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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第五章
146/398

ハチミツとクローバー①

 但馬の領地であるハリチは人口が少ない。具体的に言うと3000人いるかいないか、首都のローデポリスとは人口比にして100倍もの差があった。


 アナトリア政財界に鳴り物入りで登場した逓信卿のお膝元としては非常に寂しい限りであるが、S&H社の各種施設に、海軍工廠、今や首都の台所も担う遠洋漁港に、首都~メディア間をつなぐ定期航路まであって、どうしてこんなに人口が少ないのかと言えば、単純に遠すぎること、そして開発出来る土地が少なかったからだった。


 ヴィクトリア峰の麓にあるハリチは、陸軍駐屯地のある山の内陸側ではなく、外洋に面した海側にある。ヴィクトリア峰は元々リディアの西方岬に突き出した格好でそびえ立っており、その岸壁のような斜面が急峻かつ潮風に晒されているから高木が育たなかったため、そのお陰でエルフが寄り付かず、かつてのリディア軍が駐屯地として活用できたと言う事情があった。


 ハリチ港は、そんなヴィクトリア峰の頂上付近にあるカルデラ湖から流れ出す河川の急流が、山の斜面を深く削って出来た入江であるから、港の周りはすぐに山の急峻な斜面に面しており、従って人が住めるような土地が少なかった。なんというか、鎌倉の街をイメージしてもらえれば、あんな感じで間違いない。


 その程度なら人が住める土地は十分にあるじゃないかと思われるだろうが、確かに人が住める土地は確保出来るが、農業をやる土地がないのだ。忘れちゃいけないが、ここは首都から300キロも離れた僻地で、人っ子一人いない山の麓だったのだ。この世界はろくな交通手段が出揃っていないのに、食料は輸送に頼るしかなく、すると当然首都よりも食品の物価が高くなり、おまけに運ぶ量にも限界があるから、3000人でも暮らせるだけマシと言えるくらいなのだ。


 そんな状態で企業を誘致しようにも、もしくは但馬自身が雇用を作ろうとも、絶対に人が集まらないので、街を発展させようと思ったら、まずはどうにかして農地を確保し、地産地消を実現するしか方法がなかった。


 そこで但馬は山に目をつけた。

 

***************************


 ロディーナ大陸西方海洋、ブリタニアと呼ばれる旧ニュージーランドがある方面を探索する、冒険航海会社は西海会社と名付けられ、ハリチに本社が置かれることになった。但馬は大臣の仕事と、自分の会社の仕事があり、外洋探索までは手が回らず困っていたから、他人が会社を作ってそれを手伝ってくれることは非常にありがたかった。

 

 それに、その西海会社にブリジットが社長としていきなり赴任してきたことは、素直に嬉しかった。但馬はただでさえ自分の会社が忙しく、その上、大臣として交通や通信のインフラ施設を扱っている関係から、国内を飛び回る必要がある。


 故に月の半分は領地で過ごしているせいで、宮殿でブリジットと逢うのもなかなか難しかった。だから、こうしてわざわざ理由をつけて会いに来てくれたのは普通に嬉しかったし、皇帝の心遣いも身にしみたのであるが……


 そう思う反面、但馬は少々危機感を募らせていた。なんかちょっと公私混同してるんじゃないかと……

罪悪感みたいなものがあったのだ。


 ……しかし、普通に考えて、恋人がこうしてやってきてくれることは嬉しいことなんだから、素直に喜んだ方が良いのだろう。かといって、両手を上げて接待をしていたら仕事に差し障りがあるし……そんな感じに、どう反応していいのか戸惑っていたら、


「それで、私は何をやればいいのでしょうか? この会社は何をするんです?」


 と新会社の社長自ら言われたものだから、色々なものをすっ飛ばして、


「アホかーい!」


 と突っ込んだ。


 どうやら、皇帝は西方の探検航海のための資金は出すけど、具体的な方法は分からないから、あとは但馬に全部丸投げにするつもりのようだった。つまり、投資だけしてくれたわけで、会社というのはどうやら建前のようだ。今更競合会社を作られるよりはマシだけれども、だからと言って何も分からない素人二人を送り込んできてどうするのか。やるならやるって言ってくれればいいのに……


 そんな恨み節を言ってても仕方ないので、取り敢えず、法人化のための各種手続きは中央銀行でやってるそうだから、ハリチの市役所 (ちゃんとあるのだ)に届け出をして、会社を登記する手続きを行うことになり、タチアナを案内する予定がまた丸一日潰れてしまった。


 新会社を作るのはまあ良いとして、今後ブリジットはどうするつもりなのかと詳しく尋ねてみたら、どうやら一ヶ月の半分を、首都とこっちで行ったり来たりするつもりでいるらしい。


 皇太女として教育を受けていた彼女であるが、まあ何というか向いてないというか、テーブルマナーや礼儀作法など少しでも体を使うものはなんとかなったが、政治経済や帝王学のような頭を使う方はいくらやっても成果が上がらないので、どうやら諦められた感じである。


 尤も、彼女は次期女王といっても、この国はもう建国当時とは違って、何もかもを一人で全部やらなければいけないような国では無いのだ。大臣も頭取も但馬もいるし、兄貴もあれはあれで優秀だからなんとかなるだろう。社交界だって、エトルリアとは国が違ってしまったので、向こうの社交界に出席することももう無いだろうから、最低限の事ができればもうそれでいいのだろう。


 代わりに為政者として実地で学ばせたほうが良いから、但馬のところへ行って仕事を学んで来いと言われたそうだ。果てしなく他人任せな方針転換には目眩がしたが、皇帝としては恋人同士に気を利かせたつもりもあるのだろう。


 さて、それは有り難いので素直に感謝するが、いきなりこっちに来られても泊まる場所がない。


 但馬の家は部屋がいっぱい余って居るが、だからって好きな部屋を使ってくださいというわけには行かなかった。住み込みの使用人が沢山居て、アナスタシアとリオンとリーゼロッテも暮らしている家ではあるが、それでもそこで一緒に暮らしてしまったら、世間一般の目には男の家で同棲してるのと何ら変わりなく映ってしまうだろう。結婚前の女性がそれではまずい。ましてやブリジットは次期女王だし、そして但馬と彼女は実際にそう言う関係だから、それをやってしまうと返って問題があるのではないか。


 故に、彼女が首都とこっちを行ったり来たりするならするで、こちらに拠点を構えなければならないと但馬は断固主張した。もちろん、マンションの一室を借り受けて……なんてわけには行かないから、新たに家を建てねばならない。いくら彼女が強くても、警備の必要だってある。


 そんなわけで、今後の方針を皇帝に連絡して決めるまでは、彼女もタチアナと同じホテルに泊めることになったのだが……そうしたら、エリオス以下但馬の護衛がどうしようもなくソワソワしだした。そりゃまあ、そうだろう。但馬個人の護衛とは言え、お姫様の警護をしないわけには行かない。


 しかし但馬の家とホテルは離れているので、警備の計画が立たず困っていたところ、丁度メイド(リーゼロッテ)が暇してそうだったので、護衛がてらあの二人のスイートルームにお泊りしてきなさいと命令すると、護衛たちは安心したのかパッと落ち着きを取り戻した。


 更に、お泊り会が羨ましいのか、アナスタシアが指をくわえていたので、どうぞ遊びに行ってらっしゃいと言うと、護衛たちは完全にリラックスしてたるみきっていた……君たちは自分の護衛なのだよね?


 そんなこんなで一夜明けて翌朝。今日こそはタチアナを領地の案内に連れ出すぞと、気合を入れてホテルへ向かうと……女性陣はみんな目の下にクマを作って死にそうになっていた。どうやら明け方までおしゃべりしていたらしい。


 まあ、寝不足くらいで死にはしないから、当初の予定通り今日こそは領地を回ろうと思い、その間にブリジットには会社の各種手続きを行わせておこうと話しかけたら、


「あ、ブリジット、今日なんだけどさ……」

「あ、はい! 領地を回るんですってね。すぐに支度しますので待っててください!」


 と言うので、まあ、いずれは彼女も領地を案内しようと思ってたから(本当は二人っきりで)別に今日でも良いかと待つことにした。しかし、


「あの……タチアナさん。そろそろ……」

「あら申し訳ありません。つい先程、ケーキを注文してしまったばかりでして……それを頂いてからでも構いませんか?」


 ラウンジへ下りて彼女たちが朝食を取ってる間、コーヒーを飲んで待っていたのだが、彼女らは朝食を取りながらもまだペチャクチャと、よく話題が尽きないものだと感心するほどよく喋り、食べ終わってからもエリックとマイケルが来るまでベラベラやっていた。その間、但馬は一切会話についていけなかった。


 そしてエリック達がやって来てもまだ彼女らの会話は尽きず、気がつけば結構な時間が過ぎて、正午に差し掛かろうとしていた。そろそろ街の方に移動しようと提案しても、歩きながらでも話せるだろうと言ってもお構いなしである。


「あの、みんないい加減に……」

「社長、お昼ごはんは何になさいますか? 私、マグロです。このマグロのトロというものが最近はトレンド入りしておりまして……聞いてます?」


 案の定だ……嫌な予感は当たった。


 女三人寄らば姦しいとは言うが、女四人が集まるとなんだろう……地に根が張ってしまうのだろうか、一向に動かなくなってしまった彼女らに、但馬は焦りを感じ始めると共に、ついに堪忍袋の緒が切れた。


 やっぱり、公私混同してはいけない。ここはガツンと言わなければ……彼は深く息を吸い込むと、


「君らは、ここに一体何しに来たんだ! やる気がないなら今すぐ帰れっ!」


 大声をあげたら喉がヒリヒリと痛んだ。まったくそんなキャラじゃないので普段から声を出しなれておらず、思わず咽てしまいそうになるのを懸命にこらえる。


 普段の彼からは想像もつかない怒鳴り声に、メイドを除く全員が、顔を真っ青にさせていた。


 彼は自分を落ち着かせるかのように、はぁ~っと深くため息をつくと言った。


「みんな楽しいのは分かるけど、楽しいばかりじゃ仕事にならないだろう。時間が惜しいから俺はもう行くけど、ここで駄弁ってたいならもう好きにしてくれ。タチアナさん、行きますよ」


 するとタチアナが泡を食って立ち上がり、他のみんなも後に続いた。


「も、申し訳ありません。すぐに支度しますわ」

「それからブリジット」

「はいっ!」


 しかし、タチアナと一緒に慌てて席を立ったブリジットに但馬は言った。


「君は邪魔だからついてくるな」

「ええっ!?」

「ええっじゃないよ。君は本当にここへ何をしに来たんだ? 会社の登記、仕事の段取り、従業員の雇用計画なんか、ちゃんと考えているのか? 全部、他人任せにするつもりなの?」

「い、いえっ! そんなことは決して」

「君はここに、会社を作りに来たの? それとも遊びに来たの? まだ何も始まっていないというのに、こんなところでいつまでくっちゃべってるつもりなのさ。遊びに来たかったのなら遊びに来たいって、初めからそう言ってくれれば、こっちだってスケジュールを調整したのに……」

「いえ……その、遊びに来たつもりは……」

「だったら、君には君のやることがあるだろう。そして俺には俺のやることがある……リーゼロッテさん、彼女の護衛をお任せします」

「かしこまりました」


 そう言うと但馬はさっさとホテルのラウンジから出た。ホテルの玄関でそれを見ていたエリオスがすっと但馬の背後に立ち、護衛たちがバラバラと周囲にバラけていく。タチアナ、エリック、マイケル、アナスタシアの4人は慌ててその後姿を追っかけたが、取り残されたブリジットは一人オロオロと戸惑い、


「先生! せんせーい!! わあ! すみませんっ! 反省しますからっ!!」


 と、まるで捨てられた子犬みたいに泣きそうな顔で叫んでいた。なんだかデパートのおもちゃ売り場に子供を置き去りにする母親みたいで後味が悪かった。


 但馬が渋面を作りながら、ずんずんと先を進んでいくと、小走りでタチアナが駆け寄ってきて並んだ。


「但馬様。申し訳ございません。つい興が乗ってしまい、貴重なお時間を浪費させてしまいましたわ。ですが、よろしいのですか? 恋人にあんな顔をさせてしまって……お怒りはごもっともですが、私達が悪かったのです。どうかブリジット様には寛大なご処置を……」

「いや、タチアナさん。俺は別に怒ってないよ。それに俺がお願いして投資してもらうんだから、タチアナさんがしたいようにしてくれて構わなかったんだ」

「でしたら……」

「でも、公私混同はよくないでしょう」


 但馬は眉を寄せると頭をボリボリと掻いた。


「実はブリジットがこっちに来てくれて嬉しかった反面、ちょっと不安でもあったんだ。俺たち二人でイチャイチャしすぎて、仕事にならないんじゃないかって。今日、こうして俺達が雑談してる間だってさ、従業員のみんなは仕事をしているんだ。なのに俺たちが楽しいからって、そうしちゃったら示しがつかないじゃない」

「それは……まあ」

「以前、俺は仕事のし過ぎで倒れたけど、今思えばそれは仕事のし過ぎってわけじゃなくって、心に余裕が無かったからなんだよね。人は一人では生きていけないんだから、誰かに頼ることだって必要なんだ。でも頼りっぱなしじゃ駄目だから、頑張るときは頑張んなきゃいけない。要は仕事とプライベートの切り替えをちゃんとして、バランスを保たないといけないと思うんだ。仕事は仕事。遊びは遊び」

「なるほど」

「だからさ、タチアナさん。うちに投資してくれるのは非常に有り難いんだけど、乞食じゃないんだ。施しを受けたいわけじゃない。友達だからって、無理にこちらの顔を立てようとはしないで、俺のやってることが君の投資先に相応しいかどうかを、しっかりと自分の目で確かめて欲しいんだ」


 タチアナは初めはオロオロとしていたが、話を聞いている内に自分の役割を思い出し、気が緩んでいたことを恥じた。そして、友人としてではなく、商談相手として対等に接しようとしてくれた但馬に対し、非礼を詫びた。


「申し訳ありませんでした、いえ感心いたしましたわ。確かに、私は但馬様が勧められるのであれば、多少損をしても構わないくらいに気が緩んでおりました。ですが、それではここに何をしに来たのかわかりませんわね。改めて、今日はしっかりと見定めさせて頂きます」

「うん、よろしく」


 エリック達は但馬が仕事をしている姿をあまり見慣れていなかったので、突然の展開についていけず、口を挾まないように気配を殺しながらおっかなびっくり後をつけてきたのだが、


「……でも先生、姫様泣いてたよ?」


 隣に並ぶアナスタシアが、ケロリとそんなことを口走るので肝を冷やした。


「う゛……」


 流石に、その言葉には破壊力があったのか。つい今しがたまでツンケンしていた但馬が動揺しはじめた。


「えーっと……マジ?」

「うん。涙目だった。せっかく恋人同士になれたのに、もう破局かもね」


 アナスタシアが追い打ちをかけると、但馬はダラダラと冷や汗を垂らした。やりすぎたかなと思って、やっぱり謝りに行こうかどうしようか、振り返ろうとする心と、今振り返っては全てが台無しなると思う心がせめぎ合って、何だからおかしな動きをしていた。


 最終的には後者が勝って、


「くぅ~……しかし、仕事は仕事だ! だから今は仕事に全力を尽くし、そしてプライベートの時間になったら全力で謝ることにする!」

「結局謝るんなら、最初から言わなきゃいいのに……くっくっく」


 さっきまで格好いいことを言っていたくせに、もう弱気になっている但馬に対し、アナスタシアは含み笑いを漏らした。ムスッとした但馬が振り返り、デコピンしようと手を伸ばすと、彼女はそれをサッと避けてエリオスの背後に隠れた。


「ほら、社長。前を向いて歩かないか。危ないだろう」

「むっ! エリオスさんはアーニャちゃんの味方か」


 そんな三人のやり取りを見て、エリック達はホッとした。アナスタシアがボソッと一言言っただけで、空気が一変するのを感じた。


 但馬とアナスタシアは、やっぱりなんやかんや付き合いの長い二人であるから、喧嘩になってもお互いの距離感が上手く保てるようになってるのだろう。さっきのやり取りは、流石に但馬の行き過ぎじゃないかと思っていたのだが、彼が言うとおり、人は一人では生きていけないのだから、ちゃんとそれを窘められる人が彼の周りには居るのだ。


 両親が亡くなり、修道院でひどい目に遭って、リディアに帰ってきた時はホントに酷い有様だった。ジュリアに助けられたとは言っても、生きていくには結局体を売るしか方法がなく、いつ見ても人形みたいに表情が薄くて反応が鈍かった。


 あとは二人がうまく行けばいいなと思っていたが……それは叶わなかったけれど、それでもあの死にそうだった幼なじみが、但馬と一緒に居られて本当に良かったとエリック達は思った。


 そんな二人を見守っていると、いつの間にか雰囲気も和やかになって来て、会話も弾んでくるようになった。やがてタチアナは気を取り直すと、頃合いを見計らって尋ねた。


「ところで但馬様。領地の見学に連れて行ってくださるのは良いのですが……実は先日、こちらへ到着した日に、既にエリックさんマイケルさんと共に街を一通り案内してもらったのですわ。ですから、今日はどこを見学するにしても、ある程度想像がついてます」

「あ、そうなの?」

「はい。港からホテル、工場、発電所と一通り回って、最後は競馬場も……失礼ですが、確かにまだまだ街の規模が小さくて、投資先としての魅力を欠いているかと。特に午前中はずっと山の影に入ってしまい、街が薄暗くて元気がなく見受けられます」

「そうなんだよね、山の北西側にあるから、いくら赤道近くとは言え日照時間が少ないんだ」

「その代わり、夜間は電気の力で彩られた美しい町並みが広がって、ホテルの部屋から見える景色は、大変目を楽しませてくれました。私感動いたしましたわ。街の住人の方々も、昼間は海に出て夜に街へ遊びに出るようですし、但馬様は今後、こういった観光方面に力を入れていかれるのでしょうか?」


 さすが商人の娘だけあって、遊ぶだけじゃなくてちゃんと見てるんだなと感心しつつ、但馬は言った。


「仰るとおり、観光メインに発展させていこうと思ってるけど、ただ、こういったギャンブルに依存した街を作ろうとは思ってないよ。競馬場が出来たのも偶然の産物だし、繁華街が盛り上がってるのは、ガテン系の労働者が多いからだね。今はこういう人たちに楽しんで貰うためにこうなってるけど、行く行くは他にも力を入れていきたい」

「あら? そうなのですか?」

「うん、それに多分、タチアナさんは勘違いしてる。君が彼らに案内されたってのは、この港を中心とした歓楽街で、街の中心はこっちじゃないんだよ」

「え? ですが、見たところ、この近辺以外に街は見当たらない様子ですが……」

「土地が少ないからね。だから必然的に港周りはこうなった。んで、肝心の街の中心はあっちになる予定だ」


 そう言って但馬は山の上を指差した。


 タチアナはその指先を辿ってポカンと口を開いた。山の上を見上げても、そこには雲がかかっているくらいで何も見えない。いや、それどころか、その急峻な斜面を見ていると、どこに人が住む場所があるのだろうか……


 タチアナは但馬が自分をからかっているのではないかと思い、複雑そうに眉を寄せた。しかし、彼は一向に気にする素振りもなく、その山の方へと向かった。

 

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