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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第五章
173/398

NEW GAME! ⑪

 ジンジン痛む腕を擦りながら涙目で抗議する但馬に対し、リーゼロッテは未だに警戒を解こうとはしていなかった。いきなり最弱と呼ばれる但馬なんかに投げ飛ばされたら、それも無理からぬことであろう。言ってて虚しくなるが。


 しかし、但馬だってわけがわからないのだ。昨日までは確かに最弱だったのに、なんかいきなりFPSのUIみたいなものが出てきて、最強と言われるメイドの奇襲を躱したり、しかもそれをあっさり撃退したり……本当にゲームの主人公にでもなったような気分だった。


 それにしても頭が痛い……今度は文字通り、本当に頭が痛かった。どうやら、さっきの緊急回避モードみたいなやつで、脳みそを相当酷使したようである。いや、肉体もだろうか。膝がガクガク笑っている。


「そんな……本当に社長なのですか? この圧倒的な力……信じられません」


 失礼なメイドである。


「まあ、その気持ちは分かるよ。俺だって夢なら覚めて欲しいくらいだけど、そろそろ現実を認めてくれ」

「一体、何があったらこんなことになると言うのです?」

「それなんだけど……」


 但馬は昨日から今日にかけての出来事をかいつまんで彼女に聞かせた。


 資材置き場に邪魔な岩が落ちてたこと。その岩を退けようとしたら、奇怪な現象に見舞われたこと。みんなで集まって対策を練っていたら、その場所が但馬の思い出にある場所だと気づき、まさかと思いつつ……


『クリエイトアイテム』


 岩に向かって、いつか試したことのある合言葉を唱えてみたら……そして現出したのがこの聖遺物だった。


「聖遺物……聖遺物を手に入れたということですか!?」

「どうもそうらしい。俺の鑑定魔法ではアーティファクトって書いてあるから。そんで聖遺物に詳しいあんたのことを探してたんだけど……」

「なるほど……それなら納得がいきます。普通、魔法使いというものは聖遺物を手にすることでなれる職業ですから。社長が聖遺物を手にしたら鬼に金棒ですよ」

「いや、でも俺って元々魔法使いだったじゃん? 聖遺物を手に入れただけでどうしてここまで違いが出るんだよ」

「社長は順序が逆だったのですよ。聖遺物を使わずに魔法を行使出来る者も確かにおりますが、そういう方であっても、魔法使いになる切っ掛けの聖遺物というものがあるのが普通でございます」

「え? じゃあ、俺って今までなんだったの? 魔法使いじゃなかったわけ?」

「そうです。ですから、社長に出会う人はみんな不審に思っていたわけなのですが……いえ……」


 メイドは呆れるような苦笑いを見せながら首を振った。


「寧ろ逆なのでしょうね。社長こそが純粋な魔法使いだったのでございましょう。魔法使いと一般人の違いは、マナの操作を行えるかどうかなわけですが……私達魔法使いは聖遺物という道具によってそれを実現しておりましたが、あなたはその必要がありませんでしたから」

「まあ、そうだね」

「ただ、マナを操作出来ると言っても、無暗にマナを動かしたところで意味が無いでしょう? 以前、あなたがおっしゃっていた通り、魔法を行使する際、我々はどこかと交信を行っているのでしょうが、あなたはそれを意識してマナを操作しておりましたか?」


 但馬は頭を振った。


「いや、まったくそんなことしてない。そっか、電波で交信してるならしてるで、マナを使ってその信号を送らなきゃなんないんだ……でも、どこに送ればいいのかも分からなければ、どんなプロトコルを使ってるのかも分からないんだから、やりようがないよな」

「……要するに魔法を使うための式や陣が存在し、その通りにマナを操作しなければ、意味のある魔法は生まれなかったということです。そして聖遺物は、そこまで面倒を見てくれる道具であると考えられるわけです」


 そう言いながら、彼女は、すぅ~……っと、長く長く息を吐き出し、丹田に力を込めるように意識を集中した。すると、彼女の周囲にマナが集まり、ポーッと薄黄緑色の光を発した。


 それは微振動をしながら、フワフワと但馬の方へと飛んできて……しかし辿り着く前にスッと消えてしまった。


「……今はこれが精一杯ですが」

「いや、大したもんだよ。集中すれば、もっと綺麗に出来るでしょ」

「やはり、見て居られたのですね? 先ほどの強い気配は……」

「うん、まあ」


 本当は見なかったことにして出直そうと思ったのだが……但馬がポリポリと鼻の頭を掻いていると、彼女はクスリと笑ってから。


「いずれ、驚かせようと思ってたのですが。残念です……社長にいわれた通り、あれから聖遺物(バルムンク)を使っている時のマナの動きを意識して追ってみたのですよ。初めはさっぱり分かりませんでしたが、慣れてくると次第に感覚が分かってきまして」


 そして分かってしまうと後は簡単だったそうだ。


 元々、リーゼロッテは、この聖遺物を使った時のマナの流れを、無意識的に感じることが出来るタイプの人間で、それが彼女に特別な力を与えていたらしい。即ち、全ての聖遺物を扱うことが出来るという能力だ。流石、勇者の娘と言おうか……


「そして、意識してマナの動きを追っていたら、どうやら魔法を行使する際に、魔法使いの意に反して、マナが勝手に動いていることに気づきました。聖遺物はどうやら、魔法使いが体内に取り込んでいるマナを引き出し、空中に出たそれを、矯正して意味のある動きに変えていたようです」

「それでリーゼロッテさんは、その訓練をしていたと言うわけだ」

「はい。そして理解しました。聖遺物は魔法を自動的に起動するための道具です。だから、あなたが聖遺物を手に入れたことで、急に強くなった理由も分かります。あなたは魔法使いでしたが、魔法の使い方が殆どわかっていなかったんです」


 確かにその通りだ。


 但馬は、頭の中に表示されて出てくる、魔法一覧をポチっていただけなのだ。マナの動きなんて、もちろん意識したこともない。常に全力だったのも、それを制御する方法が分からなかったからだろう。


「ですが、聖遺物を手に入れたことで、その方法が分かったのでしょう。全ての魔法使いがそうであるように、無意識的に魔法を習得したんです」

「……勝手に習得するようなもんなの?」

「でなければ、世の魔法使いたちが聖遺物を得ただけでいきなり力を使えるのはおかしいでしょう。彼らはマナの操作など無意識レベルでしか自覚しておりませんもの」

「そりゃ……そうだよなあ」


 要するに、OSを手に入れたようなものだろうか。魔法はアプリケーションで、聖遺物(アーティファクト)の種類によって、バンドルソフトに違いがある。まあ、ここに来るまでに、もしかしてそうなんじゃないかなあ……とは思っていたのだが。


 大体、いきなり色々出来るようになりすぎなのだ。ただ聖遺物を持っただけで、ここまで劇的に変わるなんて、おかし過ぎるだろう……


「しかし、マナの動き……マナの動きねえ。じゃあ、それさえ分かれば、聖遺物なんてなくっても魔法が使えるってわけだ?」


 アプリケーションは人間でも理解しやすいプログラミング言語で書かれるのが普通だが、直接マシン語が使えるのであれば、それでCPUを叩くことだって出来るだろう。それと同じように、魔法を行使するときのマナの動きを機械的にトレース出来れば、どんな魔法も使えるはずだ。


 実際、聖遺物を持っていなかった但馬は、今までそうやって魔法を使っていたのだろうし……それにしても、本当にこの頭の中にあるメニュー画面は何なんだ? 聖遺物の代わりにみたいなものが、但馬の脳みそに埋め込まれてるとか、そう言うことなのだろうか……これ以上知りたいなら、もう頭を割って脳みそを取り出してみないことには分からないのだろうが。


 まあ、気にしていても仕方がない。それよりも、今は聖遺物を手に入れたことで出来るようになったことを調べていった方がいいだろう。そしたら芋づる式にメニュー画面のことも分かるかも知れないし……但馬は今度は意識してマナの動きを探ってみた。そして、試しに身体強化の魔法を意識的に使ってみようとすると……


「お……?」


 確かに……メイドに言われたので意識してみると、聖遺物から横槍のような力を感じる。そして但馬がマナの操作をやめても、一度動き出したマナはそのまま動き続けていた。その動きを追っていると、まるで聖遺物がこういう風にやるんだよと手ほどきしているように思えた。


 但馬は今度は、自分でマナを操作すること無く、単に頭のなかで身体強化魔法を使いたいとだけ考えてみた。すると、今度も先ほどと同じように、聖遺物が勝手に但馬の体内にあるマナを操作しはじめた。どうも、聖遺物さえあれば、魔法使いは能動的にマナを操作しなくてもいいようだ。


 但馬は、こりゃ楽ちんだなと思い、暫く聖遺物を使ってマナの動きを探っていた。そして一通り試したあとに、今度は聖遺物が行ったマナ操作を、自分自身でトレースしてやってみようと思ったのであるが……


「これが、身体強化魔法か……しかしこれって……」


 但馬はう~んと唸り声を上げた。


「どうかなさいましたか?」

「いや、身体強化って、リーゼロッテさんやブリジットが使ってるやつだよね」

「ええ、それが何か?」

「なんか、カラクリが分かってきた……多分、それ、魔法じゃないよ」

「……え?」


 ポカンと口を半開きにしたリーゼロッテを見ながら、但馬は聖遺物の矛槍を手放すと、その力を借りずに、無詠唱で身体強化の魔法を自分にかけてみた。


 但馬の体に薄っすらと緑色のオーラがかかり……それが徐々に体内へと消えていく。


「いや、魔法なんだけど……説明が難しいな。リーゼロッテさんは、これを聖遺物がやってると思ってるんだろうけど」


 当たり前のように但馬がマナを操作するのを見て、彼女は口端を引きつらせながら言った。


「え、ええ、そうですね……と言うか、出来るものなのですね、無詠唱で……」

「出来る。っていうか、本当はリーゼロッテさんもやってる」

「……??」


 何のことか、チンプンカンプンだと彼女は首をかしげた。但馬は言った。


「実際に身体強化魔法ってのを使ってみて初めて分かったけど、これ、体内のマナを操作するだけで完結してて、外部に働きかける必要がない。考えてみれば、自分の体を強化してるわけだから、当たり前なんだけど」

「それが何か……?」

「人体内で完結してるから、今までそれを目の当たりにしていても気づかなかったんだけど、これってエリオスさんも普通にやってるんだよ」

「……ええっ!?」


 リーゼロッテは目を丸くして素っ頓狂な声を上げた。そして唇をへの字に曲げて、何をとち狂ってるんだとばかりに続けた。


「そんなはずないでしょう。エリオス様は聖遺物を握ったことも無ければ、詠唱を唱えたこともございませんよ? まさか……魔法使いでもないのに、無詠唱で魔法を行使しているとでも?」

「うん、そのまさかなんだ」


 但馬が断言すると、リーゼロッテは開いた口がふさがらないといった感じに、口をパクパクしていた。


「えーっとさ、だから、これまで何度も言った通り、やり方さえわかっちまえば、本来、魔法に詠唱なんてものは必要ないんだ。前々から少しおかしいと思ってたんだよね……エリオスさんにしてもブリジットにしても、はっきりいってこの国の人達は強すぎる。人間じゃないみたいだ」


 森で遭遇したグリズリーみたいな化物を相手に、身長152センチしかないブリジットが重そうな剣を振り回し、まるで包丁でも扱うかのように簡単に切り刻むのだ。


「でも、ブリジットは魔法使いだし、エリオスさんはあの筋肉だし、それで納得してたんだけど……アーニャちゃんまであんなに強くなっちゃって、そうなるとなんか変だなって……」

「どういうことでしょうか?」

「例えばエリオスさんって、魔物と戦う時とか、すっごい力を溜めて爆発的なスピードでダッシュしてくんだよね。なんつーか、もう、おまえは野獣かってくらいに」

「ええ……確かにそうですね」

「あれが魔法なんだよ」


 メイドはショックで声にならないと言った感じである。試しに、メイドのステータスを表示してみると……


『Elizabeth_Charlotte_Tajima.Female.Human, 162, 49, Age.xx, 82, 59, 84, Alv.8, HP.519, MP.22 None.Status_Normal,,,,, Class.Private, President.White_Company, Queen_of_Media, Media,,,,, LargeSword.lv28, Sword.lv21, Spear.lv19, Ax.lv10, Archery.lv22, Cast.lv30, Channeling.lv0, Unique_Artifact.Proprientary.lv5, Any_Artifacts.Equipment.lv9,,,,,,,,,,,』


 化け物か。


 ともあれ、今まで鑑定魔法で見れるステータスで気になっていたのは、特にALVについてだったが、今にして思えばSLVも相当おかしな数値である。SLVとは、それに連なる英単語から察するに、スキルレベルの略であろうが、このスキルレベルとは一体何を数値化したものなのだろうか?


 例えばある日突然、あなたの剣レベルは5ですよと言われても、「はあ?」ってなもんである。5ってなんなの。じゃあ4はどうなの。6になったらどうすごいの。全くわけがわからないではないか。


 世界中の人たちが剣を使った時の威力なりなんなりを平均して定量化したとしても、相変わらずレベル5ってのはどんなものなのか、わけがわからないし、メイドは大剣レベルがなんと28もあるそうだが、メイドの大剣レベル28と、エリオスのメイスレベル5はどう違うのか。


 なんでこんな数字が出てくるのか? これを定量化出来る仕組みでもないかぎり、そんなものをデータベースに登録している意味もないだろう。従って何かしらの算出方法があるはずなのだが……今回、但馬は自分が身体強化を行ったことで理解した。


 これらのスキルレベルは、全て魔法レベルなのだ。


 どうやら、この世界の人達は何かをするときに、自然とマナの恩恵を受けている。恐らくこの数値は、その際、効率よく利用できるマナの量か何かだろう。


「魔法使いに限らず、多少なりともマナを制御するための器官が、どんな人間にも存在するんじゃないかな」


 思えば、ヒール魔法の仕組みにしたって、患者の体内にあるマナを利用してると考えなくては、何が患者の幹細胞を刺激し、身体を復元するほどのエネルギーを与えているのか謎である。もし、ヒーラーの魔力なりなんなりをエネルギー源にしてるなら、ヒーラーは一人を治療するだけでクタクタになってなきゃ変だろう。


 つまり、ヒーラーは患者に治る切っ掛けを与えてるだけであって、傷を治すエネルギーは、患者がそれまでに体内に取り込んだマナの力(と、もちろんタンパク質などの栄養)を利用しているのだと考えなければ辻褄が合わない。そしたらそれを制御するための器官が、誰にでもあってもおかしくないではないか。


「それでは、魔法使いとは一体?」

「魔法使いと一般人の違いは、聖遺物のサポートを得て、炎を出したり、剣撃を飛ばしたりって、自然に影響を与えるような魔法が使えることだろう。これらを実現するエネルギーは強大だから、魔法使いのマナだけでは足りなくて、外部のサポートを受けなければ実現出来ない。それにそもそも、人間って徒手よりも道具を使ったほうが強いし、器具を使った訓練の方が効率がいいじゃない。その差が出るから違って見えるんじゃないか」


 考えても見よう。この世界はマナ=CPNに包まれており、そこで暮らしている人々は呼吸をしたり食べ物を摂取したりして、絶えず体内にそれを取り込んでいる。マナはそれ自体がエネルギーを持つ粒子であるから、この世界の人々は実は常にエネルギー過剰な状態で生きているわけだ。これを利用しようとして、体が適応し始めてもおかしくないのではないか。


 身体強化魔法はこのエネルギーを利用していると考えられる。そしてざっと見た限り、魔法使いではないエリオスやアナスタシアもそれを行っている。多分、魔物や亜人のような強い種族もそうではないか。きっとクラウソラスを持ってない時のブリジットもそうだろう。そう考えないと辻褄があわないくらい、彼らは尋常じゃなく強いのだ。


「だって普通に考えてさ、ブリジットなんてすごいちっちゃいし、二の腕は細っそいし、おっぱいはブルンブルンだし、どこに強い要素があるんだよ。ところが、聖遺物があっても無くてもそんなの関係ないもんね」

「そう……なのですか? 私にはもう……何がなんだか……」

「急に、Z戦士みたいに相手の気を感じれるようになったのも、要は鑑定魔法の延長だったんだ。聖遺物を持ったことで、無意識に鑑定魔法が発動するようになったんで、周囲の人達の能力が数値化されて情報として俺の脳みそに流れ込んできたんだな。で、レーダーマップの情報と照らしあわせて、どっちの方角にスキルレベルいくつの人が居るってのが分かるわけだ。そう考えると、相手の気配を感じ取れるみんなも、俺と同じような能力を多少なりとも持ってるってことだろう」


 始めっから魔法を使えたり色々出来るものだから、自分だけ特別だと思っていたが、どうもそうではないらしい。但馬は特別優秀な魔法使いであるが、その人体構造は普通の人間に準じているようだ。


 しかし、それでもわからないことがある……メニュー画面の存在だ。


「どうかなさいましたか?」

「いや、いきなり俺が色々出来るようになった理由はそれだとしても、じゃあ、元から見えていたあのメニュー画面はなんだったんだろうと思って。レーダーマップとか」


 みんなは強い人の気配をなんとなく感じるという程度だが、自分のは完全に視覚化されているのだ。この違いはなんなのだろう?


 あのUIのせいで、色々と勘違いさせられたわけだが、お陰で助かった面もある。実際のところ、あれが無ければエルフと戦うことなんて出来なかったわけだし、今の対エルフ戦術を確立することも出来なかったはずだ。


 だが……いきなり目の前に来ただけの人間を殺せだとか言ってくる、やたらとフレンドリーなイルカとか、おまえはこの世界の勇者だとか言いはるあのメッセージは、とてもじゃないが信頼を置くわけにはいかない。


 しかもこのメニュー画面……どうも自分の聖遺物ともリンクしているようである。


 最初に聖遺物を見つけた時の『NEW!』の文字。


 聖遺物を手にした瞬間、メニュー画面に『スキル』の項目が追加されたこと。


 画面を開かなくても、レーダーマップと鑑定魔法が無意識に感じ取れるようにもなった。


 先ほど、メイドに襲われた時にいきなり始まった『コンバットモード』もそうだ。


 そして元々、イルカによってこの聖遺物は渡されるはずだったのだ。


 裏ドラも乗って跳満だ。胡散臭い臭いがプンプンとしている。この聖遺物は、このまま使っていてもいいのだろうか……何も知らない頃なら、最強になりました。バンザイ。で済んだかも知れないが、今さらそんなわけにはいかないだろう。


「メニュー画面ですか……さあ、それは私には見えませんし。そんな能力見たことも聞いたことも……いえ、そういえば、ありましたね」


 但馬が考え込んでいると、メイドが言った。


「リリィ様は、社長と同じ能力を保有していたのでは? 私の父もです」

「あ! そうか、そうだった! リーゼロッテさん。生前、あんたのお父さんはこのことについて、他に何か言ってなかった?」


 しかし、彼女は残念そうに頭を振った。


「いいえ……具体的なことは何も。リリィ様と父が同様の力を持ってるらしいと言うことしか。あとは社長が現れることを予言したことだけでございますね」

「そうか……俺のこの矛槍と、あんたのお父さんの聖遺物と、どこか似てたりしないかな」


 やはりメイドは申し訳無さそうに首を振った。


「いいえ、まったくと言っていいほど違います。父の聖遺物は脇差しくらいの大きさの直刀でした。滅多なことでは、それを抜くこともありませんでしたし……」


 但馬と勇者の聖遺物は別物ということか。となると、残る手がかりは一つしかない。


「世界樹か……」


 但馬とリリィと勇者。三人に共通する点は、メニュー画面と鑑定魔法、そして世界樹に何か特別な関係があることだ。以前、一度訪れたことのあるメディアの世界樹では、中央の部屋にダム端末があって、どこかのサーバーに繋ぐことが出来た。


 残念ながら字が読めないので調べようが無かったのであるが……古き好きGUIを使っていたので、操作自体は出来た。もう一度、よく調べてみた方がいいかも知れない。それに、以前は周囲を囲まれていたり、時間が無かったりで中をまともには調べていなかった。


 亜人製造装置であったメディアの世界樹は、勇者の要請で停止させたあと、誰も入らないように入り口を埋めて立入禁止にしてそのまま残っている。近いうちに、もう一度あそこへ行ったほうがいいかも知れない。但馬はそう心に決めると、


「ところでリーゼロッテさん」

「はい?」

「さっき、俺がホームランしたあんたの大剣、取りに行かなくていいの?」

「……わあああ!」


 二人は森の何処かへすっ飛ばした大剣を探して、日が暮れるまで罵り合いながら、森の中を彷徨うのであった。

 

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