才を始めた。最上階スイートルームは、これから暫くの間、コルフの大使館として機能する予定なのだが、果たして彼がやって来る度にこの茶番を繰り広げるつもりなのだろうか……


 タチアナが困っていると、見るに見かねたエリオスが建物内に入ってきて、無言で但馬をひょいとつまみ上げ階上へと上がっていった。今後、打ち合わせは別の場所でやったほうがいいのかも知れない。


 建設予定地は今日見てきた駅近の原っぱで良いとして、やはり頑丈な建物を建てる手前、工期は最低1年は必要のはずである。それまでの間、ずっとホテル暮らしと言うわけにもいかないから、結局は仮の大使館を別に見つけねばならないのであるが……そこで働く大使館員の選定など、細かな予定を話し合った後、但馬はタチアナの部屋を離れホテルから出た。


 空を見上げれば日はまだ高く、大分時間が余ってしまったようである。


 タチアナとの面会は外交問題になるので、ゆったりスケジュールを組んでいたのだが、こんなに時間が余るんだったら、もっと仕事を入れときゃ良かったと思いながら、但馬は馬車に乗ると御者に向かって言った。


「家に向かってくれる? ……違う! 王宮じゃなくって家だよ、家」


 今日の予定としては、後は王宮に帰ってブリジットと食事をとるくらいしかなかったからか、最初、御者が勘違いしてそっちへ向かいかけた。だが、但馬にすぐ訂正されてバツの悪い顔をしていた。やはり、みんなそう言う感覚でいるのだろうか……


 自宅に近衛兵を引き連れて帰ってくると、家の仕事をしていたお袋さんが出てきて、


「また物々しいわねえ……いつもの子たちに変えてくれないかしら。慣れないわ」


 と、ウンザリした顔をしていたが、護衛にチェンジも糞もないのでそのまま適当に配置した。綺羅びやかな甲冑を着込んだ騎士たちが、道行く人々を威圧するように立っていると、不穏というか寧ろシュールであったが、帰れと言っても帰ってくれないのだから、まあ好きにするしかない。


 その後、夕飯はどうするのかと聞かれて、王宮で取るよと言うと、またあんたは家政婦を雇ってる意味が無いじゃないかとこんこんと説教され、なんで自分はこんなに怒られてるんだ? と思いつつも、背中を丸めてはいはいと聞いていたら、いつの間にか但馬の引き連れてる近衛兵の品評会が始まって、お袋さんの好みについて延々と聞かされる羽目になった。


 書類仕事でもやろうと思って帰ってきたのだが、絶え間なく出されるお茶を啜りながら、お袋さん相手に何やってんだろうと、どうにか話題を変えるタイミングを見計らっていたら、


「御免ください! 社長、ちょっと良いか?」


 玄関からエリオスの声が聞こえてきた。何かあったのだろうか? どうぞと招き入れたら、


「仕事中に悪いな……ん? 仕事をするんじゃなかったのか?」

「いや、お袋さんに捕まって」

「……奥さん、あまりこれをサボらせないでくれないか」

「へ~い」


 お袋さんはしょぼんとしながらお茶請けを持って台所へ退散していった。夕飯も要らないのであれば、今日はこのまま家に帰るそうである。


 但馬はお袋さんに別れを告げると、エリオスと連れ立ってリビングを出た。


「いや中々抜け出せなくてね、助かったよ、ナイスタイミング」

「アナスタシアやリオンが居なくなって、彼女も退屈なのだろう。犬でも飼ってみたらどうか」

「犬ね……」


 果たして、家政婦の暇つぶしのためにそんなことまでする必要があるのだろうか。


「ところでエリオスさん、俺に何か用事? こっちに来るのは珍しいけど」

「ああ、そうだった。社長はこれからまだ仕事をするのだろう?」

「そのつもりだけど」

「その間、少々出かけても構わないか。王宮へ帰る時間までには帰ってくる」

「そりゃあ、構わないけど……何かすんの?」


 エリオスがプライベートで出歩くことはあまりなかったので、なんとなく興味本位で聞いてみた。首都の各地に散らばってる部下の様子でも見て回るつもろうだろうか? ……そんな風に思っていたのだが、まごついている彼を見ていると、どうやら違うようである。


 まあ、詮索するのもなんであるし。


「いや、言いたくないならいいよ。俺の方は大丈夫だから、どうせほっといても近衛と憲兵が争うように護衛してくれるから」

「すまない……なに、ホテルにちょっと忘れ物をしただけなんだ」

「あ、そう」


 そう言いつつも目が泳いでるところを見ると、タチアナに用事なのだろうか。もしかしたら、ランのことで何かあるのかも知れない。


 但馬はエリオスを見送った後、自分の書斎に入るとカバンから書類の束を引っ張りだした。


 工場法の制定後、但馬が次に抱えていた問題は、医薬品の流通問題だった。


 メアリーズヒルで打ち壊しが起こった切っ掛けを調べてみると、アナスタシアが労働者相手にボランティアで診療をしたところ、工場の監督者たちがそれを妨害したのが切っ掛けだと判明した。


 そこで捕まえた彼らの取り調べをしたところ、どうやら立場の弱い労働者相手に、医薬品を高額で売りつける取引が横行していたようだった。医薬品はそう言った悪徳中間業者に抑えられ、末端まで行き届いていなかったのである。


 それだけならまだしも、高額な代金を支払えない者に対し、最新の薬だと偽って、何の薬効もないような薬を売りつける詐欺まで発覚したのである。


 いや、それも詐欺と言い切ることも出来ない。


 ヒール魔法のある怪我と違って、この世界の人々の病気に関する知識は驚くほどに少ない。本当は薬効が無いくせに薬草や漢方薬などとして売られてしまうと、なんとなく偽薬(プラシーボ)効果で治ってしまう者もあり、また免疫力で普通に完治する者が薬のおかげで治ったと言いふらしてしまい、普通の人々は調べようもないから信じてしまう。そう言った、怪しげな薬が人口増加とともに流通し始めてしまったのだ。


 もちろんこれでは困るから、早急に対策が必要である。但馬は、国が医薬品として保証した薬がちゃんと流通するように目を光らせ、また、新薬の研究などを目的とした機関を作ろうと考えていた。現代風に言えば厚生省だろうか。


 その前進として、ハリチの微生物研究所から何人か招こうと考えていた。研究所には、今となっては、最先端の病原菌研究家となったサンダースがおり、彼に任せればなんとか上手くやってくれるだろう。


 元々国軍からの出向でそのまま研究主任に居着いてしまった人だから度胸が有り、前回の議会では、貴族相手に一歩も引くこと無くやりあっていた。よく知る人だし、人間性も申し分ない。


 そんなわけで、各種方面に根回しを終えたら、近いうちに彼に打診しようと考えていたのであるが……


 リリリリリリ~ン! リリリリリリ~ン!


 ……っと、電話のベルが鳴る。


「うおっ! ビックリした……」


 但馬が自宅に帰ってることを知ってる人は居ないだろうから、ちょっと戸惑ったが、受話器を取ると、


『宰相閣下はご在宅でしょうか。ハリチの研究所から電話が入っております』

「あ、はい、どうぞ繋げて?」


 一体誰だろう……自宅に掛けてくるということは、リーゼロッテか?


『……もしもし。お父さんですか?』


 電話の主はリオンだった。


 非常に珍しい相手に戸惑っていると、受話器の向こうから、『え!? 本当に繋がったの?』と、但馬と同じように戸惑っているサンダースの声が聞こえてきた。あちらで何かごちゃごちゃやっているが、らちがあかない。


「で、一体どうしたの?」


 と尋ねたら、


『申し訳ない、電話変わりました。宰相閣下ですか?』


 サンダースが変わって出てきた。


『実は、閣下に報告がありまして、連絡差し上げようとしていたところなのですが……いつもはご在宅でないから、とりあえず本社にと思ったのですが、坊っちゃんが自宅に掛けたいとおっしゃったもので』

「いやあ、たまたまなんだけどね。どうかしたの?」

『はい……実はその……まだ確定ではないのですが……ああ……』


 サンダースにしては歯切れが悪い。どうしたのだろうかと思って黙って聞いていたら、


『実は、どうも坊っちゃんが、万能とも呼べる血清を発見いたしまして』

「万能……血清?」


 但馬とアナスタシアが首都へと戻ったのに対し、リオンはハリチに残った。彼は研究肌の子供で、せっかく作ったハンググライダーや、ハチや蟻、微生物の研究を続けたいと申し出たため、それを許したわけであるが……我が意を得たりと大喜びしたリオンは、以降、毎日微生物研究所に通って他の研究員が焦るほどの旺盛な研究欲を見せたらしい。


 サンダースは最初は子供だからと言って、大した仕事はさせなかったのだが(納豆菌の研究は大した研究だと思うのだが……)、他の研究員に勝るとも劣らない熱心な姿にほだされて、やがて自分の研究を手伝わせるようになっていった。


 話によると、彼の現在の研究テーマはペスト菌の発見であり、そのためフリジア騒動の病気の発生源を突き止めようとして、当時のペスト発症者と、その発症時期と場所、その変遷を調査していた。ついでに疫学的なアプローチで、公衆衛生を説こうとしていたのである。


 イギリスの疫学者であったジョン・スノーは、まだ病原菌の存在が知られていなかった時代、コレラの原因は瘴気のような悪い空気だという説に懐疑的だった。


 当時、イギリスで大流行したコレラは10万人以上の犠牲者を産んでおり、大勢の医者が集まって治療法や予防法を考えたにも関わらず、感染者は後を絶たず、人々に為す術はなかった。そのため、コレラは空気感染する病気であると考えられていたのである。


 多くの医者が匙を投げだす中、この結果を調査していたスノーは、コレラで重篤になる者、比較的症状が軽い者、全く感染しない地域と、患者の発生に不可解な偏りがあると感じて、病気の治療ではなく、患者の分布を詳しく調べ始めた。


 すると、コレラによる死者は明らかに一箇所に集中していたのである。そして彼は、その地域に住む人々の生活習慣を調査したところ、みんな生活用水として同じ井戸を利用していることを突き止めた。その井戸と下水道が近くにありすぎて、井戸水に下水が染み出していたのである。


 病気の発生源は空気ではなく水であると確信したスノーは、自分が集めた資料を元に、議会に働きかけてポンプの利用を停止させた。これによってコレラの患者は減り、コレラ菌が水中に生息することが分かった人々は、川に流されたコレラ患者の便が水中に潜伏し、改めて感染源になっていると突き止め、ついに流行を防ぐことに成功する。


 今じゃ考えられないが、当時の都市の水道会社は衛生観念が殆ど育っておらず、川の下流を水源にしていたのである。これはロベルト・コッホがコレラ菌を発見する30年も前の話であり、彼らは透明な水の中に、細菌がうようよ泳いでいることを知らなかったのだ。


 フリジアでのペストの流行、それを機に発足させた微生物研究所のお陰で、この世界ではある程度の公衆衛生概念が芽生えつつあった。サンダースはその普及を自分の使命と感じており、日夜研究に勤しんでいた。


『……それで坊っちゃんは細かい作業が得意だったので、私が集めた患者の情報を整理して分類するのを手伝ってくれていたのですが、その時、彼は疑問に思ったらしく』

「何に?」

『患者に亜人が一切含まれていなかったのです』


 言われて但馬はポカンとなった。それが本当だったら確かにおかしい。エトルリア大陸は亜人が少ないが、全く居ないわけではない。差別されてるからあまり表に出てこないが、意図的に無視するのも考えづらい。


 大体、そんなことがあったらアナスタシアが激怒していたはずだ。あの時、彼女に非協力的な人間は一人も居なかった。命がかかってるのだから当然だ。


「どういうことだ? 亜人はペストに罹らないのか?」

『ええ、私も亜人は強靭な体力の持ち主が多いからたまたまだろうと思ったのですが、疑問に思っていると坊っちゃんが亜人は病気に罹らないと言い出しまして』

「なんだって!?」


 罹りづらい……ではなくて、罹らないである。どうしてそう断言できるのか。


『坊っちゃんが申しますには、まず自分が病気に罹ったことがない。ハリチに住む、他の亜人が罹ったところを見たことがない。極めつけ、以前、メディアに赴いた際に知り合った亜人の仲間が、亜人は病気に罹らないと言っていたそうなのです。まさかと思ったのですが、試しに閣下の牧場にいる亜人に尋ねてみたところ……』

「罹らないって?」

『はい。言われてもみれば、ヴィクトリアの村のようなあまり衛生的でない場所で、なおかつ、レンジャー訓練でジャングルに平気で何日も滞在するような彼らが全く病気に罹らないとは考えにくく、丁度、抗血清の研究もしていたので、ものは試しと坊っちゃんから血清を抽出し、動物実験してみたところ……』


 何しろミクロの世界のことだから多くの菌はまだ未発見だが、比較的大きな炭疽菌と破傷風菌の特定は済んでいた。そして、なにか特別なこともしていないのに、リオンの血清はその2つに効果があった。


『いかんせん、まだその二種しか確認が取れてませんし、他の亜人でも試してはおりません。ただ、それまでの聞き取り調査や私の実体験からも、所見ではありますが……』


 特に決め手はヴィクトリア村のことだった。金山の近くにあるヴィクトリア租界は、人間の炭鉱夫が多く住んでいるが、赤道直下の鉱山という環境の苛酷さ故か、病気の罹患率は首都の比ではなく高い。だが、ヴィクトリア村に医者が入ったという報告は、いまだかつて聞いたことがなかった。


 但馬は脳天をガツンとやられた気分だった。


 言われてみれば、確かにそうだ。いや、そうではなくてはならないのだ。


 亜人はエルフの生殖母体として、古代の人間により生み出された獣の遺伝子を組み込まれた人造人間だ。エルフを生む母体として、その肉体が強靭に作られていなければおかしい。そしてそれは、エルフの住む森の中でと言うことであり……様々な菌類やウィルスのような微生物に囲まれた環境で、簡単に病気になられてはお話にならないわけである。


 当然古代の人々は、エルフになる前にあらゆる知識を結集して、そういう体を作り上げたはずだ。人間が罹りうるあらゆる病原菌やウィルスに対する抗体。それを持つ肉体。恐らくエルフ自身がそうであるし、亜人もまたそうなのであろう。何しろ、不衛生な原生林の中で、千年を生きる生命なのだから、そうでなくてはおかしいのだ。


『もし、そうであるなら、これは物凄い発見ですぞ!? 未来永劫、人間はあらゆる病気から解放されるのです。破傷風を駆逐したペニシリンの登場が霞むくらいの出来事ですぞ。それを養子とは言え閣下の息子さんが発見したとなれば……』

「いや、ちょ、ちょっと待って、サンダース先生」


 但馬は興奮してリオンの手柄を強調するサンダースを慌てて止めた。サンダースは自分のことのように喜んでいたのに、養父である彼が喜んでやらないのはどういうことだと不服に思っているようだが、


「それが本当だとしても、発表は控えたほうがいいかも知れない」

『何故です? もしかしたら多くの人びとが救われるかも知れない大発見なんですよ?』

「でも先生、亜人一人から血液を1日に何cc取れると思う? 血清にして何日持つと思う?」

『あっ……』

「多くの人びとが救われる代わりに、どれだけの亜人が犠牲になるか、わかったもんじゃないよ……特に、差別の根強いエトルリア大陸にそれが知れたとしたら……』


 比喩では済まず、文字通り血を流して酷使されるのが落ちである。サンダースもそれに思い至り、苦り切った声を滲ませた。


『確かに……これは、もしかしたら、見つけてはならない発見だったのかも』

「このことを知ってるのは?」

『今はまだ、私と坊っちゃんだけです』

「なら、はっきりしたことが分かるまで発表は控えておいてくれ」


 但馬はそう彼に言い含めると電話を切った。本当は厚生省設立について話を通しておこうかと思ったのだが、もうそんな気分ではなかった。


 実はずっと引っかかっていたことがあったのだ。


 話を聞いて、これが知れたら亜人が犠牲になるかも知れないと考えた但馬であったが、思いついたのはそれだけじゃなかった。


 フリジアでペストが蔓延したとき、町の外には死体があふれていた。菌は恐らくそこで繁殖し、やがて野ネズミか何かに感染して街に入ったのだろう。これは間違いない。


 だが、その前に……街の外に転がる死体に、ペスト菌を運んだのは、一体誰だ?


 現代ではペストは元々、深い森に生息するげっ歯類の病気であったと判明している。深い森に立ちいった木こりや何かが感染し、それが街に広がったのが由来であるとされている。


 だが、フリジアの近辺はガラデア平原と呼ばれる穀倉地帯が広がっており、そんな森は一切存在しない。


 もし、リオンの発見が本当だとして、但馬の考えるように亜人がどんな病原菌にも抗する肉体を持っているのなら……ペスト菌を保菌していてもおかしくはないのだ。何しろ彼らはペスト菌が体に入っても、ヘッチャラなのだから。


 今更、それを調べるすべは無いが……もしもこの想像が本当だと仮定すると、帝国はフリジアを武力占拠した挙句、何の罪もない町の人々にペスト菌をばら撒いて、それを治療して恩を着せたという格好になる。これじゃまるで自作自演ではないか。


 彼らを苦しめた病原菌が、元々帝国が持ち込んだものだと知れたら、彼らはどう思う……? 由々しき事態である。


「はぁ~……」


 但馬はため息を吐くと、書斎を出て台所へ向かった。気がつけば喉がからからだった。


 台所に行くとすでにお袋さんの姿はなく、洗ったばかりの食器が水切棚で水を滴らせていた。但馬はそこからコップを取り出すと、冷蔵庫にしまってあった麦茶を取り出し、ごくごくと飲み干した。


 しかし、亜人があらゆる抗体を持つ万能人間だとは思いつかなかった。まあ、普通に暮らしていたら、こんなこと思いつかないだろう。それに気づいたのが、また亜人であるリオンだったのは皮肉なものである。


 サンダースのことは信用しているが、人の口に戸は立てられない。いずれ、このことも誰かにバレる時が来るかもしれない。その前に、出来る手があるなら打っておきたいものだが……


 またメディアの世界樹にいけば、何か分かるだろうか。あそこは亜人製造機でもあるのだし……しかし、これまで散々調べても何もわからなかったものが、そう都合よくわかるわけがないだろうし……


 コトッ……


 何か手はないものか? そんな風に頭を痛めていると、玄関の方から物音がした。お袋さんが忘れ物でもしたのだろうか? それともエリオスか……耳を澄ませて見ても、他に何も音がしなかった。


 ただの気のせいだろうか……と思った時、但馬の背中に何かピリピリとしたものが走った。


 おかしい……


 お袋さんなら、もっとうるさいだろうし、エリオスだったらこちらを驚かせないようにもっと気を配る。こんな風に気配を殺したりしない。


 但馬は右のこめかみをポンと叩いた。


 レーダーマップを見ると、そこには家の外にいるはずの近衛兵の光点が見えなくて……代わりに敷地内にいくつもの点が蠢いていた。


「庭に3、玄関に2、裏口に2……天井に1……忍者かよ」


 但馬はそう呟くと……


「高天原……豊葦原……」


 誰にも聞こえないように、口の中でモゴモゴと詠唱を開始した。


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