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玉葱とクラリオン  作者: 水月一人
第五章
143/398

西海会社 - West sea company ③

 錬金工房の若手もそうなのだが、やはり技術者と言うか研究職は一度火がつくと止まらない。ディーゼルエンジンのアイディアを披露すると、始めのうちは質問だけが返ってきたが、段々と意見が意見を呼び、それはやがて議論に発展し、気がつけば予定の時間を大幅に超えて、辺りはすっかり暗くなっていた。


 お陰さまで議論は白熱し、当初は意識共有だけ出来ればいいや程度に思っていたところが、技術者達が競って自分たちの設計やアイディアを出してきて、思いがけず試作品の開発まで決定するところまで話は進んだ。


 ギスギスするのが嫌なので、批判ご法度のブレインストーミングを奨励していることも功を奏したかも知れない。テレビや漫画でよくネタにされていたせいで、その効果は眉唾だと思っていたが、萎縮せずに物を申せると言うのは大事なことで、どんなくだらないアイディアでも、みんなが意見共有してるのとしてないのとでは、結果が大分違ってくるのだろう。


 親父さんのところの部下と言うかもはや弟子たちは、鍛冶と工作に長けた人材が揃っていて、現代で言うところの実験物理学、工学系とでも言うのだろうか、とにかく手を動かして考える人間が多かった。そんな中、やっぱり頭が良い奴は頭が良くて、蒸気機関なんかも実物を見て理解したら、模型レベルで実現させるようなやつも居た。


 そういう奴にはどんどんやりたいことをやるように言っていたし、今日も話をしていたところ、何人かはすでにアイディアを暖めていたようだから、次の会議までにはそれなりの成果を持ってくるかも知れない。


 S&H社は今まで、大体において但馬がアイディアから設計までを担当し、開発が始まり商品化したものがほとんどだった。だが、こうして会社が大きくなってきた今、そろそろ自分の手から離れた、完全オリジナル製品が出てきてもいいかも知れない。そう思って、最近はアイディア出しまでで留めて、みんなに考えてもらうようにしていた。そうして、新しい発明が生まれたら面白いだろうな……と思っていた。


 だが、そんな都合のいいことばかりだけではない。


 会議室を出て、但馬はいそいそと自分の研究室へと向かった。ハリチの本社社屋は、事務方の詰め所も兼ねていたが、錬金工房の研究所がその本質だった。


 錬金術……つまり化学は元々、ただの石ころを金に変える物質、賢者の石を発見することを目的とした学問だった。だから、金を錬る(こねる、固める)術と言うのだ。現代でこそ化学変化で金を生み出すことは出来ないと証明されているが、大昔の人たちは本気で信じていたから発展した学問なのだ。


 どうしてそんなものを頑なに信じていたのか。これは想像するしか無いが、恐らくは詐欺師に、時の為政者が手品でも見せられ、信じてしまったのが発端なのだろう。何しろ周期表もないような世界だから、金が万物の根源をなす元素の一つであることを知るよしも無かったのだ。


 この世界もそれと同じことで、但馬がリディアでS&H社を創立した当時、錬金術というものは、一部の神秘学者が提唱する、それはそれは難解な学問だとされていた。ところが、そんな時にぽっと出の但馬が、塩水から石鹸を作り出し、銀を溶かし、電気を生み出したのだ。一般人は、こりゃ便利だ便利だと喜んでればいいが、対岸の錬金術界隈では、それはそれはショッキングな出来事だったに違いない。


 やがて、会社が大きくなるに連れて、国内外から優秀な学者が集まってきた。彼らは但馬に教えを請おうとやってきたわけだが、しかし、彼はあまりまともに取り合わず、年を食った偉い学者たちは、但馬のそんなケチで馬鹿っぽいところについていけずに去っていき、若い者だけが残った。


 しかし、その若い人たち相手にも、但馬は距離をおいていた。と言うのも、教えを請われても、さじ加減が分からないからだ。いいよこいよと何でも教えるのは構わないのだが、何しろ相手は学者だから、それで済むわけがない。どうしてそうなるのか、何故そう考えるか、より深く知りたがるに決まってるのだ。


 仕方ないので、その探究心はもっぱら仕事にぶつけてもらうことにした。化学が発達してないということは、それだけ知識の集積も進んでおらず、やることは実際たくさんあった。但馬はまず様々な酸と物質の反応や調合を実験してまとめるように、また様々な物質のクロマトグラフィーを行い、記録をつけるように指示した。


 要するに探究心を分析に向けるようにしたのだが、しかし、自分で結果を知ってる化学変化に関してはちょくちょく口を挟んだ。もちろん、必要に駆られてだが……ある日突然工房にやってきて、あの薬品とこの薬品を混ぜるといい塩梅ですよとか、触媒は何を使ったらいいんじゃないかなとか……ごにょごにょと指示し、すると彼らには思いもよらない結果が出てくるものだから、感嘆とともに顰蹙(ひんしゅく)も買った。


 だったら初めから自分でやればいいじゃないかと。但馬は知識を秘匿する傾向が強く、彼に付いて行っても無駄なんじゃないかと。


 それでも但馬を慕ってくれている相手には、正直申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、現代科学を教えるということに関しては、なかなか踏ん切りが付かなかった。それは自然科学は紀元前からの知識の積み重ねであり、一朝一夕で身につくようなものではないからだ。それこそ、子供に言葉を教えるように、付きっきりで辛抱強く当たらねばならないのだが、残念ながら但馬にそんな時間はなかった。彼は忙しすぎるのだ。


 だが会社が大きくなるに連れて、やはり一人では限界があるし、なにより、電信電話は電磁気学的な知識が物を言うから、少しは教えて置いたほうが良いかなと方針転換をすることにした。それが先の会議だったりするのだが……こと、錬金工房の若手に関しては、彼らのようにはいかなかったのである。


 どんなもんかと言えば、具体的にはこの通りだ。


 ある日、特に優秀な部下を集めて、但馬はニュートン物理学から教えていこうと考えた。だが、やはりと言うべきか、まず微分積分からして彼らの常識を粉々に打ち砕いた。


 この世界にはつい最近まで、羊皮紙くらいしかロクな記録紙が無かった。紙がないということは、大昔の記録があまり残っていないと言うことで、仮に過去に数学的天才が現れたとしても、その業績は失われてしまうわけだ。


 そして、この世界には周期表というものが無い。それどころか、原子という概念そのものが無い。当然、原子核モデルと言う考えも無ければ、アボガドロ定数も、ボルツマン定数も、あまつさえ物質量モルという定義もない。


 そんな状況なのに、それでも、必要最低限の化学知識を持っていてほしいから、無理矢理、原子核モデルを用いて化学反応を説明し、周期表を示して未知の元素の存在を予言したりしたのだが、それは間違いだった。多分、但馬が言ってることは、彼らからしてみれば黒魔術のようなものと大差無く思われたのだろう。誰もついてこれないのだ。


 よく、学校の勉強が出来ても社会ではなんの役にも立たないというが、別の意味でそれを思い知った感じだ。常識が違いすぎると、会話すら成立しなくなる。この世界に必要なのはまず学問であり、受験勉強の詰め込み教育ではないのだ。だが但馬は商人であり、教育者ではない。どうしても限界がある。


 結局、それが切っ掛けとなって、但馬の錬金工房からは人が一人、また一人と居なくなっていった。特に優秀な者が去り、残ったのは指示待ち人間とイエスマンばかりだった。


 正直かなりがっくり来てしまい、だから多分、顔に出てしまったのだと思う。


 そんな中でも但馬に見切りをつけず、食らいついていた男が居た。彼は但馬の話を必死に理解しようとし、教えられた様々な知識を総動員して、ある日、彼なりの成果を持ってやってきた。彼は彼自身が導き出した成果を誇らしげに語ったが、しかし、その成果は但馬からしてみれば幼稚でしかなく……但馬は彼の気持ちを理解しようともせずに、軽くあしらってしまったのだ。


 褒めてやらねば人は動かじと言うが、但馬は彼のプライドを著しく傷つけた。


 全て、自分が蒔いた、自業自得の種だった……


**************************


 錬金工房の廊下を歩いていると、研究室のドアがガチャリと開いた。会議が長引いてもう大分遅くなっており、就業時間はとっくに過ぎていた。最近は化学工場の方も軌道に乗っており、特に新しい試薬を作るような指示もしていない。


 こんな遅くまで誰が残っているのだろうと見ていると、


「……ネイサン君」

「お世話になりました」


 研究室からは大荷物を抱えた男が出てきて、まるで何も見えてないと言った感じの無表情のまま、但馬にちょこんと頭だけのお辞儀をすると、それ以上何も語らず、足早に去っていった。


 ネイサンと呼ばれる彼は、非常に優秀な男だった。錬金工房最初期から居て、研究室でもリーダー的存在だった。粘り強く、失敗をしても何度もチャレンジする男だった。故に、引く手数多ですぐに次の就職先は決まったようだ。カンディアでウルフが役人を集めていて、それに応募したら即採用だったようだ。


 それはとてもめでたいことだ。だがもう彼と仕事をすることは、金輪際ないのだろう。


 但馬はかつての部下が去っていく後ろ姿をじっと見送ると、踵を返して廊下を引き返した。


 以前は技術職よりも研究職に好かれていたが、情報を開示し始めたら、それが逆転していた。これはなんでなんだろうか……


 そんなことを考えながら、はあ~っと溜め息を吐きつつ、社屋を出て、夜の街に踏み出そうとしたら、


「ダメ」


 と背後から声が聞こえたかと思ったら、思いっきり息が詰まった。


「ゲホゲホゴホッ! ゴホッ! うぐわッ! 誰じゃい!?」


 首根っこを掴まれて、思いっきり咽た。但馬が涙目で振り返ると、そこにアナスタシアが立っていた。


「アーニャちゃん? なにすんのさ!」

「先生が一人でフラフラどこかに行きそうになったら止めろって、エリオスさんに言われた」


 社屋の玄関先でそんなやり取りをしていたら、遅くまで残っていた職員がクスクスと笑いながら帰っていった。ムスッとしながら、さようならと手を振って、アナスタシアの方へ向き直る。


「ちょっとそこいら一回りしようとしただけじゃんか。別に街まではいかないよ」

「でも、先生が一人で出歩いてると危険だってエリオスさんが」

「子供かっちゅーの! ……あの人、俺の行動に制限つけすぎだよな。このくらいなら一人で平気に決まってんじゃん」

「え? ……うーん……」


 アナスタシアが物凄く困った顔で悩んでいた。ちくしょう。


「……そういや、当の本人はどうしたのさ? 見えないけど」

「会議見ててもしょうがないからって、私に任せて社長室に戻っちゃったよ」

「むきー! 職場放棄じゃんか! そんなんでよく俺にあーだこーだ言えたもんだなっ……」

「でも、お客さんの相手もしなきゃだし……」

「ん? お客……?」


 但馬が首を捻ってると、アナスタシアがジト目でジーっと見つめてきた。結構なプレッシャーである。


 なんだっけ……但馬はポンと手を叩いた。


 そうだった。コルフからタチアナが来る予定だったのだ。何しろ風まかせの船旅では、いつ到着するか分からないから、自分は会議を優先して、出迎えは例のメイドに任せていたのだが……


「リーゼロッテさんは? そういえば見かけないけど」

「お姉さまは、気がついたらもう居なくなってて……多分、競馬場だろうってエリオスさんが溜め息吐いてたよ」

「しょうがねえやっちゃなあ……お姉さま?」

「そう呼べって」

「ちっ、あのメイドは……」


 ハリチは僻地に作られた新興市街のため、人を呼びこむための様々な工夫が施されていた。電気に電話、上下水道などのインフラもそうだが、写真館やカフェ、競馬場なんかの娯楽施設も揃っていた。何しろ、この街で初めに興った産業はトロール漁だったので、労働者は海の荒くれ者が多く、彼らを退屈させないようにと考えたら、やっぱりギャンブルが一番だったのだ。


 それになにより胴元は儲かるし、大陸と戦争をするための軍用馬も必要だったし、馬産という新たな雇用も生み出せるしで、一石で二鳥も三鳥もお得だった。そして普段の馬の世話はホワイトカンパニーの面子に任せて、騎兵訓練の傍ら、強い馬を集めて競馬を行ってみたところ、彼らの頭領であるメイドがハマりやがった。


 そのせいでハリチに居ると、ちょこちょこ居なくなってしまう。いや、首都にいても大差ないのであるが……


 こんなんで、よくリリィの従者が務まっていたなと呆れもしたが、よく考えると、あのリリィの従者なのである。神出鬼没でフラフラしていて享楽的で、子供のくせに妙に懐が広い。主人そっくりだ。いや、主人がこの駄メイドに似てしまったのか? 分からないが、案外お似合いであると納得するしかなかった。


 対エルフ戦や、亜人傭兵をまとめるために、今は彼女の力が必要だが、いつかリリィの元へ帰れる算段をつけてやれたら良いのだが。


「それにしてもエリオスさん、最近は俺の扱いが雑だよな。護衛として張り切ってくれるのは構わないんだけど、まるで荷物でも扱ってるみたいじゃんか」

「先生がじっとしてないからだよ」

「犬猫じゃないんだ、当たり前じゃん。大体、護衛の方が主人の行動を制限するってのはどうなのよ」

「うーん……」

「主従というものを一度分からせてやらねばならんな。そうだ。俺の方が偉いんだぞ。だから今日という今日こそは言ってやるぞ、あんまり雑に扱ってると……」

「扱ってると?」

「お給料下げちゃうんだからね!」

「せこいなあ……」


 プリプリ怒りながら先を進む但馬の後を、アナスタシアがくっつていく。彼女は現在、新たな職場に慣れるべく、エリオスにくっついて護衛の仕事を学んでいる最中だった。


 アナスタシアが借金を完済したので、本社に戻した後、新しい彼女の職場をどうするかのヒヤリングを行った。家からも近いし、別にカフェがいいならそのまま続けても良いと言ったのだが、銀十字修道会の一件で懲りてしまったのだろうか、また迷惑をかけたら嫌だからと辞退した。


 それなら、エルフ戦の特殊部隊に参加してはどうかとブリジットに言われ、但馬は難色をしめしたが、彼女は人のためになるならとやる気を見せ、憲兵隊が募る特殊部隊の選抜試験に応募した。実力は折り紙つきだし、経験のある彼女なら即採用だろうと思われたのだが……訓練の一環で、魔物討伐を行った際、彼女の欠点が露呈した。


 アナスタシアは、動物を殺すこと、命を奪うということが出来なかったのだ。


 別に菜食主義者ではないし、家畜が屠殺されて食卓に上ることをちゃんと理解しているのだが、いざ、自分がやろうと思ったらダメだった。なんとも女の子らしいが、これはエルフ討伐任務を行う特殊部隊において致命的だった。


 結果、不合格になったアナスタシアはシュンとしてしょげ返ってしまった。それなりに自信もあったろうし、やる気もあったろうし、何より家族やブリジットの期待を裏切ってしまったと感じたのが大きかったようだ。


 そんな彼女をどう扱っていいか分からず、但馬がオロオロしていた時、カンディアからエリックとマイケルが帰ってきた。彼らはついに5年間の兵役を終えて、晴れて自由の身になったのだ。それで、以前から約束していた通り、但馬の会社に就職活動に来たのだが……やはり幼なじみと言うものは有り難いもので、アナスタシアの元気がないことに気づいた彼らは、やること無いならまた一緒につるもうぜと彼女を誘った。


 リディアには大学なんてものはなく、従って新卒の採用なんて物がないから、但馬の会社は基本的に職種ごとにハロワで募集をかけているので、一般職として人を雇い入れるのは実は初めてだった。それで、彼らに何をやらせたら良いのだろうかと考えた時、まずはO(オン・ザ・)J(ジョブ・)Tトレーニングで色々経験させてみようと考えた。


 その一環で、但馬の護衛としてエリオスの仕事を手伝わせていたのだが……


「そういえば、あの二人も見当たらないな。エリオスさんと一緒なの?」

「ううん。あの二人ならタチアナさんと、海の見える綺麗なレストランに、ディナーに行ったよ」

「……はあ? どういうこと?」

「定時退社だし、タチアナさんも退屈そうだったから仕方ないよ。それにしても、デレデレしてだらしなかったなあ……でも、タチアナさんも嫌じゃないみたいだったよ?」

「いや、そうじゃなくって。タチアナさん居ないんだったら、なんで俺、社長室向かってるの?」


 まさか、社長室にいるエリオスを迎えに行ってると言うのなら、本格的に主従というものを話しあわなければいけなくなるぞ……但馬がブツクサと文句を言っていると、


「タチアナさんは居ないけど、ランさんがいるから」

「ん? ランさん? なんでランさんが……??」


 タチアナがハリチへやって来たのは商売の一環であるが、ランは用事がないはずだ。どうして彼女が居るのだろうか? 彼女は別にロレダン家の従者というわけではなく、コルフの評議会議員なのだ。彼女らはいつも一緒にいるイメージがあるが、主従ではなく言わば対等の関係のはず。


「……? 先生が呼んだんじゃないの?」

「いいや、呼んでないよ。どうしたんだろね。俺に何か用事かな」


 首をひねりながら階段を上り、最上階の社長室兼研究室へやって来ると、但馬はコンコンとドアを叩いてから部屋へ入った。本社もそうだが、どうして自分の部屋なのにいちいち気を使っているんだろうか……やはりここは一度みんなに改めて自分たちの立場というものを理解して貰わねばならない。


 自分は社長なのだぞ……などと思いながら、ムカムカしている顔を隠さずに、部屋の中へ入ると……ヌッと巨大な影がうごめいて、殺人鬼のような瞳が但馬をギロリと睨みつけた。


「ヒィッ!! すみませんすみません、調子に乗りました!」


 但馬は反射的に土下座した。


 部屋に入るなりいきなり土下座する但馬に、呆れた声でエリオスが言った。


「何をやってるんだ……社長。君はもう、この会社だけじゃなく、この国の将来を担う、若き重臣なのだぞ。自分の立場と言うものを自覚して、おいそれとそんなみっともない真似はしないでくれ、皆に示しが付かない」

「ぷっ……ぷぷぷぷ」


 背後でアナスタシアが必死に笑いを堪えていた。但馬は顔を真っ赤にして、涙目でプルプルしながら立ち上がると、


「うっ、うるさいやいっ! ちょっと床の汚れが気になっただけだいっ! ふんっ……あ、ランさんどうも。相変わらず凄い迫力っすね」

「ほっとけ。久し振りだね、但馬波瑠。アナスタシアも。と言っても、フリジアで別れてから、まだそれほど経っていないがね」

「今日はどうしたんです? タチアナさんが来るってのは聞いてたんですけど、ランさんも居るとは思わなくて……いや、もちろん、大歓迎ですけど」

「それについては俺が話そう」


 但馬が首を捻っていると、エリオスがコーヒーをいれて持ってきた。マグカップに入れられたそれにミルクをたっぷり注ぎ入れて、フーフーと吹いてから口に含むが、


「ランが妊娠したそうだ。俺の子だ」


 但馬はブーッ! と、口に含んだコーヒーをぶち撒けた。


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