孤独のグルメ⑨
美味い納豆料理を食わせてやる。
捨て台詞を吐くと但馬はプンスカしながら厨房を出た。背後からはピザデブの笑う声が耳障りに聞こえてくる。
「かんらかんら。味を知らぬ惨めな男よ。一週間後が実に楽しみである。それにしても臭い、臭いぞう! 料理長よ、こんな糞便のような臭いをさせたまま、客に出す料理を作るのは如何かな」
「うっ……確かに。俺は今までそう思ってはいても、オーナーに逆らう度胸が無かった……でもこのままじゃいけねえや! おい! おめえら! 納豆を焼却炉にぶち込んだら厨房の換気をしろい! 消毒じゃ! 消毒じゃ! アルコール除菌じゃああ!!」
「合点承知!」
但馬が後にした厨房から料理長のヒステリックな声がきこえた。あの男、雇い主は但馬だと言うのに、美食家の言うことばかり聞きやがって……但馬は奥歯をギリギリと鳴らした。
「先生! すんません、なんかホントすんません。俺が下手打っちまったばっかりに」
悔しさにホゾを噛んで歩いていると、マイケルが泣きながら追いかけてきた。彼は今回の騒動は自分に責任があると思ってるようだが、もはやそんなのは関係ない。納豆の美味さを理解できぬ凡人どもと、但馬の戦争である。未開人が悪いのだ。
「気にするな。それより、こんなところで油を売ってると、また料理長にどやされるぜ。早く帰んなよ」
「それが、臭いが消えるまでその辺ぶらついてこいって言われちゃいまして……」
「なんだって!? あの野郎、そこまで……嫌われたものだな」
但馬はクンクンと袖口や自分の体の臭いを嗅いでみた。そんなに臭わないと思うんだが……知らぬは本人ばかりなり、ということなのだろうか。
「いやはや……とんだ災難ですな」
ツッカケをからんころんと鳴らしながら、ザビエルが後に続く。
「……ザビエルさんまで付き合わなくっていいんだぜ?」
「私も追い出された口でしてな。近寄るな、触るな、納豆菌が移る……と言われ、今日はもういいから風呂に入ってくるようにと小遣いを渡されました。いやはやラッキーですな」
「ウギギギギ! ナットウキナーゼをバカにしやがって。便秘予防にだって効くんだぞ。くそう、あいつら、こうなったらマジで美味いと言わせてやる、どんな手を使ってでもだっ!」
但馬が復讐の炎をメラメラと燃やしていると、弱々しい声でマイケルが言った。
「でも先生……納豆なんかで料理長に敵う料理が作れるとは思えないっすよ。ああ見えて、あの料理長は腕は確かですし」
「そうですな。それに意外と弟子思いで親切ですぞ。私も様々な味を教えて貰いました」
「研究を怠らず、毎日舌を鍛えてるんですよ。このままじゃ勝てない……」
しかし但馬はフンっと鼻息を荒げると、そんなことはないと言って譲らなかった。
「確実に勝てるから安心しろ。納豆の美味さはそんなことくらいじゃ覆らない。大体、あいつら、臭いに敏感なのは素晴らしいことだが、そのせいで肝心の味を疎かにしてやがんだ。ちゃんと味わって食べること、それを思い知らせてやる」
「そうは言っても……先生には悪いけど、俺もあの納豆はどうしても美味いとは思えなかったんすよ。何度も試してみたんだけど」
「そうか……おまえは臭いに負けず、頑張ってくれてたんだな」
それでも、旨味を感じられるまでには至らなかった。やはり臭いがまずいのだろう。思えば、市販品の納豆は但馬が作ったものと比べてずっと臭いが抑えられていた気がする。そう言う納豆菌をわざわざ使ってるからだ。何も知らない人にあの臭いはやはりきついのだろう。
「となると、今後は臭いを抑える方法を考えた方がいいだろうな。菌によって味や臭いが変わるから、それを探さなきゃ」
但馬がそんなことを口走ると、ザビエルが尋ねた。
「しかし、一週間後の料理対決までに間に合いますかな?」
「間に合わないだろう」
但馬が即答すると、ザビエルとマイケルの二人は目を丸くして顔を見合わせた。ついさっき、確実に勝てると断言していたくせに、もうこの弱気である。自分の好きなモノをバカにされ続けて、ついに錯乱してしまったのだろうか。
「いや、今回はそんなの抜きで勝ちに行くってことだよ。納豆のうま味を使って」
「そんな方法があるんですか?」
「あるからこうして研究室に向かってるんじゃん」
「研究室?」
但馬はぷりぷり怒りながら早歩きしていたので、どこへ向かっているのかまではマイケルもザビエルも気づいていなかった。彼は料理店から飛び出したあと、まっすぐにハリチ支社の微生物研究所へと向かっていたのだ。
料理対決のはずが、なんでこんな場所に……?
全く訳が分からないといった顔でお見合いをする二人を他所に、但馬はすたこらと研究室の中へと入っていった。そして室内に居たサンダース軍医を見つけると、
「あ、サンダース先生。みんなに培養してもらってた納豆菌ある? あれ使ってとにかく納豆量産して欲しいんだけど」
「どうしたんですか、急に……そりゃ、やれと言われるのであればやりますが」
「他にも石鹸工場から薬品を取り寄せてくれませんかね。あとエタノール。酒を煮詰めたやつじゃなくて、石油から生成した方……あとは……それから……」
研究室の戸棚をひっくり返す勢いで但馬はああでもないこうでもないと言いながら作業を始めた。
おかしい……確か料理対決がどうこう言ってたはずなのだが……
マイケルは納豆をバカにされた但馬が、復讐のために美食家たちを毒殺でもするつもりなのではないかと、本気で心配し始めた。もちろん、そんなことは無いのであるが……
それからの日々は但馬は研究室に入り浸る毎日だった。しかし、その間、彼が料理対決のためにやっていたことは、どれもこれも、とても料理と関係があるとは思えないようなことばかりだった。
***************************
そして、あっと言う間に時は流れ1週間後。但馬は再度料理店の厨房へとやって来た。
「むほんむほん。てっきり逃げ出すかと思いきや、よくぞ舞い戻ってきた納豆男よ。しかし我は宣言しよう。今日が貴様の命日であると」
なんで料理対決で死なねばならんのだ……つーか、どうしてこいつが仕切ってるんだと思いつつも、但馬ははいはいと返事した。
「おまたせしたな、この野郎。今日は美食家のおまえに、本当に美味いものというのがどういうことかを教えてやろう。あとついでに料理人共。あんたら商売なんだから、臭いや偏見で本物の旨味にきづけなかった、己の未熟を恥じるが良いわ」
「べらんめい! いくらオーナーと言えども、そいつぁ聞き捨てならねえな。やろってんならやろうじゃねえか。前から言ってやりたかったんだ。今日こそはあんたの味覚が狂ってるってことを、俺らが証明して見せらあ!」
「なにおう!」「なんだとう!」「このお!」
などと、今にも掴みかからんばかりに一触即発の空気を醸し出しつつ、男たちが睨み合っていると、パンパンと手を叩いてから面倒くさそうにエリオスが言った。
「はいはい! 盛り上がってるところを悪いんだが、こんな茶番はさっさと終わらせてくれないか。この1週間、社長の道楽のせいでひどい目に遭った」
「道楽じゃないって、ちゃんと商品化するつもりだもん」
「笑止! かような臭いものを売り物にしようなど、正気の沙汰とは思えぬわ」
すると美食家がゲラゲラと笑った。
なんでこんなに目の敵にするんだこいつは……と思いつつも、
「ふんっ! そう言ってられるのも今のうちさ。それじゃ、クレームも出たからさっさと勝負を始めよう。1週間前も言ったと思うが、今回のルールは俺が納豆を使って料理長の作るものよりも美味しい料理を出せれば勝ちだ。そこまでは文句ないな?」
料理長が瞳にメラメラと火を灯して言った。
「いいだろう。俺の料理よりも美味いものなど作れるとは思えねえがな。ましてやあの納豆なんかを使っては不可能に決まってらあ」
「言ってろよ。それじゃ、基準を作るという意味でも、料理は先にそっちから出してもらう」
「ああ、いいぜ」
「食材は公平を期してこの店にある物だけを使うことにしよう。味見は料理長以外が行っちゃ駄目だけど、無駄な時間をかけても仕方ないから、野菜を切ったり下ごしらえは弟子に手伝わせても良し。審査員はそこの美食家と、ザビエル神父、後はブリジットにお願いしようと思ったんだけど、納豆を出すと言ったらめっちゃ嫌がったから、うちのメイドです」
「エリザベス・シャーロットです」
メイドがペコリと優雅にお辞儀すると、べらんめい口調の料理人たちがおずおずとしだした。どうもこういった上品なのは苦手らしい……この人、君たちが思ってるような素敵なメイドさんじゃないんだけど。
ともあれ、ルールが決まると料理長が眉を顰めながら言った。
「ルールは分かったが、それじゃあ、こちらに有利すぎやしないかい? キッチンはいつも使ってる厨房、食材も自分たちが選んだ食材、助手をつけても良くて、おまけに実食も先行と、腹をすかしてる審査員にとってより美味しく感じられる順番じゃねえか」
「後から食べたものに味が上書きされることもありますから、そうとも限らないでしょう。それを踏まえて、若干そちらに有利に設定したつもりです。それとも自信が無いんですか? だったら順番を変えてやってもいいですけど?」
「ふんっ! すごい自信じゃねえか」
「確実に勝てると思ってますからね。そうそう、そちらの料理の味を知らなきゃ俺も料理が出来ないんで、審査員に作るのとは別に、倍の量を作って俺にも渡してください」
「倍? 一食で良いんじゃねえか?」
「不正が無いかを確かめるんで」
「てやんでい! バカにしやがってよう! いいだろう、その高慢な鼻っ柱、叩き折って見せらあ! おう、おう、おう! 野郎ども! それじゃあ、ちょっくら持ち場につきやがれ」
「へい親方!」
料理長が指示を出すと、一斉に料理人達が動き出した。まるで訓練された兵隊のようなムダのない動きに感嘆する。ところで、どうでもいいのだが、一応但馬はオーナーなのに、どうしてこんなにバカにされてるんだろうか……いや、どうでもいいんだけど。
ともあれ、そんなこんなで小一時間、料理長の料理が出来上がった。
腹を空かせていたメイドがじゅるじゅるとヨダレをすする中、次々と皿が運ばれると、試食のために用意されたテーブルに、食欲のそそる芳ばしい香りが広がった。
そこにはリディアのみならず、イオニア海全ての食材をふんだんに使った、贅沢な料理が並んでいた。ハリチの海鮮はもちろん、つい最近作り始めたばかりのハチミツ、ローデポリスの天日干しの塩に、カンディアのワイン、フリジアの小麦、そして牛や豚などの家畜の肉。山海の風味をあますところなく取り入れたその料理は、それを食す者の舌だけではなく、鼻や目でも楽しませてくれた。
「ふぬるるうう! これだけの食材を取り入れて、混沌とするではなく、むしろさっぱりとした味わい。ハチミツのとろとろとした甘味をイオニア海の荒塩が引き立てカンディアワインの上品な酸味で締める、そしてところどころにアクセントとして山菜の薬味を混ぜて、皿ごとの味をいつまでも引きずらず、飽きさせないという心配りが見受けられる。なんという贅沢。これぞまさに味のビッグウェーブ! 例えるならばそう、イオニアの嵐。我はここに宣言しよう、この味は海よりも深く山を凌駕する!」
口角に唾を飛ばしながら、顔を真赤にして美食家が叫ぶ。何を言ってるのかさっぱり分からないが、多分美味いと言ってるのだろう。隣に座るメイドの幸せそうな顔を見る限り、恐らくその認識で間違いない。
大食漢の美食家は皿を嘗め尽くすかのように全てを腹に入れたが、対するザビエルは初老の男らしく落ち着いたしぐさで、一皿ずつを小皿に取り分け、それぞれをじっくりと吟味すると、
「うむ……美味ですな」
と一言で論評した。メイドには聞くまでもないだろう。そんなメイドの顔を見て、料理長は満足そうに頷くと、
「おっと、メイドさん、あんたには取っておきを用意しておいたんでよ。他の皆さんも良かったらどうぞ……いや、この間、厨房に来た時にあんたが食べてたのを見てね」
そう言うと料理長は茶碗に軽く盛られた白米を出してきた。そして助手に指示すると、彼は厨房まで行って何やら湯気のたつ急須を持ってくる。
ああ、なるほど、お茶漬けをやるのか……
鰹節の匂いが立ち込める。料理長はご飯の上に、昆布とマグロの竜田揚げを置くと、その上から鰹だしをかけた。途端に湯気と香りが立ち、さっくりとした衣がだし汁を吸いぐずぐずと崩れ、茶碗の中に油が浮いてなんとも食欲をそそった。その臭みを取るために、パラパラとネギが振られると、もう待ちきれないとばかりにリーゼロッテはその茶碗に吸い付いた。
ズルズルとだし汁を啜る音と、カッカッカッと箸が茶碗を掻く音が交互に響く、まるで欠食児童のような一心不乱に飯を掻き込む様を見ていた美食家が、
「我も! 我にも早う!」
と、催促し、苦笑しながら助手から茶碗を受け取ると、早速とばかりにだし汁を注ぎ入れようとして、ふと、止まった。
「むふん? おお! なんたることか! 料理長よ、この白米は焦げておるではないか。さては鍋底のものを攫ったな? このままでは食べられん」
すると、料理長がニヤリとして、
「いや、それでいいんでさあ」
「なにィ!?」
驚き眉を釣り上げる美食家に対し、料理長は諭すように言った。
「実は、この間のお嬢さんがあんまりにも美味そうに食べるもんだから、この1週間ほど厨房ではまかない飯にお茶漬けが流行ってね。その時気づいたってのよ。店に白米を出すときは避ける鍋底の焦げも、まかない食なら構わねえからこうして茶漬けに使ったところ……焦げのある無しで、こいつの味が段違いになりやがる」
いわゆるおコゲの話だ。炊飯器を使うようになった現代ではあまり馴染みがないが、キャンプで飯盒炊爨をやったりする人なら知っているだろう。ご飯は真っ白な銀シャリよりも、鍋底のちょっと色づいた部分の方が美味い。料理長の言ってることは間違いない。
しかし、見た目は炭化した焦げそのものだから敷居が高いのだろう、美食家は眉を顰めて本当かどうか探り探り箸でお米を突っついている。
「ふう~……大変、美味しゅうございました」
と、そんなピザデブには構わずリーゼロッテは茶碗の中身をむさぼり食うと、実に満足そうにため息を吐いて、手を合わせて感触を告げた。それが清々しいほどに見事であったから、躊躇していた美食家もよほどの美味さなのだろうと刺激され、おっかなびっくり茶碗に箸を突っ込んだ。
「……美味い……美味いぞう!」
カッと目を見開いて、ピザデブが、
「見た目に反して苦味など一切感じられぬ、ウソのようなのどごしの良さ。ひとくち食べるごとに体の中に清涼な風が沸き立つような、不思議な感じがする。そしてこの舌の上でほぐれる竜田揚げの衣と、マグロの脂がとろりと溶けて、絶妙な味わいのハーモニーが口いっぱいに広がっていく。まさに油と脂のシンフォニー!」
ごはん粒をバンバン飛ばしながらのたまった。
この結果を受けて料理長は勝利を確信したのか、満足そうに頷くと但馬に向かってニヤリとした表情を見せた。
「以上が俺の料理さ、オーナーさんよ。このまま勝負を続けても結果は目に見えてるってもんさ。なあに、俺も鬼じゃねえや、なんなら今日のところはお開きにして、また後日ってことでもいいんだぜ? そのまま逃げ出してくれても! かっかっか! ま、これに敵う料理ってものがあるなら、俺も興味があるけどよう」
まるで悪役のようなセリフを吐きながら、彼は自信満々に言った。この小物めとツッコミを入れたいところだが、これ以上、傷口に塩を塗りこんでも可哀想というものだろう……もちろん、傷口に塩を塗りこまれるのは但馬ではなく、彼の方である。
「確かに……ちょっとまずいかもね。場所や食材、先攻後攻の指定はしても、料理の量までは指定しなかったからな。まさかこんなに作るとは思わなかった。腹いっぱい食べちゃったし、みんなも食欲減退しちゃったろう」
「クックック。そいつは悪いことをした。気を利かせて一品だけで勝負してやっても良かったけどよう。俺も料理人の端くれ、客をもてなすことにかけては、つい夢中になりやがる」
料理長の言葉に呼応するかのように、美食家がわざとらしく腹をポンポン叩きながら言った。
「げえーっぷ、げえーっぷ、もう食べられぬ。納豆などというクッサイものなど、到底、我の繊細な腹には入らぬ。これでは純粋な審査は出来ぬかも知れぬのう」
つまり、納豆を食いたくないから、おまえに逃げ道を用意しておいたぜと言いたいわけだろう。しゃらくさい。
「いや、問題ない。はじめにこういう順番でって決めてたしな、それじゃ今度は俺の料理を食べてもらおう」
「むむむん!? 貴公、この結果を踏まえて、まだ自分の負けを認められなんだか?」
「負けもクソも、俺はまだ何もやってないだろうが。いいから黙って食いやがれっ」
「むふん。負け惜しみを……」
美食家が呆れながら奥歯をシーハーしている。料理長がやれやれと言った感じに、
「それじゃあこのまま続けるとして、少し食休みを置いた方がいいんじゃねえか? みんな腹も一杯のようだし、どうだい? 小一時間ばかし」
しかし但馬は首を振ると、
「その必要はない。コンディションは関係ないんだ。どうせ嫌でもみんな、俺の料理のほうが美味いと認めざるをえなくなるからな」
「なんだと? 負け惜しみにも程がある」
などと言われても、毛頭そんなつもりはない。何故なら但馬は初めから、そういうたぐいの勝負を仕掛けていたのだから。
「食えばわかるさ。そんじゃ、料理を運んでくるからちょっと待ってろ。おい、マイケル、手伝ってくれ」
そして但馬はマイケルを伴って厨房に向かった。
ついさっきまで料理長が使っていた厨房で、彼が料理をしていた気配はまったくなかった。だからこれから作り始めるのだろうと思った審査員達は、仕方ないからその間何をしていようかと相談をしはじめた。
だが、そんな彼らの心配を他所に、但馬はまるで時間をかけず、あっさりと料理を持って帰ってきた。盆に乗せた料理からは湯気が立ち上る。皿の数は、料理長の作ったものと大差がないように見えた……
いや……まったく同じである。
審査員も料理人たちも、そこに集まったみんなが唖然と彼の行動を見守っている。
「じゃあ、マイケルそっちから並べて、えーっと……最後がお茶漬けで、他のコース料理の順番こうだったっけ?」
そんなまわりの空気などどこ吹く風で、ごちゃごちゃ言いながら、但馬は飄々と持ってきた皿を並べた。手伝えと言われたマイケルは引きつった笑みを浮かべていたが、どうやら但馬が本気らしいと悟ると、諦めて彼の指示にしたがって皿を並べ始めた。
一体、彼らが何をしているのかと言えば……
「おいおいおいおい! オーナーさんよ!」
堪らず料理長が金切り声を上げた。
「一体全体、どういうつもりでい! おめえさんが持ってきた料理……こいつぁ、つい今しがた、俺が作って客にもてなした料理、そのまんまじゃねえかっ!」
つまりこういうことである。
但馬は最初にルールを決めるときに、料理長に対して言っていた。不正が無いか味見をするから、同じ料理を同じだけ用意しておけと……
彼はいま、それを並べているのだ。