一変
朝、ウキウキしながら出かけていったアナスタシアが、自室で隠れるように閉じこもっていたことが判明したのは、日が暮れて大分経った後だった。
リオンを夕飯に連れだそうとしたエリオスが、彼を呼びに行ったら、お姉ちゃんはどうするの? と言われたことで、ようやく彼女が宮殿内にいることが分かった。
エリオスは但馬と彼女がシドニアで一泊してくると思っていたから寝耳に水で、いつものように但馬が何かやらかしたのだろうかと思って、真っ暗な部屋の隅でうずくまるアナスタシアに事情を聞いてみたのだが、どうにも要領を得ず、なにやらきな臭い感じがしたので、取るものも取りあえず外へ出て、但馬の消息を探しに街まで出た。
駅馬車の御者なら何かしってるだろうと思ったのだが、彼らに聞く必要はなく、街へ着くとその駅馬車のたまり場に但馬は居た。ボケーっと突っ立ってるかと思いきや、足元にはワインのボトルが散乱しており、そのくせ、いつもならヘベレケになってるはずの彼がしっかりと地面に足をつけて立っている光景は、言っちゃ悪いが異様だった。
「社長!」
エリオスが彼に呼びかけると、散々飲み散らかしたであろうに、彼は首まで真っ青な顔で振り返り、
「あ、エリオスさん……なんか俺、振られちゃったみたいで……」
「……一体どういうことだ?」
どうもこうもわけがわからないので、落胆する但馬に尋ねてみたら、アナスタシアは待ち合わせに来なかったという。そのアナスタシアなら宮殿の、宿泊している部屋に居ると言うと、彼はホッとした顔をしたあと、
「そっか……なら良かった。何かあったのかと思ったけど、ちゃんとみんなのとこに居るならいいや。そっかそっか」
と言って、朧気な足取りで宮殿に向かって歩き出した。
エリオスはもう声を掛けられなかった。
宮殿に戻った但馬はズルズルと重い足を引きずって5階まで登ってきた。こういう時、エレベーターがあるといいなあ……と、どうでもいいことを考えながら、アナスタシアの泊まる部屋の前まで来ると、ノックしようとした手を一旦止めてから、エリオスの方を向き直り、
「すまないんだけど、暫く二人だけで話をさせてくれないかな?」
と言った。
正直、不安しか無かったが、男女の仲のこと。自分が顔を突っ込むことではないと、エリオスは黙ってその場を後にした。
但馬はそれを見送った後、二度、三度と深呼吸をしてから、部屋の扉をノックした。返事が返ってこないだろうことは予想していたが、それでももう一度ノックしてから、彼はドアノブを回して部屋へと入っていった。
部屋の中は照明が付けられず、真っ暗だった。
暗闇の中でビクリと動く気配がして、見えなくっても彼女がどこに居るのかがその息遣いで分かった。
フード付きのスタンドに乱雑に脱ぎ捨てられた洋服がかけられており、まるで幽霊のように見えた。
但馬はその洋服を手に取ると、丁寧にたたんでベッドの脇の机に置いた。それから電気を点けるべきかどうすべきか悩んだが、結局は普段通りにしていた方が良いと思って、スイッチをつけた。ベッドの縁に腰掛けていたアナスタシアが、体育座りの要領でギュッと体を丸めて小さくなる。室内は静寂に満たされ、二人の呼吸くらいしか、音らしい音は聞こえてこなかった。
「……どうして来なかったの?」
何から話して良いのか分からなかった但馬は、たっぷり1分くらい時間をかけて、結局何も思いつかず、まるで気の利かないセリフをつぶやいていた。
「その……ずっと待ってたんだけど」
彼女の様子を見ればきっと何か理由があるのは明白なのだから、もっと優しい言葉をかけてやれば良いのに、普段ならよく回る口車も、今はまるで錆びついたように重くて、つっかえつっかえだった。
「何か、困ったことでもあったのかな? 力になれるなら話して欲しいけど……」
彼女を責めたいわけじゃないのだが、理由を知りたいということが責めることになってしまうのか、但馬が口を開く度に彼女の頑なな意志を象徴するかのように、膝を抱えて丸まる彼女の体も硬くなっていくようだった。
「それとも、俺が何かしちゃったのかな。俺もちょっと無神経なところあるかもだから、もしも気に障ったんなら言って欲しい。怒らないし、改善するから」
昨日の今日で、多分そんなことはないんだろうが、他に何も思いつかない。但馬は昨日、彼女と別れてから今までに何かヒントが隠されていないかと懸命に思い返してみたが、何も思いつかなかった。何しろ但馬はエリックたちにとっ捕まっていたんだし、つい今しがたアナスタシアと再会するまで、彼女との接触は無かった。
「あー……なんか俺がやっちゃったんであれば、ごめん。そうでなくても気にしないでくれ。今日のことだって怒ってないし、デートだって、ほら、また行けばいいんだからさ。それより、アーニャちゃんが元気ないほうが俺には心配だよ。だから、よかったら話して欲しいんだけど……」
しかし、彼女は黙りこくって俯くだけで、何も話そうとはしてくれなかった。
「……俺には、言い難いことなのかな? ……それとも、もうちょっと時間が必要なのかな? ……ブリジットやタチアナさんを呼んでこようか? 一人で抱え込んでないで、誰かに相談してみたらどうだろう。もちろん、俺は席を外すからさ」
何が原因だかわからないが、このままでは埒が明かないと思った但馬は、溜め息を吐くと、一旦時間を置いてみようと思った。
女の子同士ならもしかしたら話せるのかも知れないし、ブリジットやタチアナに相談してみようと、彼は踵を返すと、ドアへ向かって歩を進めようとした……
「もう……誘わないで」
「……え?」
静寂の中で聞き間違えるわけはなかった。だが、但馬は聞き直さずにはいられなかった。
「もう誘わないで欲しい。先生は……私なんかを選んじゃいけない」
それってどういう意味だろう? 但馬は突然のことに戸惑った。
「どうして先生は私なんかを誘ったの? 私なんかよりも、先生には、ずっと姫さまのほうが相応しいのに……」
「……いや、ブリジットは今、関係ないだろ?」
「関係あるよ!」
彼女にしては珍しい感情の爆発だった。いや、以前、仕事のし過ぎで倒れた時にも怒られたから、これで二度目か。但馬は言葉を失った。
「姫さまが、先生のことを好きなんて、誰だって分かるじゃない。どうしてそうやって、気づかない振りをするの?」
「いや……え?」
「亜人の娘で、娼婦で、何の力もない私なんかよりも、姫さまを選んだほうが、先生は絶対幸せだよ。そんなこともわからないの?」
「え? え? なんで急にそんなことを言い出すんだ? そっちの方が分からないんだけど……」
「分からないのは先生の気持ちのほうだよ!」
但馬は困惑した。本当に何がなんだかわけが分からない。だが、アナスタシアは興奮していて待ってはくれず……
「先生はどうして私のことを抱かなかったのよ」
「……ええっ?」
但馬は狼狽するばかりだった。
「誰とでも寝る娼婦を高い金を出して買っておきながら、どうして今の今まで一度も手を出さなかったのよ!」
「それは……」
当たり前のことじゃないか。好きな女の子の自由を奪うようなことをしておいて、手を出してしまったら、自分が許せないからだ。そんなことをしないでも、彼女にまっすぐ面と向かって好きだと言えるように、関係を築き上げてきたつもりだったのだ。
だが、そんな彼の気持ちとは裏腹に、彼女は言った。
「無理矢理奪われれば、諦めもついたのに……」こんなに優しくされて、本当に好きになってしまったら……「もう耐えられないよ!」
アナスタシアの言葉の足りないそのセリフは、但馬の心をザックリと抉り取っていった。
「だからもう……誘わないで……」
彼女のか細い声が耳に痛いくらい突き刺さった。
ずっと一緒に居たのに、耐えられなかったのか? いつ手を出されるか分からない状況に耐えられなかったのだろうか。何を彼女は諦めなければならなかったのだろうか。
但馬はパンチドランカーのように脳みそが揺さぶられて、フラフラと足元がぐらついた。
ドンッとドアに背中を持たれると、半開きになっていたドアがそのまま開いて、彼は尻餅をついて廊下へと転がり出た。
反動でドアがまた閉まり、その閉まる直前に一瞬見えたアナスタシアは、目を真っ赤にして、涙をボロボロと流していた。
「お、おい! 社長」
二人のことを心配して、少し離れたところで待っていたエリオスがビックリして駆け寄ってくる。
「一体何があったんだ? どうしてこうなった」
だが顔面蒼白の但馬は頭を振った。
「分からない」
胸が痛くて息が苦しい。
「なにも分からない。なんでこんなことになっちゃったのか……」
体中が脱力して、腑抜けてしまったようだった。脳みそが弛緩して、上手く考えがまとまらない。ただグルグルと脳裏にアナスタシアの泣き顔が過ぎった。そして耐えられないといった彼女の、苦しそうな、今にも泣き出しそうな顔を思い出して、彼は心をえぐられた。
どうして急にあんなことを言い出したんだ? 昨日はあんなに嬉しそうにして、きっと上手くいくと思っていたのに、何を間違えてしまったんだ? それとも、ずっと勘違いしていたのだろうか? 彼女は単に、但馬に話を合わせてくれてただけだったのだろうか。
どうして抱かなかったのか? と彼女は問うた。そうしてくれれば諦めもついたのにと彼女は言っていた。何を諦めねばならなかったんだ?
自分は彼女に、何か負担を強いていたのだろうか……
善かれ悪しかれ、自分はあの子を買ってしまった。水車小屋で客を取らされるあの子を見ていて……そうしなければ、自分の心が苦しくて、悲しくて、どうしようもなかったからだ。それは自己満足だったのかも知れない。自分勝手に彼女の自由を買って……それは彼女の心の自由も含まれていたのかも知れない。
一緒に暮らし始めた当初、彼女はいつも辛そうだった。但馬が欲情しては、自分のことを利用してと言っていた。でも但馬は頑なに拒んだ。絶対にそんなことはしたくないと彼女を拒んだ。それが彼女の負担だったのだろうか。自己満足に浸ってないで、彼女のことを抱いてしまえばよかったのだろうか……
一体、何をどうすればよかったんだ……
その日を堺に、楽しかったカンディア旅行は一変した。
アナスタシアは部屋に閉じこもり、食事もろくに取ってくれない。
リオンは空気を敏感に感じ取っては、大人たちの間で何も出来ずにしょげ返る。
ブリジットは度々アナスタシアのところへ来て口論をしていた。
カンディアの宮殿にはもう客は少なかったが、但馬たちは公爵の身内と見做されており、そんな人間がいざこざを起こしているのだから、完全に腫れ物扱いだった。
気の毒なタチアナはオロオロ歩き、醜聞好きなマルグリットはゲラゲラ笑った。
但馬はそれを他人事のように見ていた。
何をどうしていいのか分からなかった。
ただひとつ分かることは、これ以上ここに居たらウルフに迷惑がかかるということだった。
彼の奥方であるジルは、せめてアナスタシアが元気になるまで居ても良いと言ってくれたが、但馬としてはそろそろ限界だと思っていた。リディアに仕事も残してる。いつまでも遊んでるわけにはいかなかった。
結局、但馬はエリオスと話し合うと、日程を切り上げて強制的に帰国する準備に取り掛かった。どうせ自家用船で来ているのだから、帰るのはいつでも出来る。
ただ問題なのは帰りの部屋割りのことで、行きはブリジットとアナスタシアが同室だったが、帰りも同じだと喧嘩になるかも知れない。だから別々にしなければならないのだが、二部屋にどう割り振っていいのかさっぱり分からなかった。
そんなことを他人事のように5階のラウンジで話し合ってる時だった。
ウルフの近衛がやって来て、彼が但馬を呼んでいると言ってきた。
空気を悪くしてしまったから怒られるのかなと思い、おっかなびっくり彼の私室へ訪ねて行ったが、ウルフはどこか疲れたような素振りで但馬を出迎えると、用事があるのは自分ではなく彼なので、彼の言うことを聞いてやってくれと言い、あとは任せたと言わんばかりに椅子に腰を埋めて目をつぶった。
工作があまり上手くいってないのだろうか? なんだかウルフの様子もおかしいなと思いつつ、言われたとおりにその『彼』とやらの話を聞こうと目を向けると、意外にもそこには見知った顔が居た。
「准男爵。お久しぶりです。ご休暇中に大変失礼します」
「やあ、サンダース先生じゃないですか。珍しいところで会いましたね。カンディアへ何しに? こちらの軍港に転属ですか?」
サンダースはローデポリスの駐屯地に詰めている軍医だ。リディアへ来た翌日に出会った人物であるから、但馬にとって大変馴染み深い人物だった。
彼は最近、カンディア公爵の軍隊に従軍し、フリジアで町の人の健康診断をしたり、診療を行っているそうだった。但馬が彼と話していた時に思い出して作ったペニシリンを用いた治療は、効果が抜群で前線でとても評判がいいと聞いていた。ところが、
「実は最近、フリジアでペニシリンの効かない患者が出てきまして……」
そりゃ、抗生物質は万能薬じゃないんだから、効かない物には効かないだろう。どういうことかと思い詳しく聞いてみると、頭痛や悪寒、発熱を伴う風邪のような症状の患者に投与してみたのだが、一向に改善の兆しがなく、手をこまねいていたら、同じ症状の者がどんどんと増えてきた。その広がり具合から、明らかに伝染病の類である。
「……そりゃ、穏やかじゃないっすね」
「もはや私ではお手上げで、准男爵であれば何かご存知でないかと、こうして参った次第なのですが」
「え!? いや、俺は医者じゃないんで、言われても分からないですよ?」
「それでも、私よりマシかと……患者は増えるばかりで、もはや猶予もないのです。出来れば私と来て、その様子を見ていただけませんか? そして何かアドバイスをいただければ……」
「いや、そんなこと言われても、分からないものはわからないと思いますが……」
「……黙って行くだけ行ってやれ」
但馬が躊躇してると、ウルフが気だるそうに言った。
「兵の中で重篤な者は前線から戻して、今軍港に運び入れてるところだ。そこに行くだけなら、そう手間でもあるまい」
伝染病かも知れない患者を移動させるなんて、絶対やってはいけないことだと思ったが、野戦病院では手に余ったのだろう。文句を言っても仕方ないので、
「はあ、まあ、見るだけなら……」
と言って受諾した。
移動中、サンダースはひっきりなしに話しかけてきた。無理を言って但馬を呼び出したことに対する謝罪の意と、来てくれたことに対する感謝の意と、医者のくせにそうでない者に頼るしか無い自分に対する痛恨の念と、ごちゃまぜになったなんとも取り留めのない話が続いた。
ここ数日の出来事で、但馬がかなりダウナーな雰囲気を醸し出していたせいもあるかも知れない。
「……ウルフ様もそうですが、准男爵もお疲れのご様子……カンディアで何かございましたかな?」
「ん……いや、ちょっと個人的に色々ありまして」
ウルフはどうしたんだろうね? と思いつつも、適当に相槌を打ち、但馬は軍医と共にゴトゴトと馬車に揺られて軍港までやってきた。
このところの滞在で、すっかり顔なじみになった門番が、但馬を見つけると嬉しそうに敬礼して、何も言わずに門をさっと開けてくれた。最後に会ったのがあの日の前日……エリックとマイケルに捕まり、みんなにデートスポットのことを聞いた日のことであるから、きっと彼は、あの後上手くやれたのかい? と言いたいに違いない。目礼だけして、あとは視線を合わせないようにして通り過ぎる。
馬車を下り、軍港内を歩くと、遠くから軍楽隊が練習している音が聞こえてきた。もし、今彼らに会ったらなんと答えたらいいんだろうか……出来れば会いたくないなと思いながら、但馬は軍医に先導されて、港内のとある建物へとやってきた。
その建物は病棟を兼ねているらしく、病床を並べた部屋がいくつもあって、全館空調と清潔が保たれていた。消毒液の臭いと、恐らく看護婦かヒーラーが忙しそうに歩きまわるスリッパのパタパタとした音が鳴り響いて、目をつぶっているとまるでかつての日本の病院を思わせて懐かしくなった。
だが雰囲気に浸ってる場合でもないので、軍医に促されるままに患者の元へと足を運ぶ。
フリジアから運ばれた重篤患者は一箇所に集められているそうだが、一箇所と言っても患者の数がかなりの数にのぼったため、3階建ての建物の1フロアをまるごと使っているようだった。
重篤な者だけでこの数では、フリジアは一体いまどうなってるのだろう? と、ここまでくるとタダ事ではない雰囲気をひしひしと感じて、但馬はアナスタシアのことがまだグルグル頭のなかで回っていたが、少なくとも今だけは気を引き締めようと心に誓った。
サンダース軍医に促されてとある病室に入ると、中に運び込まれた軍人らしき患者たちが、悶え苦しみうめき声をあげていた。中には昏睡状態の者も居るらしく、奥の方のカーテンで仕切られたスペースの中から、必死に患者に話しかける看護婦の声が聞こえてきた。
「……この通り、症状が進むと昏睡状態に陥り、こうなると手の施しようもなく……」
「詳しく聞かせてもらえます?」
「はい。初めは倦怠感を訴える者がいくらか出てきて、続いて発熱する患者が次第に増えてきました。問診では倦怠感、悪寒の他に、体の節々が痛むと、どうもリンパの流れが悪いようだったので、最初の頃はただの風邪であろうと思っていたのですが……そんな中、発熱の末に重篤な症状の者が続々と現れて、見れば脇の下や鼠頸部、首や胸などに、このような大きなコブが出来ておりまして……」
見せられたコブは黒く巨大で、体の一部に温泉まんじゅうでもくっついているような、なんともグロテスクなものだった。血や膿や毒素が溜まっているのだろうか、ひどく痛むらしく、ヒールで治らないかと試してみたが、まったく効果が無かったらしい。
初めは風邪のような症状で、抗生物質が効かなくて、異常にでかい真っ黒なコブが出来るが、ヒールが効かないと言うことは、それは傷やアザのように組織が破壊されているものではないようだ……
「いかがでしょう、准男爵……何か心当たりはございませんか」
「……う~ん」
こんな症状の病気に心当たりがあるかと言われれば、無いわけでもなく……嫌な予感がしながら但馬がどうすべきか迷いあぐねていたら、
「先生! 患者さんが……」
奥のほうで看護婦が必死に呼びかけていた患者が、いよいよヤバイらしく、軍医が呼ばれて飛んでいった。置いて行かれた但馬は少し迷ったが、自分もその後に付いて行って、仕切られたカーテンを開けるとそこには……
全身が黒い斑点のようなアザで覆われ、皮膚のあちこちから出血し、手足が壊死を起こしたように異常な色をした男が、今まさに息を引き取ろうとしているのだった。
但馬はゴクリとつばを飲み込んだ。
実際に見るのは始めてだ。だが、話には聞いたことがある。きっと誰しも名前くらいは聞いたことがあるのではないだろうか……全身を黒いアザに覆われ、死に至ることから名付けられた病……通称、黒死病だ。